今季出場したトラックレースの全てで自己ベストを更新するなど、大きな成長を遂げた室伏祐吾(商3=東京・早実)。全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では、初めて学生3大駅伝のエントリーメンバー入りを果たした。この飛躍の要因は、新型コロナウイルスによる自粛期間の間に、自身の練習方法を見直したことにあった。夢舞台と語る東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根)を前にした、今の思いを伺った。
※この取材は11月28日に行われたものです。
「自分のやることを明確化してやっていかないといけない」
12月20日の合同取材にて
――現在の調子はいかがですか
今シーズンは5000メートルと1万メートルのすべてのレースで自己ベストを更新できましたが、この間(11月22日)の21キロのタイムトライアルでうまく(自分の力を)出し切れずに、10キロ以降の後半のスタミナ面の課題を感じました。トラックレースではごまかしきれた部分、浮き彫りにならなかった部分が、ハーフや20キロになると見えてきました。調子としては、集中練習が始まって、今日は先週のタイムトライアルの疲労が残っている中ではあったのですが、しっかりと練習をこなせましたし、どこか足が痛いとかもないので、箱根に向けて練習が積めているのではないかと思っています。
――集中練習に参加されるのは今年が初めてですか
1、2年の時も参加はしていましたが、力がなかったので、ついていけない部分もありました。1年生の時は途中でけがもしてしまいました。これまではつまみつまみで(集中練習を)やっていたので、ちゃんとやるのは今年が初めてですね。
――Aチームで練習をされるようになったのはいつからですか
夏前からですね。コロナの解散期間が明けて、7月の初めの記録会があって、そこの後からAチームに合流しました。
――直近の試合について伺います。11月4日の早大競技会では1万メートルで大幅に自己記録を更新されましたが、その試合を振り返っていただけますか
全日本のメンバーを狙っていた中で、走れませんでしたが、その中で同学年の山口(賢助、文3=鹿児島・鶴丸)の走りに刺激を受けました。同学年で同じようなレベルでやっていたので、自分もやらないといけないという思いなりました。その中で29分前後や28分台を狙っていっていたので、タイム(29分04秒18)としては良かったと思います。ただ、ラスト2000メートルで北村(光、スポ1=群馬・樹徳)に前に行かれて、そこで勝ちきれませんでした。表面的なタイムというところでは良かったかもしれませんが、内容的なところ、勝ちきれないところや爆発力がないところが課題としてあります。今シーズンは自己ベストも何度も出て、安定感はありますが、周りを驚かせるような爆発力がないところが自分の課題だと思っているので、そこが4日のレースでも出てしまったのかなと思います。
――お話にあった勝ちきれない要因について伺います。このレースではどのような点がその要因だったと考えていますか
自分はBチームの実力がないところから上がってきましたし、高校とかでも全国大会などの大きい舞台での経験がありません。大きい舞台のレースだと、最初に突っ込んで勝負していくということになりますが、そのような経験が自分にはないです。経験がないことを言い訳にしてはいけないのでしょうが、経験は積んでいくしかないと思っています。そのような意味では、集中練習は競い合うような練習もあるので、そういったところを通じて勝負していけるようになればいいのではないかと思っています。
――続いて、先日の21キロのタイムトライアルについて伺います。64分台という結果になったレースの、レース展開はいかがでしたか
自分としては全く満足のいく結果ではなかったです。あのメンバーの中でトップを取らないといけなかったなと思いますし、タイムとしても展開としても勝負できなかったなと思います。自分でレースをつくって、ガンガン攻めていかなくてはいけなかったなと思うのですが、そこで負けてはいけないという思いが強くなりすぎて、逆に消極的になってしまったのかなと思います。
――目標としていたタイムはありましたか
63分切りというものを目標にしていました。
――調子はいかがでしたか
4日にレースを走ったことや、その後に少し走行距離を伸ばしたので、多少の疲労感はあったのですが、調子自体は直前の練習とかをやっていても悪くないかなと感じていました。
――調子の良し悪しよりも、精神面が結果に反映されてしまったということですか
はい、そうですね。あとは、これまでの5000メートルや1万メートルとは違う20キロの難しさを痛感しました。僕自身、ハーフマラソンは、昨年の上尾(上尾シティハーフ)しか走ったことがなくて、実質2回目の20キロになったので、走り方の難しさのようなものを感じました。
――このレースを経て見えた改善点はどのようなものですか
