笑顔で締めくくる引退レース

陸上競技

 4年間、早大の名を背負って戦ってきた選手の花道を飾る最後の舞台。きょう行われた日大記録会は永野佑一(スポ4=福岡・育徳館)、羽角彩恵(スポ4=北海道・札幌一)、土川萌子(スポ4=栃木・那須拓陽)、亀田卓志(基理4=栃木)の四人にとっての早大競走部引退レースとなった。

今季、短距離ブロック長としてチームをまとめた永野

 400メートルハードルに出場したのは、ことしの主力、そして短距離ブロック長として期待されながらもケガに苦しむシーズンを送った永野。早大の選手として走る最後のレースでも本来の走りを取り戻すことはできなかった。だが、走り終えた永野の表情は晴れやかだ。「タイムは出ませんでしたが、最後にここで走れたことに満足しています」。全日本大学対校選手権(全カレ)の入賞経験もある永野にとって今季の成績は決して満足のいく内容ではないだろう。それでも、仲間からの大きな声援を受けながら走った最終レースを終えると笑顔がはじけた。

専門外である100メートルにも出場した土川

 少人数ながらきょうまで地道な練習を重ねてきた女子選手たちも、引退の時を迎えた。走高跳を専門種目とする土川は、他にも100メートルと100メートルハードルに出場。「この4年間で出ることができなかった種目を、思う存分出てみようと思ってエントリーしました。忙しかったですが楽しかったです」とすべての種目を満喫した様子。走り終えた100メートルが再レースとなるハプニングもあったが、それも含めて陸上競技を楽しみ抜いた一日となったようだ。

 関東学生対校選手権(関カレ)400メートルハードル王者の羽角は、きょうで現役を引退すると決めて挑んだ最後のレースに4年間の集大成をぶつける。出場した100メートルハードルと200メートルを走り終えると、羽角は早大競走部への感謝の気持ちを口にした。「いろいろな人に支えられ本当に感謝の気持ちしかない」。この言葉の背景にあるのは、同期の仲間はもちろん、男子部員やマネジャーたちと一緒になって戦ってきた日々の記憶。この日も試合後は大勢の仲間に囲まれ、にぎやかに引退レースを締めくくった。

レース後中距離ブロック長・亀田(中央)のもとに笑顔の輪が広がった

 力のある3年生が多数いる中距離陣の中で亀田は唯一の4年生として練習を続けてきた。「大学4年間ずっと辛かったなという感じだったので、最後は開き直って何も考えずに楽もうと思いながら走りました」。最終学年では、全カレなどの大きな舞台で出走することはかなわず、主役になる日は訪れなかった。だが、きょうの試合後、選手がつくる輪の中心にいたのは亀田だった。800メートル1組目に出場したのはすべて早大の選手。7人で列をつくって走る姿からは亀田の最終戦を良いものにしたいという後輩の思いがにじみ出ていた。「いままでで一番楽しく走れました」。まさに有終の美でラストレースを締めくくり、『W』のユニフォームを脱いだ。

 一日を通して見受けられたのは、4年間を共にしてきた仲間、お世話になった先輩へと懸命に声援を送る姿。「自分一人の力では陸上はできない」(永野)。この言葉が物語るように、競技場に生まれた一体感は一朝一夕で培われたものではない。世代を超えて、チームの絆はつながれている。

(記事 中澤佑輔、写真 中澤佑輔、石丸諒、尾澤琴美)

4年生と試合に出場した選手たち

結果

▽男子100メートル

1次レース

永沼賢治(スポ3=大分舞鶴) 10秒93(-0.2)(1組1着)

2次レース

永沼賢治 10秒64(+0.5)(4組3着)

▽男子200メートル

永沼賢治 21秒52(+0.2)(1組3着)

▽男子800メートル

出口翔(スポ3=東京・開成)    1分51秒64(1組1着)

廣出和樹(教2=愛知・豊丘)    1分51秒95(1組2着)自己新記録

吉田貴洋(スポ3=和歌山・田辺)  1分52秒75(1組3着)

永井大己(スポ2=神奈川・横須賀) 1分52秒79(1組4着)

亀田卓志(基理4=栃木)      1分52秒93(1組5着)

田中言(スポ3=東京・早実)    1分53秒64(1組6着)

伊澤賢人(スポ3=栃木)      1分56秒00(1組7着)

