昨年まで東京六大学リーグ戦(リーグ戦)出場経験はないながら、オープン戦では安定感のある投球でチームに貢献し、これからの活躍に期待がかかる山下拓馬(法3=埼玉・早大本庄)。新型コロナウイルスの感染拡大で練習が停止された期間を経て、初のリーグ戦登板の機会を目前に控えた。取材で発した謙虚な言葉の裏には、これまで胸に秘めてきた熱い思いをうかがうことができた。
※この取材は8月4日に行われたものです。
『苦い思い出』
オンラインで質問に答える山下
――まずは、1年生の頃からプレーを振り返っていただこうと思います。1年生の時の投球を100点満点で評価されるなら、何点でしょうか
1年の時はけがとイップスになって投げられなかった時期があったので、0点ですね。
――では次に、去年の投球を何点と評価されますか
春(東京六大学春季フレッシュリーグ)で初めて投げられて、サマー(大学野球サマーリーグ)も投げて、秋のフレッシュ(東京六大学秋季フレッシュトーナメント)、オータム(大学野球オータムフレッシュリーグ)も投げたのですが、その中でもサマーの途中で、肘が痛くなっただとか。サマー前に監督さん(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)から、そろそろAに上がるからという話があった仲、肘をやっちゃったので、秋の法政戦とかは抑えられたところは良かったですけど、そういうところがだめだったので、70点とかですかね。
――1年と2年で何か転機になる出来事があったのでしょうか
肩のけがをちゃんと治して投げられるようになったのが5月くらいで、今までマックスが137キロとかだったのですが、初めてゲーム形式の練習で投げた時にいきなり141キロとか出て、そのときに結構投げられるなというのがありました。そこから、球種も増やしたりして試合で通用するようになったかな、ということでの70点ですね。
――2年生までの間で印象に残っている試合はありますか
やっぱり初めて投げた春の法政戦と、秋一人で投げ切ったということでそれまた法政戦。(あとは)自分の中で悔しかったっていう点では、オータムも勝ちに行くぞっていうことで早慶戦先発になったのですが、役割を果たせずに負けてしまいました。いいことよりも早慶戦で負けた悔しさの方が自分の中では印象に残っていて、1番(印象に残っている試合)で言えばオータムの早慶戦ですかね。
――上級生からアドバイスを貰ったり相談をしたりということはありましたか
早川さん(隆久主将、スポ4=千葉・木更津総合)に病院どこ行っているか聞いたり、今西さん(拓弥、スポ4=広島・広陵)にも聞いたりして、病院変えたっていうのも(転機に)あります。自分もともと高校でピッチャーやらせてもらってなかったのでフォームが分からないことが多くて。やっぱり早川さん今西さん柴田さん(迅、社4=東京・早大学院)あたりはずっと上(一軍)で投げていたので、優しいですし、話しやすかったので、聞いて色々試した感じですね。
――昨秋は法大戦で完投勝利されるなど、好投が見られました。新人戦全体を振り返って、いかがでしたか
春は初めてだったし、上出来だったといったらそうでしたけど、自分がそのときから先発できていればもっと変わっただろうし、悔しい思いはそこでしています。秋も法政戦初回とか打たれましたし、エラーしましたしで完投しても悔いは残っています。自分の中では良いとは思ってないですね。苦い思い出の方が多いです。
――昨年度の秋季フレッシュトーナメント・法大戦のインタビューでご自身の持ち味を「まっすぐが伸びること、スライダー、チェンジアップ」とおっしゃっていましたが、それ以降変化はありましたか
チェンジアップというのがそのときはまだ自分の中では未完成のものでしたけど、今の方が完成形に近くなってきたかなと。球種とか持ち味っていうのは変わっていないのですが、質が上がったかなと思います。
――これを生かすために練習で意識されていることはありますか
キャッチボールから自分はストライクしか放っていなかったのですが、やっぱりスライダーとかチェンジアップも投げていかないと感覚が分からないので、変化球を良くするために(キャッチボールに)取り入れています。ストレートを良くするために前腕のトレーニングに、サンドボールというちょっと重たい砂のボールを人差し指と中指と親指で握り続けるというものがあって、それを2年の時とかは毎日のように練習が終わった後やっていたので、そうして(質は)上がっていったかなと思います。
