【連載】秋季早慶戦直前特集『結実』【第11回】小宮山悟監督

野球

 優勝の可能性は無くなったものの春から大きく巻き返した早大。下級生が中心のチームながらもこれだけの好成績を残すことができている要因を監督である小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)はどのように見ているのだろうか。

※この取材は10月28日に行われたものです。

「良い形で試合ができているかな」

春に比べて良いシーズンを過ごせている

――早慶戦まで残り1週間と少しとなりましたけれども、現在の心境教えてください

 明日、明後日の明治の状況ではもちろん、モチベーションは変わってくるんですけれども。基本的に優勝がかかろうがかかるまいが慶応には負けてはいけないというのはもう大前提のことなので、とにかく負けられないという、そういう試合ですよね。

――監督ご自身が見て、今現在チームの状況というのはどうでしょうか

 過去にないスケジュールなので、立教戦勝って気分が高揚している中で、通常だったら1週間を開けての早慶戦。なんだけど、2週空くということで。ちょっと間伸びしている感じがあるので、これは今まで経験したことのないことなのでちょっと難しい感じはしています。慶応も同じ条件になっているので、それで言うとこの点に関しての言い訳はできないとは思っています。ただ、練習をしている様子を見ても、もちろん、緊張感は持ってやっているのだろうけど、ところどころでまだ先の話みたいな感じの雰囲気にはなっていますね。

――悔しい春を終えてから、どういった夏を過ごされたんでしょうか?

 リーグ戦終わって部員全員にこの春をどう考えているかと、秋に向けてどうすべきかということをレポート提出させて、ほぼほぼ全員が悔しい思いをして、秋に何が何でもという思いで、夏場練習をするという、そんなレポートにはなっていましたけど。こちらの期待している目の色を変えてという部分で言うと、多少物足りない感じではありましたね。言葉で言うのは簡単だけど死に物狂いでやるっていうその死に物狂いっていう感覚が、こちらの期待とはちょっと違っていたので、不安な部分はあって望んだ秋でしたけれども、彼らの中では、あの夏もう精一杯やったのだという。そういうことなのでしょうから、今時の学生ということで、やむを得ないのだろうな、という風には思っています。

――それこそ秋のリーグ戦始まって法大戦連勝になりましたけれどもこのカードの印象は、こちら側としては投手が踏ん張ったカードなのかなと見えましたが

 もちろん点を取られてないから、結果ピッチャーが良かったっていう。
そういう話なのだろうけど、ただ相手打線が相手打線だったので。それで言うと、なんて言ったらいいのですかね。こちらの思っている法政大学ではなかったので、その辺のところでスタートを非常にいい形で連勝できたという風には思っています。

――想定として打線は、もう少し強力なものを想定していたのでしょうか

 全くと言っていいぐらいタンパクだったでしょ、法政打線が。なので、あれ、これ本当にリーグ戦なのかなぐらいの感じだったです。もうちょっとしぶとさであったり、怖さであったり、そういうものがこっちに変なプレッシャーみたいな感じで伝わってくるのかなとも。だけど、そういうこともなく、これは裏を返せばこちらも同じような雰囲気で、向こうにプレッシャーを与えることができずに淡々と試合が進んで終わってみたら2対0の試合だったって、そういう話なので。その辺のところで言うと、秋のシーズンの始まりとすると緊張感が全体を支配しちゃった感じっていうのかな。

――明大戦は春の王者に一戦目こそロースコアでしたけども二戦目は少し点数をつけられる形になってしまいましたけれど

 初戦に関しては、もう本当にあと1歩という試合でしたけれどもその1歩がやっぱり相当力の差があると。もちろんね、春の優勝チームなので、我々もそう簡単にはいかないだろうと思ったけれども、ある程度のところまでくらいついていけたので、
夏場頑張ってきた成果みたいなものが感じられた試合だったとは思っています。ただ2戦目に関しては、初戦の反省を生かしきれずに守備で破綻してという展開でしたし、最後9点取られたのは、あれはもう選手には申し訳ないことしたなとは思っています。実際のところを、他に手の打ようがあったので、ただ状況としたら飯塚(脩人、スポ3=千葉・習志野)をこのままではダメなのだということを分からせてあげないといけないタイミングでもあったので、彼にも厳しい言い方をして、2年間の猶予を与えてリハビリをしたにも関わらず、思うように成果が上げられないというところでね。最終学年になる来年、今のままでいいわけないのでリーグ戦で自分の力はどの程度なのか、というのをちょっと分からせてあげないといけないと思っていました。
その後投げた原(功征副将、スポ4=滋賀・彦根東)にも悪いことしたなとは思っていますけど、大敗することによって、大いに反省することができたので、それはそれで高い授業料払っていますけどチームにとってはプラスにはなったのかな、と思っています。

