法大、明大戦を落として今季は優勝への道が途絶えた早大。4番・捕手の印出太一(スポ3=愛知・中京大中京)は、攻守で大役を担うが故に、いろいろな思いを抱いているようだ。今回はこれまでの振り返りに加え、迎える早慶戦への意気込みを伺った。
※この取材は5月18日に行われたものです。
「力の足りなさを感じた」
法大1回戦で本塁打を放った印出
――残る試合は慶大戦のみとなりました。ここまでの試合を振り返って、率直な感想を教えてください
やはり悔しさが残る法政、明治の2カードだったかなと思います。東大と立教とのカードでいいスタートを切れた中で、主に自分たちのミスで崩れた去年の春とは違って失策はまだ0ですし、それよりも力で相手に負けたっていう感覚がありますね。力の差というか、自分たちの力の足りなさを感じたここ数試合だったかなと思います。
――ここまで一番印象に残っている試合は何でしょうか
法大4回戦がやはり印象に残ってますね。
――その理由を教えてください
野球の難しさや怖さが詰まったゲームだったかなと思います。8回表に(1死一塁の場面で)自分が盗塁を刺して2死走者なしになって、そこで(法大の攻撃が)3人で終わって。一方で早稲田は裏の攻撃でチャンスを作って、センター前に打球が抜けたのに一点入らず(2死一、二塁の場面で印出が中前打を放つも、法大の中堅手の好返球により二塁走者が本塁タッチアウトに)、その後結局逆転されてしまって。流れみたいな部分もそうですが、一つ一つの得点できるところで点を取れないと、ああいうことが起こるのかなと思います。特に8回裏は2―1で勝っていて、あそこで1点入れられていれば3―1になっていました。気が抜けていたとか油断していたわけでは全くないのですが、後から振り返ると、あそこでもう一点なんとかもぎ取っておけば、といった思いがいろいろあります。あの場面こうしておけばといった後悔のような、最後打たれた9回表も、(逆転の2点本塁打を放った法大4年・内海貴斗と)まともに勝負しないような配球をしておけば、四球でランナーを出したとしてもその後どうなったのかなどたくさん考えることはあります。前半いい試合運びができていただけに、悔しさや後悔に似たいろんな感情が試合中、試合後を通してあったので、その試合が一番印象的でしたね。
――東大、立大戦はいい流れで勝ち点を獲得した中で、法大と明大戦では勝ち点を奪えませんでした。個人的に勝ちきれなかった要因はどこにあると感じていますか
最初の2カードに比べて、法政と明治は投手力が全然違うのは明らかなので、そこを打ち崩してピッチャーを援護しないといけないと思います。結局、法政戦もかなりピッチャーにストレスがかかる試合運びになりましたし、キャッチャーとして一番近くで守っている中で、ピッチャーにストレスがかかってるなと感じた部分はありました。なんとか打線で勢いづけたいと思っていましたが、相手が打たれまいと投げてきているボールを打ち返すのは簡単ではないですし、そこでも能力差みたいなものを感じました。野球は1対1の勝負のつながりですが、その中でまだまだ足りないなと思う部分があります。法政、明治戦ではチャンスで自分が打てないケースが何個もあったので、そこで打てる4番にならないといけないなと感じています。チャンスで凡退した打席はホームランを打つ必要がない場面でしたし、単打でもしっかりとコンタクトしていけば、一点一点を確実に積み重ねられ、勝ち点にもつながったかなと思っています。時に(前の打者によって)送りバントなどでランナーを得点圏に進めてもらっている分、自分がしっかり仕事をする必要があります。あとは、個人的に早稲田は先行逃げ切りのチームなのかなと感じていて、先に点を取って相手を押しながら主導権を握り、いろんなピッチャーをつぎ込んで抑えていくイメージです。その分、やはり序盤に自分が役割を果たさないとなと強く感じさせられた明治と法政のカードだったと思います。
――打撃についてお聞きします。現在打率は3割0分0厘で目標の3割に到達していますが、この数字をどう受け止めていますか
