【連載】『逆襲』 第8回 市川宗一朗

駅伝


 第8回にお送りするのは市川宗一朗(スポ4=愛知・岡崎)。記録が伸び悩み苦しんできた今季だが、11月に行われた上尾シティハーフマラソン(上尾)で自己記録を塗り替え復調の手がかりを得た。今季模索し続けた自身の『勝ちパターン』、陸上人生最後の大舞台となる東京箱根間往復大学駅伝(箱根)に懸ける思いとは――。

※この取材は11月24日に行ったものです

成長の自覚と、力を出せないもどかしさ

ラストイヤーに懸ける思いを語る市川

――きょうの練習はいかがでしたか
きょうから集中練習が始まったんですけど、例年通り積んでいく感じだな、と。出だしは順調です。

――全日本大学駅伝対校選手権(全日本)の際は「練習はできている」とおっしゃっていました
練習はその後も順調にやってきました。上尾の前は練習を積んでいて、疲れが抜けきらない中でのレースだったので、あのときはあまり調子が良くなかったです。

――今季は記録だけ見ると、もがいていたのかなという印象があります。ご自身の中ではいかがですか
たしかに自己ベストは今シーズン出せていなかったので、その点では昨年ほどの勢いはありませんでした。ただその反面、アベレージは上がってきたと思うので、だいぶ安定感が出てきたなというのを少し感じています。

――自己ベストが出なかったことも、そこまでマイナスには捉えていないということでしょうか
そうですね。できれば出したかったですし、総括してみれば良かったとは決して言えないのですが、ただその悪かったという中でも良い点に目を向けると、成果は出てきたかな、アベレージは上がってきたかな、というのは感じます。

――試合でも練習でもそういう手応えを感じる部分はありますか
だいぶ質の高い練習もこなせていますし、力が付いてきている感じはあります。ただそれを試合で生かせていないというか、出し切れていない点が課題かなと。

――昨年も力を出し切ることをご自身の課題にされていました
昨年は昨年のレベルだったんですが、やはり勢いづいて自己ベストを出して次のレベルに上がってきたと思っているので、その高いレベルに上がってきているのに自分の力が出せていないのかなと思います。

――「力を出し切る」とは、どの辺が難しいと感じていますか
分かれば出しているかな、というのはあると思うのですが(笑)。ただ、いままではそれこそ自分の持ち味の「粘り」とか「押していく」ってことで通用する世界だったと思うんですけど、この戦国駅伝、スピード駅伝って言われているいまだとそれすらスピードが必要になってくると思うので、絶対的スピードというよりも速いスピードを押していくスピード持久力が課題かなと思いますね。

――スピード持久力を身につけるために、どんなことを考えていますか
集中練習もそうですが、質の高いポイント練習でそういうスピードを養っていくというのがあるので、やはりそういう練習を大事にしていきたいです。

――自己ベストこそ少なかったここまでのシーズンでしたが、自分の走り自体に苦しんだわけではなかったのですね
今シーズンの最初のうちは迷走している部分もあったんですけど、ただこの間の上尾も調子が悪い中で自己ベストを更新しましたし、レースを振り返ってみても後半でしっかり押していけていて、自分の持ち味を取り戻しつつあると思います。それにプラスして自分の課題を乗せる、という感じです。

――苦しむにしても、昨年よりも上のレベルでやっているという感覚ですか
そうですね。変えていくとか改善するというよりも、自分の良さに更に付け加えていくという感覚でいるので、昨年の自分と比べても成長はしていると思います。上乗せがまだ足りていないのかなというのが現状だと思います。

――粘りを持ち合わせつつ、他の力も足していくということですか
その粘りっていうのは崩れない走りにもつながってくると思うんです。この間の上尾もそうでしたが、大崩れしないというか。記録を見ても決して良くはないので、良いペースで走っているかというとそうでもないのですが、大崩れしない最低限のところで我慢して押していって、結果的にそこそこの記録で帰ってこれるというのがある意味での持ち味かもしれないので。ただそれだけでは勝てなくて、東洋大学とか駒澤大学の選手はもっと早い人ばかりなので、もっと高いレベルでの「我慢」「粘り」を手に入れないと、いまのレベルじゃまだ通用しないかなと考えています。

「勢いはあっても足りない部分は多かった」

今季初駅伝は全日本となった

――改めて振り返ったとき、ご自身にとっての昨年をどのように捉えていますか
やはりあのときは勢いづいてがむしゃらに、1回1回全力でというのがあったので、見えていない部分も色々ありました。1年経って昨年を振り返ると、勢いはあっても足りない部分は多かったなというのをすごく感じています。というのは、自分の力の出し方を分かっていなかったのかなと思うんですね。そのときの調子や勢いで記録は出たのですが、自分の勝ちパターンというのをしっかり確立できていなかったなと。それがやっぱり今シーズンの不調につながっていたのかなというのを思っています。不調になって記録が出なくなって初めて、「自分の勝ちパターンってどういうものなのかな」と考えるようになって、そうすると去年は見えていなかったものなのかなと思います。

――いつ頃からそれに気付き始めましたか
関カレ(関東学生対校選手権)で9位になって入賞を逃して、その後のホクレン(ホクレンディスタンスチャレンジ)でも記録が出ないことが続いてから考えるようになりましたね。

――気付いてからは変化を経験されましたか
その後からが模索するという感じでした。駅伝シーズンに入っても出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)は走っていないですし、その後の1万メートル記録会も上尾も含めて自分の走りを取り戻しつつも、それをどう生かしていくかというのをまだまだ模索していたなと、いま振り返ってそう思います。

