【連載】箱根事前特集『臙脂の誇りを取り戻す』第9回 小指卓也

駅伝

 昨年度は全日本大学駅伝対校選手権(全日本)に区間エントリーされるも、当日に変更されまだ大学駅伝出走経験がない小指卓也(スポ2=福島・学法石川)。今年度も前半は怪我を何度か繰り返し、葛藤の日々が続いた。それでも、走り方と身体との向き合い方を変えてから、5000メートルの自己ベストを更新、日本選手権への出場をかなえるなど、本領を発揮し始めた。大学駅伝初出場に向けて、今の思いを伺った。

※この取材は11月28日に行われたものです。

駅伝を走ってやるぞという心意気

日本選手権5000メートルに出場した小指

――前回の箱根が終わって新チームとなりどのような思いで練習に入りましたか

 去年は、不調や体調不良、怪我もあってなかなか振るわない一年で、チームにも全く貢献できなかったですし、箱根のメンバー争いにすら加わることができなくて、もう走れない以前の問題でした。そんな一年だったので、今年2年生になったらメンバーに入るだけでなくて、しっかり駅伝を走ってやるぞという心意気で練習取り組んでいました。

――年始以降膝の怪我もあり練習はつめていなかったとお聞きしましたが、状態は悪かったのでしょうか

 そこの離脱は一時的だったので、そんなに大きな影響はなかったと思います。

――鹿児島合宿を経て、3月の競技会で1万メートルの自己ベストを更新された時を振り返っていかがでしょうか

 だいぶ前なのですが、まだその時は走りの感覚をつかみ切れていなくて、走り方の移行期のような感じでした。僕はいつも踵から足を接地する癖があって、それをフラットに変えようという段階のレースだったので、中々走り方をつかめずにレースに臨んでしまいました。ものすごく不調というところからそれをきっかけに脱出できたと思うので、1万メートルもしっかり最後まで走りきれたという面では久しぶりに良かったと思えたレースでした。

――トラックシーズンにはどのような目標を設定して臨みましたか

 今年は色々あったので、どのレースに出るとか細かく計画立てたわけではなかったです。トラックシーズン入って少ししてけがしてしまって、みんなから出遅れる形になってしまったので、今年のトラックは5000メートル主体というのは決まって、監督とそんな話になりました。大きな目標とか考えずに、ひたすら自己ベスト狙っていくという感覚でやって、僕の強みはスピードだと思うので、そこから駅伝にアプローチできたらなと思っていました。

――コロナによる帰省期間中、生活リズムは寮の時と変わらず過ごしていたのですか

 いや、寮の時とは時間も変えて、自分の走りたい時間に走って、だんだん暖かくなってきてからは朝と午後日が暮れてから走るようにしていました。自分は暑いのがちょっと嫌いなので、そういうストレスを減らして、のびのびと自分のペースで練習するようにしていました。

――6月頃の部員日記でロードをひたすら走っていたとありましたが、具体的な練習メニューを教えて下さい

 トラックを使えなかったので、ひたすらロードとか1.5キロのコースとか走って、よくやっていたのは、一周1.5キロあるコースを一本一周して、ダッシュして5分リカバリーして、それを合計5本とか。あとはそのコースを2周して、段々一本ずつ上げていく練習を3本とか。あとは5キロロードで、5キロ3本をあまり速くないペースで、最後一本だけちょっと上げてという感覚でやっていました。

――母校でタイムトライアルのペースメーカーを行ったとありますが、そこでの練習は良い刺激や気分転換になりましたか

 そうですね、高校生と一緒に走ってすごく元気ももらえたし、学石(学法石川高)はみんなスピードがあるので、最後思いっきりスパートかけられて、負けた時もあって、頼もしいなと思った反面教師負けちゃって悔しいなと思いました。そこをきっかけに僕も負けていられないなと思って、モチベーションの一つになったと思います。

――ロードを練習する中で、トラックとの違いを痛感したとありましたが、どんな所に感じましたか

 走るコースにもよると思うのですが、僕が5キロとかの練習をやっていたところは坂がきつい部分があって、なかなかペースが安定しなかったですね。あとはロードの方が足にすぐ疲労がきやすくて、その中でもジョグの量とかは減らさないようにしていたので、ダメージがある中で、一人でやるというモチベーションを保ちながらやっていくことがきつかったです。

――6月下旬に寮に戻って練習を再開されたと思いますが、当時の調子はいかがでしたか

 調子は良かったですけど、一人で練習やっていた時に練習を積みすぎて疲労もあって、その後の記録会もなかなか走れなかった感覚はあります。

――そのような中でも7月末の競技会で5000メートルの自己ベストを更新されていますが、要因は何でしょうか

 タイムトライアルなどの練習でずっと3000メートルをやっていて、1週間前には3000メートルをこのタイムで通過すれば5000メートルもベストが出るなという練習をできていたので、攻めずに自己ベスト出すだけを狙えばいけるという感覚がありました。しかも、そのレースで引っ張ってくれる選手もいたので、そこをうまく利用して出せたと思います。

