精彩を欠き、まさかの5位

陸上競技

最終投てきも思うように記録が伸びず悔しがるディーン

 例年、神奈川県川崎市で行われるセイコーゴールデングランプリがことしは東京・国立競技場で開催され、ワセダからは男子やり投にディーン元気(スポ4=兵庫・市尼崎)が出場。大観衆の中、織田幹雄国際記念大会(織田記念)に続く今季2度目のディーンと村上幸史(スズキ浜松AC)の直接対決が実現した。織田記念では、絶好調の村上に歯が立たなかったディーン。記録が伸び悩んだことについては「運が悪かった」と語り、この日の再戦に期待がかかった。しかし、ここでもディーンの調子が上がらない。軍配は村上に上がった。

 ディーンがおかしい――。村上の次という試技順で迎えた1投目はファウル。2投目には早くも村上のやりが80メートルを越える。一方、次にディーンが放ったやりは80メートルラインからは遠く手前、76メートル03で2投目を終えた。続く3投目はまたもやファウル。4投目もやりが浮き、75メートル44と記録が伸びない。普段とは逆サイドからの投てきとなった今大会。トラックで行われる400メートル障害の選手が目の前でアップしていたため、5投目の準備が整った状態で待たされることに。その後助走に入るもやりを持ち上げたあたりで勢いがなくなり、自らラインを踏んだ。最終投てきでは、静寂を好む傾向のあるディーンが珍しく客席に手拍子を求める。しかし、5投目同様助走に勢いがなく、やりが描く放物線もいつもとはまったくの別物だった。最終的に踏切線をまたぎ、これもファウル。結局、2投目の76メートル03という不本意な記録で5位に終わった。

 昨季は安定して80メートル台の投てきを見せてきたディーンだが、今季80メートルをオーバーしたのは六大学対校大会だけ。織田記念では「調子は悪くない」と語るも、今回は「投げられないし、動きも悪い」と自ら不調を認めた。ディーンが原因不明の不調に苦しむ中、国士舘大の新井涼平がファウルながらも6投目で80メートルラインを越えた。このままでは関東学生対校選手権(関カレ)での4連覇も危うい。「理にかなったフォームを追求していきたい」と進化を求めるディーン。1か月後には日本選手権、8月には世界選手権も控えており、ここで立ち止まっている暇はない。昨季の勢いをもう一度。ここが踏ん張りどころだ。

(記事 川嶋悠里、写真 西脇敦史)

★序盤の加速に課題、記録は伸びず

後半は桐生を目安に満足いく走りが出来たという江里口

 男子100メートルには、ワセダ短距離OBの代表的存在である江里口匡史(平21スポ卒=大阪ガス)も姿を見せた。今季に入って、桐生祥秀(洛南高)や山縣亮太(慶大)の活躍が取沙汰されている日本短距離界。彼らの後に甘んじてはいられないと、好感覚だった織田記念での走りを念頭に、江里口はスタートに立った。しかし、本人がわずかながら疲労を感じたというスタート直後から、桐生に大きくリードを許す。中盤以降はその差が広まるのを防いだが、序盤の加速不足が記録を阻んだ。桐生を始めとする学生世代の速さについて、「割り切れている」と言いつつも、「このまま先頭を譲る気はない」と意地をのぞかせた江里口。日本代表の座をそうやすやすと手放すわけにはいかない。日本選手権では確実に世界選手権の標準記録を切ることが求められるが、覇者の貫禄、そして意地を持ってなんとか乗り越えてほしいところだ。

(記事 深谷汐里、写真 西脇敦史)

★国際大会に刺激あり

レース前に集中する紫村

 4月の終わりに広島で開催された織田記念に続き、紫村仁美(平25スポ卒=佐賀陸協)が女子100メートル障害に出場した。隣のレーンを走る選手が棄権したことにより、やや寂しく走りにくい状況でのレースとなった。まずまずの反応でスタートを切り、地面を押し返す力強い走り出しで3台目まで好調な走りをみせる。しかしそれ以降のハードル間では波に乗れず、はじめの加速を活かし切れない。他の選手との差は次第に見え始め、全体で6位、日本人では2番目のフィニッシュ。12秒台には遠く及ばなかった。前半につけた勢いをそのまま、後半でもボリュームのある走りができれば新たな世界は見えてくるだろう。ワセダを卒業し新天地へ発った彼女。ピークを合わせてくるだろう日本選手権に向けて、経験・調整という名のハードルをまた一台飛び越えていく。

(記事 扇山友彰、写真 西脇敦史)

◆結果

▽男子やり投げ

ディーン元気 76メートル03(5位)

▽男子100メートル

江里口匡史(OB) 10秒50(6位)

▽女子100メートル障害

紫村仁美(OG) 13秒35(6位)

◆コメント

ディーン元気(スポ4=兵庫・市尼崎)

――不調の原因は

自分でもわからないのですが、投げられませんし、動きも悪いですね。そのあたりはコーチと相談して修正していきたいと思います。

――六大学のときより明らかに崩れていると感じていますか

六大学もわりとよかったのですが、フルの助走というのは練習不足だったのかなあと感じています。

――この後にはもうインカレや日本選手権が控えていますが

いま迷っています。どちらにせよ、チームのためにもしっかり仕上げて行きたいと思います。きょねんと真逆だなと村上さん(幸史、スズキ浜松AC)なんかには言われているのですが、日本選手権ではまたしっかり食らいつけるように巻き返したいですね。また関カレではしっかりしないと越えられてしまうのではないかと思うので、今後改善していきたいと思います。

