16年ぶりに日本での開催となったパンパシフィック選手権。今大会の個人種目最終レースは男子200メートル平泳ぎ決勝だ。割れんばかりの声援が、2レーンを泳ぐ渡辺一平(スポ4=大分・佐伯鶴城)に向けられる。残り25メートル付近で先頭に踊り出ると、見る見るうちに差を広げ、トップでフィニッシュ。この瞬間、ついに主要国際大会で初めての金メダルをつかみ取った!
男子200メートル平泳ぎ決勝レースを泳ぐ渡辺
やるべきことを徹底する意識が、最高の結果を生み出した。予選、決勝を通じて心掛けたのは「会場の雰囲気を楽しむことと、自分自身の泳ぎ」の二つだけ。予選は全体5位のタイムだったが、「感覚とタイムが一致している」と手応えを見せていた。約7時間後、迎えた決勝。スタート直後、浮き上がりでは隣のレーンを泳ぐ小関也朱篤が頭一つ抜け出した。しかし「周りは全く見ていなかった」と、自らのペースを刻み続ける。中盤は渡辺を含め、横一線に並ぶ展開となり、150メートルをトップと0秒20差の3位で折り返した。残り50メートル。「体はきつかったし、自分がどこにいるかも分からなかった」という渡辺を支えたのは、観客の存在だった。「声援が聞こえて、勝ちたいなという気持ちが出た」。会場中の声援が渡辺を後押しし、後続を突き放す。電光掲示板を確認すると、左手でこぶしを握り締めた。
表彰式で歓声に応える渡辺
7月は体調不良に見舞われ、いい練習が積めなかったという渡辺。それでも6月のヨーロッパグランプリ以降、納得のいくレースができていた自信を胸に泳ぎ切った。レース後、この種目の第一人者である北島康介氏から掛けられたのは「男子平泳ぎの後を託したい」という言葉。思わず笑顔を見せたが、「満足できるタイムではない」とその向上心に陰りはない。2年後、再び東京で表彰台の一番上に立つために。日本のお家芸・平泳ぎを背負い、さらなる進化を遂げる。
(記事 吉田優、写真 大島悠輔)
★経験を活かして今後の飛躍に
11日の男子100メートルバタフライには幌村尚(スポ2=兵庫・西脇工)が出場。思うような結果が出せない中、前日の男子200メートルバタフライから気持ちを切り替え、いま出せる力を出し切ろうと予選のレースに臨んだ。結果は53秒48と自己ベストに1秒以上及ばず。それでもレース後、幌村は「自分の中では出し切った」と少しほっとしたような表情を見せた。同日の午後に行われたB決勝ではタイムを少し縮め、53秒26でフィニッシュ。精神的に苦しい中でも「B決勝でタイムを上げられるように」という目標を達成した。 「全然納得のいく結果ではなかった」。幌村は今大会最後のレースであった男子50メートル自由形の後、こう今大会を振り返った。4月の日本選手権以降、肩のケガの影響でタイムが伸びず、苦しみ続けてきた幌村。初めてつかんだ日本代表の舞台でも本来の力を発揮することはできなかった。しかし、幌村であればこの悔しさを糧に成長できるはずだ。2年後には東京五輪が迫っている。再び東京の地で日の丸を背負う時には、表彰台に立つ姿を見せてくれるだろう。「こういう経験もあってまたさらに強くなれるんじゃないかなと思うので、地道に頑張っていきたい」。次のレースは来週インドネシア・ジャカルタで行われるアジア大会だ。今大会より少しでもタイムを縮めてくれることに期待したい。
(記事 宇根加菜葉)
結果
◇決勝
男子200メートル平泳ぎ
渡辺一平 2分07秒75【1位】
◇B決勝
男子100メートルバタフライ
幌村尚 53秒26【7位】
◇予選
男子200メートル平泳ぎ
渡辺一平 2分12秒15【6位】
男子100メートルバタフライ
幌村尚 53秒48【17位】
男子50メートル自由形
幌村尚 24秒16【26位】
コメント
決勝後
渡辺一平(スポ4=大分・佐伯鶴城)*囲み取材より抜粋
――シニアに上がって国際大会初めての金メダル。今の心境はいかがですか
本当にうれしいです。去年の世界水泳で悔しい思いをして、狙った大会でなかなか勝てない時期も続きました。こうやって辰巳で行われるこういう雰囲気の大会で勝てたっていうのは、とてもうれしいです。
――先月は体調不良もあって苦しみましたが、このレースに向けてはどんな気持ちで臨んでいましたか
6月に行われたヨーロッパグランプリでは納得のいくレースがたくさんできたんですけれども、その後体調を崩してしまったのは自分自身の未熟さが関係していたと思うので、(この結果には)まずよかったなと。ほっとしています。
――こういった大きな大会で小関也朱篤選手を上回るのも初めてですね
そうですね。こういう狙った大会で小関さんに勝てたっていうのは今までないですし、決していい練習が積めていたわけではない中で、きょうできることは精一杯できたつもりです。その中で勝てたっていうのは次につながるいいレースだったと思います。
――ラスト上げる展開でしたが、どんなレースプランで臨んでいましたか
あまり考えていなかったです。200メートル平泳ぎは6月ぶりでしたし、この会場の雰囲気を楽しむっていうことばかり考えていて、全然レースプランとかは考えていなかったです。周りは全く気にせず、会場の雰囲気と僕自身の泳ぎを徹底してやるっていうのを心掛けていました。
――この辰巳で行われた国際大会で金メダルをとったということは、ご自身にとってどんな意味を持ちそうですか
