【連載】『ツナグ』 第4回 大迫傑

駅伝

 昨年、一昨年はともに1区を任され、駅伝で何より大切である「流れ」をワセダに引き寄せてきた大迫傑(スポ3=長野・佐久長聖)だが、ことしは3区にエントリー。3年連続の区間賞こそ叶わなかったものの、チームを3位まで押し上げ、2区平賀翔太(基理4=長野・佐久長聖)が作った「流れ」を確実にする好走でチームに大きく貢献した。一方、五輪代表の差をあと一歩のところで逃すなど、いまや日本のエースである大迫は来春以降アメリカへの留学も検討。自分自身とチーム、その間で、次期駅伝主将は何を思い考えているのか、お話しをうかがった。

※この取材は1月26日に行われたものです

目標が異なればアプローチも違う

厳しいながらも前向きな言葉で語った

――箱根から3週間ほどが経ちましたが、いまはどのような練習をなさっていますか
みんなとは別でやらせていただいています。今はまだ移行期なので、徐々にスピードを上げるためのトレーニングというか、その点を意識して練習をしています。

――具体的にはどのようなトレーニングですか
その基礎づくりというか、動きを戻すための練習ですね。短めのインターバルを入れたりですとか、ほかの人とくらべてだいぶ短い距離を中心にやっています。

――普段の練習は、ほかの選手の方とはまったく別メニューをこなされているのでしょうか
そうですね。駅伝シーズンだけ一緒にするくらいで、流れも違いますし目標も違うので、一緒にはできないかと考えています。タイムが違うだけでなく、メニューごと違うものをこなす日のことの方が多いですね。

――メニューは渡辺康幸監督(平8人卒=千葉・市船橋)とご相談して決めているのですか
はい、そうですね。まだ明確にどうしていこうというのは決まっていないのですが、相談して取り組んでいます。

――いまは一人で練習なさっているということですが、集団での練習と、個人での練習では、つらさなどの違いはありますか
きょねんからずっとひとりでやってきているので、そのあたりはもう慣れたと思います。ただもし一緒に頑張れる人がいたらそれは心強いかなとは思いますね。

――ご自身では集団での練習とどちらかが向いていると感じたことはありますか
向いているというよりかは、強度を求めるのであればやはり同じ目的を持った人で集まってやるのが一番なのですが、現状ではそれはできないということですね。実力も違いますし、チームは箱根駅伝を目指してやっていて、僕はまた違ったトラックで頑張りたいという目標を持っています。高校時代は同じ目標を持って取り組んでいたのですが、大学に入ってからはまったく違う目標のもとやっているので、一緒にやることはおかしいのかなと思っています。

――普段は1週間どのような流れで練習に取り組まれているのですか
だいたい水曜日、土曜日、日曜日に、ポイント練習というか強い強度の練習をして、あとはジョグでつないでいます。

――昨年の2月頃にはクロスカントリーに出場されていましたが、ことしの予定はいかがですが
福岡(福岡国際クロスカントリー)の方は出る予定があるのですが、千葉(千葉国際クロスカントリー)の方は出ない予定です。

――クロスカントリーに出場される意図はなんですか
クロスカントリーは良い練習になるので、トレーニングの一環として、出場しています。

――大迫選手は長い距離をあまり踏まないという話も聞きますが、長い距離を踏む必要性についてはどのようにお考えですか
まったく必要でないというわけではなく、極端に長い距離は必要ではないのではないかと考えています。ところどころで必要な分だけ、ロング走などを取り入れていければ良いかなという感じですね。

――具体的にはどれほどの距離が必要だとお考えですか
そうですね…それについてはまだ上手く答えられないのですが、そのあたりは今後感覚と、渡辺さん(渡辺監督)相談して決めていきたいなと思っています。

――現段階で渡辺監督から具体的にどれだけの距離を踏んだ方が良いという指示は受けていますか
今は特にありませんね。必要であれば、大会ごとに課題が見つかってくると思うので、その都度話し合って決めていきたいと思います。

――大迫選手の強みはやはりスピードだと思いますが、その点を伸ばすために何かなさっていることはありますか
今は移行期ですので、これからちゃんと自分の動きを作れてから、3月以降にしっかりスピード強化という点でも考えてやっていきたいかなと思います。

――スピード強化のために具体的にいままでやってきた練習はありますか
単純に短い距離をやってきたのですが、それだけではいけないと思うので、様々な側面から今後はアプローチしていけたらいいなと思います。

