安定した走りを持ち味とする井戸浩貴(商2=兵庫・竜野)。同期が故障に悩まされる中、2年で唯一全日本大学駅伝対校選手権と東京箱根間往復大学駅伝(箱根)の双方に出走を果たした。3区を走った井戸が2度目の箱根で感じたこととは――。レースの振り返りと、今季の意気込みについてお話を伺った。
※この取材は2月11日に行われたものです。
与えられた役割
冷静にレースを語った井戸
――箱根から約1カ月が経ちましたが、現在の調子はいかがですか
調子は神奈川ハーフ(神奈川マラソン)に向けてある程度は調整していたので、そこからは若干落ちていますけど、ある程度良い状態ではキープできています。
――箱根の後はどのように練習を積まれていましたか
箱根後は神奈川ハーフがあったのですが、そこまでものすごく合わせる試合ではなかったので、距離を踏みながら練習をしていく感じでした。箱根の疲労が残っている中でしたけど、追い込むかたちで練習をしていました。
――神奈川マラソンでの優勝はロードでの自信につながりましたか
そうですね。実際(箱根で)優勝をした青学大の選手たちが何人も出ていて、その中で一番になれたので。青学大のトップ3、4人は出ていなかったのでこれで満足はできないんですけど、ある程度結果を示せたので自信につながったかなと思います。
――2014年はトラックとロードを振り返ってどのような1年でしたか
昨年は調子がうまく合わなかった印象があって、関東インカレ(関東学生対校選手権)はもっといけるんじゃないかなと思ったのですけど、結局表彰台を狙っていたのが7位で終わってうまくいきませんでした。そういうところで苦労した1年でした。
――箱根後は地元の方に帰省はされましたか
(1月)4日からは地元で、いったんこっち(所沢)に帰って来たんですけど成人式でまた実家に帰ってという感じでした。
――帰省された際にご家族やご友人からどのような言葉をかけられましたか
家族はもう2回目でしかも見に来てくれていて。僕が走ったのが(1月)2日だったので、3日に僕が沿道でみんなの応援しているときにたまたま会って話しました。なので特に実家に帰ってからというのは家族からはなかったです。でも友達とかは成人式で会うと田舎なのもあって反響はあって、いろいろと声を掛けてもらいました。
――ご家族と3日に会ったときはどのようなお話をされましたか
家族はもともと僕が4年間の中で1度でも走れればいいと思っていたので、それで満足してはいけないのですけど2回走らせていただくということになって、家族としてはよくやってくれているというように思ってくれています。
――家族の応援が力になる部分も大きいのでしょうか
試合の前に言われてそれが特別応援になるというわけではないのですけど、普段からお金の面とかでも無理をかけていて、兄弟も社会人なのですけれどいろいろなかたちで支援してくださることもあって普段から家族には迷惑をかけているなと思っているので、試合では結果を残さないとなと思っています。常日頃からそれはある程度かたちになって出ているのではないかと思います。
――今回は2度目の箱根でしたがどのような意気込み、目標でレースに臨まれましたか
昨年は区間順位も悪く、チームとしても差を詰められてしまい結局最後に日体大に抜かれてしまって迷惑をかけてしまったという思いがあるので、区間は違いますけどチームに迷惑をかけないということを第一に走っていました。
――ケガで集中練習に途中から合流された影響などは特になかったのでしょうか
練習自体は1年生のときよりも良いぐらいでできていたので満足とは言えないですけど特に問題はない状態で臨めたと思います。
――3区を走るというのはいつ決まりましたか
往路は走ることになるというのは聞いていたのですが、3区になるというのは最後の12月末の区間エントリーのときに決まりました。
――3区を走ることが決まってどのようなお気持ちでしたか
僕はやっぱり1区を走りたいという気持ちがちょっとあったので残念だったのですが、それでもやはり準エース区間を走らせてもらえるということで、それだけ自分の中で今回の役割は大事なのだなと思って、しっかりと走らないと、と思いました。
――当日のコンディションはいかがでしたか
すごく気温が低かったので他のチームはいろいろと苦労していたみたいなのですが、風自体はあまりなくて。後半に湘南の海岸ですごく冷え込むのでその辺で固まってしまうところもあったのですが、風があまりなかったので条件としてはそんなに悪くなかったと思います。
実感した力の差
――ご自身の箱根での走りを振り返っていかがですか
区間は8位で全然満足できる結果ではなかったのですが、自分の持てる力は出してああいう風に一人旅だった中で自分ができることはやったんじゃないかなとは思っています。それでも、もともとトラックのタイムが負けていた人たちに順当に自分が負けて、昨年の1年間でつけられた差を実感したのでそれがすごく悔しかったです。
――ことしはその差を縮めていくことを目標に練習されていくということでしょうか
そうですね。やはりトラックを走れる人はある程度ロードも走れていて、それが今回の箱根でも自分の結果に顕著に出てしまったので、しっかりとトラックのタイムを出してそれを駅伝につなげるというかたちでこの一年やっていこうと思います。
――3区にはどのようなレースプランで臨まれましたか