パンパシが東京で行われて会場全体がすごく盛り上がっていて、地元開催として日本チームはすごくやる気にもなりますし、刺激ももらいます。ラストも体はきつかったですし、自分がどこの位置にいるかとかは全く分からなかったんですけど、会場のことを思いながら泳ぎました。
――レース後には北島康介さんから「男子の平泳ぎは託した」という言葉もいただきました
タイム的には今大会は満足できるタイムではないんですけれども、ヨーロッパグランプリから200メートル平泳ぎではまだ負けていないので、この負けないという状況を続けたいです。勝負強い選手になるというのが今年の課題なので、これからどんどん強化していって、東京オリンピックまでいきたいと思います。
B決勝後
幌村尚(スポ2=兵庫・西脇工)
――予選より速いタイムでしたが、いかがでしたか
B決勝でタイムを上げられるようにというのを目標にしていたので、気持ち的にもすごくきつかったんですけど、少し(タイムを)上げられたのは良かったと思います。
――泳ぎ終わってみての感想はいかがですか
すごく歓声があって、自分も決勝で泳いで応援に応えられるような選手になりたいと思いました。
――あすの男子50メートル自由形には出場されますか
専門外の種目なんですけど、ベストを狙って頑張りたいと思います。
――アジア大会に向けての意気込みをお願いします
今回よりもタイムを少しでも上げられるように頑張っていきたいと思います。
予選後
渡辺一平(スポ4=大分・佐伯鶴城)※囲み取材より抜粋
――このレースを振り返っていかがですか
感覚とタイムが一致しているので、前半のタイムを今確認して感覚通りだったので、すごく決勝が楽しみです。
――予選から隣のレーンがプレノット選手(米国)でしたが、意識した部分はありましたか
今大会のアメリカの選手は予選から好タイムを出していますし、200メートル平泳ぎも(アメリカの選手は予選から)絶対速いというのが分かっていたので、自分の泳ぎに集中して、というのを心掛けてひたすら泳ぎました。
――決勝は渡辺選手の持つ世界記録も見据えた戦いになってくると思うのですが、どんなところをポイントに置いて臨まれたいですか
ヨーロッパグランプリの時にすごくいい泳ぎができて、それから体調を崩してしまったりとかでいろいろあったんですけど、初日の100メートル平泳ぎで悔しい思いをしたので、200メートル平泳ぎでは決勝の舞台で泳げますし、今大会初の決勝の舞台なので、この雰囲気を味わいながら、レース自体を楽しめればなと思います。
――ここまでの日本チームのいい流れをどのように見ていましたか
すごくいい流れが来ていて、僕の中では同じ部屋の松元選手(克央、明大)がずっとメダルを取って(部屋に)帰ってきていて、すごく刺激も受けます。それに今回香生子(渡部、スポ4=東京=武蔵野)がいないので、カツオとかに刺激を受けています。今回は僕がやる番だと思っているので、精一杯やれるかなと思っています。
幌村尚(スポ2=兵庫・西脇工)※囲み取材を含む/男子50メートル自由形後
――専門外の種目でしたが、どのような気持ちで臨まれましたか
とりあえず23秒台は出したかったんですけど、及ばなくて、これからアジア大会もあるのでそれに向けていい体への刺激になったんじゃないかなと思います。
――今大会全体を振り返っていかがですか
全然納得のいく結果ではなかったんですけど、こういう経験もあってまたさらに強くなれるんじゃないかなと思うので、地道に頑張っていきたいかなと思います。
――すぐにアジア大会がありますが、気持ちの方はだいぶ切り替えられましたか
だいぶ(気持ちは)切り替えられているので、疲れもとりながらうまく調整してタイムを上げられるように頑張っていきたいと思います。
――たまっているものは吐き出せましたか
だいぶ(吐き出せました)。
――どなたにでしょうか
奥野さん(景介総監督、昭63教卒=広島・瀬戸内)にもレース前に思っていることをいろいろ言って、だいぶすっきりはしたので、リフレッシュしながらレースには臨めたんじゃないかなと思います。
――アジア大会の目標は何ですか
とりあえずコンディションもあまり良くないんですけど、今回のパンパシ(パンパシフィック選手権)よりもタイムを上げられるようにしていきたいと思います。
幌村尚(スポ2=兵庫・西脇工)※囲み取材より抜粋/男子100メートルバタフライ後
――この男子100メートルバタフライはどのような気持ちで臨まれましたか
今出せる力を出して、今は気持ち的にも苦しい時期ではあるんですけど、諦めないでレース一つ一つをこなしていっていけたらいいかなと思います。
――昨日の男子200メートルバタフライの決勝のレースをプールサイドからご覧になっていましたが、見ていてどのようなことを感じられていましたか
決勝で泳いでいる人ってすごくかっこいいなって思って(いました)。自分もやっぱりこの舞台に立ちたかったなっていう気持ちがすごくありました。
――その中でも瀬戸大也選手(平29スポ卒=現ANA)が金メダルを獲得しましたが、どのようにご覧になっていましたか
大也さんは強くてかっこいいなって(思いました)。自分も本当はパンパシ(パンパシフィック選手権)で優勝したかったんですけど、優勝できなくてすごく悔しくて、また頑張っていかなきゃいけないんだなってさらに思いました。