【特集】長距離夏合宿特集『鍛錬の夏を超え』相楽駅伝監督インタビュー

陸上競技

 昨年は監督就任1年目として、東京箱根間往復駅伝で4位の結果を残した。しかし、駅伝優勝を狙うにはまだ足りない、もう一段回飛躍するためには何が必要なのか。夏合宿時点での早大の現状、そして秋からのトラック・駅伝シーズンなどについてお話を伺った。

※この取材は8月15日に行われたものです。

「他校のエースと対等以上に戦えるエースを作ろう」

合宿、そして秋以降の展望を語る相楽駅伝監督

――新チームが発足してから、関東学生対校選手権(関カレ)での優勝などがありましたが、前半シーズン全体を振り返っていかがですか

 去年は監督1年目ということでトラックと駅伝を戦い、あのような結果に終わって、チームの目標としたところを達成できずに終わってしまった反省を踏まえて、新チームが発足した最初にこういうチームであるべきだという理想のチームをみんなで出し合い、それを目標にスタートしました。そんなに簡単に変わるものではないので、ロードシーズンについては手応えがあったり、逆に狙っていた結果が出なくて苦労したようなこともあったりしたのですが、トラックシーズンに入ってから順調に力を出してくる選手が増えてきました。春のトラックシーズンについては大きな目標を関カレ優勝というように掲げていましたので、そこで短距離とも合わせてトラック優勝を成し遂げられましたし、長距離のメンバーも複数人優勝、複数人表彰台という目標を掲げて実現できましたので、そこについては良かったかと思います。でも一方では、関カレ終わった以降にことしは全日本(全日本大学駅伝対校選手権)の予選会がありませんでしたので、記録会等でチームの記録を上げようという目標を掲げていたのですが、うまくいった選手とそうではない選手の差が結構出たので、そこはチームとしては不十分だったかなと感じています。

――前半シーズン、MVPを選ぶとしたらどなたですか

 やっぱり平(和真駅伝主将、スポ4=愛知・豊川工)でしょうね。春のロードシーズンから結構苦労しながらも、唐津10マイル(唐津10マイルロードレース)と福岡のクロカン(日本選手権クロスカントリー)でしっかり自分の課題を定めて戦い抜いて、トラックシーズンではオリンピックの選考会である日本選手権に出ようという目標があり、それはちょっと達成できませんでしたけど、関カレでは日本人トップという結果を出し、ホクレン(ホクレンディスタンスチャレンジ)でも5000メートル、1万メートルともに自己ベストを更新して終えられたので、キャプテンらしい仕事をしてくれたのではないかなと思います。

――BやCチームの中でのMVPはいらっしゃいますか

 そうですね…。いないかな。この合宿が始まる前にB、Cチームには、本来私たちのチームは開かれたチームで、力のある選手はどんどん駅伝や対校戦でも起用しますし、そうでなければAチームの選手でも推薦で入ってきた選手でもB,Cチームに落としたりするというような実力主義のチームであるという話をしています。ことしはそういう意味で新チームが発足してからB、CからAに上がってきた選手がいませんでした。チーム内の競争を激しくするような選手が出そうで出てこなかったので、MVPと言われるといないかな。

――監督が就任してからから体幹トレーニングを取り入れたという話をお聞きしたのですが、何か効果はありましたか

 一番大きいのは体全体を使って走れるようになりましたので、故障が減りました。この合宿についても、一本も走れないというメンバーがほとんどいません。去年もそれはあったのですが、合宿をやっていくうちに効果を実感していくという感じだったので。2年目になって、上級生もトレーナーさんの指示する動きとかトレーニングの内容を理解してやるようになっていますので、今の時点での故障による離脱者がいないというのが一番大きな成果だと思います。