3割はクリアしていますが、ここ最近の法政、明治の打率は2割に届いていないくらいだと思います。レベルの高いピッチャーからコンスタントに打つのが上位打線の仕事ですし、自分らがそれをできなかったらどこで点を取るんだとなってしまいます。序盤はよかったのですが、相手が「このピッチャーなら勝てる」と思っているピッチャーを打ち崩してこそだと思うので、そこの力の足りなさを感じています。3割という数字は残っていますが、昨秋の2割9分7厘に比べたら納得できる3割ではなく、昨年の方が内容的にはよかったと思います。その点ではまだまだ早慶戦で巻き返すチャンスはあるので、ちゃんと仕事ができるようにもう一回立て直していきたいです。
――これまでの試合において、個人的な打撃の調子はいかがでしょうか
開幕のときからあまり状態はよくないという話はしていたと思いますが、リーグ戦を通していく中で思い出したというか、本番だから逆に割り切って試合に入れたみたいなところもありました。神宮で打席を楽しみながらプレーできていた部分はありましたし、立大戦くらいまでは結構いい状態で進められていたと思います。以前にも、完璧な状態で(リーグ戦に)入って3割打てるかどうかという話をしましたが、結局こういう数字につながっているのかなと思います。チームやピッチャー陣がしんどくなってくる後半の法政、明治、慶應戦で打たないといけないですし、打撃に関してはそこをもう少し詰め切れなかった、開幕前までにもう少し詰め切りたかったっていう感じですね。
――打点、長打数など打撃で満足いっていない点はありますか
打撃については、全体的に納得いっていないですね。一打席一打席が大事なのはもちろん変わりないのですが、「ここで絶対に点を取った方が楽だ」「絶対にここで追加点が欲しい」といった得点が欲しい場面で、自分のやりたい打撃、求められる打撃ができなかったことにすごく納得いかない部分があります。打順が上がれば相手のマークというか攻め方のようなものも変わってくるのですが、絶対に打てるボールは来るので。そのボールを確実に一球で仕留める力をつけないと、まだまだ通用しないなと感じています。
「昨季の失敗が今季に生きている」
――法大1回戦でのソロ本塁打についてお聞きします。篠木健太郎投手(3年)を相手に、何球かファウルで粘った末のホームランとなりました。振り返ってどういった打席だったのでしょうか
(篠木投手は)球がとにかく速かったです。ですが、その速い球に振り遅れないように自分が速く、強く振ろうと思って力を入れると、そこがミソで逆にバットが出てこないんですよね。速くてスピンの効いた強いボールというのはわかっていたので、そういうボールに対して自分が強引に力任せに打ちにいっても、絶対前に弾き返せないと考えていました。速いからこそ引き付けるというか、あまり強く振らずに、とにかくコンパクトにコンパクトにというイメージを持ちながら打っていました。やはり155㌔前後でアウトローなどに来ると綺麗に弾き返すのは難しいので、そういうボールをなんとかファウルにしてファウルにしてというのを意識していましたね。金森助監督(金森栄治助監督、昭和54教卒=大阪・PL学園)もキャンプやオープン戦のときから「甘いボール、打てるボールが来るまでファウルで粘る」とずっとおっしゃっていたので、それを実現できた打席ではあったかなと思います。相手にとっていいコースに来たボールで仕留められることなく、ファウルでひたすら逃げたというのがホームランにつながったかなという感じです。
――打球の感触はいかがでしたか
感触はレフトフライでしたね。そこまで飛距離は出ていないと感じましたが、風が吹いていて角度があったので、なんとか外野の頭を超えてくれたらと思っていました。そうこうしてたら、風が強すぎて入ったみたいな感じで(笑)。打ったのが高めのボールだったのですが、あの高さのボールを引き出すまで、あの抜けた変化球を引き出すまでのファウルがよかったかなと思います。打ったボールに関しては、風がなければレフトフライですね。
