【連載】『栄冠への走路』 第6回 安井雄一

駅伝

 前回の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)を経験して、主力としての自覚が芽生えたという安井雄一(スポ2=千葉・市船橋)。上りを得意とし、箱根全区間の中で最も過酷を極める5区を走る準備のため、今季はスタミナ強化を中心に練習を積んできた。その成果を発揮するための大舞台はすぐそこまで迫っている。大役に挑む若武者の現在の心境とは――。

※この取材は12月1日に行われたものです。

「長い距離への自信」

丁寧に取材に応じる安井

――現在の調子はいかがですか

 現在はゲガもなく、順調に練習を積めています。

――集中練習ではどのような目標を持って臨まれていますか

 この集中練習では、まずはしっかりとスタミナをつけるということをモットーにやっています。僕は一応5区を走る気持ちでいるので、みんなよりも多く練習を積んでいる状態です。

――ケガをしないために意識してやっていることは

 お風呂とストレッチを毎日、合わせて1時間やるというのをやっています。お風呂でゆっくりして、上がってからトレーニングルームでしっかりストレッチをしているので、それがケガ防止につながっているのかなと思います。

――練習以外に気分転換でされていることはありますか

 よくカラオケに行ったりだとか、1日中寝ていたりだとか、陸上以外のことに時間を費やします。

――入部から2年目となりましたが、心境に変化などはありますか

 やはり昨年は、1年生という立場で毎日とても緊張していたのですが、ことしは昨年とは違い、きちんとワセダの主力の一人として箱根に出るという気持ちを持って、毎日練習しています。

――競技面での変化は

 夏合宿も相当走り込んだので、距離に対して強さを身につけられたかなと思います。

――1年生の頃と比較して成長を感じる部分は

 新しくトレーニングも取り入れたことで、長い距離に大分強くなれたと思うので、20キロ以上のレースでは他大に劣らない力をつけられたかなと思っています。

――今季のトラックシーズンを振り返っていかがでしたか

 全体的にいうと全然ダメだったなと思うのですが、その中でも最後の最後ではきちんと1万メートルでは自己ベストが出せたりしたので、課題と良かった点がどちらも見つかったような、少し中途半端なシーズンとなってしまいました。

――4月の日体大記録会では初めて1万メートルのレースに出場されました

 実際ならばきちんと一年生の時に走っておくべきだったのですが、初めて走ってみてかなり長く感じました。

――その直後の関東学生対校選手権(関カレ)で1万メートルのレースに出場し、15位と入賞には届きませんでした

 やはりワセダを背負って出させていただいた立場として、ものすごく悔しかったですし、自分の力の無さを感じました。来年、再来年はもう上級生になるので、次は絶対に入賞してやろうという気持ちが芽生えました。

――関カレのレースで他大の選手のスピードなどはどのように感じましたか

 比較的スローペースだったのですが、関カレは最初転倒してしまい、そこから一気にリズムが狂い、立て直せなかったというレースだったので、まずは前でレースができなかったということに後悔しています。

――今季は全日本大学駅伝対校選手権関東学生連盟推薦校選考会(全日本予選会)を経験されましたが、調整は難しかったのでしょうか

 その時期に全員で戦う大きな大会で、今までにはないものであったので、先輩方も経験がなく、少し戸惑いがあって難しい面は多かったですね。

――全日本予選会の雰囲気などは

 やはりすごく緊張感が漂っていて、しかしどこかに自分たちは1位で通過できるのではないかという甘い気持ちがあったのかなと思いました。

――実際には4位通過という結果でした

 その時点でのワセダにはそのくらいの力しかなかったのだというのを感じさせられましたね。1位になれると自分自身思っていたので、予選会のレースが今シーズンで一番印象に残っていて、その日から徹底的に変えようと思いました。

――7月にはホクレンディスタンスチャレンジで、自己ベストを出されましたが、春先のレースと比較して記録が大きく向上した要因は

 全日本予選会で良い走りができなかったのがとても悔しく、そこからいろいろと気持ちを切り替えて、練習内容なども自分なりに考えてやってみたり、ケアなども真面目に取り組んだ結果だと思います。

――目標である1万メートル28分台への手ごたえは

 28分台には届かなかったのですが、28分台を出せるという自信は、現在ありますね。

「同期には負けたくない」

――今季はすべてAチームでの合宿に参加されましたが、昨年と比較していかがですか

 昨年はBチームで練習をこなしていたのですが、ことしはAチームに入れさせていただいて、なおかつ全部練習できたので、すごく自信になりました。

――夏合宿ではどのようなことを重点的に取り組んだのですか

 距離を踏むことを目標にやりました。8月の走行距離は1000キロを超えることができました。箱根では山を狙っているので、スタミナを重点的に意識しました。

――春先から新しいトレーニングを取り入れているそうですが、走りに生きてくる部分は

 30キロ走や、40キロ走がかなり楽に走れるようになって、今までではすごく疲れが残っているような練習でも、走り終わった後もあまり疲れが残らずに終われることが多かったですね。

――出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)には出走とはならず、出雲市陸協長距離記録会へ出場されましたが、どのように気持ちを切り替えて臨まれました

 練習も完璧にできていたので出雲を走れなかったのはすごく悔しい思いがあって、正直その思いを引きずっていて、記録会ではあまり良い記録が出せませんでした。気持ちの切り替えは難しい面がありましたね。

――出雲には光延誠選手(スポ2=佐賀・鳥栖工)、藤原滋記選手(スポ2=兵庫・西脇工)と共にエントリーされましたが、3、4年生のみの出走となったことに関してはいかがですか

3人で「悔しいな」という話をして、誰か1人でも2年生の中から走ることができれば良かったのですが、下級生の力の無さを感じたので、全日本(全日本大学駅伝対校選手権)は走ろうという話をしました。

