【連載】『それが早稲田のプライドだ』第2回 駒野亮太長距離コーチ

駅伝

 ことしの早大の核はBチームだ――。駒野亮太コーチ(平20教卒=東京・早実)のその言葉の通り、今季の早大の層は薄く、主力とされるAチーム以外の選手による底上げが必要とされていた。箱根を控えた今、果たしてチームにはどんな変化があったのだろうか。変化の夏を経た現在のBチームを中心にお話を伺った。

※この取材は11月26日に行われたものです。

「夏の2次合宿自体はすごくよかったです。ことしは消化具合も完璧でした」

Bチームを中心に、チームの状況について語ってくださった駒野コーチ

――夏の2次合宿から現在までの、A,B,Cチームの基準を教えてください

2次合宿の後の岩手の3次合宿には、Bチームから谷口(耕一郎、スポ4=福岡大付大濠)、河合(祐哉、スポ4=愛知・時習館)、小澤(直人、スポ3=滋賀・草津東)、西田(政経3=東京・早大学院)、尼子(風斗、スポ2=神奈川・鎌倉学園)、渕田(拓臣、スポ1=京都・桂)の6人を合流させてもらいました。それは2次合宿の消化具合だったり、ケガなくできていたりというのが一番大きかったです。それでAチームの質の高い練習に入らせてもらったというのが合宿までです。合宿が終わるとAチームの10人と、それ以外の6人、それとそこに入らなかった遠藤(宏夢、商2=東京・国學院久我山)と真柄(光佑、スポ2=埼玉・西武文理)、大木(皓太、スポ2=千葉・成田)あたりとは正直力の差がかなりあるので、3次合宿が終わってからもBチームという位置づけで分けました。Aチームは出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)とか全日本(全日本大学駅伝対校選手権)というところを目指してもらって、Bチームは夏合宿中から監督(相楽豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)に『20キロ専用機』というか、「箱根の距離に対応できる練習を夏からしっかりさせておいてほしい」と言われていました。彼らにも「出雲、全日本はあまり考えずに、まずは上尾(上尾シティマラソン)を踏まえて箱根を目指そう」と。「箱根の距離だったらAチームに負けない状況をつくろう」というのをBチームのスローガンに掲げて、ここまでやってきたという感じですね。CチームはまだBの練習にも入れない選手たちですね。15分を切れなかったり、14分50分くらいかかってしまう選手がCチームです。そこをある程度突破出来た選手がBチームにチャレンジできるという流れです。

――本日から集中練習に入られますが、そちらはいかがでしょうか

上尾の結果は、Bチームに関して言うと谷口がAのメンバーに食らいついて行って、最後は離されてしまいましたが積極的なレースをしたかなと思います。でも谷口と同じだけの練習を河合なり西田なりもしっかり積めていたので、正直その二人も行けるかなという手ごたえはありました。それが上手くいかなかったということと、あと夏合宿を少し消化不良に終えてしまった遠藤と真柄が、期待していたところはもっと高かったので及第点とはいきませんでしたが、夏合宿の状況を踏まえるとまずまずの走りでまとめたかなと思います。『20キロ専用機』をつくろうというスローガンのもとにやっていたにしては、不発に終わってしまった選手が何人か出てしまったのが残念です。そのなかで集中練習に入るのですが、まあもう箱根は待ってはくれないので。ただ彼らには「ちょっとしたボタンの掛け違えだろう」という話はしているので、そこはしっかり集中練習で補えるように準備しなさいと言いました。あとは上尾の結果は大きいですがそこですべてが決まるわけではないので、集中力を切らさずやるようにはしています。

――夏の2次合宿で対談をさせていただいた際、遠藤選手、谷口選手、河合選手、三上多聞選手(スポ2=東京・早実)の4選手がAチームに迫っているというお話をされていました。その後はいかがでしたか

谷口と河合、西田の三人に関しては全日本のエントリーメンバーにも入りましたし、結果的にそこで走るという段階にはなかなか至らなかったですが、合宿が終わった後の記録会ではまずまずの走りを見せてくれました。3次合宿の練習でもAチームの選手に匹敵するような場面もあったので、力はついてきているとは思います。ただ安定感というか、いつでもその力が出せるわけではなくて、三人とも波、ムラがあります。その中でも谷口は比較的安定してきたのが、この間の上尾でもしっかり出ていたのかなと思います。三上に関しては2次合宿の途中でケガをしてしまって1カ月くらい離脱をしたので、その影響がかなり大きかったと思います。