――就任2年目ということで1年目と変えたことはありますか

 去年はとにかく主力の故障を減らしてこのチームのベストメンバーで試合に出られるようにしようというところで、ほぼ達成できたかと思ってはいるんですけど、それでもやはり駅伝で勝てなかったというのはチームの流れを変えるエースがいなかったということです。そういう話を私から学生にして、学生からも同じような意見が出てきましたので、今年はやはり他校のエースと対等以上に戦えるエースを作ろうという話が年明けにあって、それが課題だと思っています。なので、普段話す時にも去年は全体をまんべんなく押し上げようという意識でやっていたところを絞って、特にAチームの選手についてはオリンピックだとか学生のトップや実業団の選手と戦っても負けないようにというトップの選手の意識を作ってあげるところを意識して指導しています。

――現時点でのエースの候補はいらっしゃいますか

 インカレの結果を見ても平と井戸(浩貴、商4=兵庫・龍野)の4年生二人が柱だと思いますので、この二人が駅伝でもしっかり主力区間でやってくれれば良いかなと思っています。それ以外でもさらに力をつけている選手が出てきていますので、二人に引っ張られるかたちで他のメンバーも同じように力をつけていけば一番良いのではないかと思います。

「もう一つ先のコミュニケーションが取れていて、連帯感のあるチーム」

――今回の合宿のチーム分けはどのように決定なさったのですか

 トラックシーズンからも3チーム(レベルごとにA、B、Cチームの3つ)で動いてはいたんですけど、トラックシーズンの結果を踏まえて、勝つために何が一番良いのかを考えて合宿に入る前にもう一度組分けをしました。具体的にはB、Cチームは駒野コーチ(平20教卒=東京・早実)に任せているんですけども、Aチームについてはもう全カレ(日本学生対校選手権)に出られる選手とか、そこで勝負できる選手というのを基準にして見直しましたので、トラックシーズンよりは人数を絞ったかたちで少人数でやるようにしています。

――チームの入れ替えわりの激しさはいかがですか

 競争を促す意味でAチームから何人か落としましたので、Bチームのメンバーについては落ちてきた彼らに追いつけ追い越せというような競争をしてほしいですし、落ちたメンバーについても落ちた意味を考えてもう一度Aに上がって、Aのメンバーを超えるような意識付けをしてほしいと思います。2012年の大迫(傑、平26スポ卒=現ナイキ・オレゴン・プロジェクト)がいた年にも大迫頼みのチームになりつつあった時にやはりこの合宿でAチームを一度5人に絞ったことがあって、その時もチームに危機感が生まれて合宿に力を入れて、そこから競争が生まれて力をつけたという経験がありました。今回は背景が違うのですけれども、勝ちを狙っているチームとしての危機感、勝つためにもう少し意識を上げたいという危機感を与えるためにAチームの人数を絞って始めました。練習を見ている限りではそれが良いかたちでできているのではないかと思います。

――この合宿で選手に求めることは何ですか

 勝つ選手になってほしいです。やっぱり良い練習をした、良い記録を出したというだけだと去年のようななんとなく三強の次にこっそりいるみたいな、悪くはないけれど満足はできないような結果で勝ちきれないチームになってしまうと思います。いま自分たちが目指しているのは学生三大駅伝の3つともで3位以上で戦えて、その中でできれば勝てるチームというのを目標にしていて、勝つためには勝つためのメンタルやフィジカルが必要になります。なので、そこを強烈に意識付けして勝つチームにしようとしているところです。いまは特にオリンピックもやっているのでそれを引き合いに出したりしていますね。

――Aチームに対する目標や理想はいかがですか

 少なからずワセダというチームに入ってきて、そこのトップにいるわけですから、伝統的に日の丸をつけて世界に出ていくという選手を昔から継続して輩出してきているチームですので、ここに来ている以上は日本代表とか世界で戦うというのを意識してやってほしいと思います。それがAチーム全員じゃなくても、そういった選手たちに引っ張られて学生陸上界のリーダー、トップをはる選手になってほしいと思って指導しています。

――練習を引っ張っている選手やムードメーカーがいれば教えてください

 そうですねー…。やっぱり4年生ですね。力もありますしキャラも濃いメンバーが多くて、普段の練習とかここの生活でも少人数でやっているのですが、体のケアのこと、練習についての注意事項っていうのを、平が取りまとめながら4年生全体でチームを引っ張っている感じがすごくしますね。これはAもそうだし、B、Cチームも4年生が結構先頭に立って引っ張ってくれているというのは感じています。ムードメーカーは鈴木洋平(スポ4=愛媛・新居浜西)です(笑)。今やっぱり走れていて調子も良いので、うるさいくらい元気が良いですね(笑)。

