【特集】長距離夏合宿特集『鍛錬の夏を超え』駒野長距離コーチインタビュー

陸上競技

 現在はB、Cチームを中心にコーチをしているという駒野亮太長距離コーチ(平20教卒=東京・早実)。相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)からチームの底上げを託され、幅広いレベルの選手の指導にあたっている。そんな駒野コーチが描く、今後の早大の展望とは。

※この取材は8月15日に行われたものです。

「(去年の)4年生たちがしっかりとチーム作りをしてくれた」

合宿、そして秋以降の展望を語る駒野長距離コーチ

――以前はCチームを中心に指導されているとのことでしたが、現在その状況に変化はありますか

 渡辺監督(渡辺康幸前駅伝監督、平8人卒=現住友電工監督)が退任された後は実質Aチームを相楽監督がメニューを組んで、B、Cチームを私が見ると、そういう風に変わりましたね。

――ご自身の指導の上で大事になさっていることは

 Bチームの選手に対してはAチームにすぐに上がれる準備と言いますか、彼らの働きが層の厚さに関わってくるところだと思っているので、チームの根幹、大事な部分になっているというのをしっかり分かってほしいなと思っています。Cチームについてはまだそんなに実力がない、そして安定感を欠くような選手が多いので、まずはBチームの練習ができるだけの実力をつける、ワセダの練習に慣れてもらうといったところ、あるいは自分なりの方法論を確立するだとか、そういったところができない選手というのがおおむねCチームにいるので、そういったところをできるようになってほしいというのと、基礎体力をつけてほしいなと考えています。ポジションによって立場は違っているので、それに応じて期待するものも違いますね。

――現在、Bチームから上へいけそうな選手はいらっしゃいますか

 現状、今のAチームというのが全カレ(日本学生対校選手権)の標準記録を切っている選手たちで、それ(標準記録を切っていること)をチーム分けのラインにしているので、それに追いつけていない選手というのがBチームにいます。その中でも石田康幸(商3=静岡・浜松日体)だとか、佐藤淳(スポ4=愛知・明和)といった選手が今Bにいて、彼らは下から這い上がってきたわけではなく、もともとAの実力がありながら2軍の中で調整をしているので、すぐに上がっていくと思います。Cチームから力をつけた選手でいえば、箱田幸寛(スポ4=広島・世羅)ですね。Aチームの選手たちとも、もう少しすれば対等に渡り合えるかなという印象はあります。

――相楽監督になって1年が経ちました。変わったことはありますか

 いえ、特には。渡辺監督がおられた時には、渡辺監督が全体を俯瞰していて、管理するというよりどっしりそこにいてくれる安心感がありました。それがなくなったというのは相楽監督もそうだったと思いますし、私自身もどうなっていくのかなという不安はありましたが、ふたを開けてみれば、学生たちも変化に応じてしっかりやろうという意識があって。特に去年の高田康暉(平28スポ卒=現住友電工)であるとか、山下尋矢主務(平28スポ卒)などをはじめとして、(去年の)4年生たちがしっかりとチーム作りをしてくれて、そこに助けられた部分はあったかなと思いますね。

「秋のシーズンを占う上で一番大事な強化期間となる」

――今回の合宿では、コーチとしてどのようなアプローチをかけていきますか

 特にこの2次合宿で、B、Cチームの選手たちというのは全カレがあるというわけでもないですし、純粋な、秋のシーズンを占う上で一番大事な強化期間となると思います。この合宿を通しで最初から最後までできるような選手には、最後までやり通させるといったことが大事になってくるかなと思います。

――現段階で、一気に力をつけそうな選手は

 そこはまだちょっと見えてこないですかね。ことしは全体的に4年生がかなり下級生ともコミュニケーションをとり、引っ張っていこうという意識が例年以上に強い代で、よくやってくれているな、という印象が強いです。彼ら自身がまず(レベルが)上がってきて、それに引っ張られるかたちで3年生・2年生と上がってきてくれるかなと期待しています。

