【連載】秋季リーグ戦開幕前特集『復権』【第3回】印出太一

野球

 2年生ながら正捕手を担い、自身初の東京六大学春季リーグ戦(リーグ戦)で、リーグ5位の打率3割4分9厘をマークした印出太一(スポ2=愛知・中京大中京)。「成長を試し、実力をぶつけられる本番」と語るリーグ戦まで、どのような課題と手応えをその身に感じてきたのだろうか。現在の心境、ラストシーズンとなる4年生への思いとともに伺った。

※この取材は9月1日に行われたものです。

リーグ戦への準備はできてきている

オープン戦の打撃は好調だ

――まずは昨月27日に愛媛県で行われた、東京六大学オールスターについて伺っていきたいと思います。オールスターを通じて「この人とよく話をしたな」という他大学の選手はいますか

 キャッチャーということもあり、法政の村上(喬一朗、4年)さんと明治の蓑尾(海斗、4年)さんとはノックのときやベンチにいる間にお話しましたし、あとは明治の4年生の山田陸人さんと一緒にキャッチボールをやらせていただいたので、そこでいろいろと話をさせてもらいましたね。

――実際に交流してみて、自分が抱いていた印象とのギャップを感じた選手はいましたか

 明治のピッチャーの蒔田(稔、3年)さんかなと思います。今まで自分の中では、静かというか寡黙なイメージがあったのですが、ベンチなどでは明るくて気さくな方だったなあという印象です。

――他大の選手たちのプレーを見て、何か受けた刺激はありますか

 うちのチーム(石鎚マウンテンズ)では、キャッチャーとして村上さんがフルで出場されていましたが、オールスターということで初めてバッテリーを組むピッチャーばかりだったと思います。それでも、短時間でしっかりとコミュニケーションを取ってピッチャーが投げやすい状態をつくり、いいパフォーマンスを発揮できるようにプレーしている印象を受けました。それがすごく勉強になったというか、ああいうことが大事なんだなあと感じましたね。

――ここからは春季リーグ戦から夏季の練習についてお聞きしたいと思います。春のシーズンに関して、まず改めてご自身の打撃を振り返ってください

 打撃の方は、春のリーグ戦前の取材では率にこだわっていきたいという話をしたと思いますが、一応数字が3割4分9厘でおよそ3割5分くらいを残すことができて、その部分では一つクリアできたと感じています。しかし単打が多く、ヒットが15本出たうち長打が2本だったので、打率が残せるようになってきたからには、加えて長打も出せていけるとよりチームにプラスになると思います。長打力に関しては、この春から秋リーグまでの課題の一つとして挙げながら、もちろんミート力は大事にしつつ、少しこだわって練習をしてきました。

――守備に関してはいかがですか

 守備の面ではバッテリーでなんとか粘って打撃陣の援護を待つというか、やはりバッテリーが点を取られなければ、まず負けることはないと思います。そのような粘りの部分で絶対に一戦も落とさないということを、学生コーチの富永さん(直宏、文4=東京・国学院久我山)をはじめ、キャプテンの中川さん(卓也、スポ4=大阪桐蔭)などが呼びかけて取り組んできた中で、チーム的にはスコアでは勝っていても、まだまだリーグ戦を想定した中では、開幕ギリギリまで調整が必要な部分があると感じています。個人的には春のリーグ戦が終わった後に、盗塁阻止率をもう少し上げていきたいなと感じました。盗塁を企画されないことが一番いいキャッチャーであり、そうなるために必要なのは、やはり阻止率の高さだと考えています。阻止率を上げることによって企画数を減らしたり、相手が仕掛けにくい状況をつくったりすることも大事ですし、送球の精度や速さに関しては、この春と夏に守備の部分で一番こだわってやってきた部分かなと思います。

――リーグ戦の後、今年は新潟・南魚沼でのキャンプもありました。この夏の間、まず打撃においてどのようなことに重点を置いて練習されていましたか

 初めてのキャンプだったので、どういう感じで行うのか右も左も分からない状況だったのですが、しっかりと練習時間を確保できたと思います。新潟の南魚沼はこっちよりはやや涼しくて環境的にはすごく練習しやすい所だったので、存分に野球に打ち込むことができました。打撃の部分は、キャンプに入るまではあまり自分の中で調子が良くなかったので、キャンプで振り込んで自分の形を戻そうと考えていました。チームとして死ぬほどバットを振るというような取り組みはしていませんが、自分の中ではやっぱりこのキャンプでなんとか調子を上げて、東京でのオープン戦を少し消化してからリーグ戦に入っていきたいと思っていました。いろいろ打撃フォームなどを気にしながらも、やはり長打力の部分にも新潟ではこだわってやっていましたし、午前中にあった特打や特守でそれぞれにすごく時間を割くことができたので、それで掴めたものもあると感じています。打撃も少しずつ調子が上がってきて、今はだいぶ良い状態に保てているので、その点ではキャンプでの打撃練習は意味があったなと思います。

――守備についてはいかがですか

 守備に関しては、キャンプの期間中に試合が3試合予定されていて、結局雨で1試合流れて2試合しかできなかったのですが、送球の部分では少し成果も出始めているなと思います。春リーグを終えたときに、もっともっと固めて自分のものにしていきたいと実感してから練習をしてきて、以前とは少し変わった部分があるなあと感じています。リーグ戦で結果が出なければ意味はありませんが、練習を重ねてきて良かったなと思っていますね。

――守備打撃を問わず、春より成長したと成果を感じている部分はありますか

 守備打撃を含めた上で送球には一番こだわってやってきて、それに関して言えば、盗塁阻止率が夏季オープン戦では春のリーグ戦に比べて上がってきているので、着実にリーグ戦への準備はできてきているのかなと思っています。

――現在振り返ってみて、新潟キャンプはしんどかった印象と楽しかった印象のどちらが強いのでしょうか

 環境が変わって生活に慣れなかったり、練習量が東伏見よりも少し増えたりしたので、キャンプが始まってから3日4日は少し体的にもしんどいと感じる部分がありました。ですが最後の方になってくると生活が慣れたこともあり、新潟の方にも愛着が湧いてきて、新潟もいいなと思いながら練習をしていました(笑)。もちろん練習のときは体がしんどいこともありますが、仲間とずっと時間を共にしながら、ご飯のときも寝るときもずっと一緒だったので、振り返れば楽しかったかなと思います。

――夜は疲れてすぐに就寝という感じだったのでしょうか

 自分はスポーツ推薦の吉納(翼、スポ2=愛知・東邦)と栗田(勇雅、スポ2=山梨学院)と敢晴(中村、スポ2=福岡・筑陽学園)の3人と同部屋だったのですが、もう寝るよとなってからは各々という感じで、夜にワイワイ騒ぐなどは特になかったです。

――枕投げなどもありませんでしたか

 いや、もう全然なかったです(笑)。逆にそういうことを始めたら「いや、ええって」みたいな感じになりますし、次の日もあるので、そこはみんな乗り気じゃないって感じですね。

――続いては夏季オープン戦についてお聞きしたいと思います。31日の関東学院大戦では3点本塁打がありましたが、オープン戦を通じてご自身の打撃の調子はいかがですか

 キャンプ途中くらいまでは自分の思うような打撃ができていなくて、自分の打撃を模索していました。でもその期間があったことで、自分の持ち味や良くない癖といった部分を改めて発見し、それらを体で覚えることができたので、その点ではキャンプを通して打撃は良くなってきていると思います。オープン戦でもいい数字は残っているので、これを継続してリーグ戦で結果を出すことが大事かなと思っていますね。

――以前に長打がないという話をしていましたが、オープン戦を通して手応えなどはありますか

 キャンプの中盤くらいに上武大学と試合をしたのですが、そのときに自分の中で「これかな」と掴んだものがあったというか、いいイメージを掴むことができました。その試合から結構長打も確立良く出てきていて、大体ヒット三本のうちに長打が一本か二本出てくるイメージです。春のリーグ戦では本当に単打、単打、単打でその中にたまに長打が入ってくる感じだったのですが、最近は長打の中に単打が混じるような割合になってきています。もちろん打撃において長打が全てではありませんが、出せるなら出した方がいいと思うので、これを継続してやっていきたいです。

――夏季オープン戦などを通して、現時点での投手陣の調子についてはどのように考えていますか

 オープン戦のスコアを見ると、完封などで相手をねじ伏せているような印象はないかもしれませんが、試合の中のターニングポイントだなというようなイニングやピンチのときに、なんとか粘って最小失点で切り抜けてという試合が増えてきていると思います。その結果、その後に野手陣が奮起してダメ押しの点を取ったり、ビハインドから逆転したりという展開が増えてきているので、まだまだ点を取られないという部分ではやれることがありますが、点を取られても次につながるピッチングができているのかなと自分は考えています。

必ず優勝して、4年生にいい思いを

春に引き続き秋リーグ戦でも期待がかかる

――秋季リーグ戦の開幕が迫っていますが、現在はどのような心境ですか

  4年生の先輩方が最後のシーズンなので、なんとか4年生を勝たせて、最後にいい形で野球部を引退してもらえたらと思います。自分は下級生として出させてもらっている身なので、力になるために今できることをしっかりやらなきゃと考えています。秋のリーグ戦はやはり春のリーグ戦が終わってから夏を経ての成果というか、それまでの自分が成長を試し、自分の実力をぶつけられる本番なので、すごく楽しみな気持ちがあります。とにかく絶対に負けたくないので、やってやるぞという気持ち、なんとしても勝つぞという気持ちが、リーグ戦が近づくにつれてどんどん高まってきているという感じですね。

――印出選手にとって、4年生の皆さんはどのような存在ですか

 今年の4年生は、昨年の丸山さん(壮史、令4スポ卒=現ENEOS)たちの代に比べてベンチ入りされている方が少なく、レギュラーで出場されているのも野手の中では蛭間さん(拓哉副将、スポ4=埼玉・浦和学院)と中川さん、あとはたまに松木さん(大芽、スポ4=石川・金沢泉丘)が出られるくらいで、基本的に2、3年生が多く試合に出ている状況です。ですが、グランドや東伏見で練習しているとき、オープン戦やリーグ戦の際には4年生が下級生を引っ張り上げるというか、4年生の団結力の中に下級生を巻き込むという大きな輪のつながりを、キャプテンの中川さんを中心に、副キャプテンの蛭間さんや折内さん(健太郎、文構4=福島・磐城)、学生コーチの冨永さんなどが意識して取り組んでくださっていると自分は感じています。その4年生についていって、なんとか最後勝たせたいという思いが、自分だけでなく下級生にはあると思っています。

――特に交流がある、お世話になっているなという4年生の方はいますか

寮生の4年生の方は特に、同じ生活リズムで同じ寮で暮らしていますし、話す機会も多くて日頃からお世話になっています。ベンチ入りされている方がほとんどですが、トレーナーや学生コーチ、マネージャーの方も含めて、特に寮生の方にはよくしていただいていますね。

――優勝を目標にして秋季リーグ戦を戦う上で、チーム全体としてどのようなことが必要になると考えていますか

 自分の中では投手陣も野手陣も、秋は粘ることが大事だと思います。春は試合での大事なターニングポイントで粘りきれずに失点したり、なんとかここで食らいついて点を取らなきゃいけない場面で取りきれなかったりと、個人としての能力というよりはチームとしての勝負強さのようなものが足りなかったのかなと感じています。秋はその粘り強さみたいな部分が、特に重要になると考えていますね。

――リーグ戦を戦う上で、キーマンになる選手はどなたでしょうか

先発を任されそうな加藤さん(孝太郎、人3=茨城・下妻一)伊藤樹(スポ1=宮城・仙台育英)、清水さん(大成、スポ3=大阪・履正社)ですかね。先発って長いイニングを投げますし、バッテリーが試合の8割を占めていると言われるくらいなので、打つ方は3割が一つ評価の基準になりますが、守る方は100%に限りなく近くないといけないと思います。その点先発の3人に関しては、自分もなんとか勝てるように頭を使いながらリードしていきたいですし、3人の投球がチームの結果を大きく握っていると考えています。

――春のリーグ戦前の取材では、3割が一つボーダーラインとのお話がありました。個人的に秋のリーグ戦で目指す、具体的な数字の目標はありますか

春に打率3割超えは達成できたので、秋には4割を目指しています。リーグ戦で首位打者を争う選手は4割近く打ちますし、そのくらい打つバッターがいれば、チームも上向きになると思います。春は3割5分だったので、秋はその上をいかないといけないと感じていますし、4割に乗せられるようにしっかりと準備したいと思います。

――開幕カードの相手は法大ですが、どのような印象ですか

選手層が厚いですし、能力の高い選手がたくさんいる印象です。ですが早稲田も負けていないと思いますし、先ほどの粘り強さなど秋に向けてつくり上げてきたチーム力みたいなもので、法政を圧倒していければと思います。

――他大に対して「ここは負けない」という早稲田の強みは何だと考えていますか

優勝したシーズン(2020秋季)に、早慶戦で劇的な勝ち方(1点ビハインドで迎えた9回二死から、蛭間が逆転2ランを放ち勝利)をして、ああいう試合は何十、何百試合に一試合の確率でしか起こりませんが、あれを出せるのが早稲田だと思います。ああいう一球への執着心を大事に、一球入魂という精神を大事にしているので、それを神宮で体現できることが早稲田の強みだと感じています。

――秋季リーグ戦に向けて、現在チームはどのような雰囲気ですか

まだまだリーグ戦に向けて詰められるところはありますが、夏季オープン戦もいい感じで勝てていますし、状態としては上向きになってきていると思います。開幕が目前に迫ってはいますが、いい雰囲気で、グランドでも活気を出してやれていると思います。

――最後に、秋季リーグ戦への意気込みをお願いします

春5位という悔しさを忘れることなく、秋にやり返す気持ちを強くもって、必ず優勝して4年生にいい思いをさせてあげられるように、自分のできることをつくしながら、なんとしても粘って勝ちたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 湊紗希)

◆印出太一(いんで・たいち)

2002(平14)年5月15日生まれ。185センチ。愛知・中京大中京高出身。スポーツ科学部2年。4年生最後のシーズンとなる秋季リーグ戦。印出選手のインタビュー中には、「4年生のために」や「なんとか4年生を勝たせたい」という言葉が度々聞かれました。4年生を最高のかたちで送り出すべく、今季も印出選手はチームをけん引してくれることでしょう!