――B、CチームでAチームを脅かしている選手をあえて挙げるとしたらいらっしゃいますか

 特にピンポイントで誰というよりは2、3年生に期待したいと思っています。今トラックシーズンを見ても元気がなかった印象があって、決して故障しているわけではなくトレーニングなどはやっているのに、その中で自己記録を大きく伸ばしたとかインカレに絡んできたっていうのがあまりなくて。駅伝シーズンを戦うに当たっては去年のチーム見ても3年生、今の4年生が当時の4年生を支えて柱になってくれていたので、今年はその役割を2、3年生に担ってほしいと思っているので、3年生の雰囲気に期待したいです。

――今年のチームの雰囲気はいかがですか

 去年のチームより良くも悪くも声が出ているかな。練習でも声掛けしていますし、生活の中でも体のケアのこととかを注意したり、逆に冗談とか言い合ったりしていてさっきの食事中もすごくうるさくって困っているんですけど(笑)。そういう意味でもすごく声が出ていて、明るいとかそういうことじゃないもう一つ先のコミュニケーションが取れていて、連帯感のあるチームだと感じています。

――今年は去年よりもケガ人が少ないと伺いましたが、それに対していかがですか

 故障していないということで各個人見ても、練習できているという充実感を持ってやっていますし、全員元気なので競争も激しく起きていますし、離脱したら置いていかれるという危機感も持っていますので、すごく良いかたちで合宿を進められているのではないかと思っています。

――合宿の進み具合はいかがですか

 まだ1次合宿が終わって2次合宿も始まったばかりなので、何とも評価が難しいのですけれども、もちろん今100点満点の状況で進んでいるわけではなくて、昨日もポイント練習をやって課題が見つかった選手も多かったので、そういうのも含めて60点くらいの感じできているかな。本当の勝負はここからの10日間とか今後1週間に大事な練習が入っていますので、今は材料をこねくり回す前に材料を積み上げている段階なので、良くも悪くもないけれど順調には進んでいるのではないかと思います。

「『ワセダらしさ』を出すことが一番重要」

――では、夏の鍛錬期を経て、後期シーズンはどのようなプランで臨まれますか

 やはり学生三大駅伝というのが一番ウエイトを占めていきますので、その中で最低限去年以上の成績を上げるのが一つの目標です。先ほどもちらっと言ったのですが、駅伝3つとも、3位以内という優勝を狙える位置でレースを進めるというのがすごく重要になってくると思いますので、それを達成できるようにやりたいと考えています。

――学生三大駅伝はそれぞれ特色がある大会だと思うのですが、早大としてはそれぞれをどう位置づけますか

 やはり伝統的に長い距離に力を発揮するチームですので、大会の規模とかを考えても箱根(東京箱根間往復大学駅伝)は一番大きな目標になると思います。そこから逆算して、箱根で勝つために全日本でどう戦うか、全日本でどう戦うかを図るために出雲(雲全日本大学選抜駅伝)があるという感じです。箱根を頂点として逆算して組み立てていくかたちになるのではないかと思います。

――早大競走部の、駅伝に対するスローガンに『学生三大駅伝全て3位以内。その内1つは獲る』とありますが、それは相楽監督が提案したスローガンなのでしょうか

 いえ、学生のほうから出てきました。去年は『三冠』という目標を掲げましたが、優勝争いも絡めずに(出雲、全日本、箱根の順に)6番、4番、4番で終わりました。去年やって自分たちに足りないものを痛感しましたので、現実的というか、優勝するためにその前提として優勝を常に狙える位置にいるチームになるというのがやはり必要なのではないかという話が学生の中でありました。目標を下方修正したので、必ずしも優勝を狙っていないというわけではなく、現実的に去年の自分に足りないもの、課題を解決して、駅伝三つすべてを上位で進めるチームになろうと決めました。つまり(スローガンは)学生のほうから去年の経験を踏まえて、出てきたものです。僕の方からもそれに対して違和感はなかったです。

