【連載】春季早慶戦直前特集『七転八起』第7回 岩本久重副将

野球

 昨年から引き続き4番と正捕手を務め、丸山壮史主将(スポ4=広島・広陵)とともに今季のチームを支えている岩本久重副将(スポ4=大阪桐蔭)。東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)序盤は要所での適時打こそ放ったものの、主軸として満足のいく成績は残せなかった。だが、第6週の明大戦では2戦連続で9回ビハインドから本塁打を放ち、4打点を挙げる活躍。ここにきて調子は上向きだ。そんな岩本がリーグ戦を通して感じた、冬場の打撃改良の手応え。そして、宿敵との一戦に懸ける思いを伺った。

※この取材は5月19日にオンラインで行われたものです。

「このままでは終わらせないという強い気持ちで」

笑顔で取材に答える岩本

――最近のマイブームなどがあれば教えてください

 結構コーヒーが好きで、自分の部屋にもコーヒーメーカーがあるので、最近は部屋で飲んだりして気分転換をしています。

――コーヒーは専門店などで買ってきたりするのですか

 そんなに本格的ではないです(笑)。普通にスーパーで売っているコーヒーを家で淹れて飲んでいます。

――アンケートでは座右の銘として『一日一生』を挙げられていました。この言葉を知るきっかけとなった出来事はありますか

 昨年、打撃コーチで来られた徳武定祐さん(昭36商卒=東京・早実)からこれを読むように本を頂いて、そこから天台宗の酒井雄哉先生のことを知りました。大阿闍梨になるまでの修行の話などを読む中で、自分の野球人生にも通じるところがあると感銘を受け、その言葉を大事にしています。

――次は今シーズンについてお聞きしたいと思います。今季のここまでの戦いぶりを振り返っていかがですか

 思うような結果が出ないシーズンとなりました。勝てない中で自分たちの力の無さというのが分かりましたし、勝つのはすごく大変なことだということを改めて感じています。

――今季は東大戦での引き分けがその後の結果に大きく響くかたちとなりました。この試合について何か思うところはありますか

 開幕カードということもあって、いつもと違って(動きに)硬さがあり、さらにはなかなか点が奪えない展開になったことで焦りが出た試合となりました。あの引き分けというのはすごくチームにとっても痛かったですし、自分たちの弱さが出た試合になったかなと思います。

――2回戦はいずれのカードも競った展開となる中で、白星をつかむことができませんでした。勝ち切れない要因はどこにあるとご自身の中では感じていますか

 いいところまで競った試合運びをしても最後に打たれてしまったり、逆に打てなかったりと投打のかみ合いが上手くいかなかったので、勝ち切れない要因としてはそれが大きいのではないかと感じています。

――春季リーグ戦を通して、ご自身の打撃についてはどういった感触を持っていますか

 長打は出ていると思うのですが、まだ打率の面で思うような結果が残せていないですし、チャンスで一本が打てなかった打席もあったので、それはすごく反省すべきところかなと思います。

――法大1回戦ではエースの三浦銀二主将(4年)から貴重な追加点を奪いました。この打席についてはいかがですか

 1-0で試合が進んだと思うのですが、点差が1点と2点では絶対に違いますし、何としてもこのチャンスで1点を取りにいくということでセンター方向を中心に狙った結果、打球が外野を超えたので良かったです。あそこの追加点は勝利に大きく近づく1点だったのではないかと思います。

――明大との1、2回戦では2戦連発となる本塁打を放ちました。いずれも9回でビハインドの場面だったと思うのですが、打席の中で特に意識していたことはありますか

 自分がアウトになったら試合が終わってしまうという状況だったので、意地というか、何としてもこのままでは終わらせないという強い気持ちで打席に立ちました。ホームランを狙っていた訳ではないのですが、しっかり自分のスイングをした結果、ホームランを打てたという感じですね。

――今季放った7本の安打のうち、6本が長打です。岩本選手自身はこの結果をどう捉えていますか

 長打力というのが自分の持ち味としてあり、しっかり芯に当たれば長打になると思っているので、冬場に取り組んできたことが出せているなと感じます。

――このリーグ戦の中で、打席でのアプローチを変えた部分などはありますか

 試合を重ねていく中で、自分の打ち取られ方の傾向が分かってきたので、とにかくファーストストライクから自分のスイングをしていくことを心がけました。やはりどうしても簡単に甘いボールを見逃してしまい、そこから追い込まれていくというケースが多くあったので、少々タイミングが合ってなかったとしてもしっかり自分のスイングをファーストストライクから行い、そのスイングができるように準備を行うというのはリーグ戦を戦いながら変えたところです。

――初球から積極的に狙うようになったということでよろしいでしょうか

 そうですね。いちおう配球を読んだり、データを確認したりはするのですが、少々(タイミングが)ズレていたとしても、もう自分のスイングをするようにしていました。

――4番打者として、今の打線の状態についてはどう感じていますか

 それほど悪いとも思わないですし、いいとも思わないです。ただ、残塁が多く、チャンスはつくれていても点を取れなかったり、安打が多く出ているのに得点が入らなかったりすることがあるので、もう少し打線としてつないでいく必要があると感じます。また、いくら安打を打っても点が入らなかったのでは意味がないと思うので、もう少し点を取るためのバッティングをすることが大事なのではないかと思います。

