【夏合宿特集】相楽豊駅伝監督ロングインタビュー

駅伝

 8月も後半に差し掛かったこの日、長距離ブロックの部員たちは長野・菅平高原にて2次合宿に取り組んでいた。今秋は出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)の出場権を得ることができず、代わりに東京箱根間往復大学駅伝(箱根)の予選会が全日本大学駅伝対校選手権(全日本)の1週間前に存在する。例年とは異なるスケジュールの中、相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)はチームをどのように捉えているのだろうか。

※この取材は8月19日に行われたものです。

不完全燃焼の春

トラックシーズンを振り返り、秋以降へのビジョンを語った相楽豊駅伝監督

――前半シーズンを振り返っていただけますか

 箱根が思ったよりも悪い結果で、チームも故障者を抱えた状態で年を明けたので、少し例年より冷却期間、休息期間を長めに取って再スタートしました。年が始まったときに、改めて自分たちの競技に対する思いとか覚悟とか日頃の行動を見直そうということで、けが人を出さないということ強く言ってスタートしました。それがとりわけ箱根の敗戦の原因の一つでもあったと思ったのです。

 それでも蓋を開けると、1月、2月で大小はありましたけど、けが人がぽろぽろ出てしまいました。立川ハーフ(日本学生ハーフマラソン選手権)のスタートラインに主力を含めて半数近くが立てない状態で3月を迎えていたので、非常に苦しい年明けからのスタートになりました。自分たちが思っていたところよりもだいぶ遅れて3月までのロードシーズンが終わり、トラックシーズンに入ってしまいましたね。ただ1月、2月、3月と時間が進むにつれて、けがをしていたメンバーが合宿に戻ってきましたので、鴨川(合宿)ではまだ万全とは言えなかったですけど、右肩上がりでトラックシーズンを迎えられたのかなと思います。

 それもあって、トラックシーズンに入ってキャプテンの太田(智樹駅伝主将、スポ4=静岡・浜松日体)を始めとして中谷(雄飛、スポ2=長野・佐久長聖)や井川(龍人、スポ1=熊本・九州学院)など、チームの柱となるべき選手が自己ベストを出すなど良いかたちでトラックシーズンを迎えられました。関カレ(関東学生対校選手権)では複数入賞という意味では太田(智、1万メートル6位)と吉田(匠、スポ3=京都・洛南、3000メートル障害3位)、あと半澤(黎斗、スポ2=福島・学法石川、1500メートル6位)も入賞して、そういうところは達成できました。しかし、チームのベストなメンバーがベストな結果を対校戦で出すという、いつも言い続けていることに関しては、まだ万全の状態でスタートに立てない選手がいましたし、他校と比べても十分に得点を重ねられた試合だったとは言えません。自分たちが目標としているものと現実とのギャップがあったなというところです。

 次は全日本の予選会になりますが、それがトラックシーズンの最後の大きな山場だったので、トップ通過を目指して挑みました。色々原因はありますけど、結果的には1位、2位とは差を開けられた3位通過。(チーム全員が)初めての予選会で出場権を得られたのは最低限良かったことではありますが、やはりまだ自分たちが言い続けている目標とのギャップを感じてトラックシーズンは終わったかなというところだと思います。

――ここまででうまくいっている点はありますか

 先ほども話した通り、小さくではありますけど自己ベストを出す選手が多くなってきていることです。あとは月が進むにつれて故障者がいなくなりまして、夏合宿を始めた地点では大きな故障を抱えているメンバーはいない状態です。そういう意味ではやっと戦うための準備をする状態はつくれたのかなと思いますね。

――今の状態はシーズンが始まる前に想像していた状態でしょうか

 ベストな力と言ってもその時出さなければそれがベストな力になるのですが、このチームの持っている可能性とか能力からしたらもう少し戦えるだろうと思っています。対校戦の日に自分たちのすべき力を全て出したかというとそうではないことが続いていて、まだまだやれると思って毎回対校戦を終えているあたりが想定しているよりもだいぶ低いところで(状態が)推移しているのかなと思います。

――前半シーズンの中で最も良かった選手を挙げるとすればどなたでしょうか

 結果で、ということで言うとやはり吉田になるのではないでしょうか。六大学(東京六大学対校大会)の自己ベストを出して優勝というのもありますし、関カレでは表彰台に立ちました。全日本の予選会ではブレーキをしてしまいましたけど、日本選手権では短いシビアな日程の中でも決勝に進出しています。タイムも伸びましたので、一番活躍したのかなと思います。

