【連載】箱根事前特集『RE:』 第6回 石塚陽士

駅伝

 昨年、ルーキーイヤーながら、三大駅伝全てで早大最高順位をマークした石塚陽士(教2=東京・早実)。今季は、トラックシーズンで目標としていた1500メートルでの世界ユニバーシティー大会(ユニバ)代表には届かなかったものの、5000メートルで自己新、1万メートルも初挑戦で好記録をマーク。全日本大学駅伝対校選手権(全日本)でも3区を区間3位と快走し、好調を維持する石塚に今年1年間の振り返り、そして2度目となる東京箱根間往復大学駅伝(箱根)に向けた意気込みを伺った。

※この取材は12月11日に行われたものです。

思うようにはいかなかったトラックシーズン

日本学生個人選手権で1500メートルのレースを走る石塚

――​​トラックシーズン全体を振り返っていかがですか

 学生個人(日本学生個人選手権)がシーズンインで、その時は1500メートルでユニバ代表という目標を立てていたのですが、あまり1500がうまくいかなくて、頓挫してしまいました。その時に切り替えていかないとなと思って、関カレ(関東学生対校選手権)とか4月、5月は5000、1万と(距離を)伸ばしていきたいなと思っていました。ですが、学生個人に向けた3月の練習が、5000よりの練習ではなくてどちらかというと、800、1500に近いような練習が多くて、そこでスピードにかなり偏った練習をしていたので、5000の方にうまく対応できませんでした。なので、あまり思うようにいかなかったトラックシーズンだったかなと思います。

――1500メートルでユニバの代表を目指していましたが、届きませんでした。それについてはいかがですか

 これを年のせいにしてはいけないとは思っているのですが、やっぱりスピードが年々落ちているなというのがあります。スピードを意識しているつもりでも、どうしてもロング、ハーフの方に練習が傾く中で、知らず知らずのうちに単発のスピードが落ちてきてしまっていて、そこで対応できませんでした。元からスピードがある方ではなかったのですが、学年が上がってそれがさらに顕著になってきたのかなと思いました。

――関カレは5000メートルで決勝に残りましたが、結果を振り返っていかがですか

 関カレに関しては、さすがに決勝には残らないといけないと思っていました。決勝は12番で入賞できなくて、やっぱり早稲田の選手である以上、入賞は最低限していかないといけないところではあったので、そこは自分の中で反省している点です。

――今シーズンは5000メートルで自己新、1万メートルも初挑戦で28分30秒台を出されましたが、それについてはいかがですか

 花田さん(花田勝彦駅伝監督、平6人卒=滋賀・彦根東)がよく「1=1(練習=試合)」という話をされるのですが、「1=0・95」ぐらい、95%は力を発揮できたかなと思います。ですが、残りの5%というところはなかなか上げ切れずに終わっていて、5000であれば、13分40秒切りとは言わずとも、45は切って、42、3秒前後はいけるかなと自己評価している部分があったりとか、1万メートルであっても28分半は切りたいよねというところではありました。どちらも今一つ及ばずというところです。やや練習が積めず、そういうところが少しずつ出てきて、100%以上という結果にはならなかったと思います。

――トラックシーズンで得られた手応えや、見つかった課題について教えてください

 大学に入って1500メインだったのが、5000、1万に移ってきて、大学のフィールドでの5000、1万というのは今季が実質初めてなので、そこで大学生、シニアの世界を体感できたのは一つの収穫かなと思っています。あとは遠征でGGN(ゴールデンゲームズin延岡)や士別に行ったりとか、昨年に比べていろいろな所を転々とする機会がありました。元から遠征には慣れてはいる方だったのですが、その感覚をまた思い出したりだとか、なまっていた部分が戻ってきたところもあったので、そこは一ついい経験になったと思っています。トラックシーズンだけを見るとあまりいいところはなかったのですが、次のステップに向けてという意味では、必要だったシーズンだなと今、あとから振り返ってみると思います。