――夏合宿取材の次の日が、大切なポイント練習だったとお伺いしました。そちらの練習の出来はA,Bチームそれぞれいかがでしたか

夏の2次合宿自体はすごくよかったです。ことしは消化具合も完璧でしたし、その中で少しケガ人が出てしまったのは残念でしたが、三上や遠藤に関しては菅平の後の妙高に行ってからケガをしてしまったので、菅平を終えるまではBチームに関しては完璧でしたね。遠藤はそこまで重症ではなかったので比較的早く戻ってきましたが、三上はそこで一回流れが止まってしまったので、いま必死に本人もその流れに戻ろうと頑張っています。少しから回っている感じもありますね。

――合宿の最後まで練習を継続できた谷口選手などが実を結び始めたということでしょうか

そうですね、それが大きかったと思います。谷口は練習を完璧にこなすというのもそうですし、Bチームの大将というか、Bチームの全体を引っ張るリーダーとして、練習以外の面でも言動などで引っ張ってくれています。そういう精神的な成長というのが走りにも表れているなと思います。

――谷口選手に加え、同じ4年生の河合選手も最上級生になり、意見を活発に主張するようになったとのことでしたが

河合に関しては、合宿が明けた後の1万メートル、その後の5000メートルの記録会でどちらもBチームトップを取ったので、すごく試合勘や試合の強さを持っている選手だと思います。もともと1年生のときから試合は強かったのですが、その頃はどうしても練習で離れてしまったり、力をつける練習で上手くかみ合わず、試合の上積みがあったとしてもそんなにいいところまで行きませんでした。でもことしは練習も2回の記録会もしっかりできていたので、上尾もかなり期待はしていました。しかし終わった後本人も「どうしてあんなことになったのか分からない」と戸惑っていたのですが、「結果は結果として受け止めよう」という話をして、集中練習に向かわせているという感じですね。

――夏合宿の最中に日本学生対校選手権(全カレ)があり、長距離ブロックは『長距離全種目入賞』というチームの目標を達成しました

立てた目標をしっかり達成するというのが大事だと思うので、そこはタイムや順位を見ればまだまだだ上は目指せるとは思うのですが、長距離三種目において入賞者をしっかり出すというところができたのはよかったです。あとはやはり個人の成績でいえば、1万メートルの太田(智樹、スポ2=静岡・浜松日体)が積極的なレースをしました。正直合宿の疲れも抜け切っていなかったはずなのですが、結果を勝ち取ったところは大きかったかなと思います。あれでみんな刺激を受けたというか、我々も見ていて楽しいレースでした。

――出雲への調整はあまりしていないとお聞きしていたのですが、具体的にどのような状況で臨まれたのでしょうか

全カレが合宿の合間に入るので、特にAチームの選手はどうしてもそこで強化を緩めなければいけなくて。そこでまた強化のし直しを図らなければいけないということで、出雲の2週間前まで合宿を組んでいる状況なんですね。他の大学だと多分3週間前とか1カ月前くらいには強化合宿が終わって調整合宿みたいな形で入ると思うんですけど、うちはあえて総合優勝した時の流れから、そんなに出雲に対してバッチリ調整してという形では臨まない方針でやっているのでことしもそれでやってみた結果、合宿の疲れが残ってしまっていてうまく歯車が合わなかったという感じですね。

――出雲の目標はありましたか

出るからにはやっぱり勝ちにいくとか、上位入賞、3位以内というところを選手たちは掲げていたと思うのですが、やはり戦前の予想で東海大が強いとか青学大がとかいろいろ出ていた中でうちは5000メートルのスピードランナーもそんなに多いわけではないですし、合宿の疲労がとか、それは言い訳に過ぎないですが、そういう所もあったので正直勝ち切るのはなかなか厳しいのかなと。ただその中でいかに駅伝の経験値をしっかり積んでくれるかということがどっちかというと大事になってくるのかなと思って見ていました。

――出雲の9位という結果はどう捉えていらっしゃいますか

さっきお伝えしたように、調整していない、あまりガチガチに合わせていないにしてもちょっと悪いかなという。予想以上に合宿の疲労が残ってしまったなというのはありましたね。