――日本選手権のあと、スピード練習強化の動き作りを意識するだけでも全然違うとおっしゃっていましたが、具体的にどのような変化が生じたのでしょうか
それもまだ、これからどんどん自分にあった方法を探していきたいなと思っています。今まで(日本選手権が)終わってからはどちらかと言えば駅伝中心の練習だったので、そこを考えていくのはこれからですね。

――ご自身の強みはどこにあるとお考えですか
まだ強みというかそういうレベルにはなっていないと思うので、まだここからしっかり自分の走り、強みというのを発見して、それを伸ばしていければ良いかなと思います。

――ご自身の力にはまだ納得されていないということですか
練習を継続してやれれば誰でもある程度のところまでは行くので、問題はそこから何を考えていくのかということだとは思います。そのあたりはあまり考えたことがないですね。

――逆にご自身で弱いと思う点はありますか
まだまだ最後絶対的に勝てる力というのはないので、そのあたりを今後は頑張ってつけていきたいなと思っています。

――同世代では、トヨタ自動車の宮脇千博選手がトラックでは結果を残していますが、ライバル心は抱きますか
同年代でも世代が上の人でも、自分の力があればそれはライバルですし、同年代だからと言って特に意識するということはありませんね。同年代の方がもちろん一緒に頑張って行こうという気持ちはもちろんありますが、勝負の中で世代というのを意識することはないですね。

――大迫選手にとっていま最大のライバルとはどなたですか
みんなライバルなのですが、そこ(国内)をみるのではなくてもっと視野を広くして見ていきたいと思っています。

何かを変えなければいけない

――昨年までは箱根では1区で一斉スタート、ことしは3区ということで基本的にひとりで追い上げていくような形になりました。実際のレースでは集団走と個人走、どちらが走りやすいというのはありますか
レースでは特にどちらかが走りやすいと感じたことはないですね。

――それでは、追う、追われるという展開に関して走りやすい、どちらかが向いていると感じたことはありますか
結局どちらも自分の走りをすることが大切なので、あまり大差ないかなと思います。

――3区を走って区間2位という結果についてはいかがですか
区間2位だったのですが、チームの順位を3番まで上げて、流れを変える走りができたかなと思うので、最低限の走りはできたと思います。

――最低限の走りということですが、その結果に満足はなっていますか
そうですね。駅伝としての結果にはそこまで自分が反省すべき点はなかったのかなと思います。

――東洋大の設楽悠太選手に区間賞を譲ったことに関してはいかがですか
まあ状況がいろいろあるので、負けは負けですが、そこまで意識はしていません。

――強い向かい風のなか追う展開というのは一般的に不利だとされていますが、実力的には設楽選手より大迫選手の方が強いと思います。3区を走る前に区間賞を譲る可能性があるとは考えていましたか
それは、区間賞を取れると思っていました。そういう意味では、その点に関しては少し残念に思っていたのですが、(設楽選手も)力のある選手なので、負けたことも仕方ないかなと今は考えています。

――もし、大迫選手が3区で区間賞を取る、あるいはもっと良いタイムで好走していたとしたら、ワセダが優勝した可能性はあったと思いますか
それはなかったと思います。後半の区間も、今年はそんなに力のある選手ではなかったので、今年のチームでは優勝は少し厳しかったのではないかと思います。

――ことしは3区を自ら志願されたということですが、理由をお聞かせください
たぶん誰が考えても僕が1区というのは少しおかしいので、(監督に)「僕が3区ですよね」という風には言いました。志願したというよりは、確認ですね。

――2区を走りたいという思いはなかったのですか
特に区間に関するこだわりはないので、どこでもいいかなと思っていました。

――3区は全体的にアップダウンがあり、特に遊行寺の坂を過ぎたあと5キロほどの下りがあります。そのような点を不安に感じることはありましたか
3区は全体的に考えると下りの感じが強いコースなので、非常に走りやすいコースではありましたね。下りについて特に苦手意識もありません。

――海岸線のコースということで、ことしは特に強風の影響を受けたと思います。その点についてはいかがでしたか
トラックを走っていてもずっと向かい風の中走るということはありませんし、あのような状況で走るレースというのは今までなかったので、良い経験ができたのではないかなと思います。

