【連載】秋季早慶戦直前特集『乾坤一擲』第1回 岩本久重副将

野球

 「思い残すことなく楽しみたい」。2季ぶりの優勝が懸かる一戦に向けて、岩本久重副将(スポ4=大阪桐蔭)はこう口にした。今季は不振に苦しみ、打順は4番から6番に降格。加えて、プロ野球ドラフト会議(ドラフト)では名前を呼ばれることはなかった。それでも、全てはチームの勝利のために。集大成を迎える攻守の要に様々な思いを伺った。

※この取材は10月22日にオンラインで行われたものです。

「みんなに背中を押された打席だった」


取材に答える岩本

――今季の戦いぶりを振り返っていかがですか

 開幕カードを2つ落としたということで滑り出しとしては厳しいスタートになってしまいました。ですが、それ以降の戦いでは粘り強さも出て、逆転する試合もあったので、チームの状況としては今、すごくいい状態です。優勝の可能性も残っているので、何としても早慶戦で連勝しようという雰囲気でやっています。

――東大1回戦では本塁打を放ち、リーグ戦通算本塁打が5本となりました。感触はいかがでしたか

 弾道が低かったので、入るかは正直分からなかったです。ただ、うまく捉えることができた打席でした。

――明大1回戦では9回にダメ押しとなる適時二塁打を放ちました。この時の思いを聞かせてください

 もう(試合を)落とせない中、みんなが回してくれた打席だったので、何とかしてやるという気持ちで臨みました。法政戦は無安打で終わり、明大戦もその打席までは無安打という状況だったので、何が何でも打たなければならないという思いは強かったです。あの打席はみんなに背中を押されて打つことができた打席だったなと思います。

――打線では今井選手(脩斗、スポ4=埼玉・早大本庄)、福本選手(翔、社4=東京・早実)、中川卓也選手(スポ3=大阪桐蔭)が躍動しています。岩本選手自身はこの3選手の活躍をどう捉えていますか

 あの3人で好機をつくり、大事なところで打点をたたいてくれるので、チームとしても頼りにしている3人です。特に今井であれば一振りで試合を決めてくれるので、本当に頼もしい選手たちだなと感じます。

――打順の組み換えがこの2戦でいい結果につながっていると思います。こちらについてはいかがですか

 このオープン戦からほとんど(打順を)変えずにやってきたのですが、自分たちに打ちたい気持ちがあってもなかなか打てなかった状況で、打順が入れ替わることによっていつもより新鮮な気持ちで打撃に立てているので、それがいい方向に傾いたのではないかと思います。

――岩本選手自身も打順が4番から6番に変わりました。何か思うところはありますか

 現在、今井が一番打っており、4番に座るだけの数字を残しているので、彼に4番としての仕事をしてもらいたいです。もちろん6番という打順もチャンスで回ってくる打順なので、しっかりチャンスでの一本を打つことにこだわりたいなと思います。

――今季は徳山選手(壮磨、スポ4=大阪桐蔭)、西垣選手(雅矢、スポ4=兵庫・報徳学園)の両先発が結果を残しています。春と比べて感じた変化などはありますか

 2人とも打者を見て投球できるようになったと感じます。やはり春は自分との戦いとなってしまい、思うような投球ができていなかったのですが、その悔しさを生かして夏に投げ込みやトレーニングを頑張っていたので、その成果もあると思います。ただ、しっかり打者を見て投げるという、バッテリーの意思疎通が出てきたというのが、良い結果に結びついているのではないかと思います。

――救援陣では齋藤正貴選手(商2=千葉・佐倉)やユエン選手(賢、国教2=セントジョセフ)といった下級生の活躍が目立ちます。リードの際はどういったことを心がけていますか

 経験の少ない下級生をリードするというところで、投げるとしたら後半の大事な場面が多い中、絶対に緊張していると思うので、自分が楽に投げさせてあげるということを意識しています。いつも通り投げることができれば絶対に抑えられると思うので、神宮の雰囲気に飲まれないように何とかジェスチャーや声かけを頑張っています。

――法大戦、明大戦では走者の足を封じるプレーが増えてきたように思います。捕手動作の面で修正した点はありますか

 六大学には足の速い選手が多い中で焦ってしまい、送球のコントロールが悪くなったことが捕殺できなかった要因だと思うので、まずはしっかりストライク送球を行うという意識に立ち返っていました。あとは反復練習を増やして、捕手動作の改善をしていました。

プロへの思い


明大1回戦でダメ押しとなる適時二塁打を放った岩本

――これまでの野球人生を振り返っていかがですか

 うれしいことも多かったのですが、悔しい思いの方が自分としては強いです。だんだんと野球のレベルが上がっていくにつれて、思うような結果が出なかったというところで悔しいなと感じることが多かったなと感じます。ただ、その分成功した時のうれしさはすごく感じます。

――野球に取り組む中で、一貫して持っている信念などはありますでしょうか

 特に早稲田に来てからは、神宮で活躍するために何をしなければいけないのかを考える中で、一球を扱う大切さについて知り、どれだけ丁寧に(一球を)扱っていけるかということはこの4年間で深く学びました。ただ数をこなすだけが練習ではないと思っていて、その中で実践を意識し、『一球入魂』という言葉があるように一球を大切にするようになれたなと思います。