――打席で何球も150キロを超える球を見て、目が速球に慣れていたのではと思います。最後に打った球は変化球でしたが、打席での対応について教えてください
打ったのはスライダーだったと思います。同じところからスライダーを曲げられたりしたら厳しいところはありますが、抜けて浮いた変化球ってバッターとしては反応できるんですよね。逆に速い真っ直ぐを見せられた後にそれが低めとかに来ると、泳がされてバットが空を切るみたいなパターンが多いと思います。あの打席はそういう難しい球をひたすらカットしてカットして、もうそれが来るまでカットするみたいな我慢比べ的な感じでした。低めに来ていたらかなり厳しかったのですが、浮いてくれたから反応できたと思います。
――法大4回戦で、6回1死満塁の場面で放った犠飛についてお聞きします。3ボール0ストライクでスイングを迷うカウントだったかと思いますが、打席での意識を教えてください
あの場面は満塁でゴロを打ったら100パーセントゲッツーになるので、とにかく外野までもっていけるようにと思い、外野フライを打てる球を待っていました。相手の塙投手(塙雄裕、4年)はカットボールもあるのですが、基本的にストレートとフォークボールが今季は多かったので、低めのフォークを引っ掛けて打たされることだけはないように意識していました。高めに抜けたフォークと真っ直ぐに反応していこうと思っていた中でボールが3つ続いて、ノースリーになって。ヒットと同じで無条件に1点入るということで、正直押し出しもすごく考えたのですが、ベンチをぱっと見た時に監督(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)が「打てる球が来たらいけ」というジェスチャーをされていて。なので「打っていいんだな」「ベンチは甘いボールが来たら打ってくれという判断なんだな」と思いました。ノースリーで相手としては絶対ボール球は投げられない場面で、それまでフォークがボールになっていたことから、絶対に真っ直ぐが来ると思って狙って打ちにいきました。しかし、最低限外野フライにはなりましたが、あれも結局ヒットか長打にまでもっていかないといけない打席でした。一点入ったことはいいものの、あそこでヒットだったら2点は入っていたのになと振り返れば思いますね。
――試合後に「ああしておけばよかった」などと感じることはあるのでしょうか
あそこでこういうプレーがあったから次にこういうことにつながったなとか、あそこは絶対防ぐべきだったなとか、守備面では特にキャッチャーなので、いろいろ考えることはあります。しかし、次に同じような場面を迎えてどの引き出しを選択するかとなった時に、そういう経験によって、いろんなリスクを考える上での選択肢が増えると感じます。ああしておけばよかった、こうしとけばよかったとならないように練習してはいますが、全部が全部完璧にいく訳ではないので。キャッチャーの配球などはエラーにはなりませんが、そういうのは「しょうがないな」で片付けるのではなく、自分の頭の中であれはこうしておけばよかった、など反省や振り返りをすることで記憶に残り、次の同じような場面で生かせると思います。結局そういうことの繰り返しなのですが、キャッチャーで構えていて、「ああ、こんな場面あったな」と頭によぎる場面はいくつかありますし、今季プレーする中で、昨年の配球などの失敗が今季に生きているなと感じる部分もありました。その点では春、秋と出させてもらっていろんな経験ができている分、自分の引き出しも増えたなと実感する部分はありますね。
――投手陣についてお聞きします。今季ここまでの投手陣の働きをどう感じていますか
本当に頑張って踏ん張ってくれている印象です。配球の部分で、法政の4回戦や明治1、2回戦は何かできたんじゃないかといろいろ考えることがありますが、ひとまず早慶戦に向かっていこうという意識がありますし、ピッチャー陣は頑張ってやってくれていると思います。
