【連載】春季早慶戦直前特集『七転八起』第5回 徳山壮磨

野球

 今季、新エース東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)に臨んだ徳山壮磨(スポ4=大阪桐蔭)。だがここまで防御率3・96と思うような結果を残すことができていない。そんな徳山は試合を4カード終えて、何を思っているのだろうか。今季の苦悩、自分が考える早大のエース像、そして早慶戦への意気込みを語ってくれた。

 

※この取材は5月22日にオンラインで行われたものです。

「自分の力を発揮できた試合が一つもない」

質問に答える徳山

――まずはざっくり今季の振り返りをお願いします

 自分の力を発揮できた試合が一つもないというのが正直なところです。納得いく球も投げられていないのですし、実際チームを勝ちにも導けていないので、自分の役割を果たすことができていないシーズンだと思います。

――法大1回戦では結果としては完封勝利を挙げられましたが、納得することはできていないと

 勝ちに導けたというのは良かったんですけど、納得がいくかと言われればそうではないです。

――オフシーズンに練習された「落ちる球」を今季は有効に使えていると伺いました。その手応えはいかがですか

 今季は直球が良くなくて自分の本来のかたちからは程遠いものでした。それでも今までだと直球を中心に抑えていたんですけど、法政戦ではカーブやフォークといった普段使っていなかった球種を有効に使えることができました。そういう面では直球がダメなときでも他の球種で修正して投げられたというのは法政戦でできたので良かったです。

――それでは自分のなかで一番納得できた打者との対戦はありますか

 正直ないですね…。自分の調子が良くないなかでどのように抑えるかということしか考えていなかったので。自分が投げていて楽しいとか気持ちいいといった感覚がなくて、悪いなりにどう抑えようかということを考えていたので、正直今のところはないです。

――試合を見ていると、いい時と比べて球速も出ていないように感じます。その部分も何か関係があるのでしょうか

  しっかり(力が)伝わっていないというのもありますし、直球を自分のいい感覚で投げられていないので、そこに比例して球速も出ていないのではないかなと思います。

――ただ球速が出ていないというわけではなく、他と結びついていないから球速も出ていないと

  そうですね。

「ここで終わったらいけない」

今季から早大のエース番号『11』を背負う

――今季は多くのことで悩まれたと思います。その部分のお話を聞かせてください

 今まで野球をやってきてこんなに長く不調が続くということがありませんでした。だから自分でもどうしたらいいのかということを考えながら試行錯誤をしていました。でも良くなってきたと思ってマウンドに上がったらダメで、という負の連鎖が起きてなかなかうまくいかない時期が続いています。それでもここで終わったらいけないですし、最後の早慶戦で自分のあるべき姿を見せられたら秋につながると思うので、そこを懸けてやっていきたいです。

――野球人生のなかでここまで長く不調が続いたという経験がないとおっしゃいましたが、原因はどの部分にあるでしょうか

 自分の良いところをもっと伸ばせば良かったのですけど、あれもこれもとどうすれば良くなるのかを考えてすぎてしまったので、長所が消えてしまいました。今は前に戻すということではなく、新たな自分を作っていくというイメージで練習を行なっています。

――小宮山監督(悟、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)も徳山選手の現状について同様のことをおっしゃっていました。小宮山監督から何かアドバイスをもらいましたか

 フォームについてのアドバイスはいろいろもらったんですけど、アドバイスをもらっても自分の中でしっかり消化して自分のものにしないと意味がないので、最後は自分になってくるのかなと思います。

――具体的にどのようなアドバイスをもらいましたか

 主に投球フォームですね。「悪いところがあるからこうしたほうがいいぞ」という投球フォームについてアドバイスをもらいました。

―今季エースとして期待されて臨んだシーズンでしたが、何かプレッシャーのようなものはあったのでしょうか

 プレッシャーはないといえば嘘になります。それを力に変えるのが早稲田のエースだと思うので、そこを自分のプレッシャーだと感じずに早稲田の『11』という背番号を胸張ってマウンドに上がっています。それでも自分が投げている気持ちと体が結びついていなくて、気持ちで抑えようと思っていても、自分の思っているように身体が動かなかったり球がいかなかったりギャップがあるので、体と技術が結びついていないのが不調にもつながっていると思います。

――事前アンケートでは「メンタル、技術がバラバラだった」と答えていただきましたが、そこの部分にもつながってくるのでしょうか

 そうですね、気持ちで抑えてやろうと思っていても体が思い通りの球を投げることができなかったら一緒なので。自分の思い通りの球を投げられて初めて気持ちというものが生まれてくると思うので、そこですかね、力不足を感じるのは。

――「ラストイヤーなので悔いのないようにいつも以上の練習をしている」と答えていただきました。具体的にどのような練習をしていますか

 とにかくランニングもそうですけど、4年生でエースという立場で自分がやっている姿というのを後輩は見ていると思うので、そこで自分のやるべきことをしっかりグラウンドで出せるようにやっています。今までと(練習で)やってきたことは変わらないですが、取り組む姿勢というのはすごく意識してやっているので変わってきているところかなと思います。具体的にやっている練習はトレーニングもそうなのですけど、フォームの練習はすごく力を入れてやっていて、そこを自分で掴んでいかないと他のことをやってもできないものはできないので。フォームをなんとか改善するためにやれることをやっているという感じです。