――ことしの箱根では、高校時代から一緒にやってきた平賀選手、佐々木寛文選手(スポ4=長野・佐久長聖)とのタスキリレーとなりましたが、何か思うことはありましたか
次実業団に進んだときに、また同じステージでやることになるので、普段通りは普段通りでした。たとえば大学で競技を引退する選手であれば、「最後だ」という思いがあったと思うのですが、両方とも卒業後も競技を続けられる先輩だったので、そこまで感慨などは特にありませんでしたね。

――箱根が終わった今、卒業される4年生に対してどのような思いですか
本当にきょねんチームを頑張って引っ張ってくれたなというのはあります。ただこのチームから何かを変えなければ、やはりきょねん以上のチームというのは望めないと思うので、きょねんのチームから思うところをことしは生かして、もっと強いチームにしていきたいなと思っています。

――チーム総合5位という結果に関してはいかがですか
あれがチームの現状だと思うので、それをしっかり受け止めて、今後は多くの人が泥臭くやっていかなくてはいけないと思います。

――昨年、東洋大や駒大などは日本学生対校選手権(インカレ)などにはあまり力を入れずに駅伝を中心に取り組まれているチームですが、ワセダはトラックの部分でもしっかりやるチームであり、その上でいかに駅伝でも結果を残すかだとおっしゃっていました。その点で、駅伝中心に取り組んでいる大学との差を埋める、もしくは差異化するための考えはご自身のなかでお持ちですか
ことしはワセダの中にトラックで活躍できる選手が少ないので、逆に東洋大学さんや駒澤大学さんのようにどんどん距離を踏んで、トラックレースに出ない選手は1年間かけて来年の1月2日3日に合わせることをしなければいけないと思っています。たぶん毎年同じようにやっていたら勝てないと思うので、選手によっての立場わけといいますか、そういうことをことしはしっかりやっていきたいなと考えています。

――どの程度の選手にまで、トラックと駅伝の両立を求める必要があるとお考えですか
インカレ、トラックで点を取れそうな選手というと、3人4人くらいしかいないので、その選手のほかはもう来年に向けて走ってもらうという考えで僕は今います。

――ことしのチームに足りなかったものとはその点でしょうか
そうですね。あとは、多くの人が箱根駅伝を目標にしてやっていますし、ことしのチームの現状からするとそれがベストかなと思います。

――あらゆる方面からワセダに求められるのは優勝だと思いますが、来年もやはり目指すのは優勝なのでしょうか
きょねんもそうですがいままでは、全部勝たなくてはいけないという気持ちでいたのですが、ことしは箱根駅伝一本に絞ってやっていきたいと考えています。それを考えるとまだ1年間準備する時間はあります。他の大学は結構いろいろな大会に合わせていますが、ことしは、本当にそれらの大会は捨てる覚悟で、箱根駅伝を取りに行ける準備をいまからしていけたら良いかなと思います。

――具体的に出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)や全日本大学駅伝対校選手権(全日本)は調整なども行わないということでしょうか
それは渡辺監督や相楽コーチ(豊、平15人卒=福島・安積)が決めることなので、なんとも言えませんね。僕自身としてもそこまで極端には考えていませんが、選手の意識づけとして、箱根のために全部作っていくという方針でやってやっていきたいなと思っています。

――今のチームに足りないものがあるとしたらなんでしょうか
多くの人の泥臭さですね。あとは勝負、箱根で優勝することはそんなにあまくないんだぞという意識がまだ薄いので、そのあたりは厳しくやっていけたら、またチームも変わって行けるのではないかなと思って言います。

――駅伝主将としてはどのようなチームカラーにしていきたいとお考えですか
形としてかっこよくなくても良いので、みんなが自分の目的を持って、泥臭くやるところは泥臭くやれるチームにしていければいいかなと思います。

広い視野、グローバルな意識を持つ

大迫のエースらしい走りで早大は5位に踏みとどまった

――春からアメリカへ留学されるということですが、世界を見据えた視点はいつからお持ちですか
高校のときから少し考えてはいたのですが、大学入ってから本格的にしっかり世界を狙える選手にならなくてはいけないかなと思いました。

――何かきっかけはありましたか
段階を追ってというか、これというのはなくて、いろいろなことを経験させてもらったり、いろいろな方の話をうかがったりしていく中でそういう考え方になってきました。

