【連載】箱根事前特集『臙脂の誇りを取り戻す』第6回 辻文哉

駅伝

 今、波に乗るルーキーが初めての箱根路を迎えようとしている。辻文哉(政経1=東京・早実高)は、同期入部した選手に比べて高校時代の目立った実績は少ないながらも、今季に入って大躍進を遂げた注目株だ。9月の早大競技会で5000メートル13分50秒を切ると、11月の全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では1区で区間6位の健闘を見せるなど周囲からの期待も大きく高まっている。そんな辻が、今回、飛躍の要因、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)への思い、そしてなりたいエース像について語ってくれた。

※この取材は11月28日に行われたものです。

コロナ禍でのシーズンを振り返って

12月20日の合同取材にて

――大学入学後初のトラックシーズンでした。振り返るとどんなシーズンでしたか

 入学してすぐにコロナウイルスの影響を受けたため、例年とは違った形でのシーズンのスタートで、4月5月は先が見えず苦しい時もありました。その中で、今までは目標に向けて逆算していくやり方でしかやっていけなかったのが、先が見えない中でも今の自分の現状を見つめて、積み上げてくということができるようになったと思っています。そこから8月にレース、9月に駅伝シーズンが始まってからも、自分の目標に対して見合った結果を残すことができたところが良かったです。

――今シーズンの目標はどのように立てていましたか

 早大として駅伝3位以内が目標であったので、個人としても区間3位以内などチームに貢献できる走りができるように目標を立てていました。

――ルーキーイヤーにもかかわらず、コロナの影響など例年とは違って調整が難しいシーズンだったように思います。コロナの影響で特に大変だったと感じたことは何がありますか

 練習環境が近くの陸上競技場が使えない、人と練習できない、人の多い時間には練習できない。などの場面があったので、モチベーションを保つことや、練習環境を確保するのに苦労しました。

――自粛期間中など思うような練習ができない中で、どのようにモチベーションを保っていましたか

 正直保てていたかどうか自信はありませんが、チームでの週に1回のミーティングや活動報告を通して、チームの人からの刺激を受けてなんとか保っていた形ですかね。やはり駅伝が無事開催された場合に、後悔はしたくないと思っていたので、後悔が残らないように取り組もうという気持ちでいました。

――今季意識的に取り組んだ練習法は何かありますか

 大学に入ってレースの距離が伸びたので、戦いきれる体をつくるための基礎的な体づくりにはより意識して徹底して取り組むようになったと思います。

――食生活にも気をつけているということを耳にしましたが、食生活面では具体的に何を変えられたのでしょうか

 レース前だと外食を控えて自炊中心に過ごすことを意識するようになりました。また、自分で料理を作らなきゃいけない場面が増えたので、そういった場面で栄養を考えるようになりました。その他の場面でも、その日に取れていない栄養素があった場合には、簡単なものを作って補うようにしています。

「ようやく体が頭に追いついてきた」

――続いてレースの話に移ります。今シーズンで特に印象に残ったレースはありますか

 9月30日の競技での5000メートルですかね。7月の時点で14分5秒で、9月には13分50秒を切りたいな、というところで目標をしっかり達成できたのは印象に残っています。

――飛躍を遂げられた1年であったように思うのですが、今シーズンご自身で最も成長した部分は何だと思いますか

 考えていることに体が追いつくようになったことですかね。高校の時は、怪我が多くて体が頭に追いつかず、目標に対して見合った練習ができていませんでした。しかし、大学に入ってからはかみ合う部分が増えていきました。これが、今年1年の結果の要因だと思います。怪我なくやれたのは大きいですね。

――今後ご自身の課題として捉えている点は何ですか

 大学レベルで、他者と比べて圧倒的に勝る部分がないことですね。こうすれば勝てるといった勝ちパターンや自分の武器がまだ明確でないので見つけていきたいです。

――強みがまだ見つからないとのことでしたが、現時点で何を強みとして身につけていきたいなどありますか

 自分の力を絶対に出し切ることに自信が持てるようになりたいです。ラストのスプリント勝負には正直現時点では自信がありませんが、自分でレースを動かしてスパートがかけられるような選手になりたいと思っています。

――スパートをかける力を身につけるために、どんな練習をしていきたいですか

 箱根だと走る距離が20キロと長く、ラスト5キロでスパートをかけようとした時に、15キロまで余裕を持たなければいけません。そのため、15キロを余裕を持って走れるようなベースづくりをしていきたいです。