――監督は今年で5年目となりますが、何か今年から変えられたことはありますか

 冒頭でも言ったのですが、これまでは高いレベルで結果が出ていたチームからすると、去年の一年間のシーズンは苦しいシーズンとなりました。ですから、ここでまた改めて何かを変えるというよりは、原点に戻り生活の中での細かいことや、練習中の雰囲気など、そういうところにこだわって、基礎基本を徹底することを大事にして今はやっています。

鍛錬の夏

相楽駅伝監督がチームの軸として挙げる駅伝主将の太田智樹。走りでチームを支えている

――今年は秋に箱根予選会があるということで、例年と比較して合宿のプランに違いはありますか

 例年と比べると早い段階でハーフマラソンを走らなければならないということになるので、少し走り込みの時期を早めにして7月から始めていることと、合宿の仕上がる時期を繰り上げて日程を組んでいますので、そのあたりの変化はあります。

――それが昨日40キロ走を行ったことに関係もあるのでしょうか

 例年行っているメニューの1つではありますが、あれだけの大人数で行ったのは初めてです。例年ですと、この合宿で強化する組と全カレ(日本学生対校選手権)を控えている組があって、その2つを分けていましたが、今年は全カレ組は調整が例年よりも厳しくなるのを前提で強化組と同じメニューを行っています。

 また予選会があるということでBチームからも人数を多めに引き上げて練習しています。そのあたりが予選会対策の一つとして例年と違うところですね。

――2次合宿の締めの練習となった40キロ走の出来についてどのようにお考えですか

 昨日は暑い中始まって、途中雨が降って体が冷えてしまう簡単なコンディションではなかったのにも関わらず、例年よりもまとまった人数が完走したのは1つ良かった点かなと思います。ただ、自分たちが目指している目標からしたら、他大学と比較して客観的に自分たちのチームを見た時に、やはりあのレベルの練習で離れてしまう選手が出てしまっては駄目ですし、(そういった選手を)少しでも減らしていかなければいけません。まだまだ他大学と互角に戦える状況ではないと見ています。

――A、B、Cのそれぞれのチームで入れ替わりの激しさは見られますか

 まだ1次合宿から2次合宿の間で大きな変化はなくメンバー自体は固定されています。今出遅れているのが主に4年生などの上級生になるので、そのあたりが復調してこなければ現チーム本来の姿にはなりません。その一方で特に2年生たちがかなり伸びてきていることも事実ですのでチーム内競争が激しくなってくることを期待しています。入れ替えが起きるくらいになってほしいですし、逆に入れ替えが起きないくらい今Aチームにいるメンバーが頑張ってくれると本当に強いチームになれると思うので、両方に期待しています。

――合宿を通じて急成長を見せている選手はいますか

 今一番練習の中で目を見張るような変化を見せているのは尼子(風斗、スポ4=神奈川・鎌倉学園)ですね。トラックシーズンはけがなども続いて4年生の中でも力の面で取り残されている印象があり、私自身も少し厳しく、本人には強く指導してきました。6月あたりには必死に練習に向かっている姿を目にしていて、どこまで上がってくるのかなと見ていましたが、Aチームに上がってきてもそのメンバーから練習でこぼれることもほとんどありません。安定して練習が積めているので4年間で一番良い状態でここまで来ていると思います。彼の場合はけがが心配なのですが、このまま継続して練習ができれば秋にはさらに成長した姿が見られると思っています。

――現時点でチームの軸となっている選手はどなたですか

 やはりこのチームの軸はキャプテンの太田(智)ですね。去年はけがなどもありまして合宿の練習にほとんど参加することができませんでしたが、今年はトラックシーズンから安定した走りを見せていますし、それに引き続いて練習を引っ張ってくれています。後輩にもすごく気をかけてくれていて、このチームを走りで支えるという強い気持ちが走りに現れているように感じています。

――B、Cチームで注目している選手はいますか

 特定の誰か、というよりはそれぞれ、全員に期待しています。特に4年生、対校戦でエンジのユニフォームを着た大木(皓太、スポ4=千葉・成田)、三上(多聞、商4=東京・早実)、真柄(光佑、スポ4=埼玉・西武学園文理)あたりがまだBチームにいます。そういった選手がAチームに絡んでこなければいけないですし、彼らに引っ張られて下級生にも成長が見られていて、駒野亮太長距離コーチ(平20教卒=東京・早実)は彼らの成長は見ていて楽しいだろうなと思うような頑張りを見せてくれています。