――箱根を最大の目標にしつつ、その前哨戦である出雲、全日本でも優勝を狙っていくということですね

 そうです。やはりそれぞれ走る距離も違いますし必要な人数も変わっていきますので、顔ぶれが変わる可能性はもちろん大いにあります。特性が違うコースで、チームの力が一番発揮されるのは箱根だと思うので、出雲・全日本については走るメンバーが変わろうが変わるまいが、チーム力を図る上で優勝を狙っていくという風にやっていければなと思っています。

――それではその目標を達成するために、監督としてはどうアプローチされますか

 いま故障者が少ないという、去年に引き続きチームの底上げや活性化はある程度できてきているなと思います。あとはやはり、駅伝の流れを変えるエース、しかもそれは複数枚必要だと思っていますので、これから全カレもありますしトラックシーズンで様子を見ながら、(エースに)なる選手を育てて勝負したいと思います。

――相楽監督と駒野コーチの連携はどのようにとられているのですか

 (駒野コーチは)選手の時代からよく知っていますし、同じ職員として働いていた時期もあります。忙しい時は電話で、そうでないときは二人で話をして、Aチームの様子、B・Cから誰が上がってくるかなど、こまめに連絡をとって連携できているかなと思います。

――いまの時代で、駅伝で早大が勝つために必要なことは何だと思われますか

 『ワセダらしさ』を出すことが一番重要かなと思っています。推薦で入ってきた選手は先ほども言いましたように日の丸を背負う、日本を代表する力を持った選手が複数いて、一般受験で入ってきた選手は2~3年間力を付けて、箱根などの長い距離で力を発揮したときに一番『ワセダらしさ』が出て優勝できるのではないかと思います。そういうチームに近づけるようにしようと思っています。

――夏の今の時点で気になっている他大学はありますか

 去年も駅伝の『三強』が強烈に、学生のトップを占めていたと思うのですが、それに加え去年の出雲でも負けました山梨学院大さんや、東海大さんも春を見て力を付けていた印象があります。どこというよりは、全部を気にしてそれらに上回るためにはどのようにすればいいかをいま考えています。

――相楽監督が、後期に注目している選手はいらっしゃいますか

 難しいな(笑)。やはりこの2次合宿でどれだけ練習の質・量を詰めこめるかというところが大事かなと思いますので、いまの時点で誰というのは分からないです。この合宿が始まる前にも、A、B、Cチームに強い意識付けをしてここに来ているつもりなので、これからの雰囲気や変化に期待したいなと思っています。

――早大のチームの個性を言葉で表すとすれば

 去年もそんな質問をされて答えられなかった(笑)。そうですね、『伝統の力』ですかね。私も監督は2年目ですがコーチは10年やりました。その間にシード落ちのチームから始まって、シード権を取って、そして優勝争いができるチームになって、三冠を達成して。いまはそこから少し落ちてしまったのですが、私の中にもいろいろな経験値が蓄積されていて、チームとしても竹澤健介(平21スポ卒=現住友電工)や大迫傑のような日の丸を背負って走った選手や、浪人して箱根を走ったような選手もたくさん見てきています。そういった伝統が私の中に根付いていて、いま指導に生きています。学生の中でも4年生は4年生なりに上級生から引き継いだものがあり、それがすべて僕らの力になると考えています。歴史と伝統という経験値がチームに生きているというのが、一番のうちの強みなのではと思います。

――では最後に、秋から始まるシーズンの展望や目標をお願いします

 去年以上に出雲も全日本も箱根も、上位争いが激しくなると考えています。ですので自分たちは少なくとも、自分たちの力を100パーセント出すというのがスタート地点になると考えています。どこの大学が強いとか、どこの誰が速いというのではなく、まずは自分たちの力を出し切って、それができて初めて相手にどう勝つのかといった戦略が始まります。トラックシーズンにたくさんの経験と反省を学生はしていますので、まずはこの合宿で力を付けて、秋にはまず自分たちの力を出すというのを一番の目標にして臨みたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 朝賀祐菜、鎌田理沙)