【連載】箱根事後特集『繋』第3回 佐藤航希

駅伝

 今シーズンはケガから復帰し、初出場のレースが多かった佐藤航希(スポ2=宮崎日大)。東京箱根間往復大学駅伝(箱根)でも9区に初選出されたが、まさかのシード権を追う状況に。夢の舞台であった箱根を終え、佐藤航が今思うことは何なのだろうか。今シーズンを振り返りながら新体制のチームや、来シーズンの目標についても語ってもらった。

※この取材は1月29日にリモートで行われたものです。

「自分が走った9区が最後のチャンスだった」

9区を走る佐藤航(©︎関東学連/月刊陸上競技)

――箱根後の解散期間はどのように過ごされましたか

 オフは約2週間全体で設けられていたのですが、2月の上旬にマラソンを予定していたので1週間早く帰省を切り上げて、こっちに戻ってきて練習を再開したっていう状況です。

――箱根のことについて、まず個人に関わることをお尋ねします。9区への出走は最終的にどのように伝えられましたか

 お前で行くみたいな話はなかったのですが、雰囲気的におそらく変更なく、このまま行くんじゃないかなという感じが監督とのやり取りの中でありました。なので、交代されてもされなくてもしっかり準備は進めていようとしていました。

――初出場に周りからの反応は

 試合前から地元の中学、高校の友人や先生方など多くの人からメッセージを頂きました。

――具体的にどんなメッセージを

 走るかどうかはまだ分からなくて、はっきり言えなかったのですが、それは周りも感じていたので、「走ることになったら頑張れよ」とか「楽しんでこい」とか言われました。

――相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)からレースプランの指示は出ていたのでしょうか

 もともと自分が下りを得意にしていることもあって、その適正を見て下りの多い9区に選ばれたところだったと思います。あとは、当日向い風が強いかもしれないから向かい風の対策は事前から準備しておくようにという話はされていました。

――シード権がかかる状況の中、プレッシャーや焦りはありましたか

 プレッシャーとか緊張というのは特になかったのですが、11位でタスキをもらって法政大学さんと一緒に並走し、目の前にシード権がある状況の中で、追わなければいけないという気持ちがありました。そんな気持ちで前半はハイペースに入ったこともあったので、後半は少しペースを落としたいなという気持ちがありました。

――箱根直後の取材で、出場できた喜びが大きいと話されていましたが、他の試合と緊張感や雰囲気の違いは感じなかったのでしょうか

 小さいころから夢見てきた舞台だったので緊張するのかなと思っていたのですが、意外と中継所で準備しているときは落ち着いていました。なので、あまり緊張感とかプレッシャーは感じなかったのかなと思います。

――3週間ほどたった今、改めてご自身の走りを振り返っていかがですか

 呼吸というか、肺に何か圧迫感があって、全日本(全日本大学駅伝対校選手権)の時も差し込みや腹斜筋に痛みがあったのですが、今回の箱根も後半で胸の圧迫感を感じました。6割程度しか自分の力が出せていないので悔しさというよりかは歯がゆさというか、もちろん自分の力を100パーセント出せた上で負けていたら悔しさは残ると思うのですが、なかなか大学に入って2大会(全日本、箱根)を含め自分の持っている力は出せていないのでそういう部分で歯がゆさがあります。

――シード権を獲得できなかったことについて率直な気持ちを教えてください

 自分と並走していた法政大学が最後ぎりぎりシード圏内に滑り込んだわけですが、9区を(高校)同期の湯浅選手(仁、中大)が区間3番で走っていて、自分がそれ以上の走りをしていればシード権の可能性もかなり大きかったと思います。自分が走った9区が最後のチャンスだった思うのですが、そのチャンスをなくしてしまったので申し訳ない気持ちが大きいです。

――箱根を経験して学んだことはありますか

 何というか、走る前からアンチコメント的なことを言われたり、走っている時もやじを飛ばされたりしていました。終わった後はかなりひどかったのですが、SNSを通じて直接メッセージが来たりもしました。全日本の時もそうだったのですが、自分はそういうコメントに対してイライラしてしまっていました。そんなところがまだ自分は子供だなと感じた部分だったので、アンチコメントする人たちに対してもっと大人な対応をするべきだなと。それが学んだことですかね。

――走っている最中にも言われるのですか

 並走しながらずっと言われることもありましたね。

――次にチーム関連のことについてお伺いします。箱根直前と1日目終了後のチームの雰囲気はいかがでしたか

 直前は、なかなかみんなの調子が上がりきっていない中ではあったのですが、気持ちだけはまとまって箱根に臨むというか、目標はぶらさずに全員で足並みをそろえて、まとまった気持ちで行こうという雰囲気はありました。1日目を終えた後は、優勝が遠のくなかなか厳しい状況ではあったのですが、確実にシード権は取るという気持ちが伝わったり、絶対に前を抜いてくるという強い発言や先輩が後輩を鼓舞する場面が見られたりしました。1日目を迎える前と後では雰囲気はあまり変わらないというか、さらに良くなっていたと思います。