――次に夏合宿についてお伺いします。夏合宿の消化具合はいかがですか

 主にコロナに罹患(りかん)する前と後に分かれると思っていて、コロナにかかる前、1回目の妙高の前までに関しては100%こなせていたのですが、その後にコロナにかかってしまって、紋別(の合宿)を丸々パスしました。その後2回目の妙高から一応合宿には参加したのですが、完全な別メニュー調整という感じになって、他の人たちの3割とかの練習量なので、もどかしさがすごくありました。特に、授業が始まると(箱根に)エントリーされている中では一番忙しい部類になると思うので、夏合宿で一番練習を積まないといけなかったのですが、その中で一番練習ができていないというところは不安に感じていました。

――​​夏合宿ではどのようなことを意識して取り組みましたか

 先ほど言ったこととも重なるのですが、夏休みが明けて授業期間になると、他の人と比べて走る距離がだいぶ少なくなってしまうので、人よりなるべく多く走るとか、そこで貯金をつくろうということを思っていました。あとは補強ができないことがかなり多いので、補強メインでやっていこうかなと思っていました。それもコロナ罹患(りかん)前は順調にこなしていたところもあったのですが、罹患(りかん)後に関しては、走ることが全くできなくなってしまったので、補強に切り替えて、普段やれないような補強をやっていました。予選会(東京箱根間往復大学駅伝予選会)も約1カ月後に迫っていたので、なかなかゆっくりというわけにはいかなかったのですが、急いで走りを戻しつつ、基本的な補強をやらないとケガにつながってしまうので、そこは意識していました。

――昨年に比べて全体的に距離は踏めましたか

 踏めてはないですね。そもそもだんだん上げていこうという計画で、最初抑えめに入っていて、その後ほぼほぼ走れなかったので、走行距離で言ったら昨年の6割とかになってしまいました。そこは反省点というか、仕方のないところではあるとは思うのですが、いざ予選会とか、全日本が始まる前に関しては、ちょっと不安材料になった部分はありました。

――夏合宿の取材の際に、ウエートなどにも取り組んでいきたいとおっしゃっていましたが、具体的にどのようなことに取り組みましたか

 五味さん(五味宏生トレーナー、平19スポ卒)が考えてくれるトレーニングを今までやってきたので、それを中心的にやっていくという感じです。

――具体的にウエートが生きていると感じる部分はありますか

 ウエートが関連しているかどうかは直接的には分からないのですが、練習で切り替える力というのが昨年と比べるとついてきたのかなという印象です。昨年は元の走力という部分もあると思うのですが、着いていくだけで精一杯という練習の方が多かったのですが、今年に入ってからはかなり練習の中で余裕を持たすことができて、その中で自分の中で上げていく、切り替えるというところが徐々にできてきているという感じがします。あとは、地面を踏めるようになったというのが昨年よりあるので、そこはウエートの恩恵なのかなと感じています。

全日本は「自信になった」レースだった

全日本3区を走る石塚

――授業の関係で1人で練習することもあると思うのですが、その中で工夫していることはありますか

 授業の関係で朝になったりとか、夜になったりとか、曜日が違ったりとか、結構イレギュラーなところがあるので、いろいろな環境下でも対応できる練習と捉えてやっています。特別意識しているところはあまりないのですが、1人で練習していく上で経験が付いてくるとか、あとはどうしても1人でやることになるので、集団でやるより単独でやる方がメンタル的にきつい部分があって、そういうところも自然と鍛えられるかなと思います。1人だと垂れてしまうというところがあるので、そこのメンタルの部分を強く保とうと意識はしています。質問とは少しずれるかもしれないのですが、何かを意識して得たというよりは、1人で練習したから何かを得られたという感じです。

――1人で練習することの利点や欠点はありますか

 1人でやることの利点としては、単独走に強くなるのが一つ挙げられると思っています。やはり全体で練習するとなると、どうしても他の人の力を借りることが多くなります。それもそれでいいことではあるのですが、箱根は後ろの区間になればなるほど1人で走ることが多くなってくると思うので、そういう場面に関して怖くなくなるというか、普段1人で練習しているから、単独走もできるということがあります。あとは集団でできる練習を1人でできたら、集団で入った時に楽になるので、本番を楽に感じやすくなることもあったりして、そこはかなり大きなメリットかなと思います。

 デメリットに関しては、(メリットと)裏返しになるのですが、自分で強く気持ちを保てないと、練習を最後上げることができません。練習で最後上げるためには他の人の力がどうしても大事になってくるのですが、(1人だと)他人の力が使えないので、そこをどれだけ自分で強く保てるかというところがカギだと思います。それができないとダラダラした練習になってしまうので、そこはデメリットなのかなと思うのですが、自己管理というか、自分でメンタルを強く保てればデメリットよりメリットの方がかなり多いので、あまり気にしていません。

