昨シーズンは相次ぐ故障に悩まされてきた武田凜太郎(スポ3=東京・早実)。今季は夏以降順調に練習をこなし、着実にチームの要として成長を遂げる。全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では区間2位の好走を見せ、これまでの悔しさを晴らした。東京箱根間往復大学駅伝(箱根)を直前に控えたいま、武田の胸中に迫る。
※この取材は12月1日に行われたものです。
「僕たちの当たり前のレベルが低かった」
取材に応じる武田
――現在の集中練習の調子はいかがですか
ケガなく順調に練習をこなせている状態で、その中でも余裕を持ってできているので良いと思います。
――具体的にどのような部分を意識して練習に臨んでいますか
ちょっと細かいことを言えば、いままで足先とか膝下を使うような走りになってしまっていたので、大きい部分と言うかお尻とか股関節周りとかを使って走るように意識はしていますね。
――いまのチームの雰囲気や状態についてはいかがでしょうか
ピリピリしているというわけではないのですが、一つ一つの練習にみんな緊張感を持って取り組めていると思いますし、上の選手だけじゃなくて下の選手が「上の選手を食ってやろう」という雰囲気があるので、良い雰囲気で取り組めていると思います。
――これまで故障に気を付けたいということをおっしゃっていましたが、何か具体的に意識していることはありますか
やっぱり寮生活でもなるべく足を冷やさないようにするとか。あと長い距離を走った後とかってなかなか食事が取れなかったりするのですが、ちょっと無理してでも栄養のあるものを食べるようにするとか、そういった小さいことですけど意識はしていますね。
――前回の箱根から千葉国際クロスカントリー(千葉クロカン)や日本学生ハーフマラソン選手権(立川ハーフ)を振り返ってみていかがでしょうか
千葉クロカンの方は、コンディションが悪い中でしたが練習でできていたものが試合に出せたと思います。その流れで立川ハーフに向かっていって、練習はできてはいたのですが、やっぱり前で戦うには継続した練習が足りなかったり、練習のレベルもチームとしてあのような結果だったので、練習での取り組みとか、ユニバーシアードが懸かっているという面で、もっと対校戦のような緊張感とかを持って臨めたのではないかなと思いました。
――夏合宿の10マイル走が好調だったとお聞きしましたが、夏合宿を振り返ってみていかがですか
3年間やってきて一番内容も濃いものになりましたし、距離も一番踏めた年でした。その10マイル走という一つの練習でうまくいったという面もあるのですが、試合を戦う上ではそれまでのプロセスと言うか対校戦や記録会にもほとんど出ていなかったので、継続して練習ができ始めたということで少し満足と言うか、慢心があったのかなということを出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)では感じましたね。
――夏合宿を終え、駅伝シーズンに入るまでのチームの雰囲気や状態をどのように感じていましたか
毎年よりは「岩手(での合宿)がうまくいったから駅伝も大丈夫だね」というような緩い感じは正直なかったと思うのですが、実際に出雲を走ってみて僕たちの当たり前のレベルがやっぱり低いことを感じましたし、他大の選手とかと話してみてちょっと僕たちのやっていることのレベルの低さとか試合のアプローチの仕方とかが、内に内にという意識が強過ぎるなということを感じました。
――出雲では1区を走り高速レースを体感したと思いますが、あらためて振り返ってみてご自身の走りをどのように評価しますか
良くなかったと思いますし、僕が流れをつくれなかったと言うかそのように言われても仕方ないと思うのですが、あの時点での僕の力は正直出したと思います。あのような高速レースに耐えるにはさっきも言ったようなレベルの高い試合での場数の少なさも感じましたし、距離も箱根や全日本よりも短いにもかかわらず試合のアプローチの仕方がちょっと変えられなかったと言うか、僕だけじゃないですけど、変化をつける必要があったのかなと思います。
――出雲を終えて全日本までどのように切り替えていきましたか
出雲が終わって1週間くらいは本当にみんなと一緒の練習もできなかったです。そんな時でも高田さん(康暉駅伝主将、スポ4=鹿児島実)とか自分がつらいにもかかわらず声を掛けてくれましたし、同期の平(和真、スポ3=愛知・豊川工)とか井戸(浩貴、商3=兵庫・竜野)とも話して意識の面でも変わりましたし、見ていただいているトレーナーさんとかにも「今回は良くなかったけど、信じてやってみよう」ということを言われて。単純ですが、そういうのはすごく心の支えになったと思います。
――ご家族の方ともお話をされたのでしょうか
家族も来てくれたのですが、出雲終わった後に「全日本はちょっと厳しいかもしれない」と話しました。でも「いつも(調子が)良い人はいないし、ダメならダメでいいよ」とか「走れないことで申し訳ないとか思わなくていい」ということを言われて、そういうのが心に響きましたね。
