第12回は田口大貴(スポ4=秋田)のインタビューをお送りする。箱根路を沸かせた熊崎健人(帝京大)とのデットヒートから早2年。当時の思いを糧に成長してきた田口も最後の試合となった。いままでの振り返りとともに、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)への意気込みを伺った。
※この取材は11月26日に行われたものです。
「主力の走り」を追い求めてきた1年
丁寧に取材に応じる田口
――上尾シティマラソン(上尾ハーフ)から約1週間が経ちました。現在の状態はいかがですか
上尾ハーフが終わって1週間ほど休みを頂けたので、リフレッシュすることができました。集中練習を乗り越えるだけの状態にはなっていると思います。
――その期間に練習はしていたのでしょうか
練習はありましたが、ポイント練習等はなく、自分のペースでやらせていただきました。
――集中練習で意識していることはありますか
もう一度20キロという距離、箱根を走れるだけの土台をしっかり作り直すことと、いかにチーム内を箱根に向けられるかというところを意識してやっていこうと思っています。
――チームの意識を高めていくということですか
それもあります。箱根に向けてもう一度、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)のような感じではなくて、戦えるチームの雰囲気を作り出していきたいと思っています。
――この1年を振り返っていかがですか
記録の面ではとても満足しています。特にトラックは記録の面では順調にいったと思っています。しかし、きょねんからの課題ですが、インカレであったり、大事なところでもう少し自分の力を出せたのではないかという心残りを常に感じてしまうシーズンになってしまいました。
――やはり「主力として」ということを意識してやってきた1年でしたか
そうですね。やはり4年生なので主力としてやっていかなければならないと思っています。そういった意識を常に持っていないと、緩みはチームの雰囲気に出てしまうのかなと思っています。
――全日本学生対校選手権(全カレ)では8位入賞を果たしました
全カレに関しては入賞できたので嬉しかったです。でも、まだ全カレの一回だけなので。常に「主力として」と僕自身も思っていますし、スタッフ陣からもそう思われています。そういった自覚を持ってやっていくと、1回だけでなくコンスタントに走り続けられるタフさはまだないのかなと思っています。
――2年間、「主力として」という言葉を口にしてきましたがまだ辿りついていないということですか
全然辿りついていないですね。少しずつかたちにはなってきていると思うのですが、まだ自分の思っている通りの走りは1回もできていません。そういったところには、自分自身の中でもどかしさを感じています。
――自分の思っている走りというのは
常に安定して結果を出し続けることと、大事なところ、求められているところでいかに自分の走りを出せるかという部分とは思っています。
――全日本ではアンカー区間を任されましたが結果が出ませんでした。やはり悔しさはありますか
ありますね。でも、終わったことなので。気持ちの面では切り替えてやっていっています。
――きょねんの事後取材で攻める気持ちが足りなかったと仰っていました
この1年間、意識してやってきたので、意識を持ってレースに臨めていると思うのですが、まだどうしても一時の感情のままに走ってしまっているので。まだまだかなと思います。
「4年生として一番大きい仕事が待っている」
――全日本ではシード落ちという結果となりました。足りなかったと思われる点はありましたか
チームにも自分にも言えますが、その区間に対する責任感が足りなかったのかなと思います。「覚悟を持って」と簡単に口では言えますが、それを体現するだけの気持ちがあったかと言われたら多分なかったと思います。でなければ、ああいったようなミスではないですけど、勝手に自滅していくようなレースにはならなかったと思うんです。終わった後にビデオを見ましたが、優勝した駒大でしたり、上位に入った明大、青山学院大、東洋大の走った選手全員が、区間を任された責任を持って走っていました。特に自分なのですが、そこが絶対的に僕たちに足りなかった部分なのかなと思います。練習で、自分の走りどうこうというのはたくさんありますが、試合ではもう少し貪欲になければいけないのかなと思いました。
――渡辺康幸駅伝監督(平8人卒=千葉・市船橋)から指示はありましたか
直前には、「難しい状況だけど、諦めないで走れば大丈夫」という話がありました。あと、コーチとは「自分のペースで周りはあまり気にせずにいこう」という話をしました。
――山梨学院大と34秒の差がありましたが、事前から聞いていたのでしょうか
だいたい40秒前後で来ているという話は聞いていました。
――その時はまだシードを諦めていませんでしたか
諦めていませんでした。山梨学院大が来ていましたが、東海大を目指してずっと走っていたので。走る前は自分のペースで東海大との差を詰めながら、後ろから山梨学院大が来た時について、リズムを作っていけたらと思ってやっていました。でも、最初の自分のペースが速すぎて、突っ込みすぎてしまって。そこが先ほども言った気持ちに任せてしまった、一時の行かなきゃという感情のままに行ってしまった部分かなと思っています。そこは課題です。
――2年前の箱根もアンカーを務め、悔しそうな姿がありました