――4年生にはどのような期待を寄せていますか

 やはりこの早稲田というチーム、そして学生スポーツは、4年生がしっかりと先頭に立ってチームを引っ張ってくれないと、チームのまとまりも出ず下級生もついてきて来ません。ですので、彼らがもう一歩レベルの高い思いや覚悟を持ってこの合宿の後半に上がってきてもらいたいと思っています。

――今年のチームの雰囲気やチームカラーについてはどのように感じていますか

 明るかったり仲が良いのは昨年と似ているのですが、やはりそれだけでは戦えない、勝てないというのが分かってきています。昨日の40キロ走もそうですが、この練習は絶対に外してはいけない、負けてはいけない、絶対に勝たなければいけない、といった戦う姿勢がこの合宿中に少しずつ見られるようになりました。ただの仲良しチームではなくなってきていて、戦うチームに雰囲気が少しずつ近づいているという感覚は間違いなくあります。

――出雲がないことによって例年と比較して選手たちの士気に変化はありますか

 やはり学生三大駅伝の1つに出場できないのは非常に残念なことではありますが、2年生以上はある意味で自分たちの自己責任で箱根のシードを落として出雲も出られないという状況になっています。そこに対しては悲壮感というより、予選会をしっかり戦った上で全日本と箱根を戦えるチームにしていこうという思いで統一していると思います。

――今年のルーキー選手たちについてはどのように見ていますか

 入学する前から才能のある選手たちだと思っていましたし、特に一番実績があった井川を中心にトラックシーズンも非常に頑張ってくれました。私たちが想定していた以上に大学の練習に早く順応していて、全日本の予選会では3人(井川、小指卓也・スポ1=福島・学法石川、鈴木創士・スポ1=静岡・浜松日体)が大きく貢献してくれましたし、ここにきて故障で出遅れていた安田(博登、スポ1=千葉・市船橋)も他の3人に追い付いてきています。駅伝シーズンでも思っている以上に1年目から戦力になってくれるのではないかなという頑張りを見せています。

ステップアップの秋

エース頼みにしない、誰もが箱根の2区を走れるようなチームを目指していくつもりだ

――ここからは秋のシーズンについて伺います。いよいよロードのシーズンとなりますが、どのようなプランで進めていきたいとお考えですか

 やはり避けて通れないのが箱根の予選会になります。そこでしっかり箱根の出場権を取るということも大事ですし、去年の駒澤大学がそうだったように、予選会には自分たちの力を測る、あるいは見せつけるというような意味も含まれていると思います。まずは着実にトップ通過を狙って夏合宿の成果を見せるというのが一番重要だと考えています。

 ただ、あくまで予選会の話なので、そこは通過点として捉えた上で、(同じように重要なのは)1週間後にある全日本ですね。厳しい日程となりますが、来年の予選会に出ないためにも、シード権のみならず、目標は3位以上なので、優勝候補と呼ばれる大学と肩を並べて戦えるような準備をしようと言っています。

 その先に箱根がもちろんありますが、全日本が終わってから切り替えて集中練習に向かうというような仕切り直しができると思っています。前半には予選会と全日本の本戦で、仕切り直して箱根にチャレンジするという二段構えで今考えています。

――今のところ箱根予選会と全日本では、どちらかに軸を置くというよりもどちらにも軸を置くという感じなのでしょうか

 そうですね。どちらも重要度が高いと思っています。全日本も学生三大駅伝の一つでありますから、100%を出さないといけないですし、かといって予選会に対するウエイトが下がってしまうと、近年レベルが上がっていて非常に拮抗(きっこう)しているので、ちょっとした油断やアクシデントで通過できないというような事態も十分あり得る事だと思います。どちらかというよりはセットで全力で戦う、それができるようなタフな精神力と体力を付けようと春からずっと言い続けています。

――箱根予選会と全日本では起用する選手をなるべく変えようとしているのでしょうか

 これから考えることになりますが、学生たちには、今年はそれが可能にできるチームになってほしいと話しています。先ほども言いましたけど、一人一人に「ハーフマラソンを走って翌週に全日本をセットで走れるようなタフな選手を目指そう」と言っています。ただ一方では、エンジを着ている経験者、あるいは駅伝の経験者、インカレの経験者を含めるとかなりの人数が対校戦の経験のあるチームです。また1、2年生が非常に目覚ましい成長を見せていると思っています。

