【連載】『箱根路の足跡』番外編 平和真

駅伝

沿道の絶えない応援、メディアからの大きな注目――。学生長距離選手にとって、新春の箱根路はまさに晴れ舞台と言っていいだろう。しかし、そこに立てるのはほんの一握りのランナーだけ。特に、実力が拮抗(きっこう)している現在の早大では、過去に快走をみせた選手でさえ出走がかなわないということがある。箱根駅伝事後特集『箱根路の足跡』番外編では、紙一重で出場することができなかった2人の選手にお話を伺った。

スポーツ推薦で入学し、4区区間2位の快走で華々しい東京箱根間往復大学駅伝(箱根)デビューを飾った。そんな平和真駅伝主将(スポ3=愛知・豊川工)であるが、ことし、3度目の箱根は補欠に終わる。最終学年を前にして、平は言う。「こんなんじゃダメだ」と。駅伝主将を任され、新チームがスタートした今、チームを見て思うこと、そして自身の役目や意気込みについて伺った。「ワセダのキャプテンにふさわしい競技成績を残す」ために――。

※この取材は2月10日に行ったものです。

「トラックでしっかりタイムを出す」

真剣なまなざしで受け答えをする平

――箱根後のオフの期間はどのように過ごされましたか

こっちで部の仲間と遊んだり、実家に帰ってゆっくりしたりしていました。

――オフの期間はどのくらいあったのでしょうか

毎年大体1週間くらいですかね。成人式組は少し長いですけれども。

――新チームはいつからスタートしましたか

きょねんと違って、箱根後はすぐに解散をして、9日から始まりました。きょねんは4日の朝に集まって、新チームのミーティングをしてから解散というかたちでしたね。

――現在のチーム状況はいかがですか

ロードレースで各自がばらばらなので、チームで統一感が出てきたりっていうのはまだないですけれども、今はチームとしてどうこうということではなく、個人個人がレースに集中してくれれば良いので、どちらかといえばまだばらばらな状態ですね。

――今調子の良い選手や注目している選手はいらっしゃいますか

みんな箱根後はゆっくりとやっているので、注目というか、気合いが入っているのはやっぱり箱根に出場していないメンバーで、来年こそはというメンバーが今はだいぶ良い練習ができています。

――ご自身の現在の調子はいかがですか

僕は箱根を走っていないので、疲労とかっていうこともなく、解散明けはすぐに練習を始めて、今は控えているレースに向けて順調に走れています。

――どのような練習をされていますか

(次戦は)ロードレースで10マイルなので、少し練習量を増やしていつもより多めに練習を行っています。

――今週の日曜日に唐津10マイルロードレースを控えていますが、この試合の位置付けは

もちろん、目標順位であったり、目標タイムであったりというものがあるのですけれども、あくまで最終目標は来シーズンのトラックでしっかりタイムを出すということなので、それまでの通過点として最低限の走りをしたいですね。今は鍛練期なので、練習していく中で、どれだけ走れるかをチェックできればなと思っています。

――残りのロードシーズンでは、他に出場予定の試合はありますか

ロードレースではないのですけれども、27日に福岡クロカン(福岡国際クロスカントリー、ことしから日本選手権クロスカントリーへと変更)に出ます。

――ロードシーズン終盤に向けて、心がけていることはありますか

他の大学の選手も出てくるレースが多いので、タイムはもちろんですけれども、他の大学の選手にどれだけ競り勝てるかということであったり、箱根を走るためにはやはり(ハーフマラソンで)63分前半のタイム最低でも必要になってくるので、そこにまだたどり着けていない選手はそこを目指して良いタイムを狙っていって欲しいなということは考えています。

「自分のダメなところを再確認できた」

――ここからは箱根の話に移らせていただきたいと思います。箱根前の集中練習での調子はいかがでしたか

自分の感覚で言わせてもらえば、調子は良かったです。

――出走の予定はあったのでしょうか

予定というか、毎年どこを走るかというのは本当にぎりぎりに言われるので、自分の中でこの区間を走るんだという予定で練習を継続していました。

――走らないことが分かったのはいつ頃でしたか

往路組の最終調整のときに、4区で永山(博基、スポ1=鹿児島実)がいくってなって、7区も光延(誠、スポ2=佐賀・鳥栖工)で、そこで(自分は)補欠に回るんだなということはわかりました。

――相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)からはどのように告げられたのでしょうか

レース前は特に何も言われずに、「最後まで気持ちを切らさずに準備をしておいて」ということだけ言われました。

――普段の相楽監督の印象はいかがですか

(就任)1年目だったので、あまり厳しくはせずに探り探りやっているかなっていうことは僕らからもわかって、人柄で言ったらそんなに怒ることもなく、優しく見守ってくれているという感じです。