――合宿中、B、Cチームに期待することは

 一人でも多く上のポジションに行ってほしいと思います。Bチームの選手はAに、Cチームの選手はBに、と。そしてそれが単に一時的なものになるのではなくて、そこに定着できるだけの力をつけた状態で、上のポジションになってほしいなと思います。

――合宿のチーム分けはどのように行っているのですか

 Aチームは全カレの標準を切っている選手たちなので、かなり絞り込まれているとは思います。Bチームはそこには至らないけれども、(5000メートル)14分半だとか、(1万メートル)30分前後といった選手ですね。Cはまだそこには及ばない、15分台とか14分後半といった選手という感じですね。

――チームごとの入れ替えは激しいですか

 B、C間では入れ替えはしていこうかなと。練習のたびにCで良い選手がいれば上に引き上げたり、Bチームで不安があればCに下げたりですとか、そういうことは柔軟にやっていこうかなと思っています。

――駒野コーチは合宿の練習中、「動きを大切にしなさい」ということを何回もおっしゃられていましたが

 そうですね。これは指導論とも関わってくると思うのですが、ただ闇雲に距離を踏めば、あるいは闇雲に練習をすれば良いという時代ではなくなってきていると思っています。いま色々な大学さんでもやっていますが、ウチでも専門のトレーナーさんのもとで『知野トレ』といった体幹トレーニングを、かなり時間を割いてやってきています。ただそれだけではダメで、それをいかに再現できるか、いかに思い出しながら苦しくなっても正しい動きを維持できるかというのが大事になってくるんですね。『知野トレ』を補助にしながら、しかしどこかでそのトレーニングで得たものをメインにするという感じで、普段の練習で『知野トレ』の動きを固めていくという考え方もあるのかなと思います。長い距離の練習だと後半でどうしてもBやCチームだと軸がぶれてしまうということが多いので、『知野トレ』を意識させながら走らせてあげるだけでも違うのかなと思ってやっていますね。

――『知野トレ』を取り入れて以降、ケガ人が減ったとお聞きしました

 そうですね。この合宿でもゼロではないにしろ、例年に比べれば少ないかなといった印象で。それはひとえに『知野トレ』の効果が出ているなと思いますね。ランニングの効率性を上げるといったことや、極力脚を使わないで走る。つまり上半身の大きな筋肉を使って重心移動を滑らかにしていくということに重点を置いたトレーニングなので、それがうまく機能しているのかなと思います。

――春シーズンのお話に移ります。春シーズンはトラックで充実した結果が得られたように見えますが、いかがでしょうか

 良かった選手と悪かった選手とのコントラストがはっきりしたかなという印象ですね。なんとなく良い感じ、という見方もできると思いますが、それは良くできた突出した選手と、ダメだった選手との間をとってそういう評価になっていると思います。欲を言えば全員が突き抜けて良い状態で、総じてシーズン良かったね、という状況が良いとは思うのですが、そこまでではないですね。具体的な名前を上げれば、平キャプテン(和真、スポ4=愛知・豊川工)、鈴木(洋平、スポ4=愛媛・新居浜西)、新迫(志希、スポ1=広島・世羅)などは(5000メートル)13分台で走っていますし、あとは関カレでいえば井戸(浩貴、商4=兵庫・竜野)や大木(皓太、スポ1=千葉・成田)といった、複数種目で入賞することができていて、そういった上の選手たちを見るとうまくいっているように見えるのですが、一方でBやCの選手に関しては少し出遅れているというか、ベストを更新できなかった選手もたくさんいました。秋以降はそこに関してもっとタイムにこだわらせてあげたいなと思いますね。全員がそこで夏合宿の成果を出せるようにしてあげられたらなと。