――少しショッキングの敗戦から東大戦はうまく立て直せたように見えましたけれども、東大戦については

 スケジュールが東大だったから助かっている部分もあるとは思います。
正直その力で言うと劣る相手ですし、もちろん明治と引き分け、慶応にも勝ってということで、能力的にはそこまでの差というものはないとは思っていますけど、ただそうは言っても東大なので。その東大相手に春のように引き分け2つでモタモタしているようなことをやっていたら、優勝なんかできるわけないので。そういう中で明治戦の連敗で1つも負けられない状況にはなったので、勝つということで選手に奮起を促したところ、思い通りの試合にはならなかったですけど、安心して見てられるようなそういう試合展開だったので、負ける雰囲気もない2試合でしたからそれなりの結果かな、という風に思います。

――先週の立大戦のカードは、2試合とも終盤にくらいついて逆転してというカードでしたけれども、振り返っていかがでしょうか

 6連敗中の相手だったので、選手も変なプレッシャーを感じながら試合に臨んでいたとは思うのですけど、ただそういう中で、しっかりとしたピッチングで、なんとか最小失点2ということで踏ん張っていましたし、打線の方もワンチャンスでなんとかできる点差であれば十分、勝機はあるという風に考えていましたので、結果、終盤に我々がいい形でゲームを進めることができたので、勝ちを拾ったという風にはなっていると思います。ただある程度計算した中で自分たちの考え通りにゲームプラン通りに進んだ試合なので、自信を持っていいのかな、という風には思っています。

――今4カード分話してもらいましたけれどもその4カード全て総括として振り返って、今季のリーグ戦をどのように感じていますか

 春未経験だったピッチングスタッフがある程度経験を積むことによって、夏場練習いかんではそれなりになるなというふうに思っていたので、それでいうと明治2回戦で大量失点17点取られていますけど、それ以外は全て2点以下に抑えているのでそれでいうと、いい形で成長してくれたなというふうに思っています。問題は打つ方なので。打線は水物なのでそこまで毎回毎回打てるわけもない。そうかといって打てない試合が続くということでもなく、なんとなく二、三点取ってみたいな感じにはなるはずですから。どうですかね見ている人はもうちょっと打って点を取ってくれと、明治や慶応みたいにもっと点取れるだろうみたいなことを思っているでしょうけど、ただゲームをポイントポイントで見ると、良い形で試合ができているかなというふうに思っていますけど。

「いい形で試合を終えたいなという風に思っています」

カギとなるのは打線の力か

――先発の加藤投手(孝太郎、人3=茨城・下妻一)は春に続き安定感のある投球を見せていますか。それはどのように見ていますか

 春終盤息切れして勿体ないシーズンになってしまったので、その反省を大いに生かして、この秋はしっかりと最後までね、それなりのピッチングはしてくれるというふうに思っています。なのでよっぽどのことがない限り、早めに変えることもするつもりはありませんし、土曜投げて勝ち点を取れば優勝という状況になれば、3戦目の先発ということで1戦目と3戦目を任せようというふうに思っていますけど。ただ連勝じゃなければいけないとなると、2試合連投させるぐらいのつもりで考えてはいますけど。もう今はおそらく一番信頼できるピッチャー。ひょうひょうとしたマウンドさばき。早慶戦だからといってちょっと入れ込みすぎてね、力が入らなければいいなと思っていますけど。

