苦戦を強いられた二つの駅伝を経て迎えた、箱根東京間往復大学駅伝(箱根)。目標としていた往路優勝には届かなかったが、往路5区間のうち4区間に出走した4年生が自らの持ち味を存分に発揮。また『花の2区』では太田智樹(スポ2=静岡・浜松日体)が快走。ミスのない走りでレースを進め、下馬評を覆す3位で往路を終えた。
その後の流れを左右する重要区間である1区に起用されたのは、藤原滋記(スポ4=兵庫・西脇工)。1キロ3分切りのペースを淡々と刻んでいた集団の中心で藤原は様子を伺う。しかし17キロすぎ、青学大の鈴木塁人が飛び出し一気に集団は縦長に。藤原も先頭についていこうとするが対応しきれない。それでもトップと36秒差で2区につなぎ、早大の流れを作る最低限の仕事は果たした。各校のエースが集う『花の2区』には、今季好走が続いている太田が登場。順大の塩尻和也と並走しながら着実に5つ順位を押し上げる。留学生ランナーに抜かれるも、粘りの走りで5位の拓大のワークナー・デレセとは1秒差の6位で中継所へ。太田は二度目の箱根路で堂々たる走りを見せてくれた。太田からタスキを受け取ったのはケガから復帰した光延誠(スポ4=佐賀・鳥栖工)。序盤から快調に飛ばし、9キロ付近で山学大、拓大を置き去りにする。その後もペースを全く緩めることなく、前を行く神奈川大との差をみるみる縮める。ラスト300メートルの激しいスパート合戦を制し、4区のタスキを石田康幸(商4=静岡・浜松日体)に託す。4年間、納得のいかない結果が続いていた駅伝で、ついに素晴らしい快走を見せ区間4位。走り終わった光延の顔にはやり切った笑顔が浮かんでいた。
早大で戦う最後の駅伝で、区間4位の好走を見せた光延
4区に起用されたのはこれが現役ラストランとなる石田康。早大と2秒差でタスキを受け取った神奈川大の大塚倭が区間新記録のペースで追い上げてきたこともあり、2つ順位を落とす厳しい走りとなるも、自らのペースを守り切る。最後は拓大に食らいつきながら5位で小田原中継所に飛び込んだ。5区を任されたのは三度目の山上りに挑む安井雄一駅伝主将(スポ4=千葉・市船橋)。悲願の往路優勝を目指して、最初からハイペースで山を駆け上がる。その影響もあってか中盤はペースが上がらず、ふくらはぎがつりそうになるアクシデントも生じる。それでも沿道での熱い応援から力をもらい、自信のあった芦ノ湯の最高到達地点からの下りでは、底力を見せる。事前取材で語った「前回の山上りより2分以上早いタイムで走りたい」という言葉通りのタイム、1時間12分04秒でゴールテープを切った。総合時間は5時間30分25秒、早大は3位で往路を終えた。
安井は左胸の『W』をたたいて見せ、ゴールテープを切った
東洋大、青学大には及ばなかったが、「全員とも事前に提示した設定タイムはクリアした」と監督が語ったように、大舞台でついに実力を発揮することができた早大。後続の拓大とは2分40秒差とやや離れているが、まだまだ安心はできない。復路は厳しい戦いになることが予想されるが、往路を走った選手から受け継がれたエンジの誇りを胸に、あすも「自分たちの走り」を見せてほしい。
(記事 小林理沙子、写真 小川由梨香、斉藤俊幸)
第94回東京箱根間往復大学駅伝競走(往路成績) | |||||
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区間 | 距離 | 名前 | 記録 | 区間順位 | |
1区 | 21.3キロ | 藤原滋記 | 1時間02分52秒 | 11位 | |
2区 | 23.1キロ | 太田智樹 | 1時間08分04秒 | 6位 | |
3区 | 21.4キロ | 光延誠 | 1時間03分33秒 | 4位 | |
4区 | 20.9キロ | 石田康幸 | 1時間03分52秒 | 11位 | |
5区 | 20.8キロ | 安井雄一 | 1時間12分04秒 | 2位 | |
早大 往路 5時間30分25秒 第3位 |
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コメント
相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)
――直前取材で「今回はミスをしないことが重要」とおっしゃっていましたが、きょうの駅伝を総括していかがですか
全員とも事前に提示した設定タイムはクリアしたので、そう意味ではミスのない駅伝をやってくれたのかなと思います。早稲田の意地を見せてくれました。往路優勝は狙っていたので達成できなかったのは悔しいですが、東洋大さんと青学大さんが僕らを上回ったというだけの話だと思います。まずきょうに関しては、自分たちのやりたいレースはできたのではないかと思います。
