【連載】箱根事前特集『RE:』 第15回 小指卓也

駅伝

 大学2年時に東京箱根間往復大学駅伝(箱根)で9区4位と好走した小指卓也(スポ4=福島・学法石川)。さらなる飛躍への期待も高まったが、その後はケガや不調に苦しみ、大学駅伝への出走はかなわなかった。それでも今年、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)で2年ぶりとなる大学駅伝の舞台を経験。大学最終レースとなる箱根を控えた小指の胸中を伺った。

※この取材は12月11日に行われたものです。

「自分はこんなところで腐っちゃいけない」

6月の早大競技会を走る小指

――前回の箱根の、チームとしての結果は自身の中でどのように捉えていますか

 自分が3年生として、上級生として、しっかり練習を引っ張って本番も走らなければいけなかったとか、自分の状況を加味して考えた中で、自分に限らず他の選手も練習を継続できていなかった部分がちらほらあったので、万全(な状態)で箱根に臨めなかったというところに悔しさを感じています。みんなちゃんと練習ができていてやり切った結果駄目だったらしょうがないなとなりますが、準備の時点でミスをしていたり取りこぼしていたりしていました。そのように力を出し切れないでシードを落としてしまったことが自分の中で悔しかった思い出があります。

――そういった結果を踏まえて、今年掲げている目標があれば教えてください

 昨年はケガで走れない期間が多くて、今年は大きく目標を立てることができませんでした。その中でもしっかり地道に練習して駅伝シーズンではしっかり走れるようになるという部分で、着実に花田さん(花田勝彦駅伝監督、平6人卒=滋賀・彦根東)が就任してうまくコミュニケーションを取りながらやっていけました。しかし、やっぱり4年生なのにそんなことをしていたらちょっとまずいなという考えも心のどこかにあって焦ってしまう部分や、後輩頼みの部分もかなりあって、それは申し訳ないなと思っています。

――レースに復帰したのが6月末でしたが、それまではどのような練習をしていましたか

 走らなかったということが多いのと、花田さんと大学終わっても競技を継続するということなので、まずはケガをしない体づくりを中心に、距離を踏んだりして、またケガしないように様子を見つつ地道にやっていきました。

――その期間はどのような思いで練習に取り組んでいましたか

 復帰前の調子とかパフォーマンスに早く近づきたいなという思いがあったのと、練習しながらその時との差をすごく感じて、気持ち的にめいってしまうこともありました。3年生の時は早く復帰して早く走れるようになろうと一気に練習して失敗を繰り返してしまったということもあり、焦る部分もありましたが、しっかりこらえながら練習していたのではないかと思います。

――ケガをしている期間の心の支えのようなものはありましたか

 正直やる気がない時は本当にやる気がなくてどうしようもなかったです。それでも、寮生活をしていて集合にも出て、(他の選手が)頑張っている姿を見て、自分はこんなところで腐っちゃいけないなと思えることもたくさんありました。また、先輩にも強い方々はいましたが後輩も勢いがあって元気で、そういった部分で僕が走れなくても「復帰したら絶対走れるから」という期待をして、そういう話をしてくれていたので、そういったところが心の支えになったのではないかなと思います。

――夏合宿でのテーマはありましたか

 夏合宿を大学の4年間でしっかり完遂したことが一回もなかったので、まずはこの夏合宿で、欲張らずに練習をしっかりこなして継続していこうという目標はありました。

――実際に夏合宿は全てこなせたと以前おっしゃっていましたが、その要因は何だと考えていますか

 先ほども話したように、復帰段階でしっかりと土台をつくって、一応距離も他の年に比べると走れてはいました。なので、そういった下準備ができていたからこそ合宿を乗り越えられたのかなと思います。

――全日本が2年ぶりの駅伝となりましたが、走ってみて率直な感想を聞かせてください

 少し気負いすぎてしまった部分があって、最初ペースが早くなり、後半失速してしまいました。練習で、最初ハイペースで入って後半粘るというができていない段階でそれを本番でしようとしてしまったので、練習でできていないことは本番でできないのだなとしっかり分からされたレースでした。

――花田監督が小指選手について、練習が積めていなくて不安要素だとおっしゃっていましたが、同様の思いはありましたか

 最初は上尾(上尾シティハーフマラソン)を目指す路線だったのが全日本となったので、心の準備が足りていなかったこともあります。また、シンプルに10〜12キロ前後をある程度早いペースで押すということができていませんでした。それで花田さんからも「12〜13キロを走る感覚ではなくて、15〜16キロ走る感覚で落ち着いていって」という話を頂いていて、そういった部分で花田さんも練習不足を感じていたのではないかと思います。

――出走区間はどのような経緯で決まりましたか

 細かい話はそこまで聞いていないのですが、他の区間に比べたら多少はつなぐ区間になると思うので、僕が練習不足だからこそそこに置かれたのかなと思っています。

「走りで恩返しをしたい」

全日本5区を走る小指

――箱根まで残りわずかになってきた中で、チームの雰囲気はいかがですか

 全日本の結果、シード権を取れたとはいえ満足している人は誰もいませんでした。そういった部分でまだ一年経っていないですが、この駅伝シーズンで走る能力だけでなく精神面でもみんな成長していて、上にいく、勝ちにこだわるということが前より一層強くなっていい雰囲気になっていると思います。