――救援だと見ている側としては、鹿田投手(泰生、商3=東京・早実)の成長がすごく著しいのかなって思うのですけど、鹿田投手はどうでしょう。

 立教戦で先発させて先制ツーランを食らいましたけど、あれはあいつのキャリア不足です。ダブルプレーでツーアウトを取って、ほっとして次のバッターにヒットを打たれたと、ここまではよくある話なので。そのヒットを打たれたことによって、あいつの中で多分ダブルプレーでランナーがなくなったのに簡単にヒットを打たれてしまったというのを引きずりながら、次のバッターに投球をしてカウントを悪くして、ホームランという1番やってはいけないパターンの点の取られ方なので、そういったことを経験することによって、学習能力のあるやつは飛躍的に良くなるパターンです。その代わり学習能力がないと同じことを繰り返して何度も何度もみたいな。そういう話なのだけど、もう一度早慶戦に先発をさせてみてなんとか一山二山超えるようなピッチングをしてくれると、来年以降かなり頼りになるピッチャーになる。ただ、優勝がかかるとなるとその博打を打てるかどうか、というこういう話になってしまうので、そこはちょっとじっくり考えたい、と思います。

――4年生の原投手も、明大戦ではちょっと打たれてしまいましたけれども、要所要所でしっかり与えられた役割を果たしてくれているように見えていますが

 数字が悪くなっちゃっているのは、明治の炎上が原因なので。でもその炎上もいくらビハインドでああいう展開とはいえ左バッターにフォアボール出しているようじゃダメなので、あそこでしっかりと抑えてくれればなんてことはなかったという。そういう話なのでその点は大いに彼も反省していると思うので、なんとか抑えてくれるとは思っています。

――1年生の伊藤樹投手(スポ1=宮城・仙台育英)は明治戦で先発こそしましたけれども、ほとんど抑えで投げることが多いと思います。抑えも板についてきたように見えますが

 今のところ1番最後投げさせていますけども、本当だったら明治の2回戦も1年生ということで、ちょっとマウンド上で緊張感も足りない感じだったので、この辺を反省してくれれば、しっかりとしたピッチングができると思っているので、早慶戦で頭からということも選択肢の中には入れていますので、状況がどういう風になるのかわからないですけれども、今週末の明治の結果を受けての初戦で判断したいと思います。

――打線について伺いたいのですけれど打線だと、やはり1番打っている熊田選手(任洋、スポ3=愛知・東邦)はかなり好調ですが、監督から見てどうでしょうか

 本当はそれぐらいずっと打ってないといけない選手なので、今までのシーズンは序盤良くて中盤以降ダメになって、中盤以降息切れして打率は急降下みたいな感じですけど、この秋に関してはしっかりとした形で今できていると思っているので、この調子で残り2試合、3試合打ってもらいたいなと思っています。

――この秋はショートに抜擢した山県選手(秀、商2=東京・早大学院)のお話をしないわけにはいかないと思うのですけれども、山県選手についてはどのように見ていますか

 元々、守りに関しては間違いのない選手だという風に思っていたので、起用法とすると終盤守備固めで投入というつもりで準備をしていて。スタートは中村敢晴(スポ2=福岡・筑陽学園)を用意していました。ところがオープン戦の終盤、守備固めで山県を使ったりしていた時におまけで打席が回ってきた時にびっくりするぐらいのバッティングを見せたのでね。それを見てひょっとしたら頭で行ってもいいのかもしれないなぐらいのつもりでは考えていったのだけど、でもやっぱり野球って終盤が大事なので、中盤の守りのことを考えて。バットは敢晴の方がいいので、よし、頭を敢晴でその後、山県でというつもりで腹を決めていたのだけど、学生コーチの冨永(直宏学生コーチ、文4=東京・国学院久我山)の方から、ディフェンシブに行きたいとそれは常々俺が口にしていたセリフなので。野球は点取りゲームだけど、点取るよりも、点をやらないようにする方が簡単なので、打率は10回のうち7回失敗して褒められるけど、守りは10回打球飛んできて1回でもエラーすると下手くそになるというので。それを考えると守備をおろそかにしているチームで優勝したところを見たことないので。その辺のところで、敢晴よりも山県を使ってほしい、ということで、学生コーチの方から言ってきたので、彼らの考え方はそういう考えでいくのだったら、わかったということで。基本的にはやっぱり打って打って打ちまくって、というのが理想なので、中盤、後半に差し掛かるぐらいまでは、もう打撃重視で行きたいな、というのは当初の考えだったのですけど、ただ、山県をショートで使うっていうことになったところで、もう完全にディフェンシブに行くっていう。そういう野球に切り替えましたので、その辺のところで、あいつは本当にいい形でチームに貢献してくれてるのありがとうございます。

