今季、トラック、全日本大学駅伝対校選手権大会(全日本)ともに目覚ましい活躍を遂げた伊藤大志(スポ2=長野・佐久長聖)。特に、全日本での快走は、抜群の安定感と「早大の主力」という印象を見せつけた。来たる東京箱根間往復駅伝(箱根)。個人としてもチームとしてもリベンジに燃えている今、部をけん引する主力が語るものは何か。今季の振り返りと箱根の意気込みを伺った。
※この取材は12月11日に行われたものです。
昨年以上の手応えを実感
質問に答える伊藤大志
――最近の調子やコンディションはいかがですか
全日本を終えてから1回疲労抜きをして、すぐに箱根に向けて距離の適性や山の練習などに切り替えていました。だから少しずつ疲労が抜けて調子も上がっていて、練習も継続して積めているので、昨年以上に手応えはあるかなと思います。
――山上りではどういったことを意識して練習していましたか
山の具体的な練習はあまりしていません。正直(どの区間
に行くか)決まっていないです。何があるか分からないので、山の練習が中心というよりは、平坦な(道の)練習をしていく中で走力を上げていって山への対応をするというスタンスでやっています。なので全体の練習メニューとはあまり変わらないと思います。
――伊藤選手から見た今年のチーム、同期の雰囲気はいかがですか
昨年に比べて練習を継続して積めている選手が格段に多くて、走れているという観点で、チームの状況はかなりいいと思います。箱根に向かっていく中で、チームの士気や締まり具合が上がってきている感じはします。
――今回箱根のエントリーメンバーには同じ2年生の菅野雄太選手(教2=埼玉・西武文理)、伊福陽太選手(政経2=京都・洛南)、石塚陽士選手(教2=東京・早実)などがいらっしゃいますが、刺激にはなりましたか
石塚はずっとあんな感じ(調子が良い)なので、あまりないのですが(笑)。伊福は、上尾シティハーフマラソン(上尾ハーフ)で僕よりベストが速い62分台で走っていて、継続して練習が積めていて。夏合宿も僕以上に距離を走っていましたし、ハーフ自己ベストの、下からのたたき上げという面で刺激になりました。菅野も練習を継続してできていて、昨年に比べて練習の質が上がってきているので、それも刺激になりました。今年はかなり学年でも厚みが出てきて、一番元気な学年だったので、そこが非常に心強いなと感じています。
――入学当初からチームの中核として走り続けていますが、1年時と2年時で、練習面や意識の面で変化はありましたか
昨年は経験がなかったというのもあって相楽さん(相楽豊前駅伝監督、平6人卒=福島・安積)から出された練習メニューをこなすだけ、先輩についていくだけの練習というのが非常に多くて、それで正直いっぱいいっぱいだった部分もありました。また、一番は継続しなければいけないと思っていたので、それ以上のものができていなかったです。今年は継続して練習するというのは最低限して、それ以上にどれだけ(練習を)積めるのかというところにフォーカスして練習をしていました。特に夏合宿は、自分で集団を引っ張ったり、伊福や石塚と一緒に間のジョグを昨年より距離を積んだりなど、プラスαの余裕が現れたのが非常に大きな成長だなというように感じます。
――2年間目立ったケガなく継続して練習ができていたように思われますが、その点で意識されていたことがありましたら教えてください
本当にケガがゼロだったので(笑)。一番(の要因)は、やはり練習の順序づけや体の見極めが我ながらうまいからだと思っています。ある程度バランスやあんばいを、上手にジョグで調整しました。また、自分の体のケアはもちろんとして、トレーナーの先生に脚を見てもらったり、昨年の冬ごろから体づくりとしてウエートや、五味さんと話し合いながら、走りの動きの改善をしたりというのを少しずつしていました。そのおかげで体が強くなったり、体の使い方がうまくなって余計な疲労が溜まらなくなったり、より効率良く走れるようになり、故障のリスクが非常に減ったのかなというように思います。
自信がついた
日本選手権5000メートルのレースを走る伊藤大志
――3月の日本学生ハーフマラソン選手権(学生ハーフ)が伊藤選手にとって初のハーフマラソンでしたが、その後練習に生きた点があれば教えてください
ハーフマラソンや箱根の距離は、付け焼刃ではうまくいかないなということを一番痛感しました。箱根が終わってからの練習は、ある程度(距離を)積んではいたのですが、ハーフマラソンに向けて満足した距離を踏めていたかと言われれば、そうではなかったです。ハーフの後半の動かなさというのを痛感したからこそ、練習量を増やさなければいけないという踏ん切りがつきました。また、体づくりという点で、動きづくりや効率のいい走りというのを、トラック以上に求めていかないと(体が)持たないなということも痛感したので、(3月の学生ハーフは)いろいろな新しい取り組みをするきっかけになったと感じています。
――トラックシーズンの総括をお願いします
