『総合3位以内』の目標に向けて、チームを指揮する相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)。今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、例年と大きく異なる舵取りを求められた。この1年のチームの歩みと、現在のチーム状況についてお話を伺った。
※この取材は11月28日に行われたものです。
1年後ジャンプアップするには?
練習前のミーティングで選手に指示を出す相楽監督
――前回の箱根駅伝以降、どういった方針・テーマでチームの立て直しを図ってきましたか
シード権を取ることができてホッとした気持ちも少しはありましたが、それに加えてあったのが悔しいなという気持ちでした。昨年は箱根も全日本も予選会からだったので春は1万メートルを中心に、秋は20キロ以上を中心に取り組み、長い距離の走り込みが多かったです。そのためか、トラックシーズンを振り返った時に、5000メートルの自己記録を更新したのがAチームでいうと太田智樹(令2スポ卒・現トヨタ自動車)と井川(龍人・スポ2=熊本・九州学院)だけだったんですね。箱根の高速化を目の当たりにして、来年ジャンプアップするためにはどうしたらいいかを考えたとき、これからもっとスピードを付けていかないと、3大駅伝で戦っていけないよという話を、2月の鹿児島合宿の際に学生にしました。年間通じて強化を図っていくうえで、特にトラックシーズンについてはスピードに重きを置いて強化していこうというように学生には伝えていました。
――冬季練習の最中には、2月に中谷選手、3月に千明選手、井川選手が1万メートルで自己記録を更新しました。3選手の冬季練習の出来について振り返っていかがでしょうか
2月の中谷のレースは、箱根前の集中練習からの流れで都道府県対抗駅伝とセットで考えていまして、そこでは日本選手権標準にチャレンジするというところで出しました。井川と千明は、もともとは立川ハーフで勝負するつもりで走りこんでいた中で、大会がなくなってしまってやむを得ず1万メートルにしたという背景があったのですが、その中でも自己記録を出せたということで一定の成果を確認できた場だったかなと思います。
――立川ハーフの中止によって、冬季練習の成果を測る機会がなくなってしまった選手が多くいたと思いますが、彼らについて冬季練習の出来はいかがでしたか
鹿児島合宿を見ても、例年ですと誰かが故障して走れないというケースが多かったのですが、今年は合宿に参加したメンバーが切れ目なく継続して練習を積むことができていたので、確認の場はなかったものの、いい準備ができているのではないかという手ごたえはありました。
――その中で特にトラックシーズンに期待が持てそうだと感じていた選手はいましたか
前哨戦の唐津10マイルロードレースでは、太田(直希・スポ3=静岡・浜松日体)が2位でしたけど、終始先頭集団で勝負をしていましたし、井川、半澤(黎斗・スポ3=福島・学法石川)も後半失速したものの、やってきた準備からしたらかなり内容があるレースができていましたので、面白いのではないかなと思っていました。
みんなで集まって練習できる喜び、試合をできる喜び
――2月下旬から遠征が禁止になり、3月下旬には解散が決まりました。長い間直接選手を見ることができないという異例の状況、どのような思いでいらっしゃいましたか
最初の方は1か月くらいで戻れるのではないかとなんとなく予測していたのですが、長引くことが段々わかってきて、終わりも全く読めないという状況の中で、他大学さんの中には練習をできている大学もあるという情報がありましたので、焦りや不安を感じたり、イライラしたりすることもだいぶありました。学生たちとは練習報告や練習の指示で頻繁に連絡を取っていたのですが、一人になってみんなも寂しい思いをしながら練習をしっかり積むことができているメンバーが多かったので、今やれる環境の中でやるしかないというように私も頭を切り替えることができました。直接動きを見ることができないという物足りなさはありましたが、それは今の時代なので動画を自分で撮って送ってくる学生もいて、かゆいところに手が届くというほどではなかったですが、1対1×30人というやり取りができていたのかなと思います。なので、解散期間の後半については、やるべきことができたのかなとおもいます。
――解散期間中は練習メニューの指示を具体的にはせず、自主性を重んじたとお聞きしましたが、その成果を感じたことはその後ありましたか
試合もなかったですし、それぞれの地元でも競技場が使えなかったりしてトライアルもなかなかできなかったので、文字ベースの練習報告を確認しつつも、本当にやれているのかなという不安も大きかったです。解散期間の最後の方にチーム全体でトライアルを行った時に、結構走れてきているなというように感じて、そこでようやく成果を確認できました。