――4年生が中心に力走を見せていました。1区の藤原滋記選手(スポ4=兵庫・西脇工)はいかがでしたか
藤原は大学で1区を走るのは初めてだったので緊張もしていたと思うのですが、事前に「2区でも行く覚悟はあります」と言ってくれていて、チームのために尽くす覚悟を見せてくれてしました。1区でも仕事をしてくれるだろうと思いました。見かけの区間順位は悪かったかもしれませんが、前が見える秒差で渡してくれて、流れはしっかりつくってくれたのではないかと思います。
――2区には2年生の太田智樹選手(スポ2=静岡,浜松日体)が出走されました
集団で行く、初めての経験だったと思うのですが、ペーサーというか使える選手がいたら使って後半が勝負だという話をしていました。ただ「塩尻君(和也、順大)や山梨学院大のニャイロ(ドミニク)あたりは、厳しそうだったらチャレンジしなくていいよ」という話もしていましたが、結局塩尻君しか(周りに並走できる選手が)いなくて大丈夫かとは思いましたが、気後れすることなく、全日本(全日本大学駅伝対校選手権)に続いて、いいチャレンジをしてくれました。留学生に抜かれてからもすごく苦しかったと思いますが、4年生と同じくらい意地を見せてくれたと思います。
――3区の光延誠選手が、ついに駅伝で快走を見せてくれました
本人とも「これまでの失敗を繰り返さない。成長した姿を見せてくれ」というのを話していました。拓殖大と山梨学院大と競っていて、走りにくい状況ではあったと思うのですが、しっかり自分の持ち味を出してくれたと思います。途中ちらっと区間賞が頭をよぎったのですが、そこを取れないのも彼らしいというか(笑)。20キロは不安だったと思いますが、故障からよくここまで来てくれたと思います。(ラストスパートについて)本当はもっと前で抜けたんですけどね、そのあたりはやらしいですね(笑)。
――4区の石田康幸選手(商4=静岡・浜松日体)は途中苦しそうな顔が見受けられました
そうですね、前の神奈川大の大塚君(倭)が速くて、前半頑張って付いて行っていたのですがペースが違くて。「自分のペースで行け」と言いました。「彼の持ち味はイーブンペースで後半いかに失速しないかだ」とは事前に言っていました。後半10〜15キロで休みすぎてしまって拓殖大に追いつかれてしまいましたが、何回か引き離されそうになったところを食らいついてタスキを渡してくれたので、安井(雄一駅伝主将、スポ4=千葉・市船橋)がここまで行けた一因になったのかなとも思います。なので本当によく粘ってくれましたね。
――安井選手にタスキが渡ったとき、トップの東洋大とは4分超の差がありました。そこからの安井選手の走りはいかがでしたか
拓殖大さんと一緒にスタートとなりましたが、前が見えない中でのスタートだったのでタイム差ではなく自分の走りをしようと話をしました。その通り相手が見えなくて走りにくい場面もありましたが、淡々と自分の走りをしてくれたと思います。
安井雄一駅伝主将(スポ4=千葉・市船橋)*囲み取材より抜粋
――全日本大学駅伝対校選手権(全日本)終わってどういう話し合いをしましたか
すぐに4年生で話し合って、「このままじゃ駄目だね、とりあえず4年生が頑張らないといけないね」という話をしました。うちの学年は4年生が6人しかいないので、まずはその6人でしっかり箱根(東京箱根間往復大学駅伝)を走ろうと。
――集中練習の消化具合というのは
距離、質ともに過去最高でした。距離はあまり気にせずに走っていたのですが12月に800キロくらいいっていて。例年は500〜600キロくらいだったので大幅に距離は増えました。僕だけじゃなくて4年生全員が700キロ以上は走っていると思うので、それが今回の結果につながっているのではないかなと思います。箱根のレースは70分以上あるので、それを意識して間のジョグを60分、70分は絶対やろうという話をしていました。そういう地味なトレーニングが、今回の往路で後半の失速が本当に少なかったことに生きていると思います。康幸(石田、商4=静岡・浜松日体)もきつくなってから相当粘ったという話を聞いたので。
――集中練習最後の10マイル走はいかがでしたか
10マイルは太田(智樹、スポ2=静岡・浜松日体)が断トツでした。僕は滋記(藤原、スポ4=兵庫・西脇工)と一緒に10秒差くらいで2番でしたね。
――自分の走りを総括していただけますか