もちろん、自己ベストを更新したのが一番大きかったので非常に印象に残っているシーズンではありました。しかし、トラックシーズンも自分の練習のスタイルや、動きを変えていく過程の一つであったため、その分タイトルなど、対校戦での結果が、いまひとつ物足りなかったなという印象が非常に強かったです。重要な関東学生対校選手権(関カレ)や日本選手権という勝負をして勝ちにいかなければいけない、肝心な試合で勝ちにいけなかった勝負弱さや、特に、関カレは万全な状態で臨めなかったという点で、前後の過程が重要だと思いました。そこは少し悔しい部分だったので、(トラックシーズンは)もう一歩いけたなとも思うシーズンでした。
――夏合宿練習をほぼ100パーセントこなしたと伺いましたが、収穫を教えてください
一番大きかったのは、非常に自信がついたことです。初めて行う紋別での合宿があったり、花田さんの練習メニューに変わったりなど、変化があった夏合宿のシーズンでした。その中で今振り返ると、自分の練習スタイルを少しずつ向上していく上で、練習をしっかり継続してこなしたり、プラスアルファでチームも引っ張ったりすることが、一番自信につながる過程だったなと思っています。やはり夏合宿の過程がなかったら、東京箱根間往復大学駅伝予選会(予選会)のハーフや、全日本の長距離区間は自信を持って臨めなかったし、まだまだ不安のある中でスタート地点に立つことになっていたなと想像しています。しかし夏合宿をこなしたという成功体験によって、(不安を)払拭し、後の試合に良いかたちでつなげることができたと思います。
――予選会は3月の学生ハーフ、6月の士別ハーフマラソン大会(士別ハーフ)以来のハーフでしたが、手応えや3回のハーフを通して成長した点はありますか
学生ハーフは、冬場にある程度練習を積んだ中でどれくらい走れるかというような、確認の意味も込めた練習の集大成だったので、その中で正直(結果は)物足りなかったかなという思いはあります。そういう意味で、学生ハーフは奮起する材料になりました。士別ハーフはスピードを求めた練習をするトラックシーズンから、徐々に距離に対応していく夏合宿の鍛錬期の切り替えをするための一つのスイッチという面や、練習の一環というのもあって、余裕を持っていくことを目標としていて、実際にかなり余裕を持ってゴールすることもできました。だから、少しずつ長い距離への対応力や、自信が昨年よりついているかなという感覚がついてきました。夏合宿では、距離走が昨年の倍の量入ってきて、花田さんからメニューの変革がありました。予選会のような勝負しなければいけないハーフマラソンには正直不安な面もあったのですが、夏合宿での距離走や、ジョグでの距離のかさ増し、月間の走行距離をかなり増やしたことで、最低限の走りはできました。長い距離でのレースに自信がついてきて、不安が払拭されたと思います。
――予選会前後で、チームの雰囲気に変化はありましたか
当たり前なのですが、予選会をこけてしまうと本戦に進めないということが一番大きな予選会の特徴なので、やはり予選会直前はかなり(雰囲気が)ピリピリしていました。上級生がしっかり締めてくれて、それにうまく下級生が乗っかっていく感じになったので、雰囲気としてはかなり良かったです。予選会は経験したくなかったのですが、不幸中の幸いというか、予選会を経験したからこそできるチームの雰囲気の切り替えや、締まりというのが表れたのかなと思っています。
――予選会の結果発表では、他校が喜んでいた中で早大の選手はしっかり前を見つめていました。早大としてのプレッシャーや、通過しなければいけない義務感というのはありましたか
やはり通過は当たり前という条件ではあったので、通過ができてほっとする反面、メンバーや練習内容、レース内容を見ても本当ならトップで通過しなければいけなかった中で4位となると、みんな安堵(あんど)感よりも少し物足りなかったなという気持ちの方が強かったです。
――予選会から全日本に向けて、意識して練習していたことがあったら教えてください
(全日本は)予選会が終わってから約3週間後の17キロのレースで、体の負担が大きいなと思っていました。前半1週間はうまく疲労を抜きながら、練習を途切れさせずに、うまく(全日本に)切り替えていくということを意識していました。あとは、予選会となるとある意味サバイバルレースですが、駅伝となるとスピードがある程度求められます。特に、結果論ではあるのですが東洋大の梅崎(蓮)と競り合った時のように、ハーフマラソンにはないスピードや持久力が求められたので、そこの切り替えをできるだけ短期間でやらなければいけないということは意識していました。ポイント練習など花田さんから求められるものはもちろんなのですが、それ以外の練習での定期的な流しやダッシュに行ったり、体の使い方をもう一度改めて、より効率良くしたりするという面で、違和感がないあんばいを目指すということを割と意識しました。
――全日本では各大学のエース格がそろう7区に起用されていました。7区に起用された率直な感想をお願いします
