【連載】『頂』第5回 石田康幸

駅伝

 関東学生対校選手権(関カレ)で初めてエンジのユニホームに袖を通し、あらためて早大の一員としての自覚を持った石田康幸(商3=静岡・浜松日体)。しかし、夏の故障で、早くも出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)や全日本大学駅伝対校選手権(全日本)での出走が絶望的となってしまう。今季は東京箱根間往復大学駅伝(箱根)一本に絞り、取り組んできただけに、誰よりも夢の舞台への思いは強い。必死の追い込みの中で、何を思っているのか。一年間の振り返りとともに、箱根への意気込みを語っていただいた。

※この取材は11月30日に行われたものです。

焦る気持ち

取材に応じる石田康

――箱根が約1カ月後に迫っていますが、今の心境を教えてください

 自分はみんなよりちょっと準備が出遅れている身なので、楽しみな気持ちがもちろん一番ですが、あと1カ月しかないという焦りも感じています。

――現在の調子はいかがですか

 10月の頭から練習を始めて、今2カ月ほどたちました。10月に走り込んで、11月は箱根の準備をしています。今はその分の疲れがちょっと出ているのかなと。調子は今良くない方ですが、まだあと1カ月あるので、上げていきたいです。

――今は集中練習に取り組まれていると思いますが、どのようなことを重点に臨まれていますか

 とにかく元の走力を付けたいというのが一番です。他のメンバーはハーフで良いタイムを出しましたが、僕は箱根の準備をしていたので、今回ハーフに出ていません。20キロになったときの力というのをもう一回この1カ月できっちり付けたいです。あとは、ラスト3キロ、ラスト1キロに自分はまだ弱いと思うので、最後に粘れる力をもう一度付けたいと思います。

――過去の集中練習と比べていかがですか

 昨年は9月から質の高い練習ができていて、他の主力の選手と変わらない練習ができていたので、自信を持って集中練習に取り組めていました。しかし、ことしは学年は上がったのですが、昨年ほど質の高い練習が秋に積めていない分、不安な気持ちがあります。

エンジを背負う

――前回の箱根は走ることがせきませんでしたが、今シーズンはどのような気持ちで臨まれたのでしょうか

 昨年は実力的にも10番手、11番手、12番手くらいでした。1週間前に体調を崩してしまい、箱根前から走らないということが分かっていたので、今までとは違う悔しさといいますか、自分に対する怒りが込み上げてきました。この一年間、悔しいときこそ、この気持ちを忘れないというのを意識してやってきました。しかし、まだまだ満足できる状態ではないのが現状です。

――あらためてトラックシーズンを振り返っていかがですか

 自分の中で、関カレのハーフマラソンをエンジを着て走ったことが一番大きいです。入賞を目指していて、入賞の一個手前の順位で良くはなかったのですが、エンジを着て、他の大学の選手ともそれなりに戦えたということが、一番の大きな経験になりました。ただ、5000メートル、1万メートルに関しては自己ベストは更新できましたが、ほんの数秒しか更新できていなくて、他大の上の選手と比べると、良いタイムではないので、そこは今回の反省点ですね。

――エンジを初めて着たときのお気持ちを教えてください

 エンジを着る大会というのは大きい大会しかないので、声援の量が今までと全く比べものにならなくて、自分の持っているもの以上のものが、しっかりとした気持ちがあれば出せると思いました。本当に特別だなということを感じました。

――その後、男鹿駅伝に出場されましたが、タスキをつなぐということを久しぶりに経験していかがでしたか

 タスキリレーは高校以来でした。駅伝から2年以上離れていて、あらためて楽しいなと思ったのが一番です。三大駅伝(学生三大駅伝)で走ったらもっと楽しいんだろうなというイメージはできたので、駅伝に対する気持ちを再確認した大会でした。

――夏合宿はBチームで練習されたと思いますが、振り返っていかがですか

 Aチームで最初からやりたかった気持ちはありましたが、全カレ(日本学生対校選手権)の標準を切っていないことと、Bチームのみんなを自分が引っ張ってAチームに近い練習をするという意図で、Bチームから取り組みました。二次合宿の途中まではちゃんとBチームの先頭に立って、良い練習ができていたのですが、二次合宿の最後に仙骨を疲労骨折してしまって、そこから1カ月以上無駄にしてしまったので、本当にもったいない夏合宿だったなという感想です。

――Bチームで先頭の役割を経験していかがでしたか

 ポイント練習などで先頭を走って、引っ張るというのは、ついていくよりもきついですし、4年生などがいつも練習を引っ張ってくれているのを自分がやるというのは、いつもの練習よりもきつさが加わってきましたね。

――ケガのお話もありましたが、ケガをされた時はどのように過ごされたのでしょうか

 8月の終わりだったので、監督とも話し合って、10月の出雲、11月の全日本は厳しいんじゃないかなとなりました。ちゃんと治すことに専念して、箱根一本でことしはいこうと話し合って決めました。本当に焦ってしまって、気持ちが折れそうな時もありましたが、箱根一本と決めたので、それをモチベーションに頑張ってきました。

――ご家族に特に励まされたと伺いましたが

 そうですね。一番に連絡したのは両親で、カルシウムを採れるものだったり、いろんなものを家から送ってもらいました。励ましの言葉もすごくもらったので、それがあって頑張れたんじゃないかなと思います。

