早大の下級生で唯一人、対校戦トラック種目での入賞と出雲全日本大学選抜駅伝競走(出雲)、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)の出場を果たした者がいる。名門世羅高出身の新迫志希(スポ1=広島・世羅)だ。そんな期待のルーキーは、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)を前に何を思うのか。
※この取材は11月30日に行われたものです。
「日本だけに留まりたくない」
冷静に質問に答える新迫
――現在の調子を教えてください
オランダ遠征から帰ってきて結構疲労もあるんですけど、上向きの状態にはなってきてると思います。
――初の集中練習の感想は
質と量をぶっこんできた感じです(笑)。
――それは重たい練習をしているということですか
一回一回のポイントがすごく大事になってくるし、その分、質が高いのでケガだけはしないように心掛けています。
――進み具合はいかがですか
良い感じで順調に進んできています。
――現在のチームの雰囲気はいかがですか
全日本が終わって、そこからさらに4年生中心に箱根に向けて、勝とうという気持ちが前面に出ている感じです。
――ライバル視している同期はいらっしゃいますか
太田(智樹、スポ1=静岡・浜松日体)ですかね。やっぱり今思っているのは、自分に甘えていたので自分がやろうと思ったことは絶対にやり遂げようっていう気持ちで今練習をしています。
――11月20日に行われたオランダのレースを振り返っていかがですか
自分の目標としては挑戦ということで、先頭集団に付いていってそこからどう走っていけるかという感じたったんですけど、それもできずにただ15キロを走りましたというレースになってしまいました。なので、何のために行ったのかということを改めて振り返り、次に進めないといけないとは思いました。
――海外でのレースでしたが、日本との違いはありましたか
日本の常識が海外では非常識で、僕としてはその違いが楽しかったですし、やっぱり日本だけに留まりたくないと感じました。
――常識の違いとは具体的にはどのようなものですか
例えばウエイトレスの人の対応とか。それが自分にとってストレスにはならずに受け入れられたので楽しかったですね。
――現在お金がないといううわさが出ていますが
お金がないわけではないんですけど、少しお金が足りなくて、とにかくオランダ遠征でもお金を使ってしまって。そのオランダ遠征のために(お金を)貯めておきたい時期があったので、節約していました。全日本の時にお土産を買わなくてはいけなくて、それで永山さん(博基、スポ2=鹿児島実)に借金しました(笑)。かなりその時はお金なくて困っていました(笑)。
「もっと自分にできることがあったのではないか」
――今季で一番印象に残っているレースは何ですか
やっぱり日本学生対校選手権(全カレ)と全日本ですかね。
――その理由は
出雲では、全く勝負にならなくて情けないという気持ちが残ったんですけど、全カレではある程度のところまで勝負ができました。あと少しというところで負けてしまったので、勝った時の喜びよりも負けた時の悔しい気持ちの方がかなり強く残っています。
――その悔しい気持ちから何か得られたものはありましたか
トラックレースに関しては、ある程度ずっとひとりでやってきたので、どこかの部分で敗因があったと思います。駅伝はずっとチームと一緒に練習をしてきて、最後あのような差で負けてしまったので一人一人の力を付けないといけないと思いました。どちらのレースもそうなんですけど、もっと自分にできることがあったのではないかと、心残りしかないですね。
――高校時代の功績から、周りからの期待、そのことによるプレッシャーなどはありましたか
それはないですね。やっぱり平さん(和真、スポ4=愛知・豊川工)たちが僕に期待しているというよりは、4年生を中心としてしっかり動いていて、僕は本当に自由にやらせていただいていたという状況なので、気負うということはなかったです。
――高校時代の経験で今生きているものはありますか
(主将時の)一年間自分の中ではかなりつらい時期にあって、そんなことを経験したので、ある程度こっちの生活での自信となって、何も気にすることなく練習できているというのはありますね。
――全カレでエンジデビューした時の感想を教えてください
今まで白エンジを着てきて、ある程度大きな大会にも出場させていただいていました。でも(エンジを着ると)102年の伝統を背負っているんだという気持ちにもなったし、もともと白エンジでは物足りないなという気持ちもあったので、ただ単に着られることが嬉しかったです。
――7月に5000メートルのベストタイムを更新した時を振り返っていかがですか
そのレースに関してもやっぱり最後の最後で勝ちきれないレースだったので、その悔しさがあったから全カレでは自分に向き合ってしっかり夏合宿も必死にこなせたと思います。なのであの時のベストは良かったと思います。
――大学初めての夏合宿はいかがでしたか
一、二次合宿はかなり良い練習が出来たんですけど、三次合宿で故障をしてしまって、そこから立て直せなかったというのが出雲駅伝で自分の負けた理由だと実感しています。
――三次合宿の故障とは具体的には