走りの面でいうと、後半の10キロ、15キロを越えたところからの粘りのようなものです。今年は夏合宿ができなかったということも影響しているところもありますが、5000メートルや1万メートルではごまかしきれていた部分、表面上は見えてこなかった部分を、集中練習では詰めないといけないなと思っています。プレッシャー的な面では、レースが終わった後に駒野さん(亮太長距離コーチ、平20教卒)と、周りと競って(箱根メンバーの)10人に入るというよりも、自分のやることを明確化してやっていかないといけないよねという話をしました。自分は往路を走ることは実力的にはないだろうというのがありますし、復路となった時も山下りではないので、その時点で残りの4区間しか走ることはないと思います。その中でも近年の箱根の流れでいうと、7区と8区に復路のエースを置いて、9区10区をしのぐというレース展開になるので、9区10区を走る可能性が高いです。さらにその中でも自分の場合、10区しか走ることはないのかなと思っています。そうなった時に、10区がどのようなコースでどのような特徴があるのかを考えたときに、ある程度コースとしては平たんですが、後半都心に入って、ビル風があって気温も高くなっていく中で、自分のペースを刻んでいく走りが求められていきます。このように、やることを明確化していけば、周りがどうこうよりも自分のやるべきことが見えてくるので、そこが再確認できたという点では良かったのかなと思っています。
自分に合った練習の組み立て方がわかった
――それでは今シーズン全般的な話について伺っていきます。2月の青梅マラソンや3月の早稲田大学長距離競技会には、出走されていませんでしたが、この期間はどのように過ごされていましたか
もともと出走する予定ではありましたが、1月の下旬にけがをしてしまって、そこで一回練習が途切れてしまいました。(練習が途切れたのは)10日間くらいだったのですが、状態が合わなかったので、青梅や早大競技会の出走は見送ったという感じです。
――一方で解散期間が明けてからは、自己ベストを連発されました。その要因についてはどのように考えていますか
自粛期間の取り組みが大きかったと思っています。1月の下旬にけがをしてしまいましたし、さかのぼっていくと、去年も夏にAチームに上げてもらったのですが、腸脛靭帯を痛めて練習が途切れ途切れになってしまったことが秋のシーズンに響いてしまったりだとか、ちょくちょくけがをしてしまうことがありました。自粛期間に入って、メニューを完全に自分の裁量で決めて練習を組み立てていく中で、簡単に言うとブレーキのかけ方がわかるようになりました。これまでは、周りの雰囲気とかもあって、自分のキャパを超えてやりすぎてしまうところがあったのですが、自分で練習を組み立ててやっていく中で、自分の練習の組み立て方、特にやりすぎないというところでの自分の裁量がわかるようになりました。解散期間が明けた後も、ここで(練習を)やりすぎたらけがをするな、というところが感覚的にわかるようになって、継続的に練習を積めるようになったことが、成長につながったのかなと思います。
――自粛期間の練習内容は、これまでと大きく変えたということはなかったですか
授業が1か月後ろ倒しになって、4月は時間があったので、合宿と同じように3部練をして距離を稼いでいました。あとは、例年でいうと4月、5月はトラックシーズンが始まって、実戦的なトラックに向けた練習が中心になってくるのですが、試合の見通しが立たない中だったので、4月の期間も質よりも量を意識したような基礎的な練習を積んでいました。
――解散期間が明けた7月には5000メートルで2回自己ベストを更新されました。タイムや走りの内容から、成長を感じる点はありましたか
自粛期間の最後に、一人で3000メートルのタイムトライアルをやって、そこでのタイムが8分30秒という自己ベストのものでした。全体練習やレースがない中で、一発タイムトライアルをやって、自己ベストが出たというところで、「意外といけるな」と感じました。その後、自粛期間が明けてすぐに、GMOアスリーツの選手に引っ張ってもらって、3000メートル+2000メートル+1000メートルの練習を行って、その時に3000メートルを8分22、23秒で走れました。これまでは3000メートルで8分20秒台というタイムは経験したことがなかったので、いきなりそのハードルを越えられました。徐々に徐々にではなくて、いきなりポンと(ハードルを)越えられたというところで、これまでの自分の中の価値観が壊されたなと感じました。ちょこちょこレースがあったりすると、ある意味で自分の中で壁をつくってしまう面があることがわかりました。自粛期間があって、そのようなバイアスがかからない状況で壁を超えられたので、その意味ではその後の5000メートルも「(記録を)狙えるな」と思っていました。自分のこれまでの自己ベストにとらわれることはなかったです。
――続いて夏の練習について伺います。練習消化率の観点などから、夏の練習を振り返るといかがですか
合宿ができなくて、所沢の暑い中で練習しなくてはいけなくなったので、距離的にも例年に比べると少なかったかなと思います。その中でポイント練習のタイムも下げざるを得なかったので、ポイント練習の質としても例年に比べると低かったかなとも思います。それは全員同じことなので、チーム全体の中での練習消化率としては、穴なく夏を通して練習を積むことができたのかなと思います。
――夏の練習の際に意識的に取り組まれたことはありますか