――出雲後の日体大長距離記録会では、平子凜太郎選手(創理2=福島・磐城)が大幅に自己ベストを更新しました

平子はCチームですけど合宿を完璧に、ずっとコツコツやってきていて、この秋が彼自身にとって勝負のタイミングだったので、1本1本しっかり最後のつもりで頑張りなさいという話をしていました。正直14分40秒を切れればいいかなぐらいのつもりで練習を組んでいたんですけど、それを大幅に良い意味で裏切る結果になってくれました。やっぱりあれを受けて、特に2年生の同学年の子たちが目の色が変わって、「やばい」という風に火がついたのでそういう起爆剤的な役割は果たしてくれたのかなと思いますね。

――全日本では3大会ぶりにシード権を落としてしまいました。やはりケガで万全なオーダーが組めなかったのでしょうか

そうですね。正直練習を見てるとそんなに言うほど悪くはないですし、もちろんきょねんの4年生に比べたら見劣りする部分はありましたが、そんなにものすごく劣るわけではなかったので、もうちょっと戦えるかなというのはあったんですけど。うまく流れに乗り切れなかったのと、実際シード権争いというのを本格的に見えてくるラインでちょうど1年生が5区と7区で入っていて、やはりここのプレッシャーは相当2人に関してはあったんだろうなというのはあります。光延(誠、スポ4=佐賀・鳥栖工)なり、清水歓太(スポ3=群馬・中央中教校)なりそういう所が本来ならば万全な状態であれば使われていたと思うんですけどそこで出来なかったというのはシードを逃した理由の1つかなと思いますし、もっといえば全日本に対して、谷口や河合がコミットし切れなかった部分があったので、そこをもう少し20キロ専用機というつつも、全日本を睨ませるような持っていき方をさせていればちょっと違ったのかなとも思います。でもそれはもう結果論で負けは負けというか力及ばずだったという一言に尽きるかなと思います。

――1年生が2人出走し駅伝デビューを果たしましたがいかがでしたか

宍倉(健浩、スポ1=東京・早実)に関しては全カレの後や3次合宿中に足を痛めたりとかがあったので、練習もちょっと別の流れでやってはいました。ただ、練習はすごく順調にこなしていましたし、そんなに大崩れする印象は無かったんですけど前日は結構緊張でガチガチで。本来、光延が万全だったら光延にチェンジということもあり得たと思うんですけど、その選択肢が取れなかったというところは大きかったです。吉田(匠、スポ1=京都・洛南)に関しては、高校時代の駅伝の強さというのがあったので、永山(博基、スポ3=鹿児島実)、吉田でもう1回シード権内に押し上げてくれるかなという期待があったんですけど、やっぱり本人は『シード権』という嫌なものがちらつくレースって初めてだったと思うので、そういうプレッシャーに飲まれてしまった部分が大きかったのかなと思います。

――出雲は入賞まであと一歩、全日本はシード権まであと一歩と本当に『あとひとつ』に泣く結果に終わりましたが、足りなかったものは何でしょうか

故障者がいたりと、多少微調整を余儀なくされた部分はあるので、みんながみんな足並み揃えて万全な状態だったとは言えないんですけど、どっちかというとバックアップというか、誰かが倒れたときに、そこにパッと入れる人間がいなかったことですかね。シードを落としたのはAの責任だけではなくて、Aチームを10人で固定させてしまった、そこに這い上がれなかったBの責任、チーム全体としてそこに向かっていく意識が堕落していたのかなという気はしますね。

――出雲、全日本と苦戦を強いられましたが何か収穫はありましたか

危機感が出たことですかね。決して褒められたことではないかもしれませんが、ことしのチームは『箱根総合優勝』と、学生三大駅伝というよりは箱根で、という風に言っているので、出雲、全日本と決して捨てて良いレースではないですが、そこで得た教訓であったり、悔しい経験をしたことが今危機感という形で積もってきていると思います。きのうの1万メートル記録挑戦会でもそれなりに主力はしっかり走りましたし、4年生を中心にもう1回箱根に向けて作り直そうと、目の色が変わっているので、良薬口に苦しというかそういう捉え方をしてやるしかないのかなという気がします。