――得点力の面では、やはり3、4番の中川選手(卓也主将、スポ4=大阪桐蔭)、蛭間選手(拓哉副将、スポ4=埼玉・浦和学院)がもう少し上がってくれば、というところはあると思うのですがその、2人についてはいかがですか

 でも最後ぐらい打つでしょじゃあ、今まで全く湿っているので、最後ぐらいはいい形で打って終わってくれるかなと思っています。

――チーム全体としては、繋ぐ意識を持って1点ずつという形のバッティングができているように見えますがその辺りはどうでしょうか

 点の奪い方、点の取り方っていうよりも、点の奪い方で言うと何をどうすればいいかっていうことをもう一度考えろ、ということは毎日毎日言っていますので。
綺麗にヒットを打つだけが点を取る方法ではないのでそれ以外の方法でなんとかできるだろう、ということで打席に立って塁に出ることを考えろということで日々のバッティング練習でも気持ちよくカンカンカンカン打っていますけど、その気持ちよく打てる打席なんてのは、1試合で何回やるのだって話なのですよ。全て走者の有無もそうだし、点差であったり、イニングであったり、そういったことも含めて、制約のある中で何がベストなのか、ということをしっかりと理解した上で、その打撃ができるのかどうなのか、そういうことなので。その辺のところを突き詰めて、1年間の集大成なわけですから、その早慶戦で、自分たちのチーム力をどれだけ誇示できるかと、そういうことなので。やってきたことが正解なのか間違いなのかその答え合わせの早慶戦ですから、そこの部分で言うと、いい形で試合を終えたいなという風に思っています。

「勝つということに執着して精いっぱいプレーしてもらいたい」

宿敵相手にチームを勝利に導くことができるか

――ここからは最後に慶応の印象なども聞いていきたいのですけれども今期の慶大はここまで首位ですけれども、率直な印象を教えてください

 いや今季に限らず強いですよ。やっぱりメンバー揃っているもので、なんて表現したらいいのですかね。チームとして一気に叩きつぶすという形ができるチーム力なので、その打線を分断するのがなかなか難しい。でもそうは言ってもできませんでした。
じゃ、勝てない。なんとか最小失点でしのいで、その少ない得点力で勝てるようにゲームプランを練って、望みたいな、という風に思っていますけど。なかなか毎日、毎日いろんなことを思い巡らせていますけど、厄介です。相当強い。

――今季、投手陣もほとんど完璧で、打線も切れ目がない中で特に注目している選手を挙げるとしたらどの選手になりますか

 ポイントゲッターになっていんのは萩尾(匡也、4年)でしょうけど。もうこれはしょうがないと思いますよ。ただでもそこだけじゃないのが困るんですよね。右も左もバランスよく、いい形になっているし、もう本当に付け込む隙がない。何とか1人でも2人でもいい完璧に、ぐうの音も出ないぐらい抑え込めるかっていったら、なかなかそれも難しいので、もう本当にしんどい2試合3試合になると思います。

――小宮山監督が考えている勝敗を分けるポイントというのはどのあたりになりそうですかね

 どれだけ抑えられるかでしょ。そこに尽きると思います。

――それでは最後に、たくさんのお客さんが来ると思いますが、早慶戦への意気込みをお願いします

 これはもう毎年毎年なのですけども、勝って終わるのと、負けて終わるのともう終わり方によってその先、天と地ほどの差が。勝って終われたときのあの晴れやかな気分っていうのかな。これはね優勝してないけれども、達成感みたいなものは相当なものがあるので、もちろん常々勝たなきゃいけないんだみたいなことを、OBがおっしゃられて、我々もプレッシャーを感じていますけど、ただやっぱり世の中に出たときに言えば早稲田の学生として4年間野球部で過ごしてきて、なおかつ卒業するその年、秋の早慶戦に勝って自分の4年間の朝での野球の生活を終えることができたということ、これ以上の幸せなことはないわけですよ。幸せを持って世に出て胸を張って早稲田の野球部だということを誇らしげに社会に出ていってもらいたいというのは、監督としての願いなので。そのためにも、もう春やられているわけですから。この秋何としてでもやり返したいという、そういう思い、4年生は特にね。勝つということに執着して精いっぱいプレーしてもらいたいなというふうに思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 山本泰新)

◆小宮山悟(こみやま・さとる)
1965(昭40)年9月15日生まれ。千葉・芝浦工大柏高出身。1990(平2)年学教育学部卒業。早大野球部第20代監督。