【連載】『逆襲』 第9回 佐々木寛文

駅伝


 第9回はチームの支柱である駅伝主将・佐々木寛文(スポ4=長野・佐久長聖)。一時は不調に陥り出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)ではまさかのエントリー外を味わうも、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では見事復活を果たした。歓喜を味わうことができるのは残された箱根、ただ一つ。最後の箱根に向け、静かなる闘将が熱い胸の内を語った。

※この取材は11月24日に行ったものです

『周りを気にしながら自分の練習をやる』

1年間チームをけん引してきた佐々木

――東京箱根間往復大学駅伝(箱根)まで約1カ月となりましたが、現在の心境はいかがですか
最後の箱根駅伝なので、このチームで練習できるのもこの一カ月だけ。本当に四年間あっという間だったなあということを思いながら、最後の箱根に向けて、もう一度しっかり練習していこうという気持ちです。

――きょうから集中練習がスタートしました。どのようなメニューでしたか
きょうは30キロの距離走をやりました。集中練習は、第一としてやはりしっかり距離を踏むというか、箱根に向けてもう一度脚づくりがメインになってきます。夏合宿でも距離は踏んでいたんですけど、その成果を全日本までである程度出し切っている部分があるので、もう一度箱根前に距離を踏んで仕上げていくという位置付けでこれからやっていきます。きょうはその第一歩として30キロをやりました。

――現在の調子自体はいかがですか
ここまで一応ケガもなく練習を継続できているので、しっかり集中練習を積めれば良いかたちで本番を迎えられると思います。

――先日の上尾シティハーフマラソン(上尾)では不本意な結果となってしまいました。渡辺康幸駅伝監督(平8人卒=千葉・市船橋)もおっしゃったように15キロ以降の走りに課題を置かれていると思いますが、その点に関してはいかがですか
夏合宿も練習は積んでいたんですけど、練習の質というか出来具合で言うと少し物足りなさが僕自身もありましたし、監督自身も感じていると思うのですが…。その面で、出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)も調子を合わせることができなくてメンバーから外れてしまいました。全日本(全日本大学駅伝対校選手権)には間に合わせることができましたけど、そういった距離の練習を踏みながら質の高い練習をすることがまだまだできていない部分がありました。今回の上尾に関しては、箱根前に1回20キロを走って、どのような感覚なのかを思い出す意味でも出場しました。監督の指示で15キロ以降止まるかもしれないよと言われていたんですけど、まさにその通りになってしまって…。また、2、3日前から少し体調を崩していたということも影響しました。でも前半は先頭集団についていけたので、15キロ以降の走りというのはこれからの集中練習で十分補っていけると思います。

――先程夏合宿のことを挙げられましたが、そこで個人として強化した点、そして全体としての収穫はありましたか
個人としては、長い距離を踏もうと考えてやってはいたんですけど、やはり今季主将という立場になってから自分自身で頑張りすぎてしまう部分があって…。周りを見なければいけない部分もあるので、もっと自分の事に集中すればいいところを、周りを気にしながら自分の練習をやる。結果として、1次練習はポイントとなる練習をしっかりこなすことができませんでした。また、2次に関してはところどころ抜けたりしながら、大きなケガはしていないんですけど、調子の面で質の高い良い練習を積めてこなかったことが、僕としてはこの夏は物足りなかったと感じる点でもありました。ただ全体からすると、今シーズン新しく入ったメンバーが駅伝でも走っていますし、基本的な走力は全体としてしっかり練習で積めているので、チームの底上げという面では上がってきていると思います。

「2年前の総合優勝も4年生の奮起があったからこそ」

全日本でメンバー復帰を果たした

――出雲では高田康暉選手(スポ1=鹿児島実)、田口大貴選手(スポ2=秋田)。全日本では柳利幸選手(教1=埼玉・早大本庄)という新しい戦力が出てきましたが、その点に関しては主将としてどのように感じていますか
去年はAチームとBチームの力の差が大きすぎて、その中間となる選手が出なかったという課題が残っていました。ことしに関してはBチームでたたき上げてきた選手、高田などは高校での実績があるのでAチームでできて当然なのですが、例えば田口や全日本の補欠だった田中(鴻佑、法3=京都・洛南)とかに関しても上尾でしっかり走れています。こうしたたたき上げの選手、中間層の選手がいることは、ことしのチームの良いところだと思います。そういった選手がいることでBチームの選手も目標にしやすいですし、出雲で僕が外れたこともあって競争力も増しました。もともと調子の良い選手が走るという面で、新戦力は今のチームとって非常に重要ですし、そういう選手がいるからこそワセダの色が出せると思います。