――痛みがあるわけではないのでしょうか

色々とあります。背中が苦しい感じもしますね。だたそれは言い訳にはなりませんし、言い訳にしたくもないので、とにかく今から、体にも気を付けていこうと思います。これも一つの階段ですし、ケガをしない選手が本当に強い選手だと考えています。それに、きょうは試合内容は良くはなかったのですが、練習の投てきのときは悪くはありませんでした。要は力をあまり入れないところでは動きはいいのですが、フルで走ったときに上手くかみ合っていないなというのをすごく感じています。奥が深い種目なので最近悩まされていますが、何が何でも日本選手権は投げないといけませんし、がんばりたいと思います。

――いまはもう一段上に行くための産みの苦しみを味わっている感じなのでしょうか

いえ、いまは前の場所に戻るという感じですね。そこから先はその積み重ね次第ですし、技術的に安定というのがまだまだ出来ていないなと本当に感じています。きょねんのフォームに戻りたいというのでもなく、もっと理にかなったものを追求していきたいと思っています。いまは苦しい戦いが続いていますか、これから頑張って巻き返していかないといけませんね。村上さんも元気がでないと思いますし(笑)。

――ことしの南アフリカの練習はどういった内容だったのでしょうか

トレーニングはまあまあできたのですが投げるのがあまり多くは出来なかったので、見る練習といったかんじですね。投げることによる確認はあまりできませんでした。ただ見ることで得たイメージというのはあるので、いまはそのイメージとは程遠いですが、そこを目指していきたいです。やはり一番信頼しているのはコーチなので、よく話し合いたいですね。

――今後の方向性は見えているのでしょうか

それは勿論あります。基本的なところですが、助走の最後までしっかりと加速できているかなどそういうところなどですね。その動きをどれだけよくするかは助走の精度など具体的な課題にかかってきます。いまはとにかくいろいろ難しいなあという感じです。

――逆に深く考えない方がよいのでは

そうなんですよ。意外と単純なことで考えてつまずいてしまいます。そんなに深く考えているつもりはないのですが、やはり安定したような練習が出来るようにしていきたいなと思います。

江里口匡史(平23スポ卒=大阪ガス)

――きょうのレースを振り返って

少し体の疲労も来ていたのかなとスタートした直後に感じました。その後加速していく部分で自分の意識が入ってしまったのかなと思います。本来であれば無意識で作っていく部分で自分の意識が入ってしまって加速しきる前に中盤以降の走りに移り変わってしまいました。中盤以降は織田記念のときのように桐生くん(祥秀、洛南高)を目安にしながら落ち着いていけたかなと思うので、加速部分が足りなかったのだと感じています。ただ競う中で前に出たいという気持ちだけで前までは走っていたのですが、それが今はなんとか落ち着いて考えながら走れるようになってきたかなと思います。山縣(亮太、慶大)や桐生くんが10秒0台で走ってくれるので、いい意味で自分の中で割り切れてきています。

――織田記念、ゴールデングランプリと続いて手応えは

織田記念では追い風参考ではありましたが、いい記録で走れたので、今回も同じような調子で行ければ次につながるような走りができたのかもしれないと思っていたのですが、先頭も10秒17というタイムですし、記録が出るレースではなかったのかなと思います。ただもう少しトップの走りに食らいつく局面がないとまったく歯が立たないところで終わってしまいますし、まだB標準も切っていないので、標準は切らないとまずいなと思っています。

――日本選手権では5連覇がかかっています

連覇についてはまったく意識しません。むしろ10秒3ほどのタイムで勝つくらいなら優勝できなくても10秒1とかA標準を切るタイムでの3着の方が価値があると思っています。別に勝つこと自体にはあまり意味はないと考えていますし、もし勝つのであれば10秒0台で勝たなければ意味はありませんね。きょねんはオリンピックがあったので勝つことが最初だったのですが、今年はそうではないので、タイムにこだわりたいと思います。

――いままで日本選手権で勝てたのはなぜだとお考えですか

毎年4月より6月あたりの方が調子がいいというのはありますね。もちろん4月から記録を出すつもりで合わせては来ているのですが、4月というのは体が上がり切りません。ひとつ形になってくるのが毎年基準として6月くらいからなので、自分の調子が上がってくるタイミングで大事な試合があって勝てたのかなと思っています。

――日本選手権、世界陸上と続きますが意気込みは

桐生君だけでなく他の選手たちも自己記録を更新して日本短距離界が盛り上がっていますし、きょうの会場を見てもまず人の入りが多いなと感じたのでやはり陸上競技に対する期待も大きいのだろうなと感じています。自分もその中で記録、結果を出していかないと話にならないのでそのあたりは周りの勢いを借りながら自分の競技にもつなげたいなと思いますね。日本選手権まではあと関西実業団選手権くらいしか予定していませんが、織田記念と今日と2本レースを走って、だいぶ現状というか走りがわかってきたかなと思うので修正ポイントと体の調子もあと一か月あれば今以上に上がってくるであろうと捉えています。ここからが冬季にやってきたものの効果が出て来るタイミングだろうなと思っていますので、そこは自分を信じて我慢しながらやっていこうかなというところですね。僕より若い子たちがタイムを出して世界を見据えてやっていますが、僕もまだ譲る気はありませんし、僕も代表になって、またさらにその中で先頭を引っ張れるように頑張ります。