エースになりたいとの思いが強まった全日本

――次に11月に行われた全日本についてお伺いします。全日本では、区間6位と大健闘。改めて振り返るといかがですか

 今持っている自分の力は出し切れたという気持ちです。ただ、2区から4区で先頭に立ってもらえる位置ではつなげたものの、力のある先輩方が控えている前提での走りでした。自分で流れをつかむまでには至らなかったということです。なので、先輩方の走りを見てこれくらいチームの力になりたいとの思いが強くなりました。

――1区を任された時のお気持ちはいかがでしたか

 1区は高校時代にも走ることが多くて、自分の中で走るイメージがわきやすい区間であったので、気負いや緊張はなく臨めました。

――指揮官からはどんな走りを期待されての抜てきだったと考えていますか。また、その期待には答えられたと考えていますか。

 強い先輩方が控えていたので、先輩方が先頭に立てるようにつなぐ役割を求められていたと考えています。また、求められていた役割は果たせたかなという思いです。

――走りについての指揮官や周りの人からの感想はいかがでしたか

 指揮官からは、やれることはよくやったというお言葉をいただきました。また、家族、友人は大学駅伝デビューを喜んでくれましたね。自分の元気な姿を見せることができてよかったなと思っています。

――早大として5位という順位についてはどう捉えられていますか

 3位以内を目標にしていた中で、3強と呼ばれる大学が途中崩れる場面があったにもかかわらず、やっぱり負けてしまった。3位とのタイム差がそう大きくはなかったので、もう1枚中谷(雄飛・スポ3=長野・佐久長聖)さん、太田(直希・スポ3=静岡・浜松日体)さんのような走りができる選手がいたら結果は違ったかなという思いがあります。なのでその1枚に自分がなりたいです。

――全日本の結果を踏まえて、箱根で総合3位以内に入るためには何が課題だと認識していますか

 エースに頼らないチームでなければいけないということです。全日本では、2区から4区で流れを作って、それ以降も流れをつないでくれたんですけど、順位を上げるにはミスなくやるだけでは勝てないと思っています。駅伝全体のレベルも上がっているので、チーム全体のレベルももう1段階2段階上げていかなくてはなりません。

目指すは1区区間賞

11月28日の練習には、淡々と他選手とは別のメニューをこなす辻の姿があった

――箱根が一ヶ月後に迫る中、全日本以降、辻選手の大会出場はありませんが体の状態はいかがですか

 全日本が終わって、もう1人のエースになりたいという思いが強まったことで、練習に気合が入りすぎてしまい、股関節に痛みが出て走れない期間が2週間ほど続いていました。今(11月28日時点)は、走り出していて、メニューを削ったり変えたりしながらチーム練習にも合流できているのでここから調整していきたいと考えています。

――股関節という場所は今までも痛めたことがあったんでしょうか

 昨年の冬に箇所こそ違いますが、近い場所を痛めたことがあります。その時は治りが遅かったので今回不安でしたが、治療に通うことで、なんとかすぐ走れるようになってよかったです。

――箱根にかける思いは

 やっぱり自分が区間賞を取ってチームに流れをもたらしたいという思いは、怪我をしてからも揺らいでいないです。また、チームとして3位以内という目標があるのでしっかり達成できるようにしたいです。

――箱根での自分の役割はどう捉えられていますか

 理想としては、1区でスターターとして流れをつかみたいです。狙うは1区で区間賞です。ただ、チームの状況で任される区間は変わってくると思うので、任された区間でチームの流れを作る、また他大学の流れを断ち切る走りがしたいですね。

――早稲田のエースになりたいとの強いお言葉も聞くことができしたが、辻さんの目指すエース像はどんなものでしょうか

 他の大学の選手や監督に、自分の名前がエントリーに入った時点で脅威だと思われるような選手ですかね。あとは、安定していて、こいつがここにいれば大丈夫だとチームのメンバーが思ってくれるような圧倒的な信頼感のある選手になりたいです。

――箱根においてご自身のここを見てほしいというポイントはありますか

 自分の力をしっかりいつでも出し切れることと目標に対して妥協せずやっていけることですね。

――最後に、箱根への意気込みをお願いします

 区間賞を取って、総合優勝に向けた流れを作りたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 林夏帆)

◆辻文哉(つじ・ふみや)

2002(平14)年01月04日生まれ。167センチ。東京・早実高出身。政治経済学部1年。5000メートル13分49秒31。1万メートル29分08秒11。レース前のルーティンは、「高校の陸上部のマネジャーがくれたミサンガをつけること」だそう。箱根が終わると誕生日を迎える辻選手。次期エース候補に名乗りを挙げる快走を見せ、19歳の誕生日を気持ち良く迎えてほしいです。