【連載】秋季早慶戦直前特集『全身全霊』第5回 丸山壮史

野球

 今年大ブレークを遂げた男。――丸山壮史(スポ3=広島・広陵)である。現在リーグトップの10打点を挙げるなど、得点圏での勝負強さが光る丸山。いまや早大の中軸にすっかり定着したが、その裏には並々ならぬ苦労があった。この1年間を、この大躍進を、丸山はどう捉えているのだろうか。今年最も勢いに乗っている男が、その心境を語った。

※この取材は10月30日に行われたものです。

「頭でっかちになっていた」

笑顔で取材に答える丸山

――個人として今季を振り返っていかがですか

 最初の明大戦、法大戦くらいまでは良い感じで来ていたのですが、ここ最近の試合では少し課題が残る試合が多いかなと思っています。

――最近の状態はいかがですか

 立大戦は状態としては悪くて、何とかしようと打席の中で工夫したのですが、立大の投手のレベルが高かったと思いました。

――打点は10でリーグトップです。得点圏での勝負強さが光っていますね

 そうですね。得点圏で打てていることはうれしいのですが、1番から3番までの4年生がつないでくれたので、何とか返そうという思いのみでやってきた結果が10打点に繋がっているのかなと思います。

――今季の好調の要因は、技術面では具体的にどこにあるとお考えですか

 技術的には、徳武コーチ(定祐、昭36商卒=東京・早実)と取り組んできた中で、トップをしっかりつくって、自分の間合いで振ることができたのが一番の要因かなと思います。

――以前、春季オープン戦の好調の要因をお尋ねした際に「自分のスイングができた」とお話しされていましたが、それに近いところがあったのですか

 そうですね。自分のスイングをするということで、春もしっかり取り組んできたのですが、夏にもう一回鍛え直して、それが良いかたちで神宮の舞台で出せているのかなと思います。

――昨年は1試合の出場にとどまっており、悔しい思いをされたのではと思います。今の丸山選手から見て、昨年の自分はどのように映りますか

 良く言えば、もがいていたという感じでした。自分の中で答えが見つからないまま1年が過ぎてしまったと思っていて、その中でどうしてもすごく悔しい思いがあったので、それを2年生の冬に鍛え直して、もう一度自分を見直して、コロナの自粛期間でさらに見直したことが、少しでも去年より成長した部分なのかなと思います。

――このままではダメだと思ったきっかけが、何かあったのですか

 去年は春秋通してほとんど出ていなくて、それに危機感を感じていました。1年春にはたまたまスタメンで出ていて、そこで活躍できず先輩方に迷惑をかけていて。そこからずっと試合に出られなくて、危機感は常に感じていたのですが、その中で(どうすれば良いか)答えが見つからなかった部分がありました。それを2年生の冬に少し見つけられたのが要因です。大学に入って少し頭でっかちになっていた部分があったというか、頭の中で質にこだわっていたのを、量をこなしていく中で質を求めるというように変えて、その中でいい感覚をつかめたので、それが要因かなと思っています。

――コーチや同期、先輩に相談されたりしましたか

 徳武コーチや佐藤助監督(佐藤孝治助監督、昭60教卒=東京・早実)には、2年生の間も声をかけてもらいました。先輩で言えば吉澤さん(一翔副将、スポ4=大阪桐蔭)がご飯とかに連れて行ったりしてくれました。

――何か自分の中でいいきっかけになったことはありましたか

 そうですね。きっかけになったこともありましたし、ただのたわいもない会話の中でコミュニケーションを取れたことが、一つのリフレッシュになったかなと思います。

――今季のブレークの要因について、冬季のトレーニングを挙げていらっしゃいましたが、他に要因はありますか

 冬に量をこなしてつかんだものをノートとかに書いて感覚を書き留めていたので、悩んでいてももう一回それを読み返して、見直すことができたことは、今いいかたちで結果を残せている要因だと思います。本当はずっと同じような感覚でいきたいのですが、やはりそれは難しいので。ああこんな風に練習していたなとか、こんな感覚で打っていたなというのをもう一回見直すことで、バッティングの良い時と悪い時の波を小さくしようとしています。

