【連載】『令和2年度卒業記念特集』第2回 金子銀佑/野球

野球

輝きを支えたもの

 金子銀佑(教4=東京・早実)と聞いて、その勝負強さを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。ベンチでは誰よりも大きな声で仲間を鼓舞する。ひとたびグラウンドに立てば、華やかな名前にふさわしい、華麗かつ気迫のこもったプレーを見せる。その姿は時に見る者を魅了し、チームに勢いをもたらしてきた。特に印象深いのは、度々の早慶戦における活躍だろう。3年時の東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)早慶戦の第3戦。9回裏同点2死からサヨナラ打を放ち、勝利の立役者に。4年春では1点ビハインドから同点打を放ち、神宮球場を大いに沸かせた。そして、優勝決定カードとなった秋季リーグ早慶戦。2試合ともに、先制のホームを踏んだのは金子だった。土壇場でこそ力を発揮し、幾度となく勝利を後押ししてきた金子。その裏には、4年間の大学野球人生で積み上げた努力と、仲間の存在があった。

 早実高時代には甲子園出場を経験し、即戦力として期待されていた金子だったが、大学入学当初は腰のけがと戦う苦しい時間が続く。体のケアの甘さから厳しい練習に耐えられなかったことへの後悔、けがをしたふがいなさから焦りが募っていった。だが、そんな金子を支えたのは、当時同じくけがをしていた瀧澤虎太朗(スポ=山梨学院)の存在だ。真面目でストイックにリハビリをこなす瀧澤の姿に刺激を受け、励まされたという金子。「いつか二人で、一緒に神宮で活躍しよう」。同期と誓った未来への約束を胸に、辛く長いリハビリに立ち向かうことができた。そして、その言葉は早くも現実となる。2年生秋、金子は東京六大学リーグ戦としては初めて、神宮球場の土を踏んだ。立大2回戦の初安打を皮切りに調子を上げ、自身初の早慶戦では2回戦で猛打賞を記録。規定打席こそ満たなかったものの、新戦力として名が知らしめるには十分な活躍を見せたのである。

4年秋早慶戦1回戦で安打を放ち、雄たけびをあげる金子

  スタメンに定着して迎えた3年。三塁手から二塁手に転向し、新しい感覚を持って挑んだ。しかし、ここで金子は自身の視野の狭さや技術不足を痛感することとなる。初めて入った二塁手は、打球の見え方や向かってくる角度、処理の姿勢など、何もかもが違った。守備の感覚をなかなか掴むことができない。春季リーグ戦では計4失策と安定さを欠き、秋にはスタメン落ちも経験した。思うような結果を残せない中、金子が感じたのは悔しさ以上に、「何かを変えなければ」という強い意思だった。辛抱強くたくさんの守備練習をこなし、打球に向かう姿勢を体に染み込ませる。地道な練習は言うまでもなく、金子のパフォーマンスを上げていった。そしてこの日々が、自身の野球観にも徐々に変化をもたらす。自分のために練習を重ねるのではない。自分のプレーを磨くことで、チームの勝利につなげる。この思いが、金子を大きく変えた。新型コロナウイルスの影響により、8月に延期された4年時の春季リーグ戦。打率4割9厘の好成績を打ち出すと、安定した守備も評価され、自身初のベストナインに選出された。「1番のセカンドと言われたかったので、ベストナインは本当に嬉しかった」。地道な努力の積み重ねが、技術そのものだけではなく、選手としてのレベルを高めたのである。

 しかし、秋季リーグ戦は開幕から3試合無安打と、苦しいスタートとなる。チームが優勝に向けて勢いに乗る中、不振によって焦りを募らせ、自分のフォームを見失ってしまった。そんな金子に光を灯したのは、同期の言葉だった。「スタンドにいる人はいつも頑張っている姿勢を見ているから、思いっきりいけばいい」。この言葉に呼応するかのように、その日行われた法大2回戦ではシーズン初ヒットを記録した。仲間の力に背を押され、調子を取り戻した金子。優勝が現実味を帯びてくる中でも、気負わずに立ち向かっていくことができたそうだ。迎えた早慶戦では鮮やかな逆転劇で2連勝を収め、優勝。「やってきたことが報われた瞬間でした」。早実高時代には1学年上には加藤雅樹(令2社卒=現・東京ガス)、1学年下には清宮幸太郎(現北海道日本ハムファイターズ)がいたことで『狭間の代』と呼ばれることもあり、「見返したい」という思いを抱くこともあった。だが、優勝の瞬間にあったのは、ただ純粋な、淀みのない喜びと幸せだった。

優勝を決めて喜ぶ金子(左)と瀧澤

 金子は最終シーズン、『大学野球の面白さ』を感じた試合があったという。それは東大2回戦。高校時代から苦楽を共にしてきた吉野星吾(政経=東京・早実)が登板した試合だ。六大学野球の登竜門であるフレッシュリーグさえけがで登板できなかった同期がマウンドに上がる姿を見た時は、自分のことのように嬉しかったそうだ。金子はほかにも、感謝の言葉を多く口にした。献身的にサポートをしてくれたチームメイト。一緒に自主練習を重ねた後輩。優勝という目標に向けて共に戦った同期。そして何より支えとなったのが家族の存在だった。「支えてくれた家族への感謝の気持ちが原動力になった」。卒業後は社会人野球・明治安田生命への入団が決まっている。早稲田大学で得た誇りを背負い、再び『金子らしい』プレーで輝く姿を願わずにはいられない。

(記事 小山亜美、写真 池田有輝)