5割くらいで長距離区間(に起用される)だろうなと思っていたのですが、割と早い段階から創士さん(鈴木創士駅伝主将、スポ4=静岡・浜松日体)が脚に不安がある状態で、全日本は回避したほうがいいかもしれないという情報を聞いていました。すると、花田さんがさらっと「(伊藤選手は)暑いのが苦手だから、じゃあ7区だね」というように言われて「あぁ、そんなふうにさらっと決まってしまうのか」と一番びっくりしました。あとは、(7区は)近藤幸太郎さん(青学大)や、田澤さん(廉、駒沢大)というような各校のエース格で、正直(自分より走力が)倍あるような人たちがそろっていて、起用が決まった当時は大丈夫かなという気持ちがあったのですが、練習を積んでいく中で不安要素はだんだんとなくなってきました。全日本は、臨むにあたって珍しく心の余裕が割とあった試合なのかなと思います。
――昨年と走行区間は異なりましたが、昨年から今年の全日本に生かした点はありますか
駅伝のセオリーは、他校との競り合いで勝利しても、それよりも前を追うという意識が重要だと思います。特に長距離区間となると顕著に表れてくると思うのですが、実際に(全日本で)それが起こってしまいました(笑)。しかし、そこは譲らずに東洋の梅崎に早い段階から追い付こうと思っていましたし、追い付いてからも付いていこうという気持ちは全くなくて、梅崎を引っ張ってでも、できるだけ後ろとの差を広げて、次の航希さん(佐藤、スポ3=宮崎日大)を楽にさせてあげるくらいの走りをしようという意識は持っていました。
箱根では早稲田らしさを求めて
全日本7区を走る伊藤大志
――全日本後の練習などの調子はいかがですか
駅伝に正直苦手意識もあったのですが、全日本でいい感覚で走れたし、(苦手意識を)払拭することができて、自信を持ちながら箱根に向けた最後の詰め込みに移ることができました。全体的に、試合に対してかなりいい感覚のまま練習を積めている感覚があって、その分ポイント練習の達成感は非常に大きいと思っています。
――今季の練習で培った自身の強みを教えてください。そして、その強みは箱根にどのように生きてくるとお考えですか
やはり昨年と一番変わったのは、チームのポイント練習や集団練習を引っ張ることが格段に増えたことです。ポイント練習はほぼ僕が引っ張っている状態で、その分全日本と同じような状態である単独走となった時に、直接的に自信につながる練習ができていることを実感しています。どこの区間になってもどうしても単独走の場面は出てくると思うので、そこで強みが出てくるのかなと思っています。
――現状、アップダウンが激しいコースと平地ではどちらが得意ですか
全日本は割と平地が多く、その分ペースを押していくという区間でした。今まではそういった区間があまり得意ではないと思っていたのですが、そこも(全日本で)払拭できたので、平地に行ってもいいかなとは思っています。しかし5区や、4、8区などの起伏がある程度小刻みにある区間は、他の人より苦手ではないということが強みだと思うので、そこを生かせることもあると思います。
――部内外でライバル視している選手は誰ですか
部内だとやはり石塚が同じ練習をしているので、一番近い存在で、意識しやすい関係かなと思っています。チーム外だと今年は国学院の平林(清澄)と一緒に走る機会が非常に多くて、そこはおのずと意識する点ではあります。昨年のシーズンから平林はかなり活躍していて、差が開いてしまったなと思いますし、全日本で(自身が)いい走りができても、やはり20秒の差がついていたので、その20秒の差を埋めるのが箱根駅伝だと思っています。また、昨年と継続して東洋の石田(洸介)もずっと学年トップを走っている選手で、やっと(自身が)同じ土俵くらいに上がってきたかなと思っているので、このあたりで少し勝っておきたいです。
――今年の箱根では何区を走りたいですか
あまりないのですが、できれば往路がいいです。往路の方が気が楽なので(笑)。
――今年のチームに期待することを教えてください
一番は、早稲田らしさを駅伝でもう一度僕自身も見せたいですし、他の先輩や、同期、後輩にも見せてほしいなと思っています。早稲田はいつでも勝ちを目指しに行かなければいけないチームですが、昨年はこの雰囲気があまりなかったです。もう一度、勝ちにこだわる早稲田らしい走りというのを、走る10人全員で意識できたらなというふうに思います。
――最後に箱根の意気込みをお願いします
どの区間に配置されてもやることは一緒だと思っていて。先頭で渡されれば後ろとの差をできるだけ広げて、後ろで渡されても確実に前の集団を吸収して、できるだけそこから前を追って、後続の選手に楽をさせるような走りをしたいです。また、個人的に早稲田らしい走りや、インパクトのある走りを見せていきたいなと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 草間日陽里、湯口賢人)
◆伊藤大志(いとう・たいし)
2003(平15)年2月2日生まれ。171センチ。長野・佐久長聖高出身。スポーツ科学部2年。自己記録:5000メートル13分35秒70、1万メートル29分42秒24、ハーフマラソン1時間3分37秒。箱根第98回5区11位。早大の主力としての責任感を感じさせつつも、時々笑顔を見せてお話されている姿が印象的でした。リベンジの箱根駅伝。快走する姿を見せてくれるはずです!