――いまはどのような状況ですか。まだ模索は続いているのでしょうか
試合自体が箱根までないのでもう試す機会は練習の中でしかないのですが、上尾を終えて模索も終わりというか、つかみかけてきたなというのは自分の中であります。記録もチームの中でたしか5番目で、他の大学と比べるとまだまだ及ばないのですが、ただ自分の21キロの走りを振り返ると結構つかめてきたなというのを感じます。

――夏合宿はどのように過ごされましたか
練習は抜けていませんが、二次合宿中に軽くケガをしました。ここで高いレベルというか、トップでやっていけなかったのが夏合宿での反省点かなと。三次合宿からはケガもなく前の方で走れていたんですけど、そういうところでの練習がきっちりできていないと自分の課題も克服できないと思うので、最後の集中練習で足りなかった部分を補っていきたいです。

――自分の力の出し方といったような難しさは、以前は感じなかった部分になるのですか
去年を引き合いに出しちゃうんですけど、記録が出ていたときというのは考えていなくても勢いで出せていたというか、そんなに深く考えていなくても記録がついてきていました。記録が出なくなったり、勝てなくなったりしたときに改めてそういうことを考え始めたら難しいなというのを感じました。去年も記録が出始める前は色々考えていましたが、記録が出なくなったときの方がそのとき以上に「何で出なくなっちゃったんだろう」「どうしてあの時みたいに走れないんだろう」って考えたので。

――駅伝も3回経験されましたが、まだ分からないところも多いのですか
その都度その都度新しい経験というか、刺激を受けながらやっているので学ぶことは多いです。ただまあ今度が最後でもうそんなことも言っていられないので、いままで学んできたこととかいま課題になっていることを復して、箱根駅伝では自分の力が全部出し切れるように持っていきたいです。

前回のリベンジを

――チームの中を見ると、この秋に駅伝初出場を果たした選手なども出てきています
自分が今シーズン記録を出していないので、下からの突き上げというのをたぶん一番に恐れている状況にはあります(笑)。たしかにそういう風に「怖いな」とか思う部分もありますが、ただ彼らが上がってきていることは刺激になりますし、ある意味自分にも自由にできるかなというのがあります。下から上がってくるというのは、自分が「絶対に走って記録も出さないといけない」というチーム層の薄さがないということなので、層が厚くなってくる分、自分のことが自由にできることも多いです。もっと自分を出してがむしゃらにやっていきたいな、と。

――「自分を出す」というのはことしのテーマ、と以前おっしゃっていました
いつも考えていることなんですけど、それが一番難しいですね。結局自分のことがどこまで分かっているのかっていう話にもなってきますし、いざ走ってみると難しいです。

――練習から引っ張っていこうという意識は
それはもちろん4年生として引っ張っていきたいですし、それだけではなくて去年全日本と箱根を走っている立場でもあり、チームでも主力と呼ばれるように、練習でもしっかり引っ張っていきたいなと思います。

――大学駅伝の現状をどう見ておられますか。早大も三冠を達成した一昨年とは違い、絶対的な存在ではなくなりました
(早大が)絶対的な存在でなくなったと同時に、絶対的な存在がないとも思っています。駒澤大も東洋大も青山学院大も強いじゃないですか。明大も強いと思いますし。ワセダももちろん、その中に割って入れる実力があると思います。そう考えると、どこが勝ってもおかしくないと思うので、その点チャンスもあるだろうし、そのチャンスをしっかりつかんでいきたいなと思います。出雲が6位、全日本が3位で順位も上がってきていますし、決して満足はしていませんが全日本でもまずまずの戦いができたと思っているので、箱根でもまだ十分戦えると思います。

――プレッシャーは感じるタイプですか
感じてないように見せて、実は感じているタイプです。やっぱり物事を深く考えるタイプなので緊張しますし、あがり症なところもあります。そういう所で自分の力が出せないこともあります。ただ自分はそんなにプレッシャーを感じるような立場でもなくて、現状を見るともっと自分のことに集中して走らないといけないと思うので、この期間で精神的にも強くなっていかなきゃなというのがあります。

――駅伝を走る上では、自分はどんなタイプの選手だと考えていますか
持久力があるタイプでもないのでエース級の走りができない半面、自分の持ち味は崩れない走りだと思うので最低限の仕事はしないといけないです。いつも比較にしているのが2年前優勝したときの猪俣さん(英希氏、平22スポ卒)なので、猪俣さんくらいの走りをいつも意識しています。

――箱根駅伝ではどんな走りをしたいですか
去年抜かれて悔しい思いをしているので、まずはその悔しさを晴らしたいのが一番ですが、とにかく落ち着いて自分の走りをしたいですね。いままで駅伝を3回走っているのですが、自分らしい走りができたかというとそうでもないなと思うので、いかなる状況でも自分の走りが最後はしたいです。

――意気込みをお願いします
泣いても笑っても最後なので、とにかく勝つことしか考えていません。何としても勝ちたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 辻安洋) 

◆市川宗一朗(いちかわ・そういちろう)
1990年(平2)4月20日生まれのO型。171センチ、54キロ。愛知・岡崎高出身。スポーツ科学部スポーツ医科学科4年。自己記録:5000メートル14分08秒35。1万メートル29分22秒03。ハーフマラソン1時間04分39秒。2012年箱根駅伝10区1時間19分52秒(区間9位)