▽男子110メートル障害

竹吉大記(スポ2=千葉・市船橋) 14秒79(+0.1)(1組2着)

▽男子400メートル障害

永野佑一(スポ4=福岡・育徳館) 51秒96(1組1着)

▽女子100メートル

土川萌子(スポ4=栃木・那須拓陽) 14秒27(+1.0)(3組2着)

記録不正確のため再レース

土川萌子 13秒49(+0.3)(1組3着)自己新記録

▽女子200メートル

羽角彩恵(スポ4=北海道・札幌一) 26秒03(+0.5)(1組2着)

▽女子800メートル

杉田望美(スポ2=栃木女子) 2分21秒29(1組1着)

▽女子110メートル障害

羽角彩恵 14秒56(+0.2)(1組3着)

土川萌子 15秒93(+0.1)(2組4着)

▽女子400メートル障害

長田彩楓(スポ2=早稲田佐賀) 61秒32(1組1着)自己新記録

竹原由梨(スポ2=岡山城東)  64秒44(1組3着)

▽女子走高跳

市村る  (スポ3=千葉・柏中央) 1メートル55(2等)

土川萌子              1メートル50(4等)

▽女子三段跳

中澤希緒(政経2=埼玉・早大本庄) 11メートル47(0.0)(2等)

コメント

亀田卓志(基理4=栃木)

ーーきょうの引退レースはどのような気持ちで臨まれましたか

大学4年間この競技をしていてずっと辛かったなという感じだったので、最後はもう開き直って何も考えずに楽しく走ろうかなと思いながら走りました。

ーー実際に走られていかがでしたか

本当に今までのレースの中で一番楽しく走れたと思います。後輩も一緒に走ってくれて、レース展開も抜きつ抜かれつな感じで楽しく走れました。

ーーフィニッシュ後、部員の皆さんから花束を渡されたりして祝福されていましたが、いかがでしたか

4年間やっていて、辛い時とか辞めようか考えたこともあったんですけど、最後皆に『ありがとうございました』とか言ってもらえて、本当に4年間続けてきてよかったなと思いました。

ーー大学4年間で一番記憶に残っているレースは何ですか

4年目の栃木県の県選手権の時は自分の中でも結構良い感じに走れていて、陸上をやっていて初めて優勝することができて。県大会って他の人にとっては小さな大会かも知れないですけど、一番でゴールできた時は嬉しかったですね。

ーー今後も何らかの形で競技を続けられますか

走ることが好きなので、競技としてはやらないかもしれないですけど、ランニングや、もしかしたら10キロのレースや5千メートル、記録会とか出るかもしれないですね。気が向いたらですけど。(笑)でももう800メートルはやらないかな。(笑)

土川萌子(スポ4=栃木・那須拓陽)

――きょうの試合を振り返っていかがですか

この4年間で出ることができなかった種目に思う存分出てみようと思って、3種目にエントリーしました。それに加えて100メートルが再レースになったので二本目の100メートルを走れて。忙しかったですが楽しかったです。

――100メートルハードルに出場しようと思った理由は

高校のときはやっていたのですが、全国で戦うというレベルではなかったので、大学に入ってからは高跳びに集中しようと思ってやってきました。でも、最後にどうしても出たくなって出ました。

――全日本大学対校選手権(全カレ)の競技中負傷してしまいましたが、その後ケガの状態はいかがですか

全カレでケガをしてしまって、正直もう、試合なんて出られないだろうなと思っていました。ですが、やはり最後に記録はどうでも良いから楽しく出たいと思って、エントリーをしたというのもあったので。記録は散々でしたが、みんなから花束を貰ったりとか、チームのみんなが応援しに来てくれたりとかそういった試合は最後でしたので、楽しむのが結果的にメインになったと思います。

――全カレを振り返るといかがですか

全カレでは優勝を狙っていました。後の祭りなのですが、4年間で一番調子が良かったので。跳べると思っていたので、終わった瞬間は何も考えられなかったというのが一番でした。そういった悔しい面もありましたが、捻挫をする前までは思った通りに体を動かすことができていたので。改めて高跳びが楽しいなと思いましたし、それもあってきょうも試合に出ようと思えましたし。これからも機会があったら試合に出ようという気になれましたし、結果的に捻挫はしましたけど、良かったかなと思います。

