おととしから競走部のコーチとして選手の指導にあたっている駒野コーチ。7年前に強い気持ちでチームを率い、早大の往路優勝に貢献した元主将はいま、大学職員を勤めながら少ない時間を割き指導にあたっている。今回の夏合宿でも現役時代と変わらない的確なアドバイスや叱咤(しった)激励でチームを鼓舞する駒野コーチにいまのチームの現状や合宿の様子などを伺った。
※この取材は8月15日に行われたものです。
「口うるさく言うスタンスは変わっていない」
自身の指導論を語る駒野コーチ
――おととしからコーチをされているとお聞きしましたが、どういった経緯だったのでしょうか
2012年から大学職員になって、それを機に手伝いたいということを礒繁雄監督(昭58教卒=栃木・大田原)や渡辺康幸駅伝監督(平8人卒=千葉・市船橋)に伝えました。いまやっているCチームの故障明けの選手たちとか女子選手も面倒見てくれるんだったらということで、やっています。
――主な役割としてCチームや故障明けの選手を指導されているということですね
そうですね。いま大体箱根駅伝を目指すような子たちがAチーム、Bの中からも何人かということになってくるんですが、そこにも引っかかってこない競技力がそこまでない選手たちをフォローアップしていくという役割ですね。
――基本は週一回の指導と伺っていますが決して長くはない時間の中で、効率良く指導するために心掛けていることはありますか
幸いうちの選手たちは手のかからない子たちが多いですし、先輩が後輩に教えるという風土ができあがっているので、こっち(指導陣)はきっかけを与えてあげて、あとはそれが広がっていくのを見ているだけで良いという感じはありますね。そのきっかけを与えるのに多少苦労することはありますが、そこまで大変ではないです。
――指導の際に心がけていることはありますか
元々、自分が現役の時はいまのCチームの子たちのような練習をしていないので難しいです。ただ自分の場合、山あり谷ありというか結構いろいろと試行錯誤してきた4年間で、特にしっかりうまくいった4年目の経験は必ずしもAチームの選手だけに使えるものではなくて、Cチームの選手にとっても使えるものがあるかなと思ったので、それを少しアレンジして彼らに伝えています。あまり目先の1回のポイント練習とか1回の記録会に注力し過ぎることなく、もう少し長い目で見て練習とか試合を組んでいってほしいという感じですね。
――きのうはクロカンを走っている時にアドバイスされていましたが、走り方なども指導されているのですか
気づいた時には言うようにしていますし、あとは逆に選手たちから求められて、上り坂の上り方とか聞かれるので、求めに応じて応えるという感じですね。あまりこちらから手取り足取りはやってあげない感じですね。
――早朝には高橋広夢(スポ4=東京・東大附)選手と一緒にジョギングされていましたが、普段から選手たちと走られたりするのですか
そうですね、可能な限り走れるところまで一緒に走っています。選手たちも一緒に走りましょうと言ってくれる子も何人か居るので、そういう子たちと一緒に走って、真面目な話から馬鹿な話までしていますね。
――そこでコミュニケーションを図っているのですか
図りたいなと思っていますけど、なかなかやはり練習にしょっちゅう来れるわけではないので。相楽豊コーチ(平15人卒=福島・安積)と同じように週末しか来られないので。居る間は少しでも彼らが何を考えているのか、把握しておきたいなと思っています。
――駒野コーチと言えば現役時代の厳しい印象がありますが、コーチとしても選手に対して厳しく指導されているのですか
多分それを求められているというか。磯監督からも渡辺監督からも、あの4年生の時の理不尽さをもう1回お前に取り戻してほしいというようなことを言われているので(笑)。いまは選手同士という立場から指導者と選手という立場に変わったので、言葉の伝え方とかは変わっていますけど、ただ細かく見るという点ではやはり変わらないですね。口うるさく言っていくというスタンスは変わっていませんね。
――Cチームの選手を指導されていて、どういった選手が強くなるか感じる点はありますか
素直な選手ですね。こっちが言ったことをただ上辺だけで聞いたふりしている子ではなくて、ちゃんと言ったことを素直に自分の中に落とし込んで、実践できる子がやはり伸びていっているなと思います。例えば、高橋広は僕が来た時はまだ2年生でCチームに居るような子だったんですけど、彼はすごく積極的に僕から何か盗もうとしてきたので、アドバイスをして、吸収して力を付けていったところがあるので、そこじゃないですかね。