――打線としては、あと一本が出ない試合が多いという印象を受けます。こういった要因には精神的な強さや弱さが影響していると感じますか

 チャンスの場面でいかにいつも通りに、冷静さを持って(バッター)ボックスに立てているかが特に大事になると思います。また、もし安打が打てなくても犠牲フライやバント、内野ゴロなどで点が取れるチームが強いと思うので、そういったプレーでの状況判断やどんなかたちでも1点を奪うプレーが、まだまだこのチームにないのかなと思います。

「(先発の)2人に勝ちをつけられるように」

法大1回戦で適時打を放ち喜ぶ岩本

――続いて投手陣についてお聞きしたいと思います。今季の先発陣の働きについてはいかがですか

 本調子ではないといえばそれまでになってしまうのですが、振り返ってみても前半で点差が離れる試合もありましたし、やはりもう少し先発投手2人がロースコアで試合を運ぶことができていれば良かったかなと思います。自分もリードをする立場なので、自らの責任でもあるのですが、もう少し長いイニングを任せることができて、(調子が)良ければ完投できるような先発であってほしいなと思いますね。

――先日の対談でキーマンとして挙げていた徳山壮磨(スポ4=大阪桐蔭)選手ですが、本調子とはほど遠い投球が続いています。岩本選手としては今季の徳山選手の投球にどういった印象をお持ちでしょうか

 まず準備の段階では万全な準備はしていたと思いますし、なかなか結果が残せていない中でもできることはしっかりやってきたので、準備不足とかそういった面での結果ではないなと感じています。自分としても何とか徳山自身も調子が戻るようなリードをしたいですし、ずっと高校からバッテリーを組んでいるので、もっと引っ張っていきたいと思いますね。

――徳山選手は法大1回戦では完封勝利を挙げました。この投球を振り返ってみていかがですか

 別にあの試合が特に調子が良かったとかではないのですが、気持ちの面で吹っ切れたような精神状態というか、そういった感じはありました。投げながら他の野手とも普段と比べてコミュニケーションを取ったり、すごく表情も明るかったので、それが上手い具合にチームとしても流れに乗ることにつながり、完封して勝てたのではないかなと思います。

――西垣雅矢(スポ4=兵庫・報徳学園)選手は序盤、いい投球を見せながらも2巡目以降の失点が目立つ結果となりました。この点についてはどう感じていますか

 2巡目以降の失点というのはずっと下級生の頃から課題となっていて、どうしても後半になってくると変化球のキレだとか直球の球威が落ちがちになるので、そこを通して投げ切れるスタミナというのがこれから大事になると思います。自分としても、それをサポートできる組み立てというのをもっと考えなければいけないと感じますし、ピンチをつくっても点を取らせないのがバッテリーとして非常に大事だと思うので、そういった粘りの部分をもう少し頑張っていけたらなと思います。

――救援陣については全体的に不安定な投球が続いています。どういったことが課題として挙げられますか

 打たれている球のほとんどが甘いボールで、要求通りに来なかったボールなので、まずはコントロールが課題ですね。また、カウント作りの面でもボールが先行して、バッター有利のカウントが続いた中で(ストライクを)取りにいったボールを打たれるというパターンが多いので、もう少し制球の部分を鍛え直さなければいけないと思います。

――その中でも奮闘を見せる山下拓馬(法4=埼玉・早大本庄)選手、加藤孝太郎(人2=茨城・下妻一)選手についてはいかがですか

 オープン戦からあの2人は抑えていたので、それほど心配はしていなかったです。とはいってもまだまだ詰められるところはありますし、リーグ戦で投げて抑えることができたことは自信にしていいと思うのですが、今後は相手に分析もされるはずなので、そこをしのげるだけの力を身につけなければいけないと考えています。個人的にはこれからもっと成長していかなければいけない2人だと思います。

――ここまでの戦いの中で今後の飛躍に期待したい投手はいますか

 やはり先発の2人はずっと下級生の頃から投げていて、みんなから信頼されているピッチャーなので、その2人に勝ちをつけさせられるように自分ももっと頑張らなければいけないという思いはありますし、あの2人にももっと頑張ってもらいたいなと思います。

――ここからは守備についてお聞きしたいと思います。先日の対談では投手有利のカウントで試合を展開したいという話でしたが、ここまでの試合ではそれができていると感じますか

 まあできていない時のほうが多いかなという印象です。やはり自分たちのペースで投げることができた時は打ち取れていますし、そうでない時は逆に打たれているので、もっとピッチャー有利のカウントで試合を進めていかなければいけないなと思います。

――カウントが悪くなった際には、どういったことを考えながらリードを行っていますか

 やはりピッチャーがその日、どのボールの状態が一番良く、なおかつどうすればストライクを取れるかを考えながらリードを行っています。その中で、打者の力量を比較しながらファウルでストライクを取らせるのか、それとも見逃しや空振りを取らせるのかというふうに考え、一番ストライクにできる可能性のあるボールを選択していますね。