走れなくて当然だけど悔しい

10月11日の早大競技会では5000メートルで好走を見せた

――例年と違い所沢から始まった合宿ですが、どんな気持ちで臨みましたか

 いつもと違う流れで、僕は暑いところが苦手なので正直ちょっとモチベーションの面で大丈夫かなという思いはあったのですけど、周りのみんなも同じ条件でやっているのでこんなところで言い訳していたら周りにも勝てないと思って、我慢して頑張りました。

――夏の期間、自分の中でテーマなどありましたか

 みんなから遅れていた部分があったので、とりあえずそこを埋めるために頑張ろうと思っていました。ですが夏合宿で一回ちょっと足が痛くて休んでしまって、穴を埋めようとして頑張って、また怪我してという感じになってしまって、安定していなかったという感じですね。

――夏に重点的に行った練習はありますか

 夏は、監督からも質より量みたいな感じで指示されていたので、ジョグも量をメインにして走っていました。なるべく涼しい時間帯にやって疲労を残さずに継続して量を踏んでいくというところを目的にやって、駅伝に向けた一つ前の走り込みという感覚でやっていました。

――11月の部員日記ではけが以降、少しずつ身体との向き合い方がわかるようになり、工夫しながら練習を継続出来ていると書いてありましたが、どんな工夫をしたのですか

 あまり足の状態がその時も良くなかったので、朝練、午後練のうち午後練を重点的に練習して、一回の練習で多く、質良く行うということと、正直去年は補強に手が回らずに、ただ走るだけになっていたので、今年は補強にも重点的に取り組みました。走り方のアプローチとかも考えて、(身体の)部分の補強はするようにしていました。

――全日本大学駅伝で同期2人が出場し、5位入賞に貢献しました。彼らの活躍はどのように映りましたか

 一緒に練習していて彼らは強かったので、やってくれるだろうと思っていたので、そこの部分は良かったかなと思いました。できることなら走りたかったなとは思っていたけど、選考の段階で僕はまだけがをしていたので、しょうがない部分もあって。仲間があそこで頑張ってくれたからこそ、次練習入る時に、そこのラインで頑張れば、最低でも他大とは戦えるのかなという希望を感じはしましたね。

――3大駅伝には未だ出場できていません。その部分はどのように捉えているのでしょうか

 外れたから悔しくないわけはないですけど、正直選考の時に毎回走れなくて、選ばれるわけがないという状況にいたので…。怪我もあって普通に走ることができていなかったので、走れなくて当然だけど悔しいなという思いもありました。出場できなくても仕方ないと開き直るのは良くないですけど、実際にそういう立場にいたことが悔しかったですね。

――全日本が終わってすぐの競技会で5000メートルの自己ベストを更新し、13分台を記録しましたが、全日本のメンバーの活躍に刺激を受けましたか

 そうですね、それも大きかったと思います。あともう一つは、10月にに5000メートルの記録会があって、そこで積極的なレースを自分で繰り広げられたので、あとは練習すれば13分台出るだろうという自信を持ってスタートラインに立てたことかなと思います。

――自己記録を更新したレースを振り返って、レース展開、タイム、走りの感覚など満足できる点はどのあたりでしょうか

 その時は最低でも13分台を出すという目標だけしか考えていなくて、ひたすら使えるものは使っていこうという考えで、ひたすら付いていった、正直せこいレースだったので、特別誇れるものはないですね。3000メートル通過でも余裕を持てていて、もう13分台は余裕だからあとは残りどのくらいいけるかという感じで走れていたので、その感覚は良かったのかなと思いますね。本当にずっと自己ベストを大幅に更新できていなかったので、更新できたこと自体が自分にとって一番良かったのかなと思います。

――5000メートルの記録が部内で2位になりましたが、この点について

 うれしいですけど、正直駅伝に直接的につながるかといわれると、そうでもないなと思います。満足してないわけではないですけど、周りも走ればこれくらい走れるやつも何人かいるので…。でも周りにちょっとでも部内2位だと思わせられたのならいいなと思いました。

――日本選手権の参加標準記録も突破したが、この点に関して

 正直切れるとは思ってなかったので、結構うれしかったです。せっかくなので出場することに決めたけど、正直自分の今の位置からすると日本選手権に出て、箱根という流れはなかなか厳しい道のりになると思います。まずは日本選手権で自分がどんな走りをするかで、部の流れや雰囲気とかも変わってくると思うので、まずはそこに集中してやろうと思います。