――全日本では最終エントリーで変更となり、出走はかないませんでしたが、いかがでしたか

 出雲が終わってから少し調子を崩してしまっていて、もう相楽さん(豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)にも「全日本は回避して、箱根に向けて練習したいです」と伝えていたので、(エントリーを)外れたことに関しては気持ちを切り替えてやっていたので、悔しかったという思いはあまりなかったです。

――調子を崩されていたということで、他の選手とは別メニューで調整されていたのですか

 そうですね。いままでにないような感じで調子を崩してしまったので、メニューはみんなよりも落としてやっていました。

――全日本には同期の光延選手、藤原選手が出走されましたが、お2人の走りはどのようにご覧になりましたか

 光延は昨年の悔しさを晴らす舞台でもあり、藤原はことし初めてということで、2人が走っているということに悔しい面もありましたが、2年生として二人がすごく頑張っていたので、負けたくないなと思いました。

――安井選手から見て今季の光延選手、藤原選手の調子などはいかがですか

 2人ともAチームで主力と変わらぬ練習をしているので、1年前と比べたらすごくて、逆にいまは自分が置いて行かれている気がしているので、頑張らなければと思います。

――同期と競技についてお話しされることはありますか

 他大の選手が良いタイム出したりしたら、「ちょっとやばいな」みたいな話をしたりしますね(笑)。

――全日本では2年ぶりにシード権を獲得されましたが、チームの一員として4位という結果はいかがですか

 やはり優勝を目標にしていたので、あまり喜べる結果ではないのですが、まだ箱根が残っているので、それに向けては良い手応えをつかんだのではないかなと思います。

「山上りという伝統を受け継ぐ」

天下の険に挑む準備は万全だ

――前回の箱根を終えてから、この一年間はいかがでしたか

 箱根を走った1人として、ワセダに必要な人材というわけではないですが、箱根を走らせていただいた身としてきちんと結果を残さなければいけないと思っていました。また次の箱根も絶対に走ろうと思いながら1年間過ごしてきました。

――箱根まで約1カ月となりましたが、現在の心境は

 ことしは昨年に比べて調子を崩していて、チームから少し遅れを取っている部分があるため、残りの1カ月間で完璧に練習を積んで、箱根といってもあまりガツガツせず、リラックスしてやっていきたいと思っています。

――現在のチームの雰囲気は

 1つ1つの練習に緊張感があり、ピリピリしているので常にお互いがバチバチしている感じなので、すごく良い雰囲気なのかなと思います。

――他大と比べて今季のワセダの強みは

 新しいトレーニングを取り入れて、長い距離やアップダウンが強化されていると思うので、20キロ以上のレースであれば効率良く走れるという部分が強みだと思います。

――高田康暉駅伝主将(スポ4=鹿児島実)はどのような存在ですか

 高田さんはやはりこのチームの顔といって良い選手で、高田さんの存在無しでは今のチームは無いですし、高田さんは積極的に声を掛けてくださり、チームを盛り上げてくださる存在なので、期待に応えたいなと思っています。

――5区を走るために、距離を踏むこと以外に何か準備していることはありますか

 脚力を強くするトレーニングや、上半身のトレーニングなど走り以外の面でもたくさんやっています。

――昨年から山上りについてお話を伺っていますが、改めて5区についてはどのように考えていますか

 1年以上前から渡辺さん(康幸前駅伝監督、平8人卒=現住友電工監督)に「お前は上れる」と言われ続けてきて、ずっと山を上ることを意識していました。ワセダの山は毎年強く、その伝統を受け継ぐためにも、いまは青学大の神野大地選手などすごく山が強い選手がいるので、その選手たちにいかに勝てるかということを意識して取り組んでいます。

――5区を走るにあたり、カギとなってくる点は

 やはり我慢だと思います。きついところで我慢できないといけないと思うので、その点に関しては一番重要なのかなと思っています。

――ご自身で忍耐力はあると思いますか

 ある方だと思います(笑)。

――意識している大学や、個人選手などは

 いないと言えばいないのですが、やはり同期の存在は気になっています。もし箱根を走るとなったら同じ区間になりそうな選手は大体ピックアップできているので、その選手たちには負けたくないなと思っています。

――同期で特に意識させている選手は

 特に意識している選手がいないと言えばあれなのですが、青学大や駒大、東海大など箱根で競り合うような大学の同期はすごく気になりますね。

――2度目の箱根を迎えるにあたり、意識していることはありますか

 昨年は緊張しすぎて頭が真っ白になってしまったという経験があるので、ことしは余裕を持って箱根を迎えたいと思っています。

――箱根でのチーム目標は

 やはり総合優勝ですね。

――また個人の目標は

 5区で区間3位、そして往路優勝が目標です。

――ご自身の走りでのアピールポイントは

 ガッツのある走りと、あとは走っていることを楽しんでいる姿を見てもらえればいいかなと思っています。

――最後に、箱根に向けて意気込みをお願いします

 このメンバーで戦える最後の箱根であり、ずっと優勝を目標にやってきたので、先輩方の気持ちに応えられるように駆け上りたいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 菅真衣子)

箱根への意気込みを書いていただきました

◆安井雄一(やすい・ゆういち)

1995(平7)年5月19日のO型。170センチ、56キロ。千葉・市船橋高出身。スポーツ科学部2年。自己記録:5000メートル14分09秒39。1万メートル29分07秒01。ハーフマラソン1時間2分55秒。好きな音楽を聴いて緊張を和らげているという安井選手。ことしの箱根ではお気に入りの曲を糧に山を駆け上ってくれるはず。そんな安井選手の走りに注目です!