――Aチームの選手はアドバイスを積極的に吸収するという印象があるのですか
Aチームの選手はある程度、自分の世界というか自分のリズムが出来上がっている選手が多いので、あまりそこはこっちに求めてきません。彼らに必要なのは1回1回の練習の時の動きであったり様子であったりというところを客観的に見たアドバイスになります。でもCチームの子たちだと1回1回の練習というよりか日々の練習だとか走行距離がどうなっているかという推移を見てあげて、方向調整をしてあげながらやっていってもらうという感じですね。逆に言えばそこができていない子がCチームに居るような子なので。
――A、B、Cチームの変動はありますか
やはりありますね。特にB、Cチームの入れ替えはすごく激しいので、かなり頻繁に相楽コーチと相談して、こいつを上げようとかこいつを下げようという話はしています。そういった意味で緊張感を持って、Bに上がった選手はCに落ちたくないというのがありますし、Cの子は一日でも早く上がりたいというのがあるので。そういう競争意識は持ってもらいたいと思います。
――卒業されて7年が経ちますが、自分の現役時代と比べて競走部が変わった点はありますか
よく言えば良い子が増えました。聞き分けが良い子というか。ただ悪く言うと個性がないというか。もっととがった人というかキャラが良いとか。我々の時はもう少し結果は出ていないけど学べることが多いという子が結構居たんですけど。いまの子たちはどちらかと言うと、結果が出ている子たちが偉いみたいなみんなが同じような感じというのは、渡辺監督や相楽コーチと話していてたまに話題になりますね。
――駒野コーチが現役の頃と比べて、渡辺監督の変わられた点は何かありますか
外から見たら変わっていないように見えると思いますが、『三冠』のイメージが渡辺さんも相楽さんも持っているのかなと。指導者になってから選手時代を振り返って「あの時そういうことを(指導陣は)考えていたんだな」ということを話してくれたりはしますね。(変わったところは)ないかな(笑)。
チーム状態は上がってきた
朝には選手と走る姿もみられた
――今季を振り返って、総括としてはいかがでしょうか
やはり今季は関東学生対校選手権(関カレ)がこのチームの総合力を試すレースでした。3000メートル障害や競歩は入賞して良かったですけど、一方で他大と一番メインで戦いたい5000メートル、1万メートル、ハーフマラソンで寂しい得点状況だったので、それは少しうまくいかなかった点ですかね。
――春先は故障者が多い印象がありましたが、どういった原因があったのでしょうか
やはり箱根が終わって、またやっていこうとなって、練習をやり始めてその結果空回りしてしまった選手とか、あとは東京箱根間往復大学駅伝(箱根)の前の練習のダメージを引きずってしまっている選手とか、状況はさまざまなんですけど確かに春先は故障者が多かったですね。
――7月にはホクレンディスタンスチャレンジの記録会などでも好記録が出始めて、選手たちの状態も徐々に上がってきている印象を受けますが、チームの状況としてはどのように見られていますか
5月の関カレで思ったようにうまくいかなかったというのがあり、選手たちの中でもこれじゃいかんとなって、記録会がぽつぽつ入ってきて、その記録会はどれも良い気候の中で走れるレースが多かったので、そこで上向いてくる選手も多かったと思います。良い意味で何かをつかんでくる選手が多かったという感じですね。
――そのように状態が上がってきた中で合宿を迎えたと思いますが、この2次合宿の目的を教えてください
チームによって少し違っていて、Aチームは日本学生対校選手権(全カレ)や箱根などに向けての地固めですね。全カレに向けた調整も含んでいます。逆にBチームは全カレを気にしなくていいので、全カレに出なくてはいけないAチームとの差を少しでも埋めるためにしっかりと練習して、一日でも早くAに上がるために、より質の高い練習をするためにいま準備をしているところです。Cチームの子たちはBチームに上がる準備をしています。どちらにしても秋口の出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)から始まる駅伝でしっかりと戦うために、溜めをつくっているというか。ジャンプするためにしゃがんでいるような状況ですね。
――現在のチーム状況としてはいかがですか