――冬季のトレーニングについて、なぜ体幹トレーニングを選択されたのですか

 もともとウエートトレーニングはあまりしてこなくて、自分の中のバランスを大切にしてバッティングをしたいなと思っていました。まずは体幹トレーニングをやることで自分の軸をしっかりつくって、その上で自分のスイングを見直していこうと思ったので、それが体幹トレーニングを始めたきっかけです。

――1日の練習の中で、体幹トレーニングに割いた時間や割合はどのくらいだったのですか

 基本は毎日やっていたので、練習の合間にやる感じでした。自主練習の合間に体幹トレーニングをやってから打撃練習に行ったりとかですね。

――こまめに意識的に行っていたのですね

 そうですね。自分の中で感覚が違うなという時にもう一回やったりだとか、いつもは自主練習の前にやっていたのを、打撃練習の中で軸が違うなと思ったらその後にもう一回加えたりだとかという感じです。去年が全く結果が出なかったので、丁寧に量をこなしていかないと成長できないかなと思っていたので、丁寧にやっていました。

――辛いときのモチベーションや原動力は何でしたか

 高校の時の経験が大きいです。高校で親元を離れて(広島に)出て、でも高校はレベルが高くて2年生の冬までずっとベンチ入りもできない中で、2年生の冬に何とかしなきゃいけないという気持ちで練習に取り組んだら、その次の春からレギュラー番号をもらえたので、その時の「冬頑張ったらレギュラー取れるんだ」というのが、自分の中ではいい経験になっているというか。これだけやればいけるんだという経験があったので、それをもう一回大学でもやってやろうと思いました。自分の中で反骨心や今に見てろという気持ちを持ちながらやって、それでできた過去の経験があったので、それをモチベーションに冬季頑張れたかなと思います。

――トレーニングを始めてから手応えはすぐつかめましたか

 いえ、トレーニングはやったらすぐ結果が出るというものではないので、春に結果を出すという思いのみでやっていました。そのまま冬は続けるしかないなという思いで続けて、それが春のオープン戦から結果が出だしたのがいい感覚につながったと思います。

――手応えを実感したのは、具体的にどの瞬間だったのですか

 巨人の2軍との練習試合です。冬は自分のスイングを固めるだけだったので、それがいざ実戦で使えるかが正直不安だったのですが、その試合でチャンスで打てた時に「この感覚か」というのがあったので、それがきっかけかなと思います。緊張感ある終盤の場面で、2アウトから自分が何とかしようと思って打席にヒットを打てたことが、自分の中ではいい感覚というか、その時の打感とかスイングの軌道の中で、「これならヒットになるんだ」という感覚があったので、その時に少しつかめたかなと思っています。

――春のオープン戦は大活躍でした。報われたところもあったのではないですか

 そうですね。打点を毎試合のように挙げられていたのは、自分の中で冬やっていたことは間違っていなかったと思えたと同時に、また神宮の舞台で(結果を)出せるのか、リーグ戦で出せるのかという不安も感じたのが、春のオープン戦でした。

――一方で、春季リーグ戦ではスタメンを外れました。当時の心境を振り返っていいかがですか

 夏にスタメンで出られなかったのは自分の力不足ですし、打撃面でも守備面でも、もっと監督(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)に信頼される選手にならなきゃいけないなという思いになりました。

――そこから秋に向けてどう修正されましたか

 監督は守備を大事にされる方なので、まずは守備を良くしなければいけないと思いました。自分は特にキャッチボールにこだわって、そこを大切にしたことが、監督が秋にチャンスをくださった理由なのかなと思います。

――秋季リーグ戦では、チームの中軸になりました。視野が広がりましたか

 そうですね。正直明大戦で打てたことはホッとしたのですが、やっぱり長い期間、リーグ戦2、3ヶ月の中で、これをどれだけ維持できるか、どうやったらさらに成長できるかなという考えに変わっていきました。

――チームから求められる役割など、心理的な変化はありましたか

 5番バッターを打たせてもらっている中で、やはりチャンスでまわってくる場面が多くなったのですが、チャンスは1試合に2、3回もあるわけではないので、少ないチャンスを自分がどれだけ後ろにつなげられるか、ワンチャンスにどれだけ集中できるかが、今一番集中していることです。