――鼓舞していたというのは誰が中心になっていたのですか

 創士さん(鈴木、スポ3=静岡・浜松日体)とか千明さん(龍之佑、スポ4=群馬・東農大二)とかの声掛けもあったし、2日目の朝は山口さん(賢助、文4=鹿児島・鶴丸)とかですかね。各場所に分かれていたのでLINEグループを通じて鼓舞する言葉をかけていました。

――レース後、4年生からどんなお言葉がありましたか

 4年生からは口をそろえて「申し訳なかった、何も残せてあげられなかった」という話がありました。僕は1年生の時は2試合しかレースに出ることができなかったですし、箱根の練習も1回もこなせないままBチームに戻るというような状態でした。今シーズンと比べると格段に成長したと思います。そうした背景にあるのはやはり4年生の力が大きかったので後輩たちに残してくれたものは非常に大きいと思います。

――これまでの試合の中で菖蒲敦司選手(スポ2=山口・西京)が佐藤航選手を励ますことが多かったようですが、今回の箱根ではケガをしてしまった菖蒲選手を佐藤航選手が励ましていたというお話を聞きました。箱根後はお互いに何かお話されたり、励まし合ったりしたのですか

 先ほども話したように、解散期間の1週間早く帰ってきていたのですが、菖蒲も全国都道府県対抗男子駅伝があり、早く帰ってきていて、一緒に練習する機会もあって2人で話をしました。話をしていて、菖蒲はそんなに落ち込む様子がなく、すぐに次の目標に切り替えられている様子を感じました。箱根に出ることができなかった悔しさを次の試合にぶつけようという話もしていました。

――先ほど鈴木選手について、箱根でチームの雰囲気を盛り上げてくれていたとおっしゃっていましたが、次期主将でもある鈴木選手は佐藤航選手にとってどのような選手ですか

 普段は元気、競技に対しては繊細、レースに関しては大胆に粘り強いというような、それぞれの顔を持つような人です。僕が足を痛めていた時、お話した際にやたら体に詳しくてよく勉強していることが伝わってきました。普段はやんちゃで元気なところもあるので、そんな風には見えないのですが、やはりお話すると勉強熱心で意識の高い選手だなと感じます。

――鈴木選手とのお話の中で具体的にどんなことを

 僕が腹斜筋を気にしていた時は、その部位の筋肉の話だったり、呼吸器官系の話を教えてくれたりしました。あとはいろいろな治療院を紹介してもらったりして、しっかり勉強しているからこそ、色々な引き出しがあるのかなと思いました。

――新体制のチームの雰囲気を一言で表すとどうですか

 「活気」ですかね。4日から新体制になり解散期間となったのですが、解散中も頻繁にミーティングを開いたり、グループの中で声掛けもあったりして、意思の統制は取れていました。集合した時も、キャプテンの鈴木さんと副キャプテンの井川さん(龍人、スポ3=熊本・九州学院)の2人で盛り上げていくという雰囲気がしっかりと伝わっているので新体制になってからもなかだるみすることなく、勢いも衰えることなく活気あるチーム状態が続いているという感じです。

――来シーズンはチームの中で上級生としての立ち位置になりますが、佐藤選手のチーム内での意識は変わりつつありますか

 まだ、新一年生が入ってきてないので何とも言えないのですが、自分が1年生、2年生の時に見てきた3年生、4年生の姿っていうのは、後輩としてすごく感じるものが大きかったので、自分の行動や発言に責任をもって 後輩たちに多くのものを残してあげられるような結果を出していきたいと思っています。

――次期主将候補を同期内で話し合うことはあるのですか

 雰囲気的には菖蒲じゃないかなという感じはあります。でも、菖蒲は同期に対してがつがつ言うタイプというよりは、まとめる役という感じですね。人にがつがつ言うのは辻(文哉、政経2=東京・早実)とかなので(笑)。そこはうまく同期内でかみ合っているというか、人任せにするっていうのはなく、全員がそれぞれの役割っていうのを理解しているのかなと思います。

――では2年生の団結力は強そうですね

 強いと思います。人数が多い中でも普段から仲が良いので、そういったことからも強いと思います。

今シーズンのリベンジを

笑顔で取材に応える佐藤航

――次にシーズン全体を振り返っての質問に移らせていただきます。今シーズンはケガ復帰を果たして様々な事にチャレンジできた年だったと思いますが、一番思い出深かったレースは何ですか

