【連載】『頂』第9回 井戸浩貴

駅伝

 ことしの東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根)では9区区間賞を獲得した井戸浩貴(商4=兵庫・竜野)。3月には初マラソンを完走し、5月に行われた関東学生対校選手権(関カレ)のハーフマラソンで2年連続の日本人1位を獲得するなど順調に見えたが、その後はなかなか思うような走りができていない。箱根まで残り1カ月となった今、集中練習を通してどのように調子を上げていくのか。4度目の箱根に向けての心境を伺った。

※この取材は11月30日に行われたものです。

「総体的に言えば、あまり良くないシーズンだった」

冷静に質問に応える井戸

――集中練習に入られていると思いますが、現在の調子はいかがですか

 きょうの練習はそこまで追い込むものではなかったんですけど、出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)手前とかで苦労していた部分や上尾ハーフ(上尾シティマラソン)で結果を出せなかった部分が駄目かなと思っていて、それでもそのときに比べれば走ることに対する不安というのがなくなってきた状態ではあるので、(調子が)上向きになっているということを確実に実感として得ている部分はあるかなと思います。

――集中練習で重点的に意識している部分などはありますか

 ことし1年は知野さんのトレーニング、『知野トレ』を取り入れているんですけど、やっていることに満足してしまって、他の補強をなあなあにしてしまった部分があります。ポイント練習がきつくなってくるんですけど、その中で『知野トレ』のトレーニング以外にも自身で何か補強をやることを大切にしています。あと、マラソンに挑戦(3月のびわ湖毎日マラソン)したのも全部長い距離への対応ということだったので、ジョグなどポイント練習の間のペースを落とさないということを大事にした上で、集中練習をちゃんとこなすことが大前提だと思っているので、その2つのことを今は大事にしています。

――ことし3月にびわ湖毎日マラソンに挑戦され、関カレではハーフマラソンに出場されて2年連続の日本人1位でしたが、夏までの試合を振り返っていかがですか

 3月のびわ湖毎日マラソンが良くはなかったんですけど、悪くもない結果で(長距離を)走れるということを実感として得ました。5月の関カレのハーフマラソンでは去年の関カレと同種目で、自身が得点源として有力であるということを感じていたので、1年前からも試合として絶対に外してはいけない部分だと思っていました。それがしっかりとかたちとして残せたところは良かったです。マラソンを走り切った後になんとか5月までは(調子を)もっていけたんですけど、疲労が溜まってしまった部分があって、スピードがうまく出なかったり、単純に走ることに対して疲れが出るようになってしまって。狙ったところで結果を出せたところは評価できる点ではあると思うんですけど、実際にタイムであったり、目安であるものがまったく伸ばせなくて、総体的に言えばあまり良くないシーズンだったのかなと思います。

――夏合宿で何か意識していた点などはありますか

 スピードが出せないというところがトラックシーズンでも感じていたところだったので、そこを夏合宿で克服しながら、マラソンで距離を踏めたということを生かしていこうとしていました。スピードを意識するという点では、スピードにできるだけ上のチームにのせてほしいと監督(相楽豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)にも言って、全カレ(日本学生対校選手権)にも出してもらって、といった感じでした。全カレは異様なスローペースだったので自分でも対応できた部分もあったのですが、それが夏合宿の練習を生かせたかどうかと言われればそうでもありませんでした。課題が課題のまま残ってしまって、それを出雲まで引っ張ってしまったのかなと思う部分もあります。

――部員日記で夏合宿では鈴木洋平選手(スポ4=愛媛・新居浜西)と一緒の部屋だったと書かれていましたが

 今も一緒の部屋なのですが、偶然夏合宿も同じ部屋が3回ぐらい続いて、洋平のいる部屋に人が多すぎて、僕は練習以外は静かな方が良かったのですが、朝などは騒がしくて、それが大変だったかなという感じですね(笑)。勝手に踊りだしたり歌いだしたりするので(笑)。でも楽しかったので、良かったかなと思います。

――井戸選手はその輪の中に入るということはあるのですか

 あんまり自分から入ることはなかったんですけど、そんなに広くない部屋に一緒にいるので引き込まれてしまう感じでしたね。

――全カレでは多くの選手が入賞されましたが、チームとしてはどのように受け止めていますか

 どこも本当に点が取れてなくて、1500メートルは長距離から出ていなかったのでちょっとよく分からないんですけど、齋藤(雅英、スポ1=東京・早実)がきちんと優勝してくれて得点が取れたということが良かったかなと思います。それ以外の種目に関しては出場したほぼ全員が入賞できたということなので、目指していることというのはしっかり出せたという部分がありました。残念ながらトラック優勝はできなかったのですが、チームとしてはかなり良い結果とだったと思います。