まだ始まって3日なので、ケガ人もそんなに居ないですし、まだまだ疲労が溜まっている人も居ないですし、明るいですし良いんです。これが1週間くらい過ぎてくると徐々に疲れも溜まってケガ人が出たりということもあるのでそうなった時に、自分たちの目標がどこにあるのか、合宿をこなすことだけが目標ではないので、そこをちゃんと先まで見越して過ごせる子が出てきてほしいなと思います。
――この夏チームに必要なことは何ですか
戦うこと、ですかね。戦うというのはタイムを追っていく、距離を踏むという戦いでもあるんですけど、これだけ合宿で長い間みんなと一緒に居るので、生活面などでも良くも悪くもいろんな面が見えてくるんですね。彼らにはそういったところを積極的にお互いに意見を言い合ってほしいというか、意見を戦わせるという機会もあるので、そういう時間にしてほしいですね。
――きのうのクロスカントリーでは足をつくるという意味があると思うのですが、きょうAチームはこの後5000メートルの練習をされるそうですが、それはスピードを意識したものになりますか
そうですね。より実践的なレースペースに近いものでやります。30キロをやった翌日に5000メートルを3本という練習は我々の時代からずっと脈々と続いていているんですよ。30キロやってある程度クロカンで足の筋肉を破壊した状態の中、それが修復し切っていない状態でレースペースで走るということをして、より高い力を蓄えてもらうということです。それができる選手はやはりAチームだけなので。本当はB、Cチームも例年で言えばセット練習としてやるんですけど、いまの子たちはそれができないので、1日明けて内容がある練習をさせるというふうになっています。それも少し変わったことかもしれませんね。我々の時は必ず2日押しだったので。
――それは故障者が多かったというのも影響しているのでしょうか
ケガ人も多いですし、この合宿に入るまでの準備がことしに関しては不十分でした。記録会が多かったというのもあるんですけど、距離をしっかりと踏めていない子たちが多いので、少し準備不足もあって練習メニュー的にそこまで詰めるというよりは散りばめています。2日押しにすると前日のダメージが残るのできついんですね。動かない中で動かせる選手というのはやはり限られているので、Cチームの選手たちはやはり動かなかったら動かないだけで終わってしまいます。そういう練習をしても意味がないということで1日明けるようにしています。
――Aチームの中で、練習がしっかりできているなと感じられるような選手はいらっしゃいますか
井戸(浩貴、商2=兵庫・竜野)、田口(大貴、スポ4=秋田)、修平(山本修平駅伝主将、スポ4=愛知・時習館)あたりと後は柳(利幸、教3=埼玉・早大本庄)ですね。Aチームに定着してる子たちっていうのは、Aチームに定着する理由がやっぱりあるので、放っといても自分たちである程度組み立ててこれる選手です。逆に言えばそういうことを心配しなくてよくなって初めてBチームからAチームへ上げられるというのはあるので、まだBチームにいる選手はそういうことが不安な子たちですい。例えば三浦(雅裕、スポ3=兵庫・西脇工)とか、中村信一郎(スポ3=香川・高松工芸)とか、高橋広とか、競技力的なものももちろん、『自分でつくっていく』ということがまだ完璧にできていないですね。
――Cチームを中心に見られているそうですが、Cチームの選手に期待することは
推薦(入試)組の鼻っぱしをへし折るということを彼らに期待しています。やはり伝統的に我々のところにも一般(入試)で入って来た子たちとか、こつこつ努力して3年目にやっと花が咲くというような子たちが出てくると推薦(入試)の子たちも「まずい」と思って危機感を抱き、お互い高め合っていくことが昔からありました。最近は推薦(入試)で入って来た子たちが幅を利かせているので、それはそれで悪いことじゃないけれど、少し物足りない感じはありますね。Cチームから這い上がって来た子たちが(推薦入試組の)鼻っぱしをへし折って、一緒に強くなっていくということを求めています。
――Aチーム以外で練習ができている選手はいらっしゃいますか
Cチームだといまは3年の鳥山(賢、教3=岡山城東)、藤岡(孝彰、スポ3=東京・早実)はBチームとCチームを行き来しているばかりなので、早くBチームに戻ってくれって感じですかね(笑)。後は2年生の柄本(勲命、スポ2=早稲田佐賀)、今井(開智、スポ2=神奈川・桐光学園)あたりはいつBチームに送っても問題ないかなとは思っているので、この合宿の後半のどこかの段階でBチームに合流させるのではないかなと思っています。