自分の力は全て出し切ることができました。ただ、目標としていた72分まで4秒届かなくて目標を達成できなかったので。でも本当に悔いはないですね。
――走っているときに前の2校は見えましたか
全く見えなかったです。ずっとひとり旅で。結局3年間ひとり旅というか、誰かと競ることがなかったですね。でもそこ(一人でも走れること)が自分の強みかなと思います。
――1〜4区の状況はどのような心境で聞いていましたか
1区の滋記から康幸までみんな最後まで『競り、克つ』走りというか諦めない走りをしていて。特に太田の2区の走りは本当に殻を破った走りで心を打たれたといいますか。「こんなに後輩が頑張ってくれているんだから、俺も頑張らなくちゃいけないな」という気持ちになりました。
――きょうはどのようなプランを立てていたのでしょうか
前回は最初から動かなくて、なかなかリズムに乗れませんでした。今回は最初からリズムに乗れたのですが、ちょっと突っ込みすぎたかなというのもありました。相楽さん(相楽豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)からは抑えろと言われていたのですが、足が動いていましたし、やっぱり前を追いたい気持ちというのが前面に出ましたね。そこに関しては悔いはないのですが、ちょっと突っ込みすぎたかなというのはあります。
――その影響は後半出てきましたか
そうですね。後半、恵明学園過ぎた辺りから本当にきつくなってきて正直もう足動かないなというのがあったのですが、下りはかなり自信があったのでとにかく残りの上りを頑張ろうと思っていました。
――最後まで踏ん張れたというのは『ワセダのプライド』のようなものがあるからなのでしょうか
そうですね、エンジのプライドや気持ちですね。そこは強い気持ちを持って走りましたし、あとは沿道で早大の応援をしてくれる方々が本当に多くて。その一人一人の声を聞きながらというか、本当に沿道から力をもらいました。大学名だけじゃなくて個人名で応援してくれる方々がすごく多くて、本当に走りながらうれしくなりました。
――ことしも宮ノ下にご家族はいらしてましたか
はい、いました。「雄一頑張れ」という声も聞こえましたね。最後だったのでちゃんと受け答えしました。
――ふくらはぎがつりそうだったという話をされていましたが、どの辺りだったのでしょうか
恵明学園を過ぎた辺りですね。最高点の手前でなったのと、下りに入ってからもつりそうになって少し怖かったですね。
――そういうアクシンデントがあっても気持ちを切らさなかったのは、これまでの経験があったからなのでしょうか
そうですね。これまでの経験もそうですし、きょうの為にこの1年今まで以上に練習をしてきたので自分の中で「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせながら走りました。
――往路3位という結果はどう受け止めていますか
往路優勝、総合優勝という目標を掲げていたので満足はしていないのですが、今まで出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)、全日本と結果が良くなくて「早大はきついんじゃないか、シードも取れないんじゃないか」とまで言われていたので、「ここにワセダあり」じゃないですけど早大の存在感をしっかり示せたのではないかなと思います。まだまだ前を追える差だと思うので、復路の選手も諦めないでいけば優勝ないし3位以内というところが見えてくるのではないかなと思っています。
――前後のタイム差はどう捉えていますか
最初は3分くらいあったのが、最終的に先頭と1分55で、まだまだ前を追えると思いますし、駅伝は何が起きるかわからないので最後まで諦めずに走ればチャンスは巡ってくると思います。なのでそこを突き詰めていってほしいということを復路の選手に言おうと思います。
――もうこの後すぐにマラソン練習に切り替えていくのでしょうか
そうですね、もうあまり休まないでやる予定です。この12月も800キロ走ってきて距離はかなり踏めてきていると思います。
――往路は4年生が4人走って、復路でも4年生の出場があると思いますがそのあたりはいかがですか
4年生のみんなには最後の箱根だから楽しもうという話をしていました。あとは今回の箱根は4年生に全てかかっているという話もしました。責任を負わせるじゃないですけど、まず4年生が頑張ろうと。明日の復路も河合(祐哉、スポ4=愛知・時習館)と谷口(耕一郎、スポ4=福岡・福岡大大濠)にも「楽しんでこいよ」と言いたいと思います。
――最後の箱根路は楽しかったですか
はい、楽しかったです!