――今季は『知野トレ』という早大独自のトレーニングに取り組まれてきたと思いますが、何か効果を実感したりすることはありますか

 走っているときに上下のぶれが大きくて、安定しづらい人にとっては、走行距離が伸びてくるとどうしても足に負担がかかってきてしまうので、『知野トレ』の効果が出やすいです。僕自身は『知野トレ』をやる前からそんなに上下動などないタイプだったので、それをやったから劇的に安定感が増してケガが減ったというわけではないんですけど、肩甲骨の動きなどは今までのトレーニングで取り入れてこなかった部分なので、そこは可動域が大きくなったり、実感する部分はありました。

――ことし一年を通して、最も自分の中で良かったレースをあげるとすれば、どのレースでしょうか

 一番できたレースは関カレです。いつもどこか物足りないレースというのは出てきてしまうんですけど、関カレも完璧かと言われればそうではありませんが、自身の想定していたレースというのはできていたので、自分のイメージに対しては100点満点をあげられるレースだったかなと思います。しかし結果を見てみると実は優勝した山梨学院大のニャイロ選手(ドミニク・ニャイロ)がそんなにペースが上がっていなかったということだったので、優勝するチャンスもあったのに、自分の実力が足りずに気後れしまった部分もありました。たられば、というものを抜きにすれば、自身では十分な走りができたかなと思えるのは、ことし一年では関カレだったかなと思います。

――ことしは4年生と最終学年になりましたが、チームを引っ張っていくものとしての責任感などはありますか

 多少は感じる部分もあるのですが、平(和真駅伝主将、スポ4=愛知・豊川工)中心に引っ張ってくれている部分が実力的にも大きいので、それに対して何か僕がチームに対して大きな引っ張りをできているかなと言われればそうではないです。やはり後輩が3学年いるということで、どの学年に対しても目を配るということはしなくてはいけませんし、やるように意識していますが、特別に何か引っ張るというわけではありません。後輩に話しかけるなど、小さいところは(以前から)当たり前にできているので、ことしから意識したことではないかなと思います。

――井戸選手にとっての息抜きは

 アニメをすごく見ているのと、本当に疲れているときは外に出ろとか言われるんですけど、1日中部屋にこもってゲームをやっています。時間を忘れる感覚が良いなと思って、実際に楽しいです。ことしは足が動かないとかそういうレベルの疲れではなかったら、外に出た方がリフレッシュできるとは思っているので、本当にたまに温泉に行ったりもしました。あとは外にご飯を食べに行くぐらいですね。ことし心にゆとりができたせいなのか分からないですけど、甘いものを食べに行こうだとかはするようになりましたね。ちょっと疲れたな、というときはそんな感じで、本当に疲れて足も動かないときは部屋でずっとゲームをしています。

――一緒にゲームをやられる方などはいらっしゃいますか

 一緒にはやらないで、一人でずっとやっていて、たまに太田(智樹、スポ1=静岡・浜松日体)が遊びに来るぐらいですね。それ以外は一人でずっとやっていて、気づいたらこんな時間だ、きょう1日幸せだったなという感じなので。疲れているときは、本当に動きたくないのでそんな感じですね。最近は誰かを誘って外に行って温泉でも行こうかなと、気を付けてやっている部分ではあるんですけど、平とか凜太郎(武田、スポ4=東京・早実)とか洋平に比べれば引きこもりがちなのかなと思います。

高い水準での練習

――ことしは平選手中心にチームを作られてきたと思いますが、何か去年までと変わった部分などありますか

 練習のレベルが上がっているのかなと思います。毎年と同じ練習を余裕持ってこなせましたというものではなくて、去年よりも10秒、20秒上がった設定ペースで練習をやっていて、数字的な部分で練習の質が上がっていると思います。ことし僕はなかなか結果を出せなかったですけど、凜太郎と洋平と平を中心に4年生が全部(練習のけん引役を)やってくれていて、4年生中心にできているということで、去年までと比べると十分な練習ができていると確実に感じています。