とにかく暑さ対策に尽きるかなと考えています。涼しい中、環境が良い中でやったら絶対にできるような練習がなかなかできない中で、準備をしてしっかりと暑さに対応して、暑さ面の課題をクリアするかということは意識的にやっていました。例えば、練習前の水分の摂り方とか、アイススラリー(※)もしっかりと摂るようにしましたし、あとはエアコンの温度調節もです。体温調節の面はすごい意識していました。一度熱中症とかになってしまうと、1、2週間練習が積めなくなったりもするので、とにかく暑さ対策の準備をすることにはこだわっていました。
――ここまでの話を重なる部分がありますが、ご自身の走りの長所と短所はどのようなものだと考えていますか
走りの長所としては、安定感ですね。今シーズンはコンスタントに自己ベストを出し続けられたということもあるので、(長所は)レースを外さない安定感かなと思います。短所はその逆で、爆発力のないというところに尽きます。周りを驚かせるようなタイムや結果を出せないところが、自分の課題かなと思っています。
――周りを驚かせるようなタイムや結果に関して、ご自身で具体的に目標としているものはありますか
これは自分の中でというよりも、周りの評価に尽きるかなと思っています。具体例でいうと、山口の秋以降のレースはすごい爆発力のあるものだったなと思っています。周りを驚かせるような、監督の評価を一気に上げるようなものになるのかなと思います。
――山口選手の今シーズンの活躍をどのようにご覧になっていますか
一気に結果を残して先を越されたので、悔しさを感じていますね。山口も夏前に故障して、夏はずっとBチームでやっていたなかで、秋一発目のレースでしっかりと結果を出して、そこからポンポンポンと駆け上がっていったので、追いていかれたなという面で、すごい悔しさを感じています。
「距離に対応していかなくてはいけない」
11月28日の練習の様子
――全日本では、初めてエントリーメンバーに入りましたが、その時の心境はいかがでしたか
やっと3年目にしてエントリーメンバー入りを勝ち取ることができたというのは、自分の中で成長を感じた点ではありました。ですが、エントリーメンバーに入っても入らなくても、そこで出走することが目標ですし、エントリーメンバーに入った時には、どう走るかということを考えていました。後から振り返って、やっとここまで来たかと思った面はありましたが、エントリーメンバーに入った時の心境としては、ここからどう(メンバー入りを)勝ち取っていくかということが大きかったです。
――全日本のチームの結果をどのように感じてらっしゃいますか
総合3位という目標としているところには届かなかったですし、早稲田は今回割と全員ミスなくつないだ結果5位というかたちだったと思うのですが、やはり他校を見てみると青学、東海なんかはミスがありつつも、うちより上の順位に行っていました。そういったところでは、まだ力が足りていないのかなと思いました。3位を目指す上では、もっと力をつけていかなくてはいけないなと感じています。
――これから箱根までの練習で詰めていきたい課題はどのようなものですか
先日のタイムトライアルで浮き彫りになった10キロ以降の走りです。夏に練習量を積めなかったところで、ハーフというところだとそこ(練習量)が出てくると思うので、その分を補う意味でも距離対応をしていかなくてはいけないなと思っています。
――チーム内でライバルとして意識している選手は誰ですか
山口、向井(悠介、スポ3=香川・小豆島中央)ですかね。やはり1年の頃から同じような立ち位置でやってきて、抜きつ抜かれつやってきた仲ではあるので、その二人の存在はすごく意識します。
――プライベートでもお二人とは仲が良いのですか
山口とは出かけたりもします。プライベートだと同じ早実の茂木(凛平、スポ3=東京・早実)と仲が良いですね。
――室伏さんにとって、箱根はどのような大会ですか
陸上をやっていく中で夢だった舞台ですかね。箱根を走りたくて陸上を始めて、ここまで陸上を続けてきたので、夢の舞台という思いが強いですね。
――最後に箱根に向けた、目標や意気込みをお願いします
チームの総合3位以内という目標に向けて、しっかりと自分の走りで貢献したなという思いがあります。個人としては、先ほど言ったように、自分の目指すべきところとしては10区かなと思っています。10区は最終区ということで、自分の走っているところでチームの順位が決まるすごい責任の重い仕事だと思います。自分のペースをしっかりと刻んでいく走りという点では、自分の持ち味である安定感が生かされる区間かなと思うので、自分の走りでチームに貢献できるように頑張っていきたいと思います。
――ありがとうございました!
※細かい氷の粒子が液体に分散した流動性のある氷のこと。通常の氷に比べ結晶が小さく冷却効果が高いと言われている。
(取材・編集 杉﨑智哉)
◆室伏祐吾(むろふし・ゆうご)
1999(平11)年9月14日生まれ。168センチ、51キロ。東京・早実高出身。商学部3年。自己記録;5000メートル14分15秒75。1万メートル29分04秒18。ハーフマラソン1時間7分13秒。終始冷静かつ論理的にお話をしてくれた室伏選手。この高い自己分析力が、今季の飛躍につながったのかもしれませんね。ライバルと語る山口選手にも負けない『爆発力のある走り』を見せ、箱根路に大きな足跡を残します!