【連載】箱根事前特集『臙脂の誇りを取り戻す』第8回 井川龍人

駅伝

 11月末に1万メートルで自己ベストを大幅更新する28分12秒13をマークし、世代トップレベルに復活した井川龍人(スポ2=熊本・九州学院)。「自分に甘くなっていた」昨季から心機一転、自らプラスアルファの練習を志願して距離を踏み、駅伝を見据えて地道に練習を積んできた。今季の全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では2区区間5位と、昨年の1区16位と比べて大躍進。東京箱根間往復大学駅伝(箱根)を前に、好調の理由に迫った。

※この取材は11月28日にリモートで行われたものです。

自分に厳しく

11月28日の練習後に撮影

――まずは前回の箱根後から振り返ります。箱根の後の調子はいかがでしたか

 1回箱根のときに故障してしまってあまり練習を積めていなくて。それでやっとできたくらいから新型コロナウイルスの(感染拡大防止に伴う)帰省に入ってしまった感じですね。

――新シーズンの目標としてはどんなことを掲げていたのでしょうか

 トラックシーズンがあるかどうか分からない感じだったので、とりあえず駅伝に目を向けて距離を踏んだり、基礎的なところに取り組んで距離に対応できるようにしようと考えていました。

――今季最初のトラックレースは、3月8日の第5回早大長距離競技会1万メートル。28分台に迫る29分01秒31をマークしました

 今まで1万メートルを走っていなかっただけで、このタイムはいつでも出ていたんじゃないかなと思います。

――前回の箱根後対談では「大学に来て自分に甘くなっていた」と振り返っていました。改めて、昨季の自分をどう振り返りますか

 やはり言った通り甘くなっていて、与えられたメニューしか取り組んでいませんでしたし、ちょっときつかったら練習を止めてしまうという部分がすごく多かったなと思います。

――それに比べて今季の自分はいかがですか

 決められた内容以上のことをやるようにしていますし、疲労できつくても「レースではもっときついことがある」と自分に言い聞かせてそこからひと踏ん張り頑張ったりとか、ポイントとポイントの間の日のジョグもしっかり走り込んだりとか、自分に厳しくしっかりと今年はやり始めたのかなと思います。

――どこで気持ちが切り替わったのでしょうか

 昨年一年間を通して納得のいく結果が一度も出なかったので、色々考えたらやはり高校のときと比べたらすごく甘くなってしまっていたなと思ったので。

――その後コロナの影響で解散期間になりましたが、その期間はどのように練習に取り組んでいましたか

 九学(九州学院高)の同期とかと、集まれても2週間に一回ほどですがポイント練習などを行ったりはしていました。それ以外は一人で気が向いたら山に走りに行ったり、ほとんどジョグがメインで。あとは坂ダッシュとかですかね。

――地元にはいつからいつまでいたのでしょうか

 たぶん3月の後半から7月くらいまでです。

――解散期間で走力はマイナスにはならなかったですか

 帰ってきてからの練習についたときはすごくきつくて離れたりもしたのですが、新型コロナウイルス(感染拡大防止)の影響で休んだ期間で、今までずっと高校から休みなしで続けてきたのが一回リフレッシュというか、気持ち的にリセットできたので、帰ってきてからの練習というのはすごく身が入ってやれたかなと。

――解散期間に大変だったのはどんなところですか

 やはり一人なので、ジョグとかでも疲れたらすぐ止めてしまったりとか、ポイント(練習を)していても一人だとどうしても設定より速くいけなかったり設定通りいけなかったりとか。そういうことがあったので結構大変だったなと思います。

――モチベーションはどんな状態でしたか

 下がってはないですけど上がってもない感じですかね。

――一人での解散期間を経験したからこその収穫はありましたか

 チームメイトがいて一緒に練習できることは大事なことなんだなというのを感じました。

――仲間がいると練習の身の入り方も違いますか

 そうですね。やはり身の入り方も違いますし、ポイントとかでも引っ張ってくれたりするので、サポートしてもらっているなと感じましたね。

――(部員日記より)解散期間に英語の勉強をしたということですが、その成果は

 英語の勉強は1週間くらいで終わりました(笑)。結構はまりやすくて飽きやすいタイプで。だからたぶん映画などで誰かが英語話しているのを見て、うわかっこいいな勉強しよう、と思ったけど多分すぐ飽きました(笑)。