――普段の練習で意識している選手はいますか

 一番身近なのは伊藤大志(スポ2=長野・佐久長聖)です。同学年で持ちタイムは上なので、近い存在ですし、意識しやすいところなのかなと思います。

――石塚選手から見た、伊藤大志選手の石塚選手にない強みはありますか

 オンオフの切り替えが特にうまいのかなと思います。陸上だけに固執するのではなくて、すごく視野が広くて、いろいろな経験を大学で積もう、というのが僕にはないところかなと思っています。やっぱり僕は一つ、二つのことを頑張ってやろうという感じなのですが、彼は三つ、四つ、五つといろいろなところに手を出して、それを全部こなしています。周りを見る目があるので、そこはかなり強みなのかなと思います。

――今年は2年生も昨年に比べて層が厚くなったと思いますが、チーム内での競争やライバル意識はいかがですか

 菅野(雄太、教2=埼玉・西武文理)と伊福(陽太、政経2=京都・洛南)がそこに当たると思うのですが、そこの2人が頑張ってくれることで、かなりうちの学年の層が厚くなっていくと思います。菅野は特に「石塚の下位互換」とかよく分からないことを言っています(笑)。それでも下位互換とか言っておきながら、「石塚を倒したい」とか「石塚ができるなら、俺もできる」みたいなことを言っていて、結構対抗心むき出しでメラメラしているところがあって、そういうのは刺激を受けます。伊福もかなり距離を走る人で、彼も本キャン(早稲田キャンパス)で結構忙しいとは思うのですが、自分の1・5倍近く距離を踏めている人なので、そういうところで自分も頑張らないとな、と思える存在です。

――次に駅伝シーズンの話に移っていきます。まず改めて予選会を振り返って、走りや結果についてはどのように考えていますか

 予選会に関しては、コロナの復帰明けということもあって、花田さんから50番前後で行ってほしいと言われていたので、そこをターゲットに走っていました。おおむね設定通りにできたので、自分の中ではホッとした部分がありました。先ほど言った通り、夏合宿で全然練習を積めていなかったので、20キロ走れるかと言われると、口では「大丈夫だと思います」と言っていたのですが、少し不安な部分がありました。ですが、予選会を通じてそこの不安な部分を99%近く払拭できたので、自分に自信がつくというか、全日本とかその先のロードシーズンに向けての不安材料はほぼなくなったと思えるいい材料になったレースでした。

――全日本は昨年に続く好走でしたが、ご自身の走りを振り返っていかがですか

 昨年の出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)、全日本は比較的ゆったりとしたペースで走れる区間で、箱根も往路の中で比較的スピードが必要ない4区でした。なので、実質今回の全日本の3区は、純粋なスピード区間としては初めての起用で、2分50秒とかで突っ込んでいく走りは12キロ単位とかであまり経験したことはありませんでした。ですが、そこでしっかり突っ込んで入って3人抜かせたというところでは、主要区間もしっかり戦っていけると自信になったので良かったです。反対に、最後順天の選手に抜かされてしまい、そこのスパートの弱さは課題として浮き彫りになったので、そこは直していきたいなと感じたレースでした。

――全日本のチームの結果についてはどのように考えていますか

 「そんなものだろう」というところがあって、上振れもなく、下振れもなく、という感じで、予想通りというか想定内かなと思います。7、8区とかはかなりうまくいったところもあれば、5、6区で少しうまくいかなかったところもあるので、まちまちではあるのですが、トータルの順位としてはおおむね予想通りというか、実力相応の順位なのかなと思います。

――最近の調子はいかがですか

 予選会、全日本と上向き調子で、今も上向きになっているので、かなり調子はいいと思います。

――全日本が終わってからのチームの雰囲気はいかがですか

 ずっといい雰囲気が保てているのかなと思っています。昨年は集中練習もあってケガ人が多く出てしまって、練習に参加している人が片手で数えられるぐらいとかなりひどい状況でした。ですが今年はそういうところもなくて、ある程度練習できている人がまとまっているので、そこに関しては昨年とは違って活気があると思います。昨年は別メニューの人が多かったので、プラスアルファで伸ばしていく練習というのがあまりできませんでしたが、今年は大志とか僕とか、1年生も元気ですし、航希さん(佐藤航希、スポ3=宮崎日大)とか先輩方も元気な人がたくさんいるので、練習の質を上げていくことがかなりできています。それは昨年にはないいいところかなと思います。