高田さん(康暉、スポ3=鹿児島実)がラスト3キロで突き放したときに単独走になることはわかっていたので、前半から突っ込みたかったのですができませんでした。後半の最後で差がすごく出てしまったので、後半までしっかりと力をためる走りをしたいと思っていました。
――タスキを5位で受け取って前を追う展開でしたが、どのようなことを考えて走っていらっしゃいましたか
できる限り前に追いつこうと思ったのですが前が見えなかったので、なかなか難しいところもありました。それでも1秒でも1秒でもと思いながら、ボードでタイム差を出してくれるのでその差を気にしながら走っていましたね。
――遊行寺の坂はいかがでしたか
上っていたときは長かったのですが下っていたら一瞬だったので、たしかにすごい坂で下っていても足に自然とブレーキをかけてしまうぐらいだったのですが、特にそこを意識するというほどは下っていなかったです。
――昨年走られた8区と逆の区間である3区でしたが、走ってみて印象はいかがでしたか
正直言うと、湘南の海岸は風景が全く変わらないので昨年も見たなという感じだったのですが、逆だからというのもあると思うんですけど、ほかのところは全然見たことがない風景が広がっていて(笑)。こんなところ昨年走ったっけみたいな感じで前半は思っていましたね。
――ペース配分はいかがでしたか
前半はもっと29分一桁から29分切るぐらいでは入れたかったので、その辺がうまくいかなかったです。でも後半は3分入りが向かい風とかの影響で厳しくなってくるのですが、そこを大体3分切るぐらいではできたので、前半の10キロが課題として残ってしまうかたちだったのですが後半はそれなりにペース配分できたかなと思います。
――監督車からの言葉で印象的だったものはありますか
10キロの通過が29分20秒台後半だったのですが、先頭が28分台後半とかで返していると聞いて、そこで差が開いてしまったので何とかしないと、と思って焦ったのが印象的です。
――走っていて一番苦しかったのはどのあたりでしたか
前半を抑えていて余裕があったので特に苦しい部分は全体を通してあまりなかったのですが、ラスト5キロでちょっときつくなってしまって苦しんだかなという印象です。
――往路は6位となりましたが、チーム全体の走りを見ていてどのように感じましたか
僕を含めてなのですが、先頭の流れからは外れてしまったのがあまり良くない方向にいって6位になってしまったというのもあって。やはり1、2、3区で流れに乗り切れなかったのがすごく悔しかった部分ではあります。
――総合では5位という結果になりましたが、いかがですか
もともと前評判で5番ぐらいなのではないかと言われていて、その通りの力でした。優勝は当然目指していましたがみんなが出すべき力を出して5番ということで、ミラクルは起きませんでした。別にみんながそれで責められる必要はないと思うのですが、当然これからいろいろと新しくやっていかないといけないなとは思いましたね。
――2度目の箱根を振り返って、昨年よりも成長したとご自身で感じられる部分はありましたか
気持ちが落ち着いているかなと思ったのですけれど、結構昨年よりも緊張しました。タイム自体が目標に近かったりとか乱れていなかったりしたのでその辺は成長したのかなと思いますけど、自分が走った感覚としては昨年と全く変わらなかったので、気持ちはまだまだ大舞台に慣れていなくて精神面が成長できていないのかなと思いました。
――緊張されたというのは、やはり箱根という大きなレースだったというのがあるのでしょうか
やっぱり注目してくださる方が一番多いので、その分緊張するところはありましたね。
――走っていて沿道の声援はいかがでしたか
人がすごく多いので一人一人の声を聞き分けることはできないのですけど、すごく応援されているというのはわかりました。すごくありがたいなと思いながら走っていましたね。
――レースを終えて渡辺康幸駅伝監督(平8人卒=千葉・市船橋)からはどのようなお話がありましたか
僕は上尾ハーフ(上尾シティマラソン)をケガで離脱していたこともあって、その状態であの走りなら十分だということを言われたのですが、来年からはもっと学生のトップの目線でやっていかないといけないぞとおっしゃっていただいたので、それをことし実現したいと思います。
リベンジへの第一歩
主力として往路に起用された
――卒業される4年生にはどのような思いがありますか
(山本)修平さん(スポ4=愛知・時習館)はキャプテンとして引っ張っていただいて、田口さん(大貴、スポ4=秋田)にはプライベートでお世話になっていたので先輩たちが少しでも楽に走れるように、そのための一つの力になればと思って走りました。
――同期の箱根での走りに関してはいかがでしたか
2人ともまだ本調子ではない部分があったので、そんな中でもしっかりと走ってくれるなと思っていたのですが、2人が本調子だと僕が3区とか主要区間を走るというのが厳しくなってくるので、その点も踏まえてもっと成長をしないといけないなと思いました。
――渡辺監督が退任されることになりましたが、どのような思いがありますか
僕は2年間なので、4年間お世話になった4年生とか、3年生から見たら思いは少ないかもしれませんが、2年間見てもらってその上で箱根で最後に胴上げしたいと思っていましたが無理だったので、すごく申し訳ないなと思っています。まだ僕らは知らないのですけれど、次に何らかのかたちでまた新しい道に進まれると思うので、そっちでまた頑張ってくださればと思っています。