――ことしのチームのなかでのご自身の役割はどのようなものだと考えていますか

 関カレや全カレを含めてなのですが、ある程度結果を出さなくてはいけない立場であるということを思っています。主力として引っ張っていかないといけないので、Aチームにずっといてチームのトップでやっていくということは、できているかどうかは別として、自分がやらなくてはいけないなと思っています。陸上競技という点で言ってしまえば関係ないのですが、僕と淳(佐藤、スポ4=愛知・明和)、凜太郎は係属校ですが一般入試で入学してきていますし、早大は一般入試で入ってきた部員が半分くらいいて、半分の部員に背中を見られているということは感じています。ある程度のレベルにいくためにはどうしていけばいいのかなというのを指し示す役割をしていかなくてはいけないのかなと思いますし、4年生として来年以降の彼らに何かを残すということを考えると、自分はそういう役割なのかなと思います。

――ことしはチームとして競技面で印象的だったことはありますか

 関カレと全カレで長距離チームが点数を取って、毎年駅伝に力を入れるのはもちろんなのですが、2つの対校戦に対してしっかりと点数を取れたということです。『三冠』をしているときは全カレなども優勝しているので、すごく強いチームだったんですけど、それ以降にきちんと(長距離が)点数を取れたというのはすごく印象的な出来事だったと思います。

――競技以外で印象的だったことはありますか

 毎日、ですかね。印象的というか、僕ら自身がもともと騒がしい学年だったんですけど、4年生の先輩がいて今まで少し気を使っていた部分があって、それが最高学年になり、にぎやかになりました。練習のときもきちんとやるときはやるんですけど、楽しくできるときは楽しくやっているというのがあって、にぎやかだったりやるときはやるというメリハリのついている毎日が印象的なのかなと思います。

「エースを目指さなければならない」

全日本ではメンバーを外れたが、箱根では井戸の力は欠かせない

――出雲ではチームとしても個人としても満足のいかない結果だったと思いますが、改めて振り返ってみていかがですか

 流れが悪かったというのが一因ではあるんですけれども、それも言い訳にならないほど自身の結果も悪かったので、もらった位置が良ければ確かにもっと良かっただろうなという確信はあるんですけれども、それを言い訳にしかできないような自身の実力であったというのは感じました。去年(同じくアンカーを務めた出雲と)同じような失敗を繰り返してしまったということで、出雲に関してはあまり成長を見せれなかったということがすごく残念だったかなと。区間順位も一緒でタイムを同じようなもので、誰にも抜かれなかったかわりにだれも抜かせなかったという、同じ展開で同じことをやってしまいました。何も成長できなかったというか、何も変われなかった自分が悔しかったかなと思います。

――出雲のあとにチームとして何か話されたことはありますか

 反省はもちろんですけど、何かしたというよりは全日本が迫ってきていたので、反省をするだけして(悪い流れを)断ち切るという部分をしっかりとやったかなと思います。

――井戸選手は全日本で補欠に回られましたが、チームの活躍を見てどう思われましたか

 自身が走るつもりで準備していて、走れる状態まで持ってきていたのですが、(メンバーを変わった)滋記(藤原、スポ3=兵庫・西脇工)に勝つぐらいのタイムで走れたかと言われればと同じくらいでしか走れなかったという部分があるので、自身が使われなかったという点に関しては納得せざるを得ないぐらいの状況でした。チームが活躍するということはうれしかったんですけど、それよりもその中に自分がいなかったということをすごく残念に思いました。終わった後にメダルなどは補欠にも配られるので一応持っているのですが、自分が出ていない試合のメダルをもらってもあまりうれしくなくて。チームが活躍している中に自分が入れなかったので、わがままかもしれないんですけど手をたたいて喜べたかというと、あまりそうでもなかったです。

――全日本で武田選手、平選手、鈴木選手の4年生3人が活躍されましたが、刺激を受けたりはしましたか

 全日本本番で刺激をもらえたかというとあまりないですね。それ以前に練習の時点で(4年生3人が)『できる』というのは分かっていたので。刺激をもらったというよりも練習の時点で、こいつらは練習ができていて自分はできていなかったから使ってもらえなかったんだと思う部分はありました。本番では練習でできていた部分がそのまま出たと思うので、それに対して刺激をもらったとか驚いたとかではなくて、それ以前の段階でしっかりと練習ができているなと、自分はこのままじゃ駄目だなと自分で思っていました。練習段階から、平たちから何か考えさせられていたという部分はあります。