――解散期間明け、7月の記録会では多くの選手が5000メートルで自己ベストを叩き出しましたが、この要因をどう考えていますか
文字ベースでは練習状況を把握していたものの、実際の動きはなかなか見ることができていなかったので、もともとの位置づけとしては、どれくらいコンディションが戻っているかなという状態確認のつもりでした。いざやってみると自己記録を出した選手が非常に多く、しっかり基礎練習を積むことができていたんだなということがわかりました。何より学生がみんなで集まって練習できる喜びや、試合をできる喜びを本当に大きく持っていたのだなと確認できました。それこそ記録会を予定していた前日に解散が決まったという背景があったので、試合に飢えていたのだろうなと思いました。
イレギュラーな夏
――夏に向けていい流れができたかと思われた矢先、夏合宿を例年通りに実施できないことが決まり、所沢での学内合宿という形になりました。その中で、意識的に取り組んだことはありますか
量的な制限はかなりかかっていましたね。夏の日が昇っている間は練習ができない環境なので、少ない時間の中でいかに密度の高い練習をできるかということで、ポイント練習以外の場面でジョグの質を下げるなという話をしました。今までは量を積むために漫然と距離だけ踏んでいたようなところもゼロではなかったと思うのですが、所沢は練習する時間も短いし頻度も少ないので、1回1回の練習に対しての意識づけを徹底するようにしました。また、暑い中で練習をした時の効果ってどうなんだろうということを調べ、研究結果を学生に還元して、「暑い中の練習は苦しいことも多いけれども得られるリターンも少なくないよ」という話をしたので、モチベーションをなるべく下げないように持っていくことができたかなと思います。
――その後、9月の3次合宿では遠征を敢行しましたが、ここではどういった練習に取り組んだのでしょうか
できたといっても最後1週間行けただけだったので、例年やっているような駅伝シーズンを見据えた仕上げというよりは、所沢ではアップダウンのある場所を全く走れていなかった分、クロスカントリーコースを使って駅伝に向けて脚力の強化に取り組みました。平場しか走っていなかった中で、クロスカントリーコースを走ったらどうなるのかという確認・チャレンジというような意味合いもありました。
――アップダウンのあるコースでの練習で強さを示した選手はいましたか
トライアルをやったわけではなくて、本当にゆっくり足腰作りのために走っただけなので特に誰といったことはなかったのですが、鈴木創士(スポ2=静岡・浜松日体)あたりは特にうまくクロスカントリーコースを使っていい練習をしているなと思いましたね。
――鈴木選手の今シーズンの出来についてはどのように評価しますか
自粛期間中に意識高くトレーニングを積んでいたのですが、後半になって怪我をしてしまったので、戻ってきて最初の記録会(7月4日)に出ることができず、7月26日の記録会も3000メートルに出走したものの、万全ではない状態で夏の強化期間に入りました。夏もいい練習はできていたものの、記録会の直前で怪我があって消化不良が続いていました。それを引きずって全日本までみんなより一歩仕上がりが遅いかなと思うのですが、ここに来てやっと追い付いてきたかなというように感じています。
――夏合宿の消化状況は、全体的に見ていかがでしたか
スケジュールが例年と違うので比較は難しいですが、2月の鹿児島合宿に続いて、量が少ない分かなり怪我人が少なくて、組んだスケジュール通りにこなせたメンバーが多かったなと思います。
――10月には3.5次合宿を実施しましたが、こちらの目的は
1週間の3次合宿ではやはり走り足りないという部分があったので、オンライン授業しかない学生でもう1度クロスカントリーコースで脚づくりをしたいなというメンバーや、3次合宿の時に怪我や疲労で練習を十分にできていなかったメンバーを募っていった合宿でした。全員でこれをやろうというスケジュールを出すことはせずに、各個人が自分の課題に合わせて練習に取り組む合宿という位置づけでしたね。
粒ぞろいのルーキー、急成長のWエース
――日本学生対校選手権(全カレ)ではルーキーの活躍が目立ちましたが、今年のルーキーの印象は
3月に寮に引っ越してきて10日ほどで解散になってしまい、自主練習を強いられるということで厳しい状況下だったのですが、その中でも自分で考えて工夫して、いいトレーニングをしている意識の高い選手が多かったです。7月の記録会でも自己新記録を連発して、もともとセンスがある選手たちだなと思っていましたが、思ったより早く戦力になりそうだという手応えは感じていました。全カレに関しても、エントリーした段階で「今年は例年と違うスケジュールで臨むから、全カレでしっかり勝負しよう」というように言っていて、本当にいい準備をできていましたので、当日の結果についても良くやってくれたなという実感があります。