――結果が良かった選手については、その要因は何だったのでしょうか

 あれぐらい突き抜けている選手というのは、チームでこういうことやろうぜ、と言って何か変わるとか、監督やコーチの助言で変わっていくとかということは少なくて、自ら変わっていくというところが大きいんですね。平に関しては箱根(東京箱根間往復大学駅伝)が終わってから継続して練習できていて、黙々と一人で走っている姿をよく見ますし、鈴木もこれまでケガが多かった分、その部分のケアをしながら狙った練習がしっかりできているなという印象があります。新迫についても、1年生ではありますが良い意味でふてぶてしいというか。1年生だからといって先輩に物怖じせずに、例えば卒業している早川恭平OBに動きづくりについて聞きにいったり、そういう積極的な部分を新迫についてはよく見ます。そのような意味では誰に何を言われたというよりも、自分で「あの人がやっていること面白そうだな」、「あの人に聞いたら何かもらえるかもしれない」と思ってやっているのかなと。特に顕著なその3人については我々が何かしたというより、自ら変わったな、という点が大きいですね。

――1年生の時にはケガの影響もありB、Cチームで練習しながらも、ことしは関カレに出場するまでに成長した車田颯選手(スポ2=福島・学法石川)については

 車田についてはもともと力がある選手なので、入学した時にはケガが重なっていた感じでしたが、道を整えてあげればちゃんと走り出せる選手です。なのでそこはあまり心配していないですね。これから中軸になっていってほしい選手です。

――ことしは新たな試みとして、シーズン後半、駅伝経験の少ない選手を中心に男鹿駅伝にも出場されましたが、振り返ってみていかがですか

 男鹿駅伝はまず駅伝の経験値がない選手を中心として、秋を占う意味でも、走りを見ておきたい選手というのを使ったということがありました。駅伝経験値を夏の合宿前に踏んでおくというのは良かったと思います。また、この駅伝はすごくコースがタフで、アップダウンが激しいんですね。監督車でその様子を追いかけていたのですが、アップダウンの走り方が不得意な選手が多いなというのはわかりました。そして、他大学の選手と競り合った時の弱さとか駅伝のセオリーとか、そういったものがまだまだできていなくて弱さが露呈したレースだったなとも思いますね。あれが終わった後に意識的にアップダウンのコースを走ろうという姿勢が見えて、彼ら自身も変わろうとしていましたし、箱根のコースも平坦なところというのは少ないので、その意味では良い経験をしたのかなと思います。

「優勝したいと思うのなら優勝するなりの練習をしてほしい」

――秋シーズンのお話に移ります。まず、日本学生対校選手権(全カレ)がありますが

 合宿からの流れで(全カレに)入っていくので、タイムを狙えるレースではあまりないかなと思います。ただ、それは他の大学も同じことなので、その中で競り負けない選手になってほしいというか。コンマ1秒で競り負けてしまうことが多いチームなので、そこを勝ちきるというところをちゃんとやってほしいなと。せめぎ合い、勝負勘というものを持ってやってほしいなと思います。

――今季の「全ての駅伝で3位以内、そのうち一つは優勝」という目標ですが、これは学生自身が決めたことですか

 そうですね、学生が平キャプテンのもとで話し合って決めてきたと聞いています。

――何かコーチの方から、その目標に対してコメントをしたりといったことはありましたか

 私は特に。相楽監督がもしかしたら平キャプテンとのコミュニケーションの上で何かあったかもしれませんが、私に関しては何も言ってはいないですし、口を出すことでもないかなと思います。この目標については、学生三大駅伝全てを取ると言ってほしい反面、去年1つも取れていなかったチームが3つとも狙うというのは確かにちょっと現実的ではないかなと。地に足つけた、まずはステップとしての目標になっていて良いのではないかなと思います。

――コーチとして、この目標に対して選手に望むことは

 (この目標は)口で言うのは簡単ですけど、これだけ各大学の力が拮抗(きっこう)しているなかで、そう簡単に3位以内に入れるものではないと思いますし、優勝ともなると偶然やラッキーで勝てるというものではないので、優勝したいと思うのなら優勝するなりの練習をしてほしいかなと。それはただ距離を踏むとかということではなくて、質の高い練習を一定量積んでいく。そして全てが固まった時に初めて良いレースができます。そういった意味では練習一つ一つがぶつ切りになるのではなく、全部がしっかりとつながって層となり、その層の厚みを武器として戦ってほしいかなと思います。