――10月の頭から練習を再開されて、記録会にも挑戦されていましたが、記録会での走りはいかがでしたか

 10月は合宿くらい走り込んで、その状態で一回スピードを入れようということで、何の調整もなしに出たので、14分20秒前後でいけたらいいかなと思っていましたが、そのタイムだったので、狙い通りに走れたと思います。

――復帰されてから、結果は出せているという印象なんでしょうか

 復帰段階での通過点としては良しという感じの結果でした。

――11月の全日本はエントリーはされていましたが、やはり走るプランはなかったのでしょうか

 全日本に関しては13人目で、他にメンバーに入れる人がいないということで、名前だけ入れてもらいました。走る可能性はもともとほぼ0パーセントだったので、こっちに残って、みんなが試合に出ている時も、自分は自分の練習をちゃんとやろうと割り切って、取り組んでいました。

――高校の後輩の太田智樹選手(スポ1=静岡・浜松日体)など、後輩の走りを見ていかがですか

 夏合宿は一緒にやっていて、僕が故障してから向こうはどんどん力を付けて、駅伝もハーフマラソンも走って、現時点では智樹の方にかなり良い走りをされちゃっていますね。先輩として悔しい気持ちばかり湧いてくるので、何とかこの集中練習と箱根では、自分の方が良い走りをしたいなと思います。

――刺激を受けることが多いですか

 そうですね。1番か2番目くらいに刺激をくれる後輩です。

――今でも高校時代と変わらず、仲は良いんですか

 今でも相変わらず、先輩に対する態度は(笑)。それなりに取ってくれるんですが、生意気な面も見せてくる後輩です。

――3年生になって上級生となりましたが、気持ちの面で変化はありましたか

 後輩の数が多くなったことで、後輩に見られているという気持ちがあります。良い意味で、後輩が見ているからやらなきゃというようなプラスには、まだ捉えられていなくて、見ているのにこんな走りじゃ駄目だなあというように思ってしまうことがことしは多かったので、今後は(先輩になったことを)プラスの方向に持っていけるようにしたいです。

役割を果たす

関カレで初めてエンジに袖を通した石田康。初の箱根路へ調子を上げている

――箱根にはやはり特別な思いがありますか

 一年で一番大切な大会というのが自分の中ではあります。この大会だけは絶対に外せないなという気持ちがありますね。

――前回はどのような気持ちでレースを見られていたのでしょうか

 補欠は基本準備をして宿舎に泊まったりするのですが、僕は1週間前に体調を崩して、ボード出しをやっていました。あの時はまだ気持ちの整理がついていなくて、「なにやってんだろうな、自分」というようにずっと思っていました。頭が回っていない状態でしたね。

――現在、チームの雰囲気はいかがですか

 僕は集中練習からみんなと練習させてもらうかたちになりました。今まで一人でやっていた分、あらためて調子の良いAチームのみんなとやってみて、緊張感のある練習というのができています。僕もしっかりそれに対応していかなきゃと思っています。

――やはり一人で練習するよりもみんなでやった方が、気持ちの部分でも違いますか

 そうですね。気持ちも全然入りますし、質も上がるので。その分きつくもなりますが、頑張っていきたいですね。

――石田選手から見て、ことしのワセダの強みは

 ことしの強みは、前半区間から強い先輩方がいるので、その4年生の先輩の引っ張りで、下級生もそれについて、上がっていけるということで、勢いが一番あるチームだと思います。

――強い4年生がいる中で、中堅学年の3年生としての立ち位置はどのように考えていますか

 練習などでも4年生に引っ張ってもらったり、言葉の面でも引っ張ってもらっています。来年自分たちが上になった時に、このままではいけないなと今3年生の中で思ってはいるんですが、それがまだ結果に出ていません。このままではいけないという気持ちを3年生全員で持って、4年生に少しでも近づけるようにしたいと思っています。

――そのような話を同期で共有されたりするんでしょうか

 3年生はもともとマネジャーを入れて8人、競技をやっているのが6人で少ないので、すぐ寮で集まったり、近くにみんなで飲みに行ったりというのを、特に最近は月1、月2くらいでやっていますね。

――石田選手ご自身の強みは何でしょうか

 試合で、安定して求められた役割を絶対に果たすことができるというように自分では思っています。ちゃんと自分の役割を理解して、それを果たすというのが僕の強みだと思います。

――箱根で走りたい区間はありますか

 決まってはいませんが、自分はブレーキが少ない走りができるというのが強みなので、それを生かせる下りをやりたいとは思っています。

――これから詰めていきたい点はありますか

 どの区間を走るにしても、絶対的な走力が必要となるので、上の4年生や同級生の強い人に少しでも近づけるように、走力を付けたいなと思っています。

――最後に箱根への意気込みをお願いします

 今年は全日本の走りを見ても、優勝を狙えるチームだと思うので、 チャンスを絶対にものにしていきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 後藤あやめ)

箱根への意気込みを書いていただきました

◆石田康幸(いしだ・やすゆき)

1995年(平7)12月21日生まれのO型。175センチ、56キロ。静岡・浜松日体高出身。商学部3年。自己記録:5000メートル14分16秒29。1万メートル29分42秒09。ハーフマラソン1時間4分13秒。最近のマイブームはプロ野球12球団の応援歌を覚えることだそうです。来年の観戦の際に歌いたいと語ってくださった石田選手。箱根で快走し、気持ちよくプロ野球シーズンを迎えます!