腰を痛めてしまって。そこで良いテンポで来ていたのが一気に崩れてしまって、練習できなくて結構大変でした。
――全カレでの入賞は新迫選手にとってどのようなものでしたか
3番と4番の天国と地獄の差を目の当たりにした大会でした。やっぱりあと一つで表彰台に立てなかったっていうのは、すごく悔しかったし、それと同時に自分の中でやり切ったっていう感じもあったので、何とも言えない気持ちになりましたね。
――うれしいとも悔しいともどちらともいえないということでしょうか
そうですね。(自分より上位に)4年生の方がいらっしゃったので、学年の差とプライドと勝ちへの執念を思い知りました。
――全カレの結果に周りからの反応はありましたか
両親はすごく喜んでくれましたね。1年間、悪い時期が続いていたので、親も心配してくれていたみたいで。高校の監督には逆に「この結果で調子に乗るなよ」と言われましたね(笑)。
――故障の懸念がある中での出雲でしたが、不安はありましたか
そこの部分は、全カレで入賞できたので短い距離だったらいけるだろうっていう自分の中での慢心があって…。現実を見ましたね。
――大学駅伝デビュー戦にもなった出雲の感想は
この先4年間、忘れることはないんだろうなと思います。改めて、自分と向き合わないといけないと思いました。出雲が終わって、あの時自分の中でいけるんじゃないかという変な自信があったのではないかとか、練習のことを考えた時にこなせないものもあったりしたので、そこの部分(が敗因)かなと思いました。
――出雲から全日本までの間、一日一日を大切にしていたと全日本のインタビューでおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなことをしていましたか
一回一回の練習に対する集中であったり、距離ももう一度考え直して、どう次につなげていくのかを考えたりということを全日本まではしていました。
――そのことは全日本で生かされましたか
少しは生かされたとは思いますが、やっぱり時間が足りなかったですね。
――全日本のタスキを待っているときの心境は
やってくれたなって感じで、先輩方がしっかりタスキをつないでくださったので、自分もその流れに乗って、やるしかないと思っていました。全日本はある程度練習が積めていたので自信はありました。
――全日本を振り返っていかがですか
良かった点は長い距離をちゃんと走れた点で、悪かった点は体作りがまだまだだったことです。風に飛ばされそうになったり、一定のペースで押せなかったり。今まではそのようなことはなかったので。
――全日本以降、練習で意識していることはありますか
全日本以降というよりはオランダ遠征から帰ってきて、先輩との時間も大切にしなくてはいけないし、出雲が終わった時と同様に一日一日が最後なんだなという気持ちに改めてなりました。
――新迫選手にとって先輩の存在とは
先輩だからといって負けたくはないし、でも自分が何をしても勝てない部分があるのかなという存在です。
自慢のスピードを箱根でも発揮できるか
「もう中途半端な順位を取りたくない」
――長い距離に対する対策はしていますか
走るしかないと思っています。やっぱり、根本的な体力が問題で、短い距離が走れて長い距離は走れないというのは、後半スタミナがきれてスピードが出せないというのがあるので、今は足作りからやっています。
――箱根への思いを教えてください
もし出られることになったら、本当に夢のようだなと思いますし、その分、準備して不安要素をなくして、当日ではしっかり楽しみたいと思います。箱根に対するイメージはこたつで画面越しに見ている感じだったので、まさか自分がそれに出るとはという感じですかね。
――箱根駅伝を走りたいという気持ちはいつごろからありましたか
出雲が終わってからですかね。
――入学前までは箱根のことはあまり考えていなかったのでしょうか
箱根を出るために大学に入学したつもりはあまりなかったです。
――出たいと思った理由は何ですか
駅伝の借りは駅伝でしか返せないと思うので。
――走りたい区間は
1区です。重要区間でもありますし、単独走よりも集団走の方が得意だと感じているので。全日本では1区から4区まで先輩方が流れをつくってくれましたが、次は自分が前半区間を走りたいです。
――最後に箱根への意気込みをお願いします
もう中途半端な順位を取りたくないです。チームの誰一人優勝を目指していない人はいないと思うし、往路復路ともに完全優勝して、個人としては(個人区間順位が出雲と全日本でそれぞれ)12位と2位なので、まだ1年生ですけど区間賞を取って、良いかたちで終わりたいと思っています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 朝賀祐菜)
箱根への意気込みを書いて頂きました!
◆新迫志希(しんさこ・しき)
1997年(平9)4月28日生まれのB型。身長163センチ、体重48キロ。広島・世羅高出身。自己記録:5000メートル13分47秒97。1万メートル29分07秒06。お金が足りず全日本では先輩にお金を借りたエピソードを笑って話してくださった新迫選手。マイブームはストレッチポールで寝ることだそうです。今季の走りについては悔しい思いも多く経験した中、どう箱根につなげるのか。注目のルーキーの今後に期待です!