――新型コロナウイルス感染対策のため、活動停止期間があったと思いますが、その期間はどのように過ごされていましたか
基本的に自主練になるので、自分は柔軟性がなかったり、使えない筋肉の部分があったりということは分かっていたので、そういうところを改善するいい機会かなと。筋トレとかもするのですが、柔軟性のトレーニングとか身体補正トレーニングとかを重点的にやっていきました。
――その期間、選手や投手間でコミュニケーションはあったのでしょうか
自分は寮で野球部と一緒にいたので、そのときも早川さんとか柴田さんとかは聞きやすいし、憧れる選手なので、トレーニングとか感覚の持ち方とか色々なことを聞きました。一緒にキャッチボールもしたのでコミュニケーションは取れていたかなと思います。
――モチベーション維持のため意識していたことはありますか
自分の場合はずっとAでふんぞりかえっていられる選手ではないので、ひたすら結果を出し続けなければいけないというところで、一回でもミスしては終わるなと肝に銘じてやってこられたのがモチベーションの維持につながったと思います。
――体調管理で意識されていることはありますか
監督さんとかからしつこく言われるのですが、手洗いうがいはまず徹底して野球部のクラブハウスや寮にはアルコール消毒や除菌のものがたくさん置いてあるので、外から中に入ったりするときは欠かさず使って、清潔に保つことをしていました。
――練習やオープン戦が再開されてしばらく経ちましたが、練習の雰囲気に変化はありますか
やっぱり本来だったら、沖縄で合宿ができて雰囲気が作れてのリーグ戦でしたが、なくなっちゃってちょっとふわついた雰囲気のまま自粛が開け、練習が始まったところを、学生コーチの杉浦さん(啓斗、文構4=東京・早実)、監督さん中心にお叱りの言葉など色々ありました。(最近は)ひりついた雰囲気で緊張感を持って練習に取り組めてきていると思うので良いと思います。
――ご自身の心境の変化は
自分の場合は監督さんから声をかけてもらうことが多くて、その分期待されているなというのを感じるので、その期待に応えるような(気持ち)。あとはこうしてベンチに入れそうなチャンスがあるので、これを逃したら次はないという危機感もあるので、(心境としては)そういうところですね。
――監督さんからは具体的にどのような言葉をかけられますか
チェンジアップとかは監督さんに教えてもらったのでもっとこう投げろとかアドバイス頂いたり、「リーグ戦はお前がキーマンになるから」という言葉を頂いたりします。モチベーションアップにつながったりするのでありがたいです。
――プレッシャーにはなりませんか
プレッシャーは感じるときは感じるのですが、やっぱりそれよりやってやろうという気持ちの方が大きいので、期待かけてもらっている分は応えなきゃいけないし、チームに迷惑かけちゃいけないなという方が大きいです。試合前とか緊張していますけど(笑)プレッシャーはそんなにですね。
――今年から1軍で投げられていると思いますが、気持ちに変化はありますか
1軍の方で投げさせてもらえるようになって、結果よりも内容とかの方が気になって、求めるものがだんだん、だんだんと大きくなっていくので(変化はあります)。練習でもBとかにいた時はこれくらい手を抜いてもいいやって思う時もあったのですが、してはいけないっていう環境にあるので、そういう面でAはいいですね。
――ここまでのオープン戦、手応えはいかがですか
最近でいえばENEOS戦で、巨人の2軍戦以来くらいに打たれて点取られたりしたので、自分のだめなところがそういうところで出たりして。もう一回気を引き締めるきっかけになったので良かったかなと思います。
――巨人の2軍戦というお話出てきましたが、2軍戦で投げた経験は大きいと思うのですが、いかがですか
やっぱりプロなので、大学生に流石にプロより上はいないだろうという気持ちになれるので、投げられて良かったです。その分、試合前に緊張しても、「プロに投げたし、それ以下だよな」と強気でいけるので、良いですね。
――ご自身にとっての収穫はありましたか
オープン戦通して、全体的に1,2イニング投げることが多いのですが、まず全体的に通用しているなというのと、調子が悪くなって腕が振れなくなってきたら、巨人2軍戦やENEOS戦みたいに打たれるなというように自分の良くないところと良いところが分かったので、収穫はその辺ですね。
――昨年の新人戦との調子の違いはありますか
自分の中ではフレッシュリーグは調子いいと思ってなかったので、今の方が全然いいと思います。
――冬から春にかけて意