――プレッシャーはありますか

 プレッシャーはありますけど、やはり2年生の時にリーグ戦に出たかったという気持ちがあったので、神宮の舞台で早稲田のユニフォームを着て、チャンスの場面で立てているというありがたみや楽しさがあるので、プレッシャーの中で冬に自分がやってきたことを信じてやるしかないなという気持ちで打席に立っています。

――アンケートでは、印象に残っている打席に明大1回戦の第1打席目を挙げられていました。打席に入ったときの心境はどんなものでしたか

 特別な気持ちでした。初戦でしたし、(相手投手が)明治のエースである入江さん(大生、4年)だったので、何球も甘い球は来ないと思って。とにかくがむしゃらに食らいつくという思いで初球から振りました。それがたまたまライトの頭を越えて打点につながったので印象に残っています。

――今季は初球から積極的に振りにいっている印象です。意識的にされていますか

 そうですね。六大学はどこの投手もレベルが高いので、自分が振っていく中でタイミングを合わせていかないといけないなと思っています。甘い球を見逃さないために、初球からどんどん振っていって、振った結果はもう神様に任せるような気持ちでやっています。

――一方で、カウントが悪くなると、今季は特に球数を投げさせている印象があります。打席の中で意識を変えられたりしていますか

 そうですね。2ストライクまではとにかく振って行って、ピッチャーの甘い球をどれだけ仕留められるかにポイントを置いているのですが、追い込まれてからやフォアボールがあるカウントでは、粘るというか、ファールも自分からファールを打ちにいったりと意識はしています。

――今季の中でご自身で一番印象に残っている試合は何ですか

 法大2回戦です。1試合目に鈴木昭汰投手(4年)から結果が残せず、今シーズン初めてリーグ戦でノーヒットになりました。自分の中でこのままではいけないと思って、その夜にビデオを見たり自主練習したりして次の試合に挑んだ中で、3本ヒットを打てて、フォアボールも選べたので、自分で1日で修正できたのが良かったなと思います。

――『修正力』はご自身の中でもテーマにされているのですか

 そうですね。1年の時にリーグ戦で25打席くらい立たせてもらったのに、ただ打席を過ごしていたという印象が残っていたので、それは同じミスをしたくないと思って。バッティングの中での再現性を常に求めてやってきたので、それを打席の中で一打席一打席反省しながらやるという思いはあります。

――今季は左投手からまだヒットを打てていませんが、その点はいかがですか

 過去のオープン戦でも打っていましたし、左ピッチャーへの苦手意識はなかったのですが、鈴木昭汰投手と対戦した時あたりから、自分の中で左ピッチャーへの見え方が良くないなと思っていたので、それをまた野球ノートを見直しながら今対策をしています。オープン戦でいい感覚で打てていたのをまだリーグ戦でできていないのが、今(左ピッチャーを)打てていない原因かなと思います。

「仲間から信頼される選手に」

――そもそも、早大野球部に入りたいと思ったきっかけは何ですか

 大学野球のトップ、学生野球のトップというところで、早稲田大学にはどうしてもいきたいなと思っていました。それで高校の時に夏の甲子園でたまたま準優勝して、国体でも優勝できたので、自己推薦(制度)があるということを、広陵の中井先生(哲之)や今西さん(拓弥、スポ4=広島、広陵)から教えてもらいました。もともと(行きたいという気持ちが)あったのを、チャンスをいただいて、そのチャンスを生かしたいなと思ったのがきっかけです。

――高校野球と大学野球では、結果を残す難しさは違いますか

 一番はリーグ戦とトーナメント戦の違いかなと思っています。高校野球は2、3週間で県大会が終わったりしますけど、リーグ戦は2、3カ月あるので、試合までの間の期間が長いのが大学の特徴かなと思っています。

――調子の維持はやはり難しいですか

 そうですね。調子の良い状態が1カ月続いても、それを2カ月3カ月続けるのはやはり難しいので、自分の中で振り返りであったり、ノートであったり、動画であったり、そういったものを作っていかなければいけない、さらに良いものを作らなければいけないなと大学に入って思いました。