――10月のトラックゲームズでは、中谷選手、太田選手が1万メートルで日本選手権参加標準記録を突破しました。二人の今シーズンの出来についてどのように評価しますか
中谷については春から本当に高い意識を持って練習をできていて、トラックシーズンも5000メートルで自己記録を出し、それ以外にも13分台に近いところで4本そろえることができたので、秋にはしっかり勝負できるという手応えがあった中で全カレを迎えました。その中でのあの結果(1万メートルで30分34秒01の16位)には本人も私もショックを受けましたが、そこでレースの内容を分析して反省して、春からやってきたことは間違っていないと再確認したうえでトラックゲームズのレースに臨みました。失敗したレースの次のレースはやはり怖いものですが、その中でも積極的に実業団の選手に食らい付いていって、良く成果を出してくれたなと思います。太田については春から自己記録を更新していて、トレーニングの中でも一段階レベルの上がった準備をできていたので、自己記録は間違いなく出るし、勝負もできるだろうと思ってはいました。しかし私はあのレースに関しては太田が中谷のところまで行くとは思っていなかったので、想定していた以上に走ってくれたなと思っています。本人は日本選手権参加標準記録を意識していましたが、私は28分30秒を切れるのではないかなくらいにしか思っていなかったので(笑)、あそこまで頑張るとは思わなかったですね。
「全日本の結果に満足しているメンバーはいない」
――全日本では一時先頭を走りながら最終的には5位という結果でしたが、この結果についてはどのように捉えていますか
中谷、太田、千明(龍之佑・スポ3=群馬・東農大二)のうち誰か1枚は後半区間に残して優勝争いをする作戦を考えていたのですが、千明が出られないとなった時に、序盤から中盤にかけて主導権を握ってレースをしたいという思いであのオーダーを組みました。中盤から主導権を握って、1年生のところで我慢して最後どこまでいけるかなというようなプランだったので、当日の学生たちの走りについては想定通り、あるいはそれ以上にやってくれた区間もあったと思います。なので学生たちのレース運びについてはある程度満足していますが、上位4チームの中にはミスをした大学さんも多かったけれどそこに力負けをしたということで、やはり目標とする3位以内を狙うには、自分たちはまだまだこの内容に満足してはいけないなということを再確認させられたレースでした。
――3位以内の大学と早大の差はどのような部分だと認識しましたか
まずは、層が薄いチームだということ。千明が出られないという時にそれをカバーできる人材があの日はいなかったので、箱根については誰が走っても戦えるチームを作っていかなければならないと感じました。ゲームチェンジャーの配置を考えた時に、私たちは中盤に二人置いたけれど、上位の大学さんは7区か8区、あるいはその両方に置くことができていました。大砲になるべき選手が足りない分、チーム全員で数秒ずつでもカバーしなければならなかったので、誰が悪かったというよりは全員少しずつ力が足りなかったのかなと。そこが上位校との差だと考えています。
――それらの課題は現在どの程度改善に向かっていると考えていますか
先日行われた記録会(11月21日の早大競技会)でも、全日本に出ていなかった宍倉(健浩・スポ4=東京・早実)が自己記録を更新して、かなり高いレベルまで戻ってきましたし、次のゲームチェンジャーになるべきだと思っていた井川がしっかり明大のメンバーに勝ち切ってくれました。全日本でも頑張ってくれましたけれど、山口(賢助・文3=鹿児島・鶴丸)がさらにもう一段階上に来ています。全日本の結果を踏まえて、満足しているメンバーがいないんだな、もっと強くなりたいんだなと感じさせてくれるような、前進している姿が見られていることは、箱根に向けていい材料なのではないかと思います。
――全日本直後の記録会では小指卓也選手(スポ2=福島・学法石川)、半澤選手が5000メートル13分台をマークしましたが、その二人についてはどのように評価しますか
小指は夏からずっと足の痛みを抱えながら練習しているので、今みんなと違うスケジュールで動かしていて、スピード強化は本当にうまくいっていると思います。長い距離をまだ走れていなかったので全日本ではメンバーに入れずにやってきましたが、成果をしっかり形にしてくれましたので、今後頼もしい存在だなと感じています。半澤については、全日本でエントリーメンバーに入ってはいましたが、夏に練習に穴が空いた部分がありました。全カレもスピード強化をやった流れで1500メートルに出場したので、まずは練習の流れからして5000メートルで高校時代の自己記録を確実に更新して、前進している手応えを感じることが重要なのかなと思って出場させました。そこをクリアしてくれたので、いい流れを全日本から引き継いで頑張ってくれたなと思います。