――出雲ではエントリーメンバーから外れましたが、そのときの心境、またチーム内でどのような役割をされていたのかを教えていただけますか
当日はエントリーメンバー外だったので現地にも行っていませんでした。出雲のエントリーが発表されてから4年生だけでミーティングをして、その中で今回の大会に関しては平賀(翔太、基理4=長野・佐久長聖)がしっかりチームを引っ張ってくれると本人が言ってくれたので、僕自身も自分のことに集中できた面もありました。僕は僕で、こっちに残っているメンバーを盛り上げていくことであったり、出雲前日に毎年こっちで5000メートルのタイムトライアルをやるんですけど、そこでしっかり走ることだったりで、向こうにいる選手に勢いをつけられると思っていました。そこでしっかり走れた部分も大きかったですし、あとは前日に向こうの選手にメールを送って頑張ってほしいということを伝えて、それに選手もしっかり応えて走ってくれましたし、大会終わって帰ってきてからも選手の方から僕の方に来てくれて色々話をしてくれました。しっかり切り替えてサポートできたのかなと思います。

――全日本に関して、個人成績としては3区で区間4位でした。大会直後のコメントでは「完全に力不足」と話されていましたが
大まかに言ってしまえば力不足でした。やっぱり僕に求められていた走りというのは、しっかり先頭集団との差を詰める走りだったと思います。すぐ前にいた駒大の選手は28分1桁台のベストタイムを持つ選手で、いままでそういった選手を追いかけるレースをしたことがありませんでした。多少気負いすぎてしまって、自分のリズムで走れなかったことが今回の結果に繋がってしまいました。もう少し落ち着いて、自分のリズムで後半上げていけるようにうまく走ることができれば、先頭の東洋大との差は詰めることができたのかなと思います。中間地点までは差が縮まっていたので、そこから後半の走りで逆に引き離されてしまった部分が大きかったです。そこがもう少しうまく走れていれば、違うレース展開にはなったのかなと思います。

――全体として、区間賞が6区の前田悠貴選手(スポ4=宮崎・小林)一人。またエースの大迫傑選手(スポ3=長野・佐久長聖)は2区でチームを鼓舞する走りを見せましたが、二強(駒大、東洋大)に対して、ワセダに足りないものは何だとお考えですか
二強は選手層も厚く、チームとしての力も他の大学より抜きん出ています。その中で僕たちが戦っていく上で、まずベストメンバーを組むことが非常に重要だと僕は思います。全日本に関しても調子の良い選手で挑みましたが、所々見れば志方が走れていなかったり、2年前三冠を達成したメンバーがしっかり力を出し切れていなかったりすることが、いまのワセダの現状だと思います。新しい戦力が出てきて、そういった選手がエントリーメンバーに入ってきていることは良いことですが、その選手たちに関しても、他大と比べればまだ物足りない部分はあります。もちろん全体としてもまだまだだと思いますし、上がってきた選手がしっかりと力を出せるレースや環境を、優勝を経験しているメンバーがしっかり力を出してつくっていかないと、自分たちのレースに持ち込めないのかなと思います。

――出雲では主力の大迫選手や平賀選手が力を出し切れませんでしたが、その点全日本では佐々木選手も含めてそのチームの軸となる選手が本来の力を発揮したのではないでしょうか
全日本に関しては僕も帰ってきましたし、全体を見ても上級生が多いメンバー構成ではあったので、バランスはとても良かったかなと。ただ上級生がしっかり走れないと下級生に負担がかかってしまうので、最後の箱根では上級生の奮起が大事になってくるのかなと思います。経験の面から言うと、1年生は経験が少ないですし、やはり1年生に頼るチームでは戦えません。やはり毎年4年生が力を出しているチームの方が成績も良いですし、2年前の総合優勝も4年生の奮起があったからこそ、ああいう展開に持ち込むことができたと思っています。