――ケガのこともありますが今回はどのくらい練習をしましたか

所沢選手権でも高跳びに強行して出たのですが、それでまた脚が痛くなってしまって。できることはやったのですが、ほぼ練習はできませんでした。

――4年間を振り返っていかがですか

この4年間で自己ベストを更新することができなかったので、チームにも何も残すことができなかったというのが一番ですね。なので苦しいことばかり思い出してしまうんですけど、でも後輩にも先輩方にも、すごく良い仲間にも恵まれたので記録は出ませんでしたがワセダに来てよかったなと思っています。

――ブロック長として務めた1年間はいかがでしたか

先程と少し被ってしまうのですが、ブロック長として自分にできたのかなとインカレが終わった後にまず思ったのですが、本当に何もできなかったと自分ではすごく感じています。申し訳なかったなという気持ちがあります。私が引っ張っていくことも大事ですし、何か声をかけることも大事だと思うのですが、後輩たちがみんな良い子たちばかりなので。それぞれで自分の目標に向かって頑張るということをみんなができていたので、同期にも後輩にも本当に助けられたなと思います。

――先程、今後も機会があったら続けたいと仰っていましたが

続けるのと聞かれたら「続けようとは思っています」と言っているのですが、今までほどの練習時間は確保できないですし、市民ジャンパーじゃないですけど仕事の合間を縫って練習して飛ぶというのでいいかなと思っているんですけど…。ここまできて陸上が楽しくなってしまったので辞めたくないなというのが正直なところです。

――大学では楽しいよりもやはり競技という面が強かった

やはり結果を求められる場所なので。それをわかって入ってきてはいたのですが、どうしても辛い面もありました。陸上が純粋に楽しいと思えないときの方が多かったのですが、4年生になってインカレくらいから色々と自分の思うように練習したら動けるようになってきて。プレッシャーを感じて結果を出さなきゃと思っても絶対に結果なんて出ないな、高跳びを楽しまなきゃ記録なんて出ないなと思い始めてからまた楽しく競技をすることができました。

――最後に後輩へ一言お願いします

4年間あっという間なので、頑張ることも重要ですがやはり楽しんでほしいなと思います。

永野佑一(スポ4=福岡・育徳館)

――最後のレースでしたがいかがでしたか

タイムは全然駄目でしたが今季三戦目だったということもあり、タイムとかそういうのではなく最後、ここで400メートルハードルで締めくくりたいと思い出場しました。内容的にはアップの段階から動いていたので、風などもあり上手く乗せられるかなとも思いましたが詰まってしまい止まった部分があってタイムは出ませんでしたが、自分的にはタイムではなく最後ここで走れたので満足かなと思っています。

――今シーズンを振り返っていかがでしたか

良い感じに冬季練習が積めて、そこから東京六大学対校大会の方で満足に走れてその後は骨折などもありずるずる引きずって、全カレもしっかり走ろうと思って全力を尽くしましたが駄目で、自分の中でこういう経験がいままでなかったので苦しいところもあったのですが、その分自分一人の力では陸上はできていないというのも感じ、チームメイトが色々話を聞いてくれたりだとか、自分が引っ張れないときに後輩が引っ張ってくれたり、4年生になってから初めてしっかり陸上について考えられたかなと思います。

――思い出のレースなどはありますか

去年の関カレと全カレで野澤さん(啓佑OB、平26スポ卒=現ミズノ)と一緒に決勝で走れて、野澤さんを追いかけてやってきて結果抜くことができなかったのですが、一緒に走る前に握手したりだとか励まし合ったりして走ったのがすごく印象に残っています。

――4年間を振り替えられて

自分の持っている大学のイメージと少し違っていた部分もあり、戸惑ったり色々と思うことはありましたが本当にここに来させてもらって良かったなと感じていて、他の大学よりも高いレベルで練習させてもらったことで自己ベスト縮めたり、4年生になってからはブロック長を務めさせてもらったりと色々な面で幹部として引っ張らせてもらい、そういう面では人間的に成長できたのではないかなと感じます。