――足の速い走者が塁にいる際に、特に意識することは何ですか

 (モーションを)盗まれた場合、どれだけいいボールを投げてもアウトにはならないと思うので、まずは投手と共同作業でけん制を増やしたり間を使いながら、いいスタートを切らせないようなタイミングで投げてもらうことです。その中で自分が意識していることは、例えいいスタートを切られたとしても焦らずに二塁へ正確に送球を投げることを意識しています。これは今季、走者にいいスタートを切られた時の送球が暴投となり、もう一つ先の塁まで進まれたケースがいくつかあったので、そういったことを防ぐためにも焦らずに二塁まで真っすぐ送球するということを心がけています。

――明大との2回戦では足を使ってくる相手に対し、相手の走塁死を誘うけん制や岩本選手のスローイングで盗塁を防ぐなど、対策の成果が出ていたように感じました。この点についてはいかがですか

 この試合では相手が仕掛けてくるであろうカウントを自分たちで前もって確認し、準備ができていたので、対策の成果が出たのではないかと思います。ですが、(明大)1回戦では結構走られたので、そこはもう少し詰められるところでもありますし、引き続きバッテリーで相手の盗塁を防ぐということをやっていきたいです。

――対戦前には相手への対策を講じると思うのですが、どのようなかたちで作戦を練っていますか

 大きく分けて相手投手の分析と相手打者の分析があるのですが、それをチーム内で分担しながらデータを収集し、どう戦っていくかをみんなで考えながらミーティングをして(試合に)挑んでいます。加えて、自分は(相手チームのことを)みんなよりも知っていなければならないので、時間を使っていろいろと調べた上で(試合に)臨むという感じですね。

――チームの中で特に研究熱心な方などはいますか

 同じ捕手の尾﨑(拓海、社4=宮城・仙台育英)は自分が欲しいと思っている情報をしっかり見つけてきてくれて、ここまで守備の面でその情報を有効に活用できているので、チームの中で研究熱心なのは尾﨑かなと思います。

「泥臭く自分たちの野球をしたい」

明大1回戦で本塁打を放った岩本

――次戦は早慶戦となります。昨年は春の雪辱を秋に返す結果となりましたが、慶大はどういった相手だと捉えていますか

 優勝が懸かっている(取材時点)チームなので、当然力はあり、自分たちの順位を見たら実力では圧倒的に慶応のほうが今の段階では上だと思います。それでも早稲田として慶応は絶対負けられない相手ですし、ここまで戦った4カードのふがいない結果には全員が悔しい思いを抱えていると思うので、しっかり課題をつぶして、早稲田としての意地を見せられる2試合にしたいなと考えています。

――やはり早慶戦に特別な思いというものはありますか

 そうですね。やはり負けられない相手ですし、他の大学(の試合)とは違う緊張感というのはもちろんあります。

――森田晃介選手(4年)、増居翔太選手(3年)といった慶応の先発陣からはどういった打撃をしたいと考えていますか

 2人ともコントロールが良く、防御率もいい投手なので、なかなか思うようには打てないと思います。ただ、十分に対策を練った上で打線としてのつながりを見せ、1点ずつ積み上げていくような攻撃がしたいです。逆に守備は強力打線が相手ですが、何とか打たれても粘って最小失点で抑えた中で、1点でも多く最終的に点を取り、泥臭く自分たちの野球をしたいなと思います。

――強打を誇る慶大打線ですが、特に警戒する打者はいますか

 1番を打っている廣瀬くん(隆太、2年)と4番の正木くん(智也、4年)は甘いとこにいけば一発もある打者なので、かなり警戒はしています。

――先日の試合から3番を打っている福井章吾選手(4年)に対しては、どういった攻めをしていきたいですか

 長打も打てて小技も使える打者ですし、状況に応じた柔軟なバッティングもできるので、福井を抑えることは相手打線を止めることにつながると思います。なので、(相手打線を)封じるためにも、福井には思うような打撃をさせないように頑張っていきたいです。

――チームが勝つために一番必要となることは何だと考えていますか

 やはり守備で相手に点を与えないことが一番の課題だと思うので、いかにして点を取られないか、そこに尽きるのではないかと思います。

――勝利の鍵は両先発ということでしょうか

 そうですね。もちろん後ろのピッチャーも大事ですが、向こうの投手陣もかなりいいので、そう考えると(先発の2人が)抑えないと勝てないのではないかと思います。

――最後に早慶戦に向けての意気込みをお願いします

 負けられない相手なので、最高の準備をしていい勝ち方で(春季リーグ戦を)終わりたいです。今まで思うような結果を出せなかったですが、最後は早稲田としての意地を最高の相手からの勝利で見せたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 足立優大)

◆岩本久重(いわもと・ひさしげ)

1999(平11)年4月21日生まれ。180センチ、92キロ。大阪桐蔭高出身。スポーツ科学部4年。捕手。右投右打。自分に付けたい野球ゲームの特殊能力という問いに『一球入魂』と答えてくれた岩本選手。一球への強い思いを胸に、早慶戦での躍動を果たします!