――これまでのお話で、早大では指導陣が積極的にけん引するという形式ではなく、学生が主体的に考えて行動しているという印象を受けます

 そうですね。それは私自身そういうワセダの中で育っていて、以前からずっとそうだと思います。上から押さえつけて何でもかんでもガミガミ言うというのはワセダの選手にはそぐわないかなと。彼らがやりたいと思ったこと、実現したいと思ったことをサポート役として、一緒に伴走するのが良いのかなと思っています。他の大学さんとはもしかしたら違うスタンスかもしれませんね。

――合宿中、練習を自ら増やしていた選手も多かった印象を受けます

 そうですね。まさにそれが狙っていることと言いますか。我々に言われなければ何もできないようでは、選手としても社会人になった後も活躍することはできないと思います。自らで、自らの課題と思うことを見つけて考える力というところは学年を問わずできて当たり前ですし、やってこそ結果を出せる選手になっていけると思うので、普段から「自ら考えなさい」とか、「お前はどう思っているんだ」、「お前の考えを聞かせてくれ」ということはよく言っていますね。

――他大の印象は

 やはり強いですよね。層が厚いな、というところもあれば、絶対的なエースがいてパンチ力があり、羨ましいなと思うチームもあります。そういう意味では各大学さんでカラーは違うのですが、総じてやはり強敵だなというチームが多いです。ただ、それは他の大学から見た時にウチもハーフマラソンの距離になると強いなと認識されていると思うので、そういう強みは生かしながら、どう活路を見出していくかというのが大事なのかなと思います。

――昨年は『全員駅伝』を掲げて駅伝に臨みました。現段階で、ことしはどのような展開を思い描いていますか

 去年は突出したエースがいなかったので、全員で1秒を大切にしようという意味で『全員駅伝』というスローガンを掲げましたが、ことしに関しては平キャプテンをはじめとしてエースと呼ばれるような選手が出てきました。まだエースになりかけているという状態ではあると思うのですが、彼らを軸にして、主要区間できっちり走ってほしいというのと、つなぎ区間の選手たちも、何事もなくその区間にエントリーされるのではなく、チーム内の競争を経てその区間を任せられるという流れをやっていければいいかなと思います。

――特に箱根では、駒野コーチは5区で活躍されましたが、山の適性があるような選手は今のところいますか

 今年山を上った安井がやはり適性はあるなあとは思いますね。クロカンも強いですし、脚力もあって、マラソンを走るだけのスタミナもあるので。ただことしから5区は距離が短くなるので、そこは他の大学も含めて戦略が変わってくると思います。(5区の)ウエイトは以前に比べれば減ってくると思いますので、適性があるとはいえ2番手の選手を使うか、抜群に適性のある選手を使うのか。そういったところで戦い方が分かれてくるのかなと思いますね。

――大木選手が春の対談の際に上り下りの区間に興味を示されていましたが

 3000メートル障害ができる選手というのは脚力がある選手が多いので、そういった意味では適性はあると思いますね。あとは実際にコースを下見して、上りに関しては走ることに関してどれだけ楽しむ、挑戦するという気持ちでやれるかというところが大事になるかと思います。下りは天性のものがあるので、三浦(雅裕、平28スポ卒)が抜けた穴は大きいなと思いますけど、『知野トレ』などの効果で下りを走れるような選手が出てきてくれればなと思います。

――最後に、駅伝シーズンをどう戦い抜くか、指導陣としてのお考えを聞かせてください。

 抽象的な言い方になってしまいますが、ワセダらしい戦いをしてほしいなと。他の大学に比べれば、けしてうちは前評判では注目されないと思うんですね。派手さはないし、スター選手がいるわけでもない。けど気づいたらそこにいる、粘り強く戦い続ける、そういうところを出してほしいなと思います。出せる選手たちがそろっているなとも思うので、そういうワセダらしい駅伝ができればなと思いますね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 平野紘揮)