――丸山選手にとっての理想像は何ですか

 バッティングで言えば、「マルにチャンスで回せば安心だ」とか、守備で言えば「マルのところに打たせていれば安心だ」とか、仲間から信頼されるような選手ですね。スタンドの後輩やOBの先輩とかチームメイトにも応援される選手になりたいなと思います。

――昨年に比べて試合の出場数も増えました。理想に近づいてきていると感じますか

 理想は高くに置いているのですが、大学1年、2年、3年とやってきた中で、自分の中では成長しているなと感じることが増えてきているので、そうした意味では理想に近づいているかなと思います。

――少し先のお話ですが、来年自分たちの代になった時のお話は同期でされていますか

 今の4年生の雰囲気が良く、選手一人ひとりが役割を自覚して行動する雰囲気を作ってくださっているので、そういった良い部分は引き継ぎながら、自分たちの学年の色を出していきたいと思っています。

――そうした雰囲気ができている要因はなんだと思いますか

 早川キャプテン(隆久主将、スポ4=千葉・木更津総合)を中心にまとまっているのと、プラスして4年生の控えの方がチームが勝つために、データであったりチームの補助の部分を率先してやってくださっているので、自分たちも4年生のために勝ちたいと思えているのが、今の代のいい雰囲気をつくれている要因だと思います。

――ご自身で学年を引っ張っていきたい気持ちはありますか

 そうですね。学年を引っ張っていきたい気持ちはありますし、技術面だけでなくて、練習の姿であったり、メンバーに入れなかった人たちのために絶対頑張るんだという姿を、自分が最高学年になった時にもっと出していきたいと思います。

「ワンチャンスをモノに」

法大2回戦の3回に適時打を放ち、ガッツポーズする丸山

――今季の慶大への印象を教えてください

 まず木澤投手(尚文、4年)がすごくいいというイメージと、打線がどこからでも点が取れそうな、粘り強さがある打線だという印象を受けています。

――木澤投手のここがすごいと感じるポイントはありますか

 まずドラフトで(東京ヤクルトスワローズから)1位指名されたことはそうですし、150キロを超える真っ直ぐと、速い縦の変化があるというところで、勝負球と真っ直ぐの強さがいいので、そこを何とか打ち返せるようにと思っています。

――慶大をどのように攻略していきたいですか

 守備は早川さんを中心にやっていく中で、自分たちがどれだけワンチャンスをものにできるかだと思います。多分ワンチャンスの取り合いだと思うので、そこでのバッティングが勝負を分けるかなと思います。

――優勝がかかった早慶戦を前に、今は率直にどんな心境ですか

 打点を見ればここまでチームに何とか貢献できているのかなと思いますが、ここまで良くても慶大戦を早稲田として勝たないと、これまでやってきた結果が台無しになってしまうと思うので。やはり慶大戦は違うので、もう一度鍛え直して、集中して、慶大戦に挑みたいなと思っています。

――早慶戦ではどのような打撃をしたいですか

 良い投手が多いので、何とか自分のスイングができるように、あとはもう集中して、気持ちでヒット打つしかないなと思っています。

――最後に、いつも応援してくださる方に向けたメッセージと、早慶戦への意気込みをお願いします

 自分のことを応援してくださる方には、自分が活躍している姿を見せるのが1番だと思いますし、早稲田を応援してくださる方には、早慶戦で2連勝して優勝することが、応援してきて良かったなと思ってもらえることにつながると思うので、自分が貢献できるのが1番ですけど、自分の結果よりチームが勝つために何とかしていきたいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 中島和哉)

◆丸山壮史(まるやま・まさし)
1999(平11)年6月8日生まれ。179センチ、84キロ。広島・広陵高出身。スポーツ科学部3年。内野手。右投左打。昨冬から自粛期間にかけて、自らに厳しいトレーニングを課してきた丸山選手。そんな中、心を支えるマイブームになったのが、アニメ「テニスの王子様」でした。早大の中軸として活躍する試合中の丸山選手からは想像できないお茶目な一面ですね。