【連載】『ツナグ』 第8回 志方文典

駅伝


 7区に起用されたのは、志方文典(スポ3=兵庫・西脇工)。主力として力を持ちながら故障に苦しんだ駅伝シーズン。満身創痍(そうい)でタスキをつないだ志方は、今季をどのように振り返るのか。そしてついにラストイヤーとなる来季への抱負を語っていただいた。

※この取材は1月26日に行われたものです

「きょねん以上に学ぶことが多かった」

箱根の悔しさから、帰省はほとんどせず練習をしていたという

――箱根が終わってから、どのように過ごされていましたか
解散期間もあったのですが、12月中はあまり練習していなかったので、箱根が終わってからもあまり休まずに練習を継続させていました。来週に丸亀ハーフもあるので、それに向けて少しずつ練習を積んできたところです。

――帰省はされなかったのですか
少しだけ、3日くらい帰りました。それからすぐこっちに戻って来てジョギングなどをしながら解散期間を過ごしました。

――先日雪が降った時、練習はどうされたのでしょうか
あの時期は雪かきをして競技場はすぐ使えるようになったので、競技場を使ってジョギングしていました。

――雪かきは大変でしたか
僕その時は用事があったのであまりしていなくて、他の選手に申し訳なかったです(笑)。例年だときつい思いをしているので、きつかったと思います(笑)。

――もう新体制で練習されているのですか
そうですね。4年生も箱根後はもうチームを離れて、3年生が最上級生となって練習を再開しています。

――今の調子はどうですか
正直、箱根のときよりかは調子は良いですね。

――テストは順調ですか
そうですね。3年の前期まで結構頑張ってきたので、そんなにテストはなくて、1個か2個くらいで済んでいるのでそこまでにきつくはないです。

――では本題に移ります。この1年は志方選手にとってどんな1年でしたか
きょねん以上に走れないことに落ち込むことが多かったのですが、その分去年以上に学ぶことも多かったです。トラックシーズンはきょねんと変わらずあまり結果は良くなかったのですが、練習は去年より出来ていたので、継続してやれば大丈夫かなと思っていました。ただ夏合宿を明けて駅伝シーズンに入ってから全然走れなくなって、そこで自分の中では結構落ち込みました。波のある1年というか、本当に気持ちの浮き沈みが激しかった1年だったなという感じですね。

――具体的に学んだこととはなんですか
僕自身は故障が多かったので、故障をしない身体作りをしようというのと、気持ちの浮き沈みが激しかったので強い気持ちを持ちたいなと思いました。

――部員日記にも「駅伝シーズンは本当に情けないぐらい走れず自信のかけらもありませんでした」とありました
10月の出雲駅伝の前日に、出雲のメンバー以外は5000メートルの記録会を学内で行うのですが、14分55秒くらいかかってしまいました。本当に才能ないのかなってその時は一番落ち込みましたね。特に故障していたというわけではなく、自分としては普通に走っているつもりなのに走れなくて、それがきつかったです。その後も捻挫などの故障をしてしまって、箱根の直前にも故障をしてしまいました。もう正直、えっ使うのという感じでした。でももう7区の補欠が居なかったですし、直前はもう自分が走るしかないと思っていたのでそこまで弱い気持ちにはならなかったです。なんとか気持ちを切り替えながらやっていました。

――やはり箱根は志方選手にとって特別な大会ですか
そうですね。それはもう大きな大会の1つとして、選手である限り大きな大会を目指すのは当然のことなので、走って当たり前というような試合です。

――なかなか走れなくて辛い時期は、箱根に向けてどんな思いで練習に取り組んでいましたか
今季は学生駅伝を1回も走っていなかったので、最後くらいは走りたいなという思いと、箱根駅伝は1番大きい大会なので出られたらいいなというくらいの気持ちですかね。ただモチベーションはあまり高くしていなかったような気がします。もう走れたらいいなというくらいでした。

「タスキをつなげてほっとした」

――箱根に出場することが決まったのはいつでしたか
確定したのは前日だったと思うのですが、選手の区間が書いてある応援のマニュアル冊子を見たときに、7区の控えが居なかったので僕が走ることになるのかなと思いました。その時からもう気持ちは決めていました。

――7区の控えが居なかったというのはチーム内で故障者が多かったということですか
そうではなくて、多分他にも走れる人はいたのですが、渡辺監督(康幸、平8人卒=千葉・市船橋)と相楽コーチ(豊、平15人卒=福島・安積)の期待もあったと思います。今後の陸上生活もまだ僕は残っているので、それを見越した上で僕を使っていただけたのかなと思っています。

――渡辺監督や相楽コーチに期待されているということに対しては嬉しかったですか
そうですね。嬉しいという気持ちと、結果で応えられていないので、これから結果で応えていかないといけないなという気持ちです。

――渡辺監督から何かアドバイスはありましたか
もうなんというか、スタートラインに立てば良いというような感じでした。僕の状態がかなりひどかったので、どういう風な走りをしろというより頼むから走ってくれという感じでしたね。アドバイスというよりかは、どのようにしてスタートラインに立つかという感じでした。

――直前のチームの雰囲気はいかがでしたか
僕自身が結構チームを離れて練習していたので、直接の雰囲気というのはわからなかったのですが、4年生の人たちがまとまっていて箱根駅伝に対してやろう!という感じの雰囲気でした。

――復路前日はどのように過ごされていましたか
前日は刺激の練習があったので、1区から3区くらいまではラジオで聞きながら、練習が終わってからは寮に帰ってきて4区、5区途中まではテレビで観戦して、そこからは前日泊まるところに移動しました。