――出雲から全日本の間で、チームの中にいてこそ分かる変化などはありますか

 1つ言えば、できるかもしれないということができないことが分かったということです。確かに全日本の前は良い練習をできていたので走れたというのもあるかもしれないですけど、実際は(出雲前の)合宿のときもかなり良い練習ができていたので、出雲は疲れが残っていたとか練習ができていなかったからいい走りができなかったわけではなくて、全日本の前も出雲の前も準備としてはできていたんですけど、ただ出雲は俺らが狙うなら出雲だろとかいう気負いと、いけるだろうなという甘い考えがちょっとあったと思います。いけるはずだからと考えていた部分と甘い考えが悪い方向に組み合ってしまったので、それがいけないと分かった上で俺たちいけるんだぞというのがあったので、自分たちができないことを認めたうえでできるはずだということを奮い立たせるという意味で変化があったんじゃないかなと思います。

――箱根の話に移りたいと思います。箱根では希望する区間などはありますか

 上尾ハーフで失敗しちゃったのであまり大きな声では言えませんが、それでも早大のトップを平とか凜太郎とか洋平に譲るとだとか、永山(博基、スポ2=鹿児島実)ら下級生たちをチームの中で抜き出ているからエースだなと認めるわけでもなくて。上尾ハーフでは負けてしまいましたし、大きな差を広げられてしまったのは確実ですが、それでも集中練習を同じ気持ちでやる以上、チームのエースにならないといけないというのはずっと思っています。なので、2区はチームのエースを最後まで狙うにあたって自身が目指さなければならないし、望まなければならない区間なのかなとは思います。

――箱根では9区区間賞となって他校からマークされることもあると思いますがいかがですか

 最近は7区が復路のエース区間になってきて、9区が復路のエース区間かと言われるとそうでもない部分もありますし、すでに9区では勝負が決まっている部分があるので、そこまで注目はされていないかなというふうには思っています。前回大会は区間賞を取らせていただきましたけど、9区で区間賞を取れたからチームが勝てていたかと言われると、特にそうでもなかった気がするので、マークされているということはないかなと思います。

――4回目の箱根となるとおもいますが、どのような走りをされたいですか

 去年までは自分の強みというのを同じペースで押していけることと言ってきたのですけど、それでは勝てないというのは自分自身も分かっていますし他校をみれば明らかです。ことしの凜太郎とか平とか洋平とか永山とか強い選手を見ていれば分かりますが、前半にしっかりと突っ込んでいかないといけないことは感じています。目指す走りとしては、後半は同じペースで押していくんですけど、前半から強く入らなくてはいけないなと思っていて、それがことしできるようにならないといけないなと思っています。

――目指す走りを達成するために、どのようなことをやっていきたいですか

 これからスピード練習が入るのでそれを大事にしようかなと思うと同時に、前半突っ込んで入るのを生かすには後半をイーブンペースで押していくということです。集中練習では長い距離を走り、練習の質も上がってタフな練習が増えてくるので、そこを故障せずに最後までこなすというのを最低限のベースにして、あとは1回2回入ってくるであろうスピード練習を大事にしていこうかなと思っています。

――チームとしての箱根の目標は

 駅伝シーズンの目標が三大駅伝すべて3位以内、そのうち1つは優勝です。優勝はまだできていないので、最後の目標を達成するためにも優勝することを大事にするとともに、全日本もふたを開けてみれば青学大のシナリオ通りだったので、どこかまでは勝負ができるということはもちろん分かっていますし、『三冠』をさせるわけにはいかないので、優勝しなくてはならないなとみんなで思っています。

――箱根に向けての意気込みをお願いします

 去年9区で区間賞を取らせていただいて、ことしも9区は何とかしてくれるだろうと思われたりすることもあるんですが、そのレベルで終わらないように残り1カ月しっかりと追い込んでいきます。去年区間賞を取ったから9区なのではなく、2区などエース区間を任されるだけのことをやって、それでも違う区間になったときには悠々と区間賞を取りたいと思います。

(取材・編集 杉野利恵)

箱根への意気込みを書いて頂きました!

◆井戸浩貴(いど・こうき)

1994(平6)年7月10日生まれ。170センチ58キロ。AB型。兵庫・竜野高出身。商学部4、年。5000メートル:14分00秒55。1万メートル:28分54秒84。ハーフマラソン:1時間2分33秒。卒論についてたずねると、「けっこうやばいんです」と前置きをしながらも、ことし中に行う中間報告もすでにできている状態だとか。卒業論文提出は1月とのことで、箱根後に仕上げられる予定だそうです。