――部員日記には、箱根後に相良監督からお叱りを受けたとありましたが

そうですね。僕が捉えた感じだと、あれは怒っていたかなという感じです(笑)。入学した頃から(相楽監督は)コーチでいたわけですけれども、僕自身は大事に育ててもらっていて、レースであまり良くない結果でも、プラスの言葉かけをしてくださったり、「まだまだこんなもんじゃないよ」ということは言ってくださったりしてはいましたが、初めて今回の箱根で怒られたかなという感じでしたね。

――相楽監督から初めて怒られて、改めて何か考えたことはありましたか

箱根を走れないとわかった時点で、どうしようもならないので、とにかく自分で何がいけなかったのかとか、自分のことをもっとゆっくり振り返ってみると、自分の弱い部分というのがどんどん出てきて、それを心の中に浮かばせていて、それが相楽さんと話す中でも一致したので、自分のダメなところを再確認できたということプラス、監督からしっかりと言ってもらえたので、このままじゃダメだという気持ちになりました。

――周囲の方は平さんが出走されることを期待していたと思うのですが、ご家族や身近な方には事前に伝えましたか

出雲(出雲全日本選抜大学駅伝)、全日本(全日本大学駅伝対校選手権)は走っていたので、周りはもちろん箱根は走るのは当たり前で、何区を走るんだろうという感じで見てくれていたと思うのですけれども、僕自身も少し出遅れはしましたけど、本当に走る気持ちでいたので、本当に「あ、走れないんだな」と分かってから、一応親だけに言っておいたほうが良いかなと思って親には連絡したのですけれども、残念がっていましたね。

――直前で調子の良い選手は誰でしたか

1、2年生はみんな調子が良かったのですけれども、名前を挙げれば永山と光延と藤原(滋記、スポ2=兵庫・西脇工)あたりはかなり良かったので、相楽さんもそこらへんは使いたいなっていう気持ちはずっと前からあったのだと思います。

――当日の2日間はどのように過ごされていましたか

往路の日も次の日に光延が出番で、僕はそのリザーブということにはなっていたので、往路の前日も復路の前日もしっかり最後まで何があるかはわからないという気持ちで、レースを走るつもりで準備をしていましたし、落ち着いてレースを観ていました。

――チームの結果を振り返っていかがでしたか

4位という結果に対しては喜べないですけれども、所々の区間で失敗があったので、それを踏まえれば4位という結果は逆にあんなに失敗があった割にはよく4位までいったなという感じはしていますし、あまりマイナスには捉えすぎず、収穫もあったと思っています。

――事前取材の際には、チームのために走るということを強調されていましたが、走らないと決まってから、出走するメンバーに何か声をかけたということはありましたか

永山はもちろん1年生で初めてですし、光延、藤原あたりも箱根自体は初めてになるので、やっぱり2度走っている先輩として、アドバイスとまではいかなくても、声をかけたりすることによって少しでも緊張を解せればなと思って声をかけていました。

――普段、ご自身は後輩に対してどのような先輩だと思いますか

普段…普段どんな先輩か…ちょっと後輩に聞いてもらわないとわからないですね(笑)。まぁ優しくはないですね。買い物に行ったりするってなったらやっぱり気が合ったり、趣味が合ったりする後輩なので、そういったときは藤原であったり石田(康幸、商2=静岡・浜松日体)を連れて行くのですけれども、寮内では後輩みんなにはなるべく声をかけるようにしていて、それは別に励ましであったりいじりであったり、ジャンルはいろいろで、とにかく話しかけるようにはしています。

――人と接することは好きですか

そうですね。しゃべることが好きなので、同級生に飽きちゃったときは後輩に喋りかけたり、話し相手になってもらったりしています。

――箱根の話に戻らせていただきたいと思います。走れなかったことで、何か意識の変化などはありましたか

そうですね。いろいろ見つかったは見つかったのですけれど、それをうまく行動に移せてこれていなくて、そういったところがやっぱり自分の甘いところだなと感じています。今回3年生として走らなければいけない時に(箱根を)走ることができなくて、なおかつ、来年はキャプテンを任されているというそれ(変化)は3年間やってきた中で一番あったのですけれども、3年間いろいろと失敗を繰り返していく中で、自分の悪いところは状態で出走できなかったので、気持ちが入りましたし、来年はキャプテンとしてこんなんじゃダメだという気持ちがものすごく強く感じたので、今は新チームになって1ヶ月しか経っていないですけれども、自分の中で心境なり、行動への表れであったりかなり変化はあったと思っています。

 

「背中で見せていこう」

駅伝主将としてチームを支える存在へ

――ことしは駅伝主将にもなりましたが、実際に新体制がスタートして、苦労していることや難しいことはありますか

まず、やっぱりチームの中ではもちろん力のない子もいて、力のある子もいるわけなのですけれども、力がない子たちの行動であったり、練習であったりがちょっと目についてしまうときがあって、キャプテンという立場上、僕自身、人としてあまり悪いところ探しであったり、悪いところを突くということは好きではないのですけれども、悪く見たくないところが見えてしまったり、あいつ何やっているんだろうと思ってしまったりすることが多くて、うーん…っていう(笑)。見なくていいところまでが見えてしまうということが今一番感じていることですね。言いたくないけれども言わなければならないという葛藤ですね。