――小指選手から見た4年生はどんな学年ですか

 なんだろうな…(笑)。話していても個性しかないです。個性が強くて、でもみんな陸上が好きで、負けず嫌いな側面が走る中で強く見えます。創士(鈴木創士駅伝主将、スポ4=静岡・浜松日体)は駅伝で苦しくなっても絶対に粘る走りができますし、井川(井川龍人、スポ4=熊本・九州学院)も普段から強気の発言をして、自分にプレッシャーをかけるためというのもあると思いますが、期待を裏切らない粘りの走りをしています。安田(安田博登、スポ4=千葉・市船橋)は今回外れてしまいましたが、やる気がある時はすごく練習をしていて、真面目にやっている人なので、そういった部分では心強いなと感じる学年です。

――同期の活躍はやはり刺激になるものですか

 少し負担をかけすぎているところがあるのは申し訳ないですが、同期が活躍しているのはうれしいです。

――4年生となり、何か意識や心境の変化はありましたか

 初めのうちは練習をしっかりと引っ張って、僕はあまり発言が強くないので練習で見せていければと思っていました。ですが、こういった(ケガや体調不良など)調子でできなかったので、そこまで上級生として周りに何かできたかと言われるとできていないです。

――小指選手から見た後輩はどのような存在ですか

 勢いがあって、走りの面でなくても性格の面でも気さくに話しかけてくれたり、2、3年生は1年生と積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれたりする姿を見て、よりいっそう来年、再来年と強くなるのではないかなと期待できる人が多いです。

――ケガの前後で競技への向き合い方などに変化はありましたか

 苦しんでいたので何を考えていたか覚えていないのですが、休んでいた期間に記録会などの補助員をする機会が多く、そういった中で自分のする競技が自分だけでなくサポートしている人たちによって出来上がっているのだと感じることがありました。だからこそ復帰する段階で走れるようになって、走りで恩返しをしないとなという思いはあります。

――現在のコンディションはいかがですか

 ケガをして体調も崩してしまったのですが、逆にいい休養期間になりました。3日前ぐらいから走っているのですが疲労も取れて体も軽いので、ここからうまく練習していけばどのくらいいくは分からないですけど、もしかしたらうまくいくのではないかなと思ってます。

――上尾ハーフは出走辞退されましたが、何か理由はありますか

 全日本に出ずに上尾に出る予定だったので、全日本を走ったからそこまで上尾を走らなきゃという考えは花田さんにもなかったと思います。上尾を走らなかったからといって何かあったわけではないです。

――ここまでの復帰具合はある程度想定通りにきていますか

 体調を崩してしまった部分はしょうがないです。ここから花田さんと計画を立てて一人でやることになると思いますが、いい感じにいくんじゃないかなと思います。

――箱根の距離に対する不安はありますか

 距離の不安はいつもあるので、正直(箱根に対しても)不安はあります。ですが2年生の時も経験しているのと、4年生になってから距離走などで長い距離ができるようになってきたので、例年より多少は距離に対する不安はないです。

――トラックでのスピードをロードにどう生かしていきたいと考えていますか

 スピードがあったらペースを落とせば長い距離いけるのではないかという考えでやるしかないと思うので、しっかりスピードを生かしてできればなと思います。

――自分の得意なレース展開や、箱根で勝つために思い描いているレース展開はありますか

 戦略とか、最初早く入っていい感じに落とすとかいろいろあると思いますが、僕はそんなこと考えずに20キロを一定のペースで押していくことが大事になると思います。強みを変に出そうとせず、無難に走るのが一番いいのではないかと思っています。

「(箱根は)自分のやり切った象徴」

公開取材で撮影に応じる小指

――小指選手にとって箱根とはどのような舞台ですか

 世間的にも注目されるレースなので、陸上かいわいでも盛り上がりますし、4年間でまだ一回しか走っていないので、正直もう一回走りたいという思いが強いです。時期的にも大学での集大成になるので、自分のやり切った象徴として箱根が来るということで、自分の競技生活をやってきて答え合わせではないですが、良かったなとか満足感を得られるレースではないかなと思います。

――箱根での個人の目標を教えてください

 個人としては体調次第ですが区間上位は取らないと、チームが上位にいけないと思います。チームのために、個人の目標として悪くても区間5番以内がマストになると思うので、しっかりそこを目指して頑張っていきたいと思います。

――2年時に箱根を走った後は9区でリベンジしたいとおっしゃっていましたが、改めて今箱根で走りたい区間はありますか

 走るとしたらやっぱり9区になると思うので、9区でリベンジしたいという思いは変わらずあります。

――箱根に向けた意気込みをお願いします

 大学最後のレースが箱根となる中で、駅伝も2回しか走ってこなくて、なかなかいい結果を残せなかったです。最後、終わり良ければ全て良しではないですが、終わりが良ければ全て丸く収まると思うので、チームに対して何か貢献するためにもしっかり粘りの走りができればいいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 栗田優大)

◆小指卓也(こざす・たくや)

2000(平12)年9月12日生まれ。173センチ。福島・学法石川高出身。スポーツ科学部4年。自己記録:5000メートル13分41秒01、1万メートル29分42秒82。箱根第97回9区4位。試合前のルーティンを伺うと「逆に深く考えず、いつも通り過ごすことが一番」と答えてくれた小指選手。箱根でもその持ち前の平常心で、会心の走りに期待です!