――試行錯誤をするなかで変えようとしている部分はありますか

  変えようというよりは正しい体の使い方をもう一度しっかり自分の中に染み込ませようと意識して練習をやっています。

――変えるということではなく、今までの練習の精度を高めると

  そうですね。変えようとしているところはありますけど、今は正しい動きができていないし球もいってないので、正しい動きとはどのようなものなのかということを振り返って自分の中で整理して、それを着実にやっていくという感じです。

――明大戦では17年センバツ決勝で投げ合った竹田祐選手(4年)との再戦となりました。そこの部分での意識はありましたか

 高校以来というのもあったので負けられない相手というのはありましたし、意識というよりは明治にも竹田にも負けられないなと思っていました。結果は負けてしまったのですけど、秋にリベンジするしかないなと思っています。

――事前アンケートの座右の銘の記入欄に書かれた「頭は低く、目は高く、口は謹んで、心は広く」という言葉は空手家の大山倍達の言葉だと思います。なぜこの言葉を選ばれたのでしょうか

 この言葉は親戚の人からずっと言われていた言葉です。この心構えがすごく大切だなと思うので、野球人としても人としてもこの姿勢がちゃんとできていたらどの世界にいっても活躍できる人になると思うので、野球しているからというわけではなく一人間として大切な言葉だと思って普段からやっています。

「新たな自分のエース像を作れたらそれがいい」

法大1回戦で鈴木萌の好守を喜ぶ徳山

――徳山選手が考える早大のエースとはどのようなものでしょうか

 去年早川さん(隆久前主将、令3スポ卒=現東北楽天ゴールデンイーグルス)が抑えて優勝に導いたという姿があり、自分の中でも抑えて勝ちたいというのはあるんですけど、それは結果論なので。抑えることに越したことはないですけど、自分の描くエース像は普段の練習態度や姿勢、またマウンドで強気にバッターを抑える姿勢だと思っているので、後輩にいい姿を引き継げる取り組み姿勢が大切だと思っています。そういうところができていたら絶対結果もついてくると思うので。結果を見過ぎずに今できることをしっかりやって、秋に抑えられて優勝できたらこの不調もよかったなと思えるので、秋に向けてやるしかないなと思います。

――数々の偉大な選手を輩出してきた早大野球部ですが、自分の理想とする選手はいますか

 去年早川さんが背中で引っ張っている姿を見てきたので、早川さんのように抑えたいというのはありますけど、新たな自分のエース像を作れたらそれがいいかなと思うので、それを作りたいなと思いますね。

――次は早慶戦に関する質問です。徳山選手は1年生時の春季リーグ戦から早慶戦に出場していますが、徳山選手にとっての早慶戦とはなんですか

 伝統の一戦というのは誰もが思っていることで、自分としては早慶戦というのはありますけど普段の五大学とする一戦と変わりないと思って投げているので、特別な意識はみんな持っていますけど自分はやるべきことをやるだけと思って試合に臨んでいます。その中でライバルの慶応というのは余計負けられない気持ちもあるので、一番は慶応だからと言って力むというわけではなく、普段通りのものを出せるのがベストなのではないかなと思います。

――そういった意識の中でも慶大で一番対戦が楽しみな選手はやはり福井章吾主将(4年)でしょうか

 そうですね。章吾との対戦が一番楽しみです。

――事前アンケートでの「しょーごに勝つ!」という文面からも改めて仲の良さを感じました

 一番仲がいいですね。高校時代も一緒にいましたし、リーグ戦期間中も電話したりとか、「調子どうや」とか気にかけてくれたりとかしました。対戦相手ではありますけどすごく心配してくれていて、元チームメイトとしてすごく気にかけてくれているので、章吾には人間性など尊敬すべき点が多くあります。章吾とはお互い楽しんでいい勝負ができたらいいなと思います。

――早慶戦での個人目標をお願いします

 投げきって勝ったらそれに越したことはないのですけど、今チームが勝っていない状況なのでなんとかチームを勝ちに導く投球をして、2連勝して秋に向けてチームがスタートできるために早慶戦というのは大事な試合になると思います。そこは勝つということに越したことはないので、勝って締めたいなと思います。

――最後に早慶戦への意気込みをお願いします

 やるべきことは変わらないので一喜一憂せずに目の前の打者を打ち取っていくことだけを考えて投げていって、その結果が無失点に抑えられたということになればベストだと思います。目の前の打者に集中ということをテーマにしてやりたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 荻原亮)

◆徳山壮磨(とくやま・そうま)

1999年(平11)6月6日生まれ。183センチ、82キロ。大阪桐蔭高出身。スポーツ科学部4年。投手。右投右打。座右の銘として「頭は低く、目は高く、口は謹んで、心は広く」という言葉を選んだ徳山選手。野球人としてだけでなく、一人間として常にこの言葉を意識しているそうです。何事にもまっすぐ、真摯に取り組む徳山選手にぴったりな言葉です!