「見ている人がワクワクするような走り」を

質問に答える石塚

――集中練習の消化具合はいかがですか

 花田さん体制になって集中練習というワードが使われなくなって、集中練習というよりは練習の距離とか強度が少し増えた、みたいなイメージです。今までみたいに集中的にガッとやるようなことはなくなりました。ただ、集中練習に準じた期間になっているので、それで話をすると、昨年も順調にこなせてはいたのですが、今年もそれと同じくらいか、それ以上にかなり充実した練習ができているのかなと思います。

――箱根で希望の区間はありますか

 希望は4区で、今年走らせてもらって、すごく愛着が湧いた区間です。一見するとあまり面白くないというか、「華の2区」みたいな枕ことばがなくて、地味にも思えるコースです。ですが、いざ走ってみると言語化はできないのですが、楽しい区間だなと思いました。その区間でもう一度リベンジして、4区で区間新を出したいと思っているので、希望区間は4区です。

――試合前の勝負飯やルーティンなどはありますか

 勝負飯は、餃子を寮で作って食べることです。あんから作って、同期の4、5人くらいを集めて、「作るぞー! 」と言って、包んで食べるというのが勝負飯というかルーティンになっています。

――チームの中でご自身に求められる役割についてはどのように考えていますか

 まずは安定感のある走りだと思います。例年どこかしらの主要区間で順位を落としてしまっているところがあるので、それを起こさないというのが前提としてあって、それに加えて爆発力のある走りも大事なのかなと思っています。順位を維持する、もしくは微増だと花田さんが期待しているものや、僕に求められる役割としては少し物足りないのかなと思ったので、大幅に順位を上げられる、もしくはゲームチェンジャーのような、早稲田の流れを変えて、いい方向に加速していくのが僕に求められる役割なのかなと思っています。安定感というのはベースにありつつも、爆発力、順位をかなり押し上げられるような走りをしていきたいなと思います。

――箱根に対する思いで、昨年と異なる部分はありますか

 昨年と大きく違うところはシードを落としてからの参加というところです。今年の箱根が終わった時に山口(智規、スポ1=福島・学法石川)とか間瀬田(純平、スポ1=佐賀・鳥栖工)の(今の1年生の)代にはすごく申し訳ないなという気持ちがありました。自分も含めてもう二度とそんな思いを彼らにさせてはいけないと思っています。まずはヒヤヒヤさせるような展開にさせないというのが一番箱根に対して変わってきているところなので、そこは維持しつつ、あとは昨年と比べてチームの中枢を担う人材になってきたと思っているので、そこの中枢を担うランナーとしてチームに貢献できる走りができればなと思っています。

――今年は3年ぶりに有観客になると思いますが、それについてはいかがですか

 中学の顧問の先生とかからも「応援に行きたい」みたいな話を聞いていて、今まで表立って沿道に来られなかった方々がみんな駆けつけてくれる予定です。学科の友達とかも「見に行きたい」と言ってくれていて、いろいろな人に応援されているなというのが伝わってきています。今年以上に沿道からのパワーがもらいやすい環境になってくるので、それを生かして走れればなと思っています。

――​​最後に箱根に向けた意気込みをお願いします

 前回は安定感のある走りはできたのですが、それ以上の走りができなかったので、今回は安定感のある走りをベースに、それに加えて爆発力を出していって、見ている人がワクワクするような走りができたらなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 加藤志保、橋本聖)

◆石塚陽士(いしづか・はると)

2002(平14)年4月22日生まれ。170センチ。東京・早実高出身。教育学部2年。自己記録:5000メートル13分48秒81、1万メートル28分36秒53、ハーフマラソン1時間4分02秒。第98回箱根4区6位。最近は伊藤大志選手と菅野選手にコーディネートしてもらい、おしゃれにも挑戦中だそうです! 箱根路も持ち前の安定感に爆発力を兼ね備えた走りで駆け抜けてくれるでしょう!