「箱根になれば戦える、箱根の距離になればまだまだうちには伸びしろがある」

――前回対談させていただいた際、早大が勝つためにはチーム内の競争が必要だとお話しされていましたが、現在のチームの雰囲気はいかがでしょうか

先週の上尾ハーフで谷口がまずまずの走りをしてくれたことなどからも、20キロになると決してAチームが固定化される訳ではないということは多少なりともみんな感じてくれていると思います。あとは今日から始まる集中練習で足りない部分を補っていきつつ、しっかりそこに絡んでいってメンバー争いを熾烈にしていく。11番手から16番手はBチームの選手が埋めることになると思うんですけど、やっぱりその11番手から16番手の選手の力はみんな拮抗している状態なので。例えば16番手に入れなかった17番手から20番手くらいの選手まで力が拮抗しているくらいの状態を今作り出したいなと思っています。あとはBチームの選手に自分は11番手だからという風に諦めるのではなくて、やっと集中練習で5番手6番手とかの主力の選手たちに食って掛かるということが出来る措置が整ったと個人的には思っているので、それをしっかり実行してほしいなという所ですかね。

――率直にお聞きしますが、箱根での目標は何位でしょうか

それは優勝でぶれないでやっていかないといけないと思います。選手たちも、口で優勝と言うのは簡単ですけど実行するのは難しいというのは出雲、全日本を経てわかっていると思うので、こういう状況から優勝を手繰り寄せる為に優勝に向けて足りないピースをちゃんと自分たちで補えるか、あるいは我々がそういう足りないピースがここにあるよと指示できるかどうかが、残り1カ月ちょっとで大事かなと思います。

――チームの戦力はどう分析されていますか

全日本ではチームとしては悪い中でも、太田(智樹、スポ2=静岡・浜松日体)がしっかり1区で結果を残しました。安井(雄一駅伝主将、スポ4=千葉・市船橋)は本来彼のタイプからいうと4区とか8区とかそういうじわじわ行く区間の方が性に合っているのでそこでうまく対応し切れなかった部分というのもありましたが、エース区間を走りました。太田、安井、後はアンカー走った康幸(石田康幸、商4=静岡・浜松日体)とか、藤原(滋記、スポ4=兵庫・西脇工)とか弾はあるので、まずはその弾をちゃんと発射できる準備をするということと、後は5、6番手の選手たちが集中練習でいかに主力の選手たちと同じくらいの力を付けられるかどうかが優勝する為に必要になってくると思いますね。

――箱根まで1カ月ほどですがどういったところを詰めていきたいですか

自信を付けさせるということですかね。全日本でいうと宍倉とか吉田も練習は出来ていたので、もっと彼らが自分に自信を持って自分のやる仕事だけに集中出来れば良かったんですけど、シードとかいろんなものがちらついた時にどうしても自分の走りに集中できなかった部分が少なからずあったと思います。自信を持ってしっかりスタートラインに立つ、それは誰を使うにしてもそうですが、そういう自信を1個1個の練習で大丈夫だ大丈夫だとちゃんと積み上げていく。監督も言うんですけど石のタワーみたいな感じで高いものを積み上げられれば、まだ十分手が届くと思うので。正直今のところ出雲と全日本を見ていると、ここが大本命というところはないと思うので、どこの大学にもチャンスがあるからこそうちもそこにしっかり名乗りを上げられるように自信を持って、自分は出来るという精神状態でスタートラインに立ってもらえれば良いかなと思います。

――箱根で特に駒野コーチが注目する選手はいらっしゃいますか

やっぱり安井でしょうね。ことし1年キャプテンとして、行動も練習内容もここまで完璧なので。多分3年連続山登りの可能性が高いと思うのですが、距離が短くなったとはいえ5区の重要性は非常に高いですし、私もそれは経験しているので。彼がしっかり5区で往路の締めと、復路につながる流れを引き付けてくれるかどうかというのが同じ5区、キャプテン経験者としても期待しているところが大きいです。あとは4年生ですね。(安井以外にも)石田、光延、藤原、谷口、河合。ニーズが少ないからこそこの6人がいかに箱根に向けてもう一段階力を付けて、それをしっかり4年分の思いとして出しきってくれるかどうか。4年生が箱根を走らないと勝てないので、そこは期待しているところですかね。

――箱根への意気込みをお願いします

まあコーチが意気込んでもしょうがないんですけど(笑)。ただ、箱根は別というか選手たちの中でも私たちの中でも箱根になれば戦える、箱根の距離になればまだまだうちには伸びしろがあるというのがあります。これは強がりでもなんでもなくて、私が現役の時もそうですけど例年の実績というか、過去の先輩たちが積み上げてきたものがあるのでそういう伝統の力も信じてやるところと、あとは冷静に今の自分たちに足りないものをしっかり見つめ直して、伝統に頼る部分と今しっかりやらなければいけない部分とうまく使い分けていきたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 鎌田理沙、宅森咲子)