「自分たちのレースに他の大学を巻き添えにできるかが重要」

――トラックシーズンにおいて、香川丸亀国際ハーフマラソン(丸亀ハーフ)とホクレンディスタンスチャレンジでは、それぞれハーフマラソンと1万メートルで自己ベストを更新されました。その点に関してはいかがですか
丸亀ハーフが初めてのハーフでいけるところまでいって、試合自体もタイムが出るレースだったので、そこでしっかり(自己ベストを)出せたというのは非常に良かったと思います。トラックに関しては、一応1万メートルでベストを更新できたことは昨年と違ってしっかりトラックでのスピード強化という面ではできたのかな、と。ただその中でも練習がとびとびになってしまい、点と点とが線で繋がっていない状況もありました。ベストが出たことは良かったのですが、全体として見るとあまりうまくいかなかったのかなと思います。昨年と違って走れていることは大きいのですが、結果として練習がしっかり力になっているかという点で不安な部分が残ってはいます。

――スピード強化の面では、トラックは成功したという実感を持たれているということでしょうか
昨年は出せるスピードの範囲が限られていましたが、ことしに関してはトラックで実践できてきたので、そのスピードを生かしたままロードシーズンに入ってこられたのかなと思います。

――来季の長距離ブロック長に大迫選手が決まりましたが、普段の練習や部の生活の中で、主将の役割をどのように伝えていますか
来季のチームに関しては、毎年そのときの上級生によって状況も違ってくると思いますし、彼自身も来年はこういうチームにしたいっていうことを多少なりとも考えてやっているみたいなので。選手としても当然僕よりも力のある選手ですし、みんなの見本となって引っ張っていける選手ではあると思います。僕よりもチームを引っ張っていけるのではないかと僕自身感じていますね。チームのことに関してはあまり話さないですけど、普段から大迫とは結構よく話す仲なので。

――では、佐々木選手にとっての理想の主将像はどのようなものでしょうか
僕は主将という立場になるにあたって、やはりあくまでチームを引っ張っていくのは上級生で、主将1人が引っ張っていくのは少し違うなと感じていて…。みんなが一人一人引っ張っていく中で、その学年をまとめるのが僕の役割だと思っています。僕自身もできることは限られていますし、練習に関してもA、Bチーム別々で、僕はAチームで練習をしているのでAのことは分かりますけどBのことを事細かく把握することは難しいです。Bにいる4年生に任せて、その4年生たちが後輩たちをしっかり引っ張っていくことができれば、それが結果としてチームを引っ張っていくことに繋がります。主将1人に頼るというチームよりも、4年生みんなで後輩たちを引っ張っていけるのが良いチームなのかなと思いますね。

――そういう面では、いまの4年生は良い関係にあるといえますか
正直なところ、出雲のときのミーティングをやるまでは僕らの学年はあまり気持ちを表に出して色々言う学年ではなかったので、どこかすこし物足りなさというか他人任せな部分がありました。ただそのときのミーティングで、みんなでやっていかなきゃいけないという気持ちになりましたね。

――佐々木選手にとっては最後の箱根。どのような思いで臨まれますか
箱根に限らず4年生になって全ての大会が最後で、箱根に関してはエンジのユニホームを着て走るのがこれで最後になります。それが少し寂しいなという気持ちはあります。最後だからこそ、エンジを着ていままで頑張ってきた仲間であったり、僕個人の感情になりますが、いままで信頼して色んなところで試合に出してもらったり話を聞いてもらった渡辺監督や相楽コーチ(豊、平15人卒=福島・安積)を胴上げしたいという気持ちが強いです。そういうことができるのももう箱根しかないので、みんなでしっかり良いかたちで終わることができればいいなと思います。

――先ほども話に挙がりましたが、二強+早大、青学大、明大という勢力図について意識はされていますか
二強に関しては僕もそう思いますが、やはりそれを理解した上でどう戦うのかが大切であって、出雲の青学大のように、自分たちのレースに持ち込めば優勝することもできるので、まず僕たちはしっかりベストメンバーで臨むことを第一条件として、そこからどう自分たちのレースに他の大学を巻き添えにできるかが重要になってくると思います。

――改めて、最後に箱根への意気込みをお願いします
いままでやってきた仲間と信頼して下さった監督、コーチを胴上げしたいので、チーム一丸となって頑張っていきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 新田祐介) 

◆佐々木寛文(ささき・ひろゆき)
1990年(平2)11月13日生まれのO型。163センチ、50キロ。長野・佐久長聖高出身。スポーツ科学部スポーツ文化学科4年。自己記録:5000メートル14分04秒44。1万メートル28分49秒61。ハーフマラソン1時間02分36秒。2012年箱根駅伝7区1時間03分37秒(区間3位)