――緊張などはされていましたか
そうですね。2日に分かれての試合で、1つのチームなのに行動が別々という少し変わった感じの駅伝なので、何て言うんですかね、難しいですが、変な感じでした。

――変な感じというのは具体的にどのようなものですか
往路の選手がテレビで走っているのに、自分はまだ寮に居るというのが変な感じでしたね。

――復路当日は同学年の相原将仁選手(教3=東京・早実)からどんな思いでタスキを受け取りましたか
去年まで同学年は大迫(傑、スポ3=長野・佐久長聖)と僕しか駅伝を走っていなかったのですが、今回は相原と田中(鴻佑、法3=京都・洛南)が走ることになって、1年間で凄く成長して本当に嬉しいなと思いました。そしてその1年間で成長してきた相原からタスキを貰うことができて同学年として嬉しい気持ちで、頑張ろうという気持ちでした。

――8区の1年生の柳利幸選手(教1=埼玉・早大本庄)にはどんな思いでタスキをつなぎましたか
全日本で本人も不本意な走りをしたと思っていたので、それを払拭する走りをしてほしいなというのはありましたし、練習を見ていても力はあるなと思っていたので信じていました。

――復路は志方選手以外の選手全員が箱根初出場ということで、何か気負う部分はありましたか
僕自身の状態が良くなかったので、僕より多分みんなの方が走るのではないかなと思っていましたし、他の人に関してはあまり心配はしていなかったですね。ただ監督の考えとしては、僕の区間で後ろと離して前と詰めるという考えだったと思うのですが、前と空いて後ろと距離を詰められてしまい、後半の3区間を走りづらい形でつないでしまったなというのは申し訳ないと思っています。

――走っている最中に渡辺監督からの指示はありましたか
ペースがあまり上がっていなかったので「この間何秒かかったぞ、そろそろ上げようか」というような指示はいただきました。上がらないのですけど、「上げようか」と言われて…。でも最後の20キロくらいで、「後ろとの差が縮まって来なくなったから、頑張れ」というようなことを言われました。あそこで少し元気が出ましたね。

――走り終えての感想はいかがでしたか
走り終わった直後はもうタスキをつなげてほっとしたという気持ちでした。走っている最中はもう本当に辛くて長かったなという感じです。

――5位という全体の結果を振り返っていかがですか
往路が2番でつないで結構良い形で終えたのですが、復路で不甲斐ない走りをして5番まで落ちてしまったので、選手層が薄いなというのと、箱根を走った選手もまだまだ力を付けていかないといけないなと感じました。ワセダの中で見るのではなくて、他の大学の選手も見ながら自分の力がどうであるかというのを判断して、それを練習につなげていきたいなと思いました。

「楽しいと思えるように」

昨年の箱根では8区区間2位と好走したものの、ことしは動きが重たかった

――新体制となってチームの雰囲気はいかがですか
4年生の人たちは力のある選手が多かったので、ちょっと戦力的にダウンしたかなという部分は否めないですね。ただその分なんとかしようと思っている選手がぼちぼちいるのでそこに期待したいのと、まだそういう気持ちになっていない人が僕から見ると見えてしまうので、もう少し危機感を持ってやってほしいです。

――最上級生となって意識の変化はありましたか
チームを引っ張っていかないといけないなというのはありますし、今まで1つ上の代におんぶに抱っこではないですが、頼っていた部分が僕の中で結構あったので、次は頼られる存在になっていかないといけないなと強く思いました。

――新・駅伝主将の大迫選手はどんな方ですか
自分に対してもストイックに厳しく見ていて、さらにチームも冷静に見ているなと思います。

――ついにラストイヤーとなりますが、この3年間で練習に取り組む姿勢など志方さん自身が成長したなと思う部分はなんですか
1年生の頃は結構、自分勝手というか自分だけが良ければいいかなという考えがあったのですが、3年生くらいになってからは周りも割と見られるようになってきました。チームのためにというか、自分のためにというのは今も変わってはいないのですが、チームのためになればいいなっていうことは考えるようになりました。

――逆にこの1年でまだまだ成長しなくてはいけないと思う部分はなんですか
一番大きいのは走り自体ですね。スポーツ推薦で入ってきたので期待される位置に居たのですが、今はあまり結果を出せていないので、僕の役割としては結果を出すことが一番かなと思います。

――卒業後も競技を続けられるのですか
そうですね。大学で失敗をしながらも、学びながら卒業後の進路につなげていきたいなと思っています。

――この1年での個人的な目標を教えてください
世界大会もあるので、出たいなという思いもあります。一番は、結果が出るということが陸上競技をしていて一番楽しいと思えるので、楽しいと思えるようにすることです。

――来週の丸亀ハーフに向けて意気込みをお願いします
気負わずに、結構いろいろな選手が出ると思うので納得するタイムを出したいなと思います。

――最後に次の箱根駅伝に向けてチームの目標を教えてください
チームの目標は優勝です。そこはみんなが思ってくれないと、なかなか練習にも身が入らないと思うので、上の力のある選手たちだけではなくて、力のない選手も箱根で優勝するんだという気持ちで日々の練習に取り組んでほしいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 加藤万理子) 

◆志方文典(しかた・ふみのり)
 1991(平3)年7月14日生まれのO型。兵庫・西脇工出身。スポーツ科学部スポーツ科学科3年。自己記録:五千メートル14分04秒77。一万メートル28分38秒46。ハーフマラソン1時間03分11秒。2012年箱根駅伝8区1時間5分23秒(区間2位)。13年7区1時間06分25秒(区間11位)