ハイペースで押して、粘れれば

――箱根まで残り一ヶ月と少しですが、現在どのような心境ですか

 周りもかなり練習できていて、自分も去年よりはすごくできているので、本当に良い流れできていると思います。練習に対するみんなの意欲とか貪欲さが見えていて、正直去年とかは今年大丈夫かなという思いの方が強かったですけど、今年はみんなの良い姿勢とか雰囲気が見られるので、とても楽しみという感覚でいますね。

――吉田主将はどのような主将でしょうか

 まず一言でいうと真面目です。僕も一時期足痛い時に吉田さんに結構相談事をして、それで真面目に聞いてくれて、色々助言をもらったので。真面目だし、選手一人一人に対しても優しい目で見ていて、普段表には出さないですけど、周りのことを気にしてくれて、とてもいいキャプテンだなと思います。

――ご自身の現在の調子を教えて下さい

 そうですね。最近5000メートルしか走っていないので、その中だったら結構スピードついてきていいのかなと思っています。箱根となると、正直長い練習もしてないので、どうなるかわからないです。

――去年の自分とここが違うという点を教えて下さい

 ここが違うとなると難しいですけど、根本的に走りも変わって、無駄な動きが去年よりは少なくなったので、スピードに乗りやすい走りになりました。自分の中でも練習できてきて、練習楽しいなと思う時があって、それがずっと続くことで、陸上自体も楽しいなと思うことが変わったことで一番かなと思います。それに伴って結果もこうやってついてきたし、周りの雰囲気もだいぶ変わって、そこが変わったからこそ自分のパフォーマンス全体、動きとかが変わってきたのかなと思いました。

――出走を希望している区間はありますか

 スピードを生かして最初6区とか狙っていたけど、足がちょっと不安だと。監督と相談して、9区とかなら良い走りできるのではないか言われたので、狙うとしたらその一区間だけです。出来る限りの努力はして、走れたら走れたで、走れなかったら走れなかったで、という感じですね。

――チームの目標は3位以内ですが、個人の目標を教えて下さい

 区間賞って言いたいですけど、すごく自信があるわけじゃないので、それでも区間3番とかは狙いたいですね。走るならそこ狙いじゃないと周りにも失礼なので。

――練習を共にする中で、意識している選手はいますか

 今のところいないですけど、今千明(龍之佑、スポ3=群馬・東農大二)さんと一緒に練習しているので、千明さんもすごく良い走りしていて、すぐに巻き返されるなと思うので、二人で上り詰めて一緒に走れたらなと思っています。

――メンバー入りを目指していくライバル選手の中で勢いを感じる選手は誰でしょうか

 チーム内だとみんな勢いがあります。でも本当に今日の練習を見ても前の練習で短い距離でも、井川(龍人、スポ2=熊本・九州学院)は強いなと思います。今日も強い風の中、後半引っ張っていて、本当に楽そうにしていて、すごいなと思ったし、すごく良い走りしていて。井川だと定番すぎるかな(笑)。正直5000メートルを走ったら、負けるなと思いますね。あいつならすぐに僕の記録も中谷さん(雄飛、スポ3=長野・佐久長聖)の記録も普通に抜きそうなので、駅伝もすごい走りをしてくれるかなと思っています。

――ラストのアピール争いで勝つために、箱根に向けて残りの期間で詰めていきたい部分はどこですか

 来週日本選手権があって、そこまで調整という形になって、その後に集中練習と呼ばれる練習に参加していきます。まずは日本選手権をしっかり走って、疲労を残さないようにすることですね。みんなに遅れを取って合流する分、各自のジョグの時にどう工夫できるかというのが問われると思うので、体と相談しながらですけど、質良く量も多くやっていけたらなと思っています。選考の形がどうなるとかまだ分かっていないですけど、自分の強みを出して周りをビビらせられるようにして、良い緊張感にできたらなと思っています。

――アピール争いをする中で、ご自身の走りの強みを教えてください

 強みは、駅伝だとあまりわからないですけど、トラックだとラストパートだったら自信あるので、駅伝でもそこを発揮できればなと思っています。元のスピードを活かして、ハイペースで押して、粘れればと思っています。

――箱根への意気込みをお願いします

 チームが3位以内という目標で、今の状況を見ても絶対に狙える位置にはいると思います。それぞれが頑張れば絶対いけると思うので、僕もちょっと出遅れてしまうのですが、走れる走れない関係なく、練習では貪欲にそれぞれ強みを見せていって、みんなで自信をつけていって、駅伝にしっかり臨んで、その強みを本番出せたらなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 西杉山亮)

◆小指卓也(こざす・たくや)

2000年(平12)9月12日生まれ。173センチ、58キロ。福島・学法石川高出身。スポーツ科学部2年。自己記録:1500メートル3分54秒18、5000メートル13分41秒01、1万メートル29分42秒82。最近のマイブームは、コンビニスイーツを厳選して食べることだそうです。先輩となった小指選手は、辻選手とよくジョグに行くそう。箱根では、スピードを活かした積極的な走りとラストスパートに期待大です。