――川村裕幹選手(基理2=和歌山・桐蔭)や大島遼太郎選手(スポ2=茨城・下妻一)、箱田幸寛選手(スポ2=広島・世羅)は最近CチームからBチームへ上がられたと伺いましたが
合宿前の記録会の時点でできていたので上げました。箱田は推薦(入試)ですけれども、大島と川村に関してはまさに一般(入試)組なので、彼らは2年生ですけれどもちゃんと力をつけてやっています。いまはBチームでカベに阻まれている感じはあるのですけれども、結果を残した子はそれに見合った場所に配置してあげることですね。
――推薦組の箱田選手などは昨季とは異なり、身体も絞れて練習ができているように見えるのですが
大変でした、絞るのは(笑)。やはり推薦(入試)組には推薦(入試)組なりのプライドのような、試験で入ってきた子とは異なりそういうこと(競技面)を期待されて入って来ている子たちなので、「そういうプライドを持ってやりなさい」ということをこの1年間で伝えてきて、やっとその辺りが彼の中でわかってきて走れるようになってきました。自信があると走りにも自信が出るので、このままずっとBチームにいてくれれば良いなと思います。
――ことしの1年生はいかがですか
やはり光延(誠、スポ1=佐賀・鳥栖工)が頭一つ抜けていて安定感があります。それに続くのは安井(雄一、スポ1=千葉・市船橋)と石田(康幸、商1=静岡・浜松日体)ですね。ただ1年生のうちはこっちもあまり期待はしていません。どちらかといえば1年生に期待してしまうようなチームは本当にボロボロになってしまうので、らいねん以降あわよくば1年生を使えれば良いけれど、いなくても戦える戦力を十分つくることができると思っています。1年生に過度の期待をかけてしまうとかえって可哀想かなと感じます。
――ケガをされている選手も駒野コーチが見られているのですか
場合によりけりです。例えばAチームで故障してすぐに治るような故障だったらこっち(Cチーム)まで来る必要はないですが、武田(凜太郎、スポ2=東京・早実)はずっと走れていないので、そういう場合は長い目でリハビリも兼ねてやっていくということでCチームにおいてます。
――駒野コーチは現役時代の山上りのイメージがありますが、学生に山のアドバイスはされますか
山上りのアドバイスは(山本)修平などにしましたが、みんながみんな山上りをするわけではないので。ただ山上りのための練習はどの選手にもおそらく当てはめられると言いますか、そのような経験から彼らに応用できるものだけ抽出してあげる感じですかね。
――高橋広選手が素直だとおっしゃいましたが、高橋広選手へも山上りのアドバイスはされましたか
ことしの箱根を走ると決まった際に力的には(山本)修平の絶好調には及びませんが、走り方は変わらないので「このような走り方をしたら良い」というアドバイスをして、おそらく彼もそのアドバイスをしっかり守ったのではないかと思います。
――これから全カレ、駅伝シーズンに突入しますが、指導者としての目標などはありますか
我々指導陣が箱根優勝するぞと意気込むようなチームではなく、選手たちが「優勝したい」と言うのであれば我々はその手助けをするのであって、選手たちの湧き出てくる目標が『箱根優勝』なのか『3位』なのか『シード権獲得』なのかというのは選手たちに任せています。とは言っても我々指導陣も勝負師なので渡辺監督や相楽コーチと話していたのですが、出雲や全日本はあくまでも箱根へ向けた色々なチャレンジができる機会と捉えて、箱根でチャレンジした結果を出す機会と考えています。
――箱根に重きを置いているのですか
じゃないかなと。逆に3つ全部勝ちにいくのは状況的に難しいのではないかと思います。大エースもいないですし、うちのチームは20キロという長い距離から1万メートルや5000メートルに落としていく選手がほとんどなので、これを考えると3つ全部狙うとどこかで息切れしそうかなと。一番大事なところは何かというのを考えた上で、出雲、全日本大学駅伝対校選手権をどのように位置付けるかですね。最終的な責任は我々指導陣とスタッフが取るので、選手たちには目指す場所へ向けしっかりやるように発破をかけるのみです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 石丸諒、加藤万理子、写真 八木瑛莉佳)
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