――箱根を見ていて刺激を受けた選手はいますか
やはり1区があれだけ混戦になって、そんな中でも勝負に勝った中村さん(匠吾、駒大)とか、同じ区間で同じ学年の中谷(圭佑、駒大)の走りもすごいと思いましたし、当然青学大の神野(大地)選手の逆転劇からの差を広げた区間新というのもすごいと感じました。あとは、青学大がほぼ区間賞独占の完璧な走りをしたというのを見て、いろいろな人から刺激をもらいました。
――優勝された青学大の強さはどのようなところだと思われますか
一人一人が外さない走りをして、前半の流れに乗ったというのが結局5区に全部貯金として来たというのが大きいと思います。この間神奈川ハーフで(青学大の選手と)一緒に走らせていただいて思ったのが、みんな一筋縄ではなかなか引き下がってくれなくて、1秒でも1キロでもこの集団の中で頑張ろうという思いがすごくありました。うちは2番手の石田(康幸、商1=静岡・浜松日体)もすぐ離れちゃったのでそういう部分が足りないのかなと思って、優勝したチームと僕たち5位だったチームの差を感じましたね。
――早大が強化していくべきことはどのようなところなのでしょうか
練習の中で競うといいながらも、設定があって引っ張る人もいてそのペースを乱すことは悪いことなのであまり難しいかもしれないのですけれど、ここから記録会も増えてくるので練習を完璧にこなしながらも試合の中で100メートルでも200メートルでも、長ければ1キロでも先頭の集団で流れを切らないように頑張れるように、そういう粘り強さを身につけることが大事なんじゃないかなと思います。
――箱根後の部員日記で「流れを変える力をつけたい」と書いていらっしゃいましたが、流れを変える走りに必要なことは何だと思われますか
やはり前との差を1分半とか詰めようと思うとトラックの1万メートルで28分30秒ちょいとか自己ベストを持っていないと無理なので、来年そういう走りをするためにしっかりとスピードを磨きながらトラックでも走れるように自分の地の力を底上げする必要があると思いました。
――今後はどのように練習をされていく予定ですか
3月からは鴨川合宿も入ってくるので、その中でしっかりと4月からのトラックシーズンへの移行に合わせたいと思います。トラックの厳しい練習の中でも自分がしっかりと引っ張るという姿勢でやっていきたいと思います。ジョグをもうちょっと大事にしながら、ある程度疲労を残した状態でジョグをこなせたらそれだけ力がついたことにもなるので、そういう部分を大切にしたいです。
――新しいチームの雰囲気はいかがですか
昨年からやっている人はやっているけど、やっていない人はやっていないんじゃないかという部分があらわになってきていたところもあったので、そういうのを含めていまはチーム全員で頑張っていこうという雰囲気はあると思います。
――春には新入生も加わるかと思いますが、どのようなチームにしていきたいですか
僕は一般入試で入ってきましたが、もともと推薦者の人数が少ないので新入生が頑張るという部分も当然あると思います。でもそれだけでは無理な部分もやっぱりあるのでもっと新入生を含めて一般入試の生徒が引け目を感じずに頑張ってほしいかなと思います。
――ことしは競技面でどのような1年にしたいですか
全カレ(日本学生対校選手権)にやっぱり出たいのですが、そのためにはまだA標準も切っていなくて厳しいので、とりあえずトラックは最初の入りでA標準を切れるようにしていきたいです。関東インカレはことしハーフを走るかもしれないのですけれど、その点を含めてトラックで自己ベストを最低限出して、ある程度結果を残してそれを駅伝につなげていくというかたちで、駅伝でまた主要区間を走らせてもらってリベンジできればと思っています。
――3月の日本学生ハーフマラソン選手権ではユニバーシアードの出場権などについても考えていらっしゃるかと思いますがいかがですか
やはり2年に1度で、ことしでユニバーシアードは最後になってしまうので、可能性がある以上しっかりと(出場権を)つかみたいなとは思っているのですが、丸亀ハーフ(香川丸亀国際ハーフマラソン)で結果を残した青学大の選手とか、明大の方だとか力強い選手はいっぱいいらっしゃるので、そこにどう食いつきながら勝負をしていくかというところを大事にしていきたいと思います。
――チームとしての駅伝シーズンの目標を教えてください
やはりチームとしては大学三大駅伝で優勝するという目標を立てているので、それに向けてやっていきたいです。駒野さん(亮太長距離コーチ、平20教卒=東京・早実)からお話があったのですけれど、いまやっていることは優勝のために必要なのか、自分で自答するようにしてある程度追い込むことが必要なんじゃないかと思っています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 副島美沙子)
◆井戸浩貴(いど・こうき)
1994年(平6)7月10日生まれのAB型。170センチ、59キロ。兵庫・竜野高出身。商学部2年。自己記録:5000メートル14分00秒55。1万メートル28分58秒83。ハーフマラソン1時間2分33秒。2014年箱根駅伝8区1時間6分30秒(区間9位)。2015年箱根駅伝3区1時間3分47秒(区間8位)