 関カレ(関東学生競技対校選手権)のハーフマラソンですかね。札幌ハーフ(札幌マラソンフェスティバル)に出場したり、5000メートルで自己ベストを出したりしたのですが、(関カレは)初めてエンジを着る試合で、一緒に河合さん(陽平、スポ4=愛知・時習館)や向井さん(悠介、スポ4=香川・小豆島中央)と練習してきて出場できたというのが大きかったです。それまではケガでずっと1人だったのでそういう経験がなくて、2人の先輩と初めて出場できた試合でもありました。100パーセントではなかったのですが、今シーズンで1番自分の力を出せたかなとも思うので、印象に残っています。

――今シーズンを振り返っての反省点があれば教えていただきたいです

 フィジカルトレーニングを継続して行えなかったことです。全日本の前後あたりから練習の質というのもかなり上がり、Aチームに合流した際の集中練習も質が高く、少し練習量が落ちてしまったり、余裕がなくなって他の練習ができなかったりしました。監督が練習量は申し分ないと何かの記事でおっしゃっていたのですが、自分としてはまだまだ練習量は少ない方だと思っています。だから今シーズンはもっとそういった練習に時間を割けたらなと思います。

――フォーム改善に取り組んでいたということですが、その成果は

 大きな動きができるようになりつつあったのですが、定着が難しい部分ではありました。自然と大きな動きをする分、体の別の部分へ負担がかかり腹斜筋を傷めるという経験もしたので、定着は難しいと感じました。そこもフィジカルトレーニングで補っていけたらと思います。

――フィジカルトレーニングというのは具体的にどのようなことをするのですか

 普段から知野トレやGOMIトレはしているのですが、それは全体でのノルマの練習なので自分が主にやりたい、自分のためになるトレーニングをもっと積極的に取り入れていけたらと思います。

――練習以外の日はどう過ごされていたのですか

 最近はコロナで出かける機会がないので、寮で映画見たり、音楽聞いたり、菖蒲の対応をしています。

――やはり菖蒲選手と仲がよろしいのですね

 いや、まあそうですかね(笑)。

――授業も菖蒲選手と一緒のことが多いと伺いましたが

 あ(笑)、そうですね(笑)。僕はよく寝ていて、面倒くさがり屋なので、ダラダラしちゃいます。だから、朝菖蒲が部屋に入ってきて無理やり連れ出して、仕方なく行くか、みたいな感じです。

――トラックレースは好きではないとお話されていましたが、今シーズンでトラックレースに対する意識で何か変わったことはありましたか

 今はロードにシフトしているので、トラックシーズン嫌だなっていうのがこれからまた始まってくると思います(笑)。でも、今シーズンはトラックシーズンが始まるともっと走りたいという気持ちになりました。駅伝シーズンが終わったら、1回リセットして切り替えています。

――今シーズン1年生の石塚陽士選手(教1=東京・早実)と伊藤大志選手(スポ1=長野・佐久長聖)の存在をどう感じていましたか

 タフだなと思いました。石塚は授業の関係で一緒に練習することがあまりなかったのですが、僕がみんなでやっていっぱいいっぱいになる練習を1人でこなしていてすごいなと思いました。伊藤に関しても、前半シーズン苦しんでいましたけど、腐らず年間を通して細かい練習も欠かさずこなしていました。1年通してケガ無くやっているので、そこに関しては2人ともすごく強いっていう言葉が合うのかなって1年間通して思いましたね。

――監督の指導などについては

 すごく自分の考えと合っています。僕が今日の練習はやめといた方がいいかなと感じたときに、僕から言い出すとかじゃなくて、相楽さんの方から今日の練習は変更してこうした方がいいんじゃないかと提案をくださります。先を見通した目標を立てる際もすごく自分の考えとマッチするので、自分に合っている監督だなと思います。

――よくお話されるのですか

 普段からコミュニケーションは取っています。自分からあまり話すことはないのですが、普段から気にしてくださっているので、そういったときに話をします。

――佐藤航選手にとって走る原動力となっているものは

 やはり応援してくれる人の存在が大きいと思います。試合で良い結果を出した時は周りの反応も良かったりするのですが、試合で結果が出なかったときこそ声を掛けてくれたり、支えてくれたりする方々の存在が大きいので、そういった方たちのために頑張りたいというのはあります。

――最後に、来シーズンの目標を教えてください

 前半は関カレのハーフを狙いたいです。今年は、日本人トップを絶対取りたいと思っているので、前半はそこを1つの目標にしています。後半は、昨年全日本と箱根を両方落としているので、リベンジしたいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 川上璃々)

◆佐藤航希(さとう・こうき)

2001(平13)年8月2日生まれ。168センチ。宮崎日大高出身。スポーツ科学部2年。第98回箱根9区1時間10分42秒(区間14位)。佐藤航選手が大学で陸上を続けた理由は「自分の可能性を信じている」から。1年時はうまく練習ができなかったものの、今季は箱根に出場するまでに成長を遂げました。そんな可能性を大いに秘める佐藤選手は、今年どんな走りを見せてくれるのでしょうか!