――全日本では出雲での悪い流れを絶ち切ったレースだったと思いますが、いま振り返っていかがですか
やっぱり1区の信一郎さん(中村、スポ4=香川・高松工芸)が良い流れで持ってきてくれたというのが何よりだとは思うのですが、出雲が終わってから絶対に自分の駅伝での悪いイメージを払拭(ふっしょく)したいと思って練習に取り組んでいました。試合に対するメンタルの面でも自然と練習に身が入ったり、自然と戦う準備というものができていて、いろんな人と話をしたというのもそうですし、出雲の失敗があったからそういう走りができたり、そういう気持ちになれたのだと思っています。
――どんな思いで走っていたのでしょうか
「やってやるんだ」という気持ちがすごく大きかったです。もちろんチームの優勝とかそういうことも意識していたのですが、4区という長い区間で自分が絶対に存在感を出すということが大きかったです。ワセダが久しぶりに前で戦っていて、自分もわくわくしていたことを覚えていますね。
――その全日本の疲れが残る状態での上尾シティマラソン(上尾ハーフ)出場でした
スタートでちょっと出遅れてしまったということが大きな要因だったと思うのですが、前半の走りが良くなかったのかなと思います。決して速いペースではない中で、余裕を持って走れなかったというのは大きな課題かなと思います。その中でも、後半いままでハーフのラストの5キロで14分台とかが出たことがなかったのですが、上尾ハーフではいけたので、成長を感じることのできたレースだったと思います。
――距離に関しての不安などは特にありませんか
はい、自信持ってハーフの距離でいけると思います。
「走ることが楽しみになった」
――ここまで2つの駅伝を終えましたが、箱根に向けてチームとしてどのような話し合いをされたのでしょうか
あまりミーティングの回数はないのですが、具体的にこの区間でこのくらいの記録で走らなければいけないというのが出されました。「これくらいで走って優勝争いできるかどうかだよ」ということを提示されたので、その記録はすごく意識しています。やっぱりみんな手応えを感じ始めていて、意識は変わってきたのかなと思います。
――個人としてはここまでの練習や試合を経て、いまどのように感じていますか
一番に感じることは、継続して練習ができれば自分でも戦えるなということはすごく感じます。でもやっぱり派手さは自分の走りにはまだないと言うか、エースとか流れを変えられるような選手にはまだなれていないと思うので、そのために何が必要なのだろうとか考えたり、他の選手とトレーニングしたりすることで高い意識を持って練習しています。
――1、2年生の経験を経てことしで3年目となりましたが、何かご自身の中で心境の変化などはありましたか
練習の中で積極的に引っ張ろうという意識は持っていますし、同学年だけのミーティングでもそういう話はしています。一番上ではないので僕たちのチームではないのですが、僕たちが主役とか軸になってやっていこうという話はしているので、個人としても同学年の中でも自分たちで「やってやるんだ」という気持ちは持ってやっています。
――先輩と後輩の印象はそれぞれいかがですか
後輩に関しては、すごく素直だなと。あまり癖もないですし、「こうやっていこう」と言えばちゃんと付いてきてくれます。上に関しては、あまりこういうこと言っちゃいけないと思いますけど(笑)、まとまりはないのかなって。悪い意味とかではなくて、多分お互いに負けたくないという気持ちが強いのだと思います。そういうところが信一郎さんとかみたいにポッと出てくる要因だと思うので、良くも悪くもそれぞれカラーがあると思いますね(笑)。
――部内の実力がとても拮抗(きっこう)している状態だと思うのですが、部内でのライバルや「この人には負けたくない」という方はいますか
あまりチーム内で争っていてもしょうがないのですが、やっぱり同期には負けたくないなってすごく思いますし、練習の中でも意識することが多いですね。
――これまで駅伝への出走はありませんが、精神的支柱として部をまとめている高田駅伝主将の印象はいかがですか
プライベートでも一番仲良くさせてもらっている先輩です。ちょっとチームのことを考え過ぎてしまって、いままでうまくいっていないのかなという気はします。でもみんな高田さんについていこうという意識はありますし、僕自身は高田さんにすごく成長させてもらったと思っているので、最後は一緒にタスキをつなぎたいと思っていますし、良いかたちで終わりたいと思っています。
――ご自身としてはチーム内でどのようなポジションでありたいですか
あまり僕はピリピリした感じが得意ではないので練習以外のところではいつも騒いでいるのですが、締めるところは締めるというメリハリのある存在になりたいです。来年は平が駅伝主将になるので主将という肩書はありますけど、周りの僕たちが大事だと思うので、厳しいこととか思っていることを言えるような存在になりたいなと思います。
――昨年はケガの影響で苦しい時期もあったと思いますが、その経験が現在に生きていると思えることはありますか