――二人の長い距離への対応についてはいかがですか
小指は、朝は脚に痛みがあるようなので暖かい時間を中心に練習しているのですが、その時間も徐々に伸ばすことができています。箱根に関しては従来とは違うアプローチになりますけど、レースの内容を見てもこの流れで対応していけるのではないかと思っています。半澤は11/4のレース以降はみんなと同じ流れに戻していますし、箱根も去年経験していますので、このまま練習を積んでいけば十分間に合うだろうと思っています。
「芯の強さが今年のチームの特徴」
――集中練習が始まりましたが、現在のチーム状況は
千明もポイント練習を再開できるようになって、今日も怪我で走れていないメンバーが誰もいなくなっています。全日本の結果について「層が薄い」と評しましたが、今はそれを改善すべく走るべきメンバーが全員準備を進めることができていますので、順調にスタートできていると思います。
――集中練習を進めていく上で、特に重視している点は
今年は間違いなくスピードですね。昨年よりもレースはハイスピードで進むだろうし、昨年の7番から3番以内までジャンプアップするためには、チーム記録の更新のみならず、昨年の優勝タイムに近づくくらいでないと難しいと私は思っています。ですので、昨年と同様に進めながら、随所にスピード練習を意識的に入れていますので、今年のキーワードはスピードだと思います。
――夏合宿では例年のように距離を踏むことができなかったと思いますが、現在長い距離への対応はどの程度進んでいますか
全日本に関しても、例年と全く違うアプローチで臨んだ中で、後半の長距離区間・7区、8区はどうなるんだろうなと思っていたのですが、鈴木は良くない中でもしっかり粘り切りましたし、山口も20キロという距離をしっかり走り切ってきました。例年より距離への対応が遅れているとは思いますが、十分対応できる範囲に収まっているのではないかと今は考えています。
――現在山の2区間についてはどのように準備を進めていますか
経験者の吉田と半澤を軸に、複数人で競争させながら準備を進めています。起伏のあるコースを今年走ることができていないので、準備が後手に回っている部分もあります。ただ昨年とは違って年間を通じて強化してきている部分もあるので、それがいい方向に転んでくれればいいなというように考えています。
――総合3位以内に入るために、カギとなる区間は
やはり山ですね。昨年も確か山の2区間を足した順位は全大学で17番目かな。平地だけだと5番目だったんですよ。ここまでのレース結果を踏まえると、平地に関しては去年よりレベルアップしたものを見込めると思うので、あとは山の2区間で、去年を上回ることは当たり前ですけれど、どれだけ上位校と対等に戦えるかという部分が鍵になってくるのではないかと思います。
――今年のチームの強みを改めて教えてください。
芯の強さですかね。春から自分たちのやりたい活動が直前でとんでしまったり、思うような練習ができなかったりした中でも、じっと我慢して工夫を積み重ねてきて今があると思うんですよね。シーズンが始まってからも、合宿が中止になったり、出雲が中止になったりした中で、走りたい、強くなりたいという思いを積み重ねてきてここまで来て、ここ数年で一番「勝ちたい」「総合3位以内に入りたい」「何なら優勝したい」という言葉が自然と学生の口から出るようになってきました。これは私が強制したことではなくて、苦しい一年の中で耐えて鍛えられて内から自然に出てきたことですので、そういう芯の強さが今年のチームの特徴であり、最後には強みになるのではないかなと思っています。
――それが今年の好記録連発の一つの要因でもあるのでしょうか
だと思いますね。苦しい場面でも本当に粘り強くペースを落とさずに走れるようになってきました。今日の練習でも、苦しくなって離れてからも粘り強く走っている学生が多いですし、離れそうな学生がいると声を掛けて発破をかけるような雰囲気が出てきています。それについては、繰り返しになりますが私が強制したものではなく学生たちの「勝ちたい」「強くなりたい」という思いから自然に出てきたものですので、それはここ数年ではなかった強さだと思います。
――最後に、箱根駅伝に向けて意気込みをお願いします
全日本で優勝が見えている中でスルリと逃げて行ったことに関しては、個人的にすごく悔しい思いがありますし、学生たちも同じ気持ちを持っているかなと思います。一方で、目標とする総合3位以内が決して簡単ではないということも自覚していますので、ここからの1か月少しの準備期間も、油断なく、甘えなく、隙のない準備をしていきたいと思います。当日はみんなでゴール地点に集まることは難しいと思いますが、それぞれの場面でやりきったぞという思いを持てるように、笑顔で大手町のゴールを見届けられるように、全力で準備していきたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 町田華子)