――ブロック長をやっていて困ったことなどはありますか

野澤さんが怪我をしていたので2年生の冬季の時から短長としては引っ張ってきていましたが、練習を引っ張るというのと部員を引っ張るというのは違う風に感じました。短距離ブロック長だと主将が九鬼(巧、スポ4=和歌山北)で、長距離は山本(修平、スポ4=愛知・時修館)で、短距離だと僕と九鬼が引っ張っていましたが、短短は九鬼に任せて短長は僕が見るという感じになっていて、たまに短短の人の練習を見たり話をしたりしていると、そういう風に考えているんだなと気づかない部分もあり、いままで短長の中だけで話していたことが短短の方にも広がって、そういうのが新鮮で「短距離的な考えにはこういうのもあるんだな」と分かったので良い経験をさせてもらえたと思います。

――最後、後輩にメッセージやエールなどがあればお願いします

いまの2、3年生、特に1年生もそうですがみんな力があってこれから先、同じように辛い思いをしたり陸上をやってていま自分は何がしたいのか迷うこともあると思いますが、自分がこれだけはというものをしっかり持っておけば、絶対に自分がなりたいと思うものになれると思いますし、ワセダのチーム力はいまとても高くなっていると思うので、一人ひとりがライバルであって良き仲間であるようにしっかりやりながら、時には楽しいことも必要だと思うので楽しみながらやっていってほしいと思います。

羽角彩恵(スポ4=北海道・札幌一)

――ワセダのユニフォームを着て戦う最後のレースを終えてどのようなお気持ちですか

もうユニフォームを着ることはないんだっていう気がしなくて、あまり実感が湧いてこないです。

――きょうの走りで満足の行く引退レースとなったでしょうか

100ハードルの方はあまり気持ちよく走れたという感じではなかったですけど、200メートルの方はタイムは良くなかったですけど最後に気持ちよく走れたのでそれは良かったかなと思っています。

――4年間を振り返って特に印象に残っていることは何ですか

インカレだとかエンジを着て走る試合はやはり一つ一つに印象深いものがあるんですけど、いまぱってすぐに思い浮かぶのはことしの関東学生対校選手権(関カレ)ですね。

――関カレは専門種目とは違う400メートルハードルで優勝を果たしましたね

自分でもびっくりしていて、100ハードルはその時あまり良くなくてそれをかき消すような感じで400ハードルで優勝できたのでうれしかったです。

――400メートルハードルには自信があって出場していたのでしょうか

ちょっと長めの距離の方が好きというか得意だったので、それでハードルをやっていたんですけど、関カレではじゃあ400をやってみるかということになって出ました。3年生から4年生にかけての冬は400系の練習もいれながらやっていたので、そこで力が付いたのかなという気はしています。

――全カレでは残念な結果に終わってしまいました

ほんとに最後だったので、エンジを着る試合もあれが最後でこの4年間支えてきてくれた方々だとか家族に結果で恩返しをしたいという気持ちで臨んだんですけど、おしいこともなく本当にあっけなく終わってしまったので、終わった直後は悔しいとかじゃなくて実感がわかなかったですね。

――4年生の女子短距離は羽角選手一人でしたが苦労したこともあったのではないですか

女子でも他の部員はいましたし、もう二人同期が長距離と跳躍にいたので。やっぱり女子だけじゃなくて男子もスタッフの人たちも一緒に引っ張ってもらって力になってもらったので、女子一人だけだから苦しいという感じはなかったです。

――男女が一緒に良い雰囲気の中で充実した競技生活を送れたのですね

目標としてトラック優勝と学生三大駅伝の優勝を目指していたのでそれは男子だけと言われればそうなんですけど、でもやっぱり得点として貢献できなかったとしても自分たちが結果を出したり、部をいい雰囲気にしようとすることでみんなの気持ちも上に向いていくんじゃないかなという思いでやっていました。

――4年間で成長したと感じるところはありますか

成長とは言わないかもしれないんですけど、この4年間を通して周りの人に支えられて、応援されているんだなというのをものすごく感じてきて、それは1年生、2年生、3年生、4年生と学年が上がるにつれて感じていって、だからこそ感謝の気持ちを結果で出したいと思えるようになった気がします。本当に感謝の4年間だったので、いまはそれが大きな財産です。

――今後、競技を続けられる予定はありますか

もうこれで終わりです。

――4年間早大競走部で過ごした経験はどのように生かしていきたいですか

ここで得た人のつながりは今後も大切にしていきたいですし、これからも競走部に対して力になれるのであれば何かやっていきたいなと思っています。いままで本当にいろいろなことを支援してもらったので、今度は私がそれを返す番なのかなと感じています。