やっぱり自分の体に敏感になったと思います。ケアをしたり、ちょっとでも違和感があったら何かアプローチするとか、そういうことに関してはすごく成長したと思います。ケガしたからこそこの継続した練習の大切さを痛感しているので、練習できることと言うか、走ることが楽しみにもなりました。
――ご自身の走りの強みは何ですか
どんなレースでも対応できるところかなと。突っ込むレースもそうですし、一定のペースで押していくようなレースでも対応できるとういことが僕の強みかなと思います。
――相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)のご指導はいかがですか
前からコーチとして指導していただいていたので、そんなに変わったところはないです。静かに見てくれているような指導スタイルなので、あまり口出しはしないのですが、見ているところは見てくれているなとは思います。
――駒野亮太長距離コーチ(平20教卒=東京・早実)の印象はいかがでしょうか
チームが違うのであまり話す機会がないですけど、あの人の厳しさもチームには必要になるのかなと思います。
「勝利を決定づけるような走りがしたい」
全日本では4区区間2位の快走を見せた
――箱根まで約1カ月となりましたが、いまの心境をお聞かせください
いよいよと言うかあと1カ月後になってしまったなというのが素直な気持ちです。やっぱり1年の集大成と言うか、一番自分がやってきたことを発揮できる場だと思うので楽しみですね。
――昨年までの箱根を振り返ってみていかがですか
下級生の時は何が何でも走りたいという気持ちの方が強かったのですが、いまは正直出ることは大前提であって、その舞台で結果を残すということが一番だと思います。多くの友達や家族とかが見てくれている試合なので、見せられる走りをしたいです。
――緊張はしますか
緊張は結構(笑)。結構するのですが、寝られないとかそういうのはないですね(笑)。
――今回希望する区間とかはありますか
3区ですね。
――何か理由はありますか
2年前に走った区間で設楽さん(悠太、現Honda)に2分くらい離されてしまって勝負が決まってしまったということがすごく自分の中でも感じています。3区はエース区間とかそういう感じではないですけど、すごくレベルの高い区間なのでそこで勝負したいという気持ちが強いです。
――他大学を意識したりはしますか
他大とかを意識することはあまりないのですが、やっぱり3強と言われていた時代から、メディアとかでもワセダが注目されないということがすごく悔しいので、存在感を出したいと思います。
――個人的に意識している選手とかも特にいないですか
特にこの人ということはないですけど、やっぱり他大の同学年の選手はすごく意識しますね。
――ことしはチームにどのように貢献していきたいですか
走りでチームを勢いづけるということが一番です。自分が勝利を決定づけるような走りがしたいと思います。
――箱根で勝つために必要だと思うことは何でしょうか
さっきも言ったようなことになってしまうのですが、僕たちの常識のレベルが他の大学では当たり前じゃなかったり、「えっ」と思うようなことを他大はやっていたりするので、もっと貪欲に競技に取り組むことが必要だと思います。それぞれ上へ上へという意識はあるとは思うのですが、下の選手が上の選手のどれだけ食らい付いていけるかということが大事になると思います。そのような面で「こいつには勝てない」とか「メンバーに入ればいい」とか、そういう意識を持った人がちょっとちらほらいるので、そういう全員で戦うということは厳しいとは思いますが、それぞれが自分の役割を見出して向上心を持ってやることが必要だと思います。
――箱根に向けチームとしての目標は
優勝を目指しています。でもあまり優勝にこだわり過ぎて硬くなってしまってはいけないと思うので、やっぱり自分たちのやってきたことを信じて、求め過ぎず100パーセントの力を出し切ることが大事なのかなと思います。
――個人としての目標をお聞かせください
走りたい区間はもちろんあるのですが、自分が一番チームに貢献できるような区間を走って区間賞争いして強いワセダというものを示していけたらいいなと思います。
――最後に箱根への意気込みをお願いします
強くなって変わった姿を見せたいと思います!
――ありがとうございました!
(取材・編集 須藤絵莉)
箱根への意気込みを書いていただきました
◆武田凜太郎(たけだ・りんたろう)
1994年(平6)4月5日生まれのA型。174センチ、54キロ。東京・早実高出身。スポーツ科学部3年。自己記録:5000メートル13分58秒83。1万メートル29分04秒20。ハーフマラソン1時間3分12秒。毎年恒例の色紙への一筆にことしも頭を抱えていた武田選手。隣に座っていた柳利幸選手(教4=埼玉・早大本庄)にちょっかいを出されながらも、ペンを握ってからは迷うことなく一気に書き上げてくださいました。新春の箱根で『存在感』を示し、チームに勝利を呼び寄せてくれることでしょう!