――昨季終了時点から、スローイングを課題に挙げられていたと思います。今季ここまでを振り返っていかがですか
捕殺率はおそらく5割ほどだったと思います。スローイングは捕殺も増えて自分の納得いくスローイングも出てきているので、その点練習した成果のようなものを感じられている部分があります。これを継続して、もう少しレベルアップしていければなと思っています。
――個人的な感想ですが、法政4回戦で1点リードの8回、1死1塁からの盗塁阻止が今季最も印象的なスローイングでした。あのプレーはどう振り返りますか
あれが今季というかこれまでのリーグ戦の中で、一番良かったかなと思います。ボールを捕ってからの球出し、球の強さや投げたボールの高さにおいて、一番リーグ戦の中でよかったかなと思いますね。
――リーグ戦において、他大には初出場などでデータがない選手が複数いたと思います。その際はどのように攻め方を考えるのでしょうか
一つは打ち方ですね。少しでも一打席でもデータがあれば「ああ、こんな打ち方なんだな」というのを見ることができます。なければ自分の目で確かめていますが、長い間野球をやっている分、「こういう打ち方はここが弱点になる」とか「ここはうまく打ってくるだろう」とか、見えてくるものがあります。打ち方や打席の立ち位置、ラインに寄っているとか離れているとかを見ながら、「この打ち方でこんなに寄っているなら、このコースはあまり好きじゃない、苦手なのかもしれないな」などと考えて、弱点を突く配球を意識しています。実際に投げてみて反応を見て、合っていたらそれでいいですし、意外と自分が思っていた感じとギャップがあったらその反対をいくこともあります。探り探りの部分ではありますが、大きく的が外れることはあんまりないかなと思いますね。
――攻守を問わず、練習の成果がリーグ戦で発揮されたと感じている部分はありますか
やはりスローイングかなと思います。冬の間もずっとステップや球の握り換え、球の強さなどにこだわって練習していました。他大には足の速い選手が多く、盗塁を企画してくることが多い印象です。そこで自分がアウトにできれば0死一塁、1死一塁がランナー無しになるので、ピッチャーとしてはすごく助かると思います。相手にも「せっかく出したランナーなのに…」と悪いイメージをつけることができるので、なんとか勝負どころで刺せるようにと思って練習してきました。昨秋にスローイングの力が足りていないと感じて取り組んできて、まだ満足してる訳ではありませんが、少しずつ成果が出てきているのかなと思います。
「慶應だけは倒す」
法大4回戦で犠飛を放った印出
――ここからは早慶戦について伺います。優勝はなくなってしまいましたが、現在チームはどのような雰囲気でしょうか
今季は明大を倒して優勝というのを掲げていましたが叶わず、力の差を実感した結果になりました。しかし、秋に向けてもうスタートは始まっていますし、チームと個人ともにレベルを上げていこうという雰囲気です。早慶戦については「何がどうあれ慶應にだけは負けられない」とみんなが思っていますし、早慶戦は絶対に二つ勝って、夏の強化、秋季リーグにつなげていけるように、なんとしても慶應だけは倒すという意志でみんな取り組んでいますね。
――最後に、早慶戦への意気込みをお願いします!
今季はバットであんまり活躍できていないと思います。個人的に早慶戦は割と得意な方なので(笑)、バットで法大、明大で打てなかった分を取り返したいなと思います!
――ありがとうございました!
(取材・編集 湊紗希、写真 田中駿祐)
質問に答える印出
◆印出太一(いんで・たいち)
2002(平14)年5月15日生まれ。185センチ。90キロ。愛知・中京大中京高出身。スポーツ科学部3年。捕手。右投右打。早慶戦ではバットで貢献したいと語ってくれた印出選手。注目して欲しい選手は以前ともに対談を行ったこともある、自身と山縣選手(山縣秀、商3=東京・早大学院)、そして吉納選手(吉納翼、スポ3=愛知・東邦)の3年生トリオだそうです!