 ですから、予選会を走る12人と全日本の8人、合わせて20人近くが誰でもいけるというチームになれば、『全日本、箱根3位以上』という目標が達成できるんじゃないかという話は学生にしているので、それが達成できるようなチーム状態にできればと思っています。

――箱根予選会に向けて、Bチームはどのような位置付けですか

 今この合宿に入ったところで、当然合宿の中で入れ替えが発生することも含めて、あまりAとBで明確な境目はなくなっていると思います。Aチームに任せておくとか、エースに頼ってしまうとか人任せなチーム状態は特に昨年の一年間はあったと思っています。それがあって、年明けにもチームの課題に対して人任せにしない、先送りにしないと言っています。

 その意味では、AとBというのがかたち上はありますけど、BチームのメンバーがAチームに上がってきたら、「ここにいる時点で対校戦に出る覚悟を常に持って練習しなさい」といつも言っていて、合宿中のBチームの位置づけもAチームのサブ的な感じとか、育成するという視点はあまり持たずに声を掛けるようにしています。

――今の時点で気になっている他大学を挙げていただけますか

 当然優勝候補と呼ばれる大学ですね。去年の駅伝も活躍している上位校は気になりますが、しばらく肩を並べてレースすることをしていません。また、全日本の予選会では東京国際大学や明治大学に負けています。色々な大学が伸びていますので、今年は上位だけ見て戦うのではなく、広く視野を持つようにしています。

 今この時期はどのチームがどういう状態でやっているかは全くわからないので、常に学生には優勝候補の大学が一番良い状態で横で練習したらどういう練習をするかを想像しながら、戦うべき相手を間違えないで練習しろと言っています。ですから、特定のどこかというよりかは広く意識を向けるようにして、色々な試合で「○○大学の誰が走ったよね」とか、常に戦う相手を忘れないようにしてやっています。

――後期シーズンでキーマンになる選手はどなただとお考えですか

 難しいですけど、一つは全日本予選会の後半の組を走った4人ですね。太田(智)、千明(龍之佑、スポ2=群馬・東農大二)、中谷、井川が、今このチームの柱でエースだと思うので、それに見合った力を発揮して、他大の主力と比べてどう戦うかというところだと思います。

 また、年明けにチームに言ったことではあるのですが、昨年はどうしても箱根の前に2区を走る、あるいは走れる、走りたいという選手が出てきませんでした。故障明けの太田(智)に負担を背負わせすぎてしまったというのも反省としてあります。今箱根もつなぎの区間がなくなって、復路でも往路を走るくらいの力のある選手が回ってきているので、そういう意味で誰もが2区を走れるようなチームになろうと言っています。先ほど挙げた4人が柱になってくるのは間違いないのですが、ではその4人に頼る、任せるではなく、その4人に負けない、勝とうというような気概を持った選手が出てきてほしいという意味で、全員がキーマンだと思っています。

――秋シーズンに向けて展望や目標をお願いします

 今年の私たちだけのスケジュールで考えたときには、先ほども申し上げたとおり箱根予選会、全日本と厳しい中で2戦戦うということ、そして箱根を迎えるというところで、見方によっては不利な日程と感じるところも少しはあります。ただそこを招いてしまったのは自分たちのチームなので、逆にこの厳しい日程を乗り越えることができるような強さを身に付けられれば、自分たちの目標にしている『全日本、箱根で3位以内』を達成できるのではないかというのは学生にも言っています。この苦しい状況をある意味でポジティブに捉えて、自分たちがステップアップする良い機会だと考えてチャレンジしたいと思っています。その上で優勝候補、今年の箱根上位3校や駒澤大学は意識したいです。

 今年の箱根もそうでしたけど、上位校からシードを取っている学校まで非常に差がなくなってきている印象があります。よく考えれば自分たちにも上位に組み込むチャンスがありますし、少しの油断や失敗でまたシードを失うような結果も起こり得るような拮抗(きっこう)した駅伝シーズンになるのではないでしょうか。ですから、それに負けないようなタフな体と心をこの夏に培っていきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 今山和々子、斉藤俊幸)

長距離ブロック2次合宿記事

タフな体づくりを目指し、地道な走り込みを重ねる