【連載】『平成27年度卒業記念特集』 第69回 田中言/競走

陸上競技

勝利への執念を胸に

 陸上競技界には『走る格闘技』と呼ばれる種目がある。800メートル。わずかトラック2周というスピード決戦に対応できる脚力と、ラストの競り合いに耐えうる強靭(きょうじん)なフィジカルが求められる。レース中は激しい接触もしばしば…。まさに『格闘技』の名にふさわしい、し烈な種目だ。そんな競技を「自分が勝負できる場所」と力強く語る男がいる。今季第101代競走部主将を務めた田中言(スポ=東京・早実)だ。

 もともと野球少年だった田中は、中学生の時に本格的に陸上競技へとシフトチェンジ。もっと上を、という思いが田中を動かした。高校進学の際、選んだのは名門・早稲田実業高。「練習は苦しかった、でも同期や後輩たちと過ごす時間は楽しかったかな」と当時を振り返る。時には不調にあえぎ、最後のインターハイでは出場を逃すといった挫折も味わってきたが、当時の800メートル早実記録を更新するなど、確かな実績を引っさげて早大競走部に入部した。

日本選手権にも出場するなど、主将として活躍し続けた

 高校ではシーズン前のみ800メートルの練習に特化するというかたちを取っていたが、大学では1年を通して中距離の専門的なトレーニングに打ち込むようになる。力がついてきたのは3年時。競技会を重ねる中で『つかんだ』ものを通して、自らのレーススタイルを確立する。国内最高峰の舞台・日本選手権へも出場。名実ともに早大の顔となった田中は、気づけば主将候補として名が挙がるまでの選手になっていた。それは、紛れもない同期からの信頼の証。「みんなががこんなに言ってくれるのなら」。その思いに応えるべく、田中は主将という大役を請け負う決意をした。

 主将としての1年間はけして順風満帆な競技生活とは言えない。春先は不調が続き、関東学生対校選手権はケガで出場ができなかった。それでも、勝つことのできるチームを目指し、「勝てる練習をしなさい」と声がけをしてきた田中。チームメイトの支えも後押しし、集大成となる日本学生対校選手権では自身初の男子800メートル決勝進出を果たす。チームも同大会でトラック部門2位に輝いた。

 中学時から第一線で戦い続けてきた田中だが、大学卒業をもってその競技生活にピリオドを打つ。やるならば世界で、それができないのであれば――。どこまでもストイックに勝ちを求めてきた田中だからこそ、その決断は早かった。「自己満足かも知れない。でも、本当に幸せなワセダ生活だった」。101代目という、節目の年を越え新たな一歩を託された早大競走部主将をやりおおせた田中の顔には、爽やかな笑みが浮かんでいた。

(記事 平野紘揮、写真 菅真衣子氏)