どちらかというと後で込み上げてくるものあったのが全日本でした。いままでシードを落としていなかった分、頭を整理してやっと8年ぶりにシードを落とした意味というのがわかったというか。2年前の箱根は別にシードがかかっていたわけではなかったので、個人の問題でした。自分たちがやってしまった大きさではないですけど、ゴールした直後はその現実を実感できなかったですね。
――8年ぶりのシード落ちという結果でしたが、いかがでしたか
シードを落として影響を一番に食らうのは後輩たちなので。やはり大変なものを残してしまったと、いまも思っています。だから、箱根で3番以内、優勝という目標をクリアすることで全てが報われるので。最後に、4年生として一番大きい仕事が待っているのかなという気持ちがあるので。気は抜けないですよね。
――2年前の箱根は転機になりましたか
なりました。あれは大きいです。すごく嫌でしたが、いまこういう風になれた一番のきっかけはあの箱根だったと思います。箱根を走れるようになったきっかけが当時ありましたが、やはりあそこで熊崎と競り合った経験の中で感じたことや思ったことは、自分の中で大きかったです。あれがあったからこそ、その後に繋がったかなと思いますね。
――意識が変わったということですか
意識も変わりましたし、何よりも悔しかったです。自分の中で印象に残ったレースというのは色々ありましたが、あれだけ強いインパクトを残したレースはその当時なくて。何気なくやっていても頭によぎる時も多かったですし、それが年中続いたことだったので。ふとした時にモチベーションになっていましたね。
――「あの当時は」と仰っていましたが、いまは全日本ですか
それはまだわかりません。これからも競技は続けるので、転機になるかはこれからわかると思います。
最後こそ、結果で示す走りを
アンカーを務めた全日本では悔しい走りとなった田口
――この4年間全体を振り返るといかがですか
4年間で見ると本当に順調にこれたと思います。特に記録の面では順調に伸ばすこともできましたし、それ以外でも自分の走りというものが年数を重ねるごとに変わってきたりなど、その年その年で成長を実感しながらできた4年間でした。どこかの年で停滞することもなかったので、その面で見れば本当に順調にやってこれた4年間だったかなと思います。
――一浪を通して良かったことはありますか
ここにいれることですね。ここにいれることが、一浪を通して一番良かったと思います。一浪して大正解でした。色んな葛藤もありましたが、自分のやりたいことを貫き通して、結果的にここに来ることができたので、あの選択は間違いなったと思います。それだけは自信を持って言えます。
――一浪した強みはありますか
どうしても入りたくてやってきた場所でしたので、なんとしても結果を出したいと思ってやってきました。やはり、大きい場で結果を残したいと思っていますが、なかなかできないのがいまの一番の、一浪しているからこそ感じる部分かなと思います。でもやはり一浪たからこそ主力として見られるところまで成長できたと思うので、最後の箱根で強みというのを見せたいなと思います。
――部員日記のほうに「遂にやってきたのか、遂にやってきてしまったのか」という表現がありましたが、いまも同じ気持ちでしょうか
はい。全日本で思うような結果は出ませんでしたが、自分たちに自信はあるので。自分たちの駅伝を見せたいという気持ちがあります。いまのワセダのメンバーに特別な思いがあって、仲が良いと言われるのですが、そんなものではなくて。このメンバーでまだやっていたいなと、できればこれからずっと、残りの競技人生をこのメンバーでやっていきたいなと思えるくらいの思い入れの強い後輩たちなので。だから、自分たちの駅伝を見せたいという気持ちと、終わってほしくない気持ちがありますね。そういった意味でああいった表現になりました。いまも変わりません。
――自分たちの駅伝とはどのような駅伝ですか
いま特に力をつけているのが1年から3年で、勢いがあります。その勢いでチームの流れを活性化させつつ、堅実に走れる上級生ではないですが、上級生がその勢いを支えるかたちができれば理想なので。総合力で戦えて、総合力で勝つということ駅伝がことしの僕たちの駅伝なのかなと思います。
――そのためには4年生の力がやはり必要ですか
はい。だから、箱根だけは外せないですね。
――集中練習が終わってまたチームが変わってくると思います。どのように変わると思いますか
戦えるチームだという自信を、もう一度集中練習で作っていきます。
――箱根に向けて意気込みをお願いします
言ってしまえばこの1年間、箱根に焦点を当ててやってきたチームです。全日本の結果は受け止めなければいけませんが、集大成の場ではないので。全日本の反省を踏まえて、切り替えて、いまはやっています。そういった意味ではモチベーションには特に影響することなく、うまく箱根に向けて切り替えられていると思います。
――4年生最後となります。どのような走りをしたいですか
それは結果で示します。どのような走りをしたいか、よりも結果で残して。その後でこういった走りが自分のやってきたことですと言えるような走りをしたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 目良夕貴)
箱根への意気込みを書いていただきました
◆田口大貴(たぐち・だいき)
1991年(平3)12月12日生まれ。168センチ。52キロ。秋田高出身。スポーツ科学部4年。夏の1次合宿の帰り、スターバックスで飲み物を十数名に買うという男気を見せた田口選手。未だ納得のいく結果を出せていない田口選手ですが、箱根での男気溢れる走りに期待です。