――具体的にはどのような留学のご予定なのでしょうか
それはまだ、いつ行くか、どれくらい行くかというのも明確に決まっていないので、なんとも言えませんね。

――ことしも、競技に対する意識が変わったとおっしゃっていましたが、具体的にはどのような変化があったのでしょうか
ことしは海外遠征などもさせていただいて、やはり海外へ出ていくことの大切さ、外へ出ていくことの大切さを知ったという点が大きいと思います。いろいろな方の助けを借りてではありますが、それが、自分から海外へ行きたいということを考え始めるきっかけとなりました。そのあたりがこの一年の大きな変化というか、自分のなかで変わった部分ですね。

――800メートルの横田真人選手(富士通)も五輪の前に同じようにアメリカに2か月ほどトレーニングに行かれたそうですが、海外では周りの選手のレベルが高いので、練習からすでに試合のように走ってトレーニングができる点が良いとおっしゃっていました。大迫選手が海外で練習を行いたいと思った理由はなんですか
強いチームでやるということで、その練習内容を知れるということと、やはり横手さんと同じように、自分のスタンダードを上げたいというか、考えのレベルを上げたいということですね。日本では日本の、何分何秒が速いという基準がありますが、そういう意識を始めとして、全ての意識をもっと変えていきたいと思って留学を考えました。

――学生のうちに五輪を経験したいとも以前おっしゃっていましたが、それも同じような理由なのでしょうか
それはまた違って、それ(自分のスタンダードを上げること)は最終目標で、(五輪は)どこまで行くかというのは別として、出るかというのが大事でした。そこからどんどんステップアップしていこうと思っていたので、とりあえず出たいという考えでいました。

――大学卒業後は日清食品グループに就職されるということですが、実業団へ行ってもそのスタンスは崩さないで競技を続けていかれるのですか
そうですね。さらに自分でいろいろ動けると思うので、そのあたりを工夫してやっていけたらなと思います

――就職先として日清食品グループを選んだ決め手はなんですか
いろいろサポート体制がすごく整っているというのと、あとやはり自分さえしっかり意欲を持ってやればどんどん伸びられる企業だと思ったので、日清食品グループに決めました。

――実業団に進んでからもトラックをというお話でしたが、いずれマラソンをやるというお考えはあるのでしょうか
いずれはやっていきたいと思っています。まだしばらくはトラックで頑張って行きたいと思っているだけで、マラソンは段階を追ってやっていきたいですね。

――トラックで結果を残してからマラソンに移行するという、高岡寿成さん(カネボウ陸上競技部コーチ)のような競技計画をお考えですか
そういった型にはまるのではなく、自分にあった方法を探していければいいかなと思っています。

――今年はモスクワで世界陸上競技選手権大会行われますが、日本代表選考基準として、日本陸上競技連盟が新たに派遣設定記録を定めました。これは長距離選手にとってかなりレベルの高いもので、長距離などの種目ではなく、より世界に通用すると考えられているハードル種目あるいは投擲種目の枠を増やすという目的があるのではないかという声も聞かれます。この点についてはいかがですか
その点は僕らの考えることではありませんし、僕らは選んでもらうためにどうやって頑張るか、派遣記録はありますが、それも世界的に考えた時に決して無理なタイムではないですし、逆にそれを越えないことにはその次は見えてこないと僕は考えています。

――1万メートルで派遣設定記録を破るとなると日本記録も更新することになりますが、その点はいかがですか
そこは何を意識するかという問題だと思います。必要さえあれば日本記録でなくても目指さなくてはいけませんし、そのようなとき日本記録を意識しても意味はありません。行けるかどうかは別として、そのあたりはもっと上を目指してやっていけたらいいかなと思います。

――最後に、来季の個人的な目標を教えてください
まずは世界陸上に出ることが目標なので、しっかり派遣記録まで行けば良いですがそこを目指してやっていければいいなと思っています。まだ決まってはいないのですが、3月くらいから本格的にがっつり始める予定です。

――ありがとうございました!

(取材・編集 深谷汐里) 

◆大迫傑(おおさこ・すぐる)
 1991年(平3)5月23日生まれのA型。170センチ、51キロ。長野・佐久長聖高出身。スポーツ科学部3年。自己記録:5000メートル13分31秒27。1万メートル27分56秒94。ハーフマラソン1時間01分47秒。2011年箱根駅伝1区1時間02分22秒(区間賞)、12年1区1時間02分03秒(区間賞)、13年3区1時間04分44秒(区間2位)