――逆に、平さんがこれまでの駅伝主将から厳しく声をかけられた経験というのはありますか

僕は割とほっとかれていたタイプの後輩なので、修平さん(山本、平27スポ卒=現トヨタ自動車)にしろ、高田さん(康暉、スポ4=鹿児島実)にしろ、怒られるようなことは全然なかったですね。

――昨年度までと比べて、ことしの新4年生はいかがですか

ロードに強いタイプであったり、トラックに強いタイプであったり、いろいろなタイプがいて、チームを引っ張っていく上ではなかなか良い学年だなと思うのですけれども、他の大学に目を向けてみれば、やっぱり他の大学の4年生はもういよいよトップレベルの力をつけてきて、各試合で活躍をしていて、それに比べてしまったらまだうちの最上級生である僕らは実力不足だなということは感じているので、チームを引っ張っていくことだけに拘りすぎずに、自分たちの学年が他の強い大学の選手とどれだけ戦っていけるかがこれから大切になってくると思っています。

――同じ新4年生の選手から刺激を受けることはありますか

そうですね。井戸(浩貴、商3=兵庫・竜野)なんかは区間賞もとりましたし、1年生の時はまだそうでもなかったのですけれども、2年生の時から僕らの学年ではロードで一番強いのは井戸って言われてきていますので、確かに僕はロードに対して苦手意識はありますけれど、そうやって言われたら悔しい部分はありますし、そういったところが良い刺激になっているかなと思います。

――春からは新入生も加入しますが、具体的にいつ頃から加わるのでしょうか

3月になったら入寮し始めて、3月の終わりに明大との合同合宿があるのですけれども、そこにはスポーツ推薦組はみんな参加するかたちになっています。

――最上級生として、どのようなチームにしたいですか

僕らの学年でミーティングした中で、こういうチームを作っていくというよりかは、最上級生の僕らがしっかり背中で見せていこうということを決めています。どういうチームにしたいとか、後輩をこうするというよりかはまず、自分たちが前を見てやっていこうということなので、4年生がしっかりと力をつけて他大と戦っていって挑戦していって、そこにみんなが着いて来れたら良いチームになるかなと思って今はやっています。

――どのような駅伝主将でありたいですか

とにかく、一番大事なこととして、試合で結果を残してみんなについて来てもらえるようになりたいっていうことと、普段の練習もやっぱり試合で結果を残したかったらそれなりの練習になってくると思うので、別に見せるわけではなく、自分が強くなるためにしっかりと練習して、それがチームにとって良い刺激になればなと思って取り組みたいと思います。

――ここ2年間は故障が続きましたが、ご自身の大学での競技全体を振り返って改めていかがですか

故障の原因がいろいろあったり、自分の悪いところがいろいろあったりということはあるのですけれども、高校から大学に上がることに対応できなかったというか、高校の時に陸上についてあまり考えられていなかったことが、大学になってボロになって出てしまったかなと思っています。一学年一学年上に上がっていくにつれて、学習できているというか、自分についても知ってこれているので、今思えば1年生の頃の自分はいろいろとわかっていなかったかなという感じです。

――その学習は人からアドバイスを受けて考えたということでしょうか

自分で考えたことがほとんどですけれど、人からアドバイスであったり、厳しいことを言われたりということでだんだん成長してこれたかなと思っています。

――ことしの個人目標を教えてください

まず春シーズンで、日本選手権の標準記録が上がって今は出られない状況なので、春先に(5000メートルで)13分30秒台を出して、しっかり日本のトップの試合で活躍するということと、タイム的なことで言えば1万メートルは28分台前半まで行きたいです。本当に最終的な目標になってくることとして、駅伝でどれか一つ優勝というのを掲げているのですけれども、チームとして優勝というよりかは、自分がしっかりその優勝するチームにふさわしい走りをするということを考えているので、具体的に言えばやっぱり前半区間で区間賞が自分の役目かなと思っています。

――箱根に再び出場したら、どのような走りをしたいですか

最後の一年になるので、ことしも4年生が涙を流していたり、もうちょっと何かできていたんじゃないかなっていうことを言っていたりしたので、その先輩の涙を忘れず、自分は絶対後悔しないような4年生らしい走りをしたいかなと思っています。

――最後に、最終学年の意気込みをお願いします

最終的にはワセダのキャプテンにふさわしい競技成績を残すことです!

――ありがとうございました!

(取材・編集 井上莉沙)

◆平和真(たいら・かずま)

1994(平6)年11月5日生まれのA型。179センチ、61キロ。愛知・豊川工出身。スポーツ科学部3年。自己記録:5000メートル13分45秒74。1万メートル29分07秒12。ハーフマラソン1時間3分12秒。2014年箱根駅伝4区55分03秒(区間2位、早大新記録)2015年箱根駅伝4区56分31秒(区間9位)。