――そこでは海外で競技に取り組みたいという言葉も出ていました。その点はいかがですか

 それはやりたいです。できたらアメリカとかに行ってみたい気持ちはすごくあって。創士(鈴木創士、スポ2=静岡・浜松日体)とも相楽さん(相楽豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)に何回かお願いしているのですが、それが実行できたらいいなと。行くこと自体が結構難しいことなので、時期とかは気にせずどこかで行けたらいいなと思っています。

――地域などの希望はあるのでしょうか

 そうですね…アメリカだったり。オーストラリアは高校の時に2回行ったのですが、そこまでトップレベルのチームとやったわけではなくても日本とは全然やり方が違ってすごい学ぶことが多くて。そんなに欲は出さないですが、どこかのチームと合同でやれたら面白いかなと思っています。

――帰省中に地元が豪雨被害を受けるなど、大変な時期もあったと思いますが、ご自身への影響はありましたか

 家自体の被害はなく、結構水が上がってきていたので車が1台ダメになったくらいで済みました。ただ僕の友達の家とか川沿いの家は結構浸かってしまって全然住める状況じゃなかったので、手伝いに行ったりする期間が1、2週間くらいずっとありました。

――チーム自体は6月下旬に再集合していたと思いますがご自身はまだ地元で

 少し遅めに帰るつもりでしたが災害が来てなおさら帰れなくなってしまって、そうしたら練習する場所もなくなってしまったので、もうそれは帰るしかないなと。

夏以降の成長

11月21日の早大競技会では、1万メートルで大幅に自己記録を更新

――夏季集中練習で強化したポイントは

 フォームを変えるというのをまずは意識していました。それにあたってまずは筋力が足りないなと思って、基礎的な体幹トレーニングなどをもう一回、真面目に毎日コツコツ取り組むようにして、ドリルなども積極的に行いました。

――フォームを変えたいと思った理由は

 今までやってきた動画を見ていて、足が流れていたりとか、ラストになるとスピードは出るけど動きがばらばらになっていたりとか。あと重心の位置が低かったり色々な面でトップレベルの大迫さん(大迫傑、平26スポ卒=現ナイキ)などと比べると欠けている部分がすごく出てきて。時間があるし、トラックレースもなかったので、ここで変えようと思って変えました。

――今のフォームはどうですか

 最近は重心も高くなってきているので、ここからもう一つの課題としてはもっとバネを付けて一歩で大きく、もっと前に進めるくらいの力が備わればいいなと思います。

――合宿は例年とは異なる形態でしたが、所沢になって大変だったことはありますか

 すごく暑くて、何回か熱中症になりかけて全然走れないような、練習が継続できなかったときもあったのでそれが一番きつかったですね。

――逆に良かったこと、収穫は

 暑いので汗沢山をかいて、水分もしっかり摂っていたら結構いつもより楽に体が絞れてきた感じはすごくあります。

――練習の消化具合はいかがでしたか

 所沢ではみんなと変わらないくらいで与えられたメニューを最低限という感じだったのですが、菅平に行ってからはプラスで結構行うようになりました。

――9月30日の第6回早大競技会では5000メートルで自己ベスト(13分45秒30)をマークしました。この要因は

 一番の要因はやっぱりフォームが変わったことかなと思っていて。その時の動画を見返しても今までと比べていい走りになっていたので、それが一番大きかったかなと思います。

――一方10月11日のトラックゲームズinTOKOROZAWAでは29分23秒02でしたが、このレースを振り返っていかがですか

 言い訳っぽくなってしまうのですが、本当はすごく楽に走れていたのですがマメができてしまって。それでもう足を着くたびに激痛がきて、本当は止めたいという状況でした。その後は靴下を変えたのが結構良かったかなと。

――久々のロード、久々の駅伝だった全日本の手応えは

 2区だったのでチームに流れと勢いをつけるというのが1区と同じく仕事だと思っていて、区間賞を狙うのと先頭でタスキを渡すことを高い目標に設定していました。それを両方とも達成することはできなかったのですが、区間5位で、先頭も見える位置で順位も少しは上げられたので、最低限の仕事はできたかなと思います。

――ご自身の走りに点数をつけるとしたら何点ですか

 60点くらいです。

――厳しめの評価なのでは

 本当はタスキをもらったときに明治の小袖さん(小袖英人、明大) について、あそこでトップまで最初に行っておけばもっと違ったレース展開ができたかなと終わってから思うので、そこが結構マイナスポイントでした。

――見つかった課題はありますか

 突っ込まないといけなかったのに突っ込めなかったというのはやっぱり自信がまだなかったのがすごく大きな部分だと思っていて。そのためにももっと距離に慣れることが重要で、(そこに取り組むことで)この前1万メートルで自己ベスト(28分12秒13)が出たのですが、そういうのにつながっていくのかなと思います。

――11月21日の第9回早大競技会で1万メートルの自己ベストをマークした際、トラック1周68秒ペースでも余裕だったということでした

 毎日30キロ走ってきていたので結構体力や、乳酸的なところなのですがそういうのが強くなってきたのではないかなと。来季はみんなと同じスパイクでこれくらいの結果が出せたらちゃんとしたタイムだなと思っているので、今回の(記録)はそこまで、満足せずにいきたいなと思っています。

――このタイムは(取材時点では)同世代の田澤廉選手(駒大)の自己ベストを1秒上回りました

 走る前まではそんなに意識していなかったのですが、越すことができたので、やっと同じラインに追いついたのかなと思ったので、ここから気を抜かずにもっと差をつけられるようにしていきたいなと思います。

――今季全体的に調子がいいように見受けられますが、ご自身の感覚はいかがですか

 昨年に比べるとすごく良くなってきていると思います。その要因としてはフォームを変えたことと、距離を踏むようになったということと、一回コロナ(の影響による解散期間)でリフレッシュできたことですかね。

――解散期間はマイナスではなかったと

 結構プラスにはなったと思います。

――今季はポジティブな言葉が多く見られますが、モチベーションはいかがですか

 今季は結構右肩上がりです。調子も気持ちも両方上がっていっています。

――全日本では前半から突っ込むことが課題として上がったと思いますが、それは箱根にも通じますか

 箱根でも少し前に他大学の選手が見えているならそこに追いついて、一人の力で走るよりは二人の力で走った方が良くなるし他の選手から差をつけられると思うので、そういうところでは見える選手がいたら前半は突っ込む勇気が必要かなと思います。

――希望は3区で変わらないでしょうか

 はい。でもどこでも大丈夫です。

――改めて箱根ではどんな走りをしたいですか

 区間賞を目指したいのと、前半区間だったら山までに大きな貯金をつくれる走りをしたいと思います。

――好記録が続出している陸上界ですが、同期、先輩後輩の走りを見て何か感じることはありますか

 高校の一個下の後輩が僕より先に28分台を出したので、負けられないなと思います。

――意識している選手はいますか

 田澤に勝ちたいというのはわりと大きなところで、身近なところだとやっぱり創士とか、僕の学年では強いので。あとは小指卓也(スポ2=福島・学法石川)に5000メートルの記録を抜かれて悔しいと思ったので、そういうところから頑張ろうというモチベーションも出てきました。

――集中練習での調子はどうですか

 まだ始まったばかりであまりなんとも言えないですが、昨年は中盤あたりで一回足を痛めてしまって一回抜けたので、今年は余裕を持ってなおかつプラスアルファでできるくらいやれたら最高なのかなと思っています。

――自分の強みはどんな点ですか

 ラストスパートかなと。

――スピードはどう強化していますか

 スピードは元々小学校低学年のときにサッカーとは別に地元のクラブチームで陸上の短距離やっていたので、そういうところが今につながっているんじゃないかなと思っていて。今だったら練習後の流しとか坂ダッシュもたまに行っているので、そういうところがスピード強化につながっているかなと思います。

――では最後に、箱根に向けた意気込みをお願いします

 区間賞と、前半区間を走ると思うのでチームを勢いづけられるような走りをしたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 布村果暖)

◆井川龍人(いがわ・りゅうと)

2000(平12)年9月5日生まれ。178センチ、63キロ。熊本・九州学院高出身。スポーツ科学部2年。自己記録:5000メートル13分45秒30。1万メートル28分12秒13。ハーフマラソン1時間4分50秒。競技に関しては地道に練習を積んでいる井川選手ですが、プライベートでは飽き性だそう。最近はまったピアノもいつまで持つか分からないとのことですが、1曲は完成させたいそうで、その行く末にも注目です!