――一番のターニングポイントを教えてください

 自分は高校3年時のケガが野球人生の中で大きな分かれ道だと感じますし、あれがターニングポイントだと思います。

――そこから野球への意識が変わったということでしょうか

 そうですね。ケガをして試合に出場できず、思うような結果が出ない中で、これを生かさなければならないと感じましたし、大学野球でも高校の悔しかった自分があったからこそ、活躍できたと思いたくて一生懸命練習をしてきました。今は高校の時の自分に、あの時があったからその分成長できたよと言えるようにやっています。

――早稲田大学野球部で一番得たものは何でしょうか

 まずは早稲田の野球部というのは、他の大学の野球部とは違うということを最初に学んで、しっかり自覚と責任を持ち、誰が見ても恥ずかしくないような立ち振る舞いや私生活を過ごすことを気づかせてくれました。その中でさっきも言ったのですが、一球に対してどれだけ本気度を持ってグラウンドで扱えるかというところですかね。その辺は本当にたたきこまれたので、自分の今後の野球人生にも生かされることだなと思います。

――先日のドラフトでは悔しい結果に終わりました。現在の心境を教えてください

 ドラフトで指名されなかったというのは今の自分の評価だと思うので、悔しい気持ちはいろいろとあります。ですが、そこはしっかり自分の本当に力不足だったということを認識して、今後のステップにも生かしていかなければならないと感じます。(プロの舞台を)まだまだ諦められないので、社会人に行ってもしっかり鍛えてまた(プロの世界を)目指したいなと思います。

――社会人の舞台ではどういった目標を立てていこうと考えていますか

岩本 自分のプレーには粗さが目立つと思うので、社会人の舞台では持っている力を底上げして、数字も残してチームの勝利にもつなげられる隙のない選手、そして好不調の波が少ない選手を目指したいです。また、チームメイトから信頼される選手となり、日本一の栄冠をつかめる捕手になれるよう頑張りたいです。

「最終的には笑って終わりたい」


明大2回戦で最後の打者を捕飛に打ち取り、ガッツポーズを見せる岩本

――現在、チームは優勝の可能性を残していますが、最後の早慶戦にむけての心境はいかがですか

 自分自身としても大学最後の一戦であり、全てをぶつけて最高のライバルと試合ができるので、楽しむという言い方が合っているかは分からないですが、やってきたことを全て出し切って、球場の雰囲気や神宮の舞台を感じながら2連勝したいと思います。

――連勝するためにはどういったことが求められると考えていますか

  野球には流れがある中で、いかにピンチで粘ってチャンスであと一本を出すかに尽きると思います。どういった試合展開になるかは分からないのですが、何とかみんなで心を一つにして、早稲田に流れを持っていければいいかなと思います。

――慶大打線の印象を教えてください

 走者が三塁にいれば簡単に外野フライを打ちますし、追い込まれてもしぶとく出塁を狙ってくるので、安打を打たなくても点が取れる打線だと感じます。加えて、一発を打てる打者や逆方向に安打を打てる打者がそろっているので、六大学の中でも一番の打線かなと考えています。

――一番警戒する打者は誰でしょうか

 春の早慶戦で本塁打を放った正木くん(智也、4年)に打たれてしまうと慶応は乗ってくると思うので、しっかりキーマンを切っていきたいと思います。

――慶大の両先発である森田選手(晃介、4年)、増居選手(翔太、3年)は共に制球力のある投手だと思います。そういった投手を打ち崩すためには、どういったアプローチが必要だと考えていますか

 どちらの本当に制球力がいいので、しっかり狙い球を絞って打っていくというところだと思います。狙い球を絞れれば打てる投手だと思うので、まずは相手のバッテリーの傾向を頭に入れた上で打席に入りたいです。また、相手バッテリーも打者を見て配球を組み立ててくるので、うまく対応していければなと思います。

――早慶戦における慶大の福井主将との戦いも最後となります。何か思うところはありますか

 彼とはずっとライバルとして切磋琢磨をしてきたので、最後の早慶戦という舞台で勝って、最終的には笑って終わりたいなと思います。

――勝負を分けるポイントとなるのはどういったところだと考えていますか

 後半に点を与えず、早稲田サイドが点を取れるか大事になると考えているので、そこが勝負のポイントになってくるのではないかと思っています。

――早慶戦のキーマンは誰になると考えていますか

 自分は徳山かなと思います。1戦目を任されるエースですし、しっかり勢いを守備からつくることが2連勝するには必要なのかなと思うので。また、相手の投手陣もいいので、まずは点を取られないことが一番です。自分が(徳山と)六大学で組むのは最後になると思うので、自分たちが高校からやってきたことを全部出し切って、徳山に勝ちをつけてあげたいなと思っています。

――最後に意気込みをお願いします

 かなりプレッシャーがかかる状況になるかと思いますので、それまでに練習で不安要素を取り除いて、神宮に出た時に思い切ってプレーできるようにしたいです。また、学生最後の試合になるので、思い残すことなく楽しみたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 足立優大)

◆岩本久重(いわもと・ひさしげ)
1999(平11)年4月21日生まれ。180センチ、90キロ。大阪桐蔭高出身。スポーツ科学部4年。捕手。右投右打。宿敵との最後の一戦を楽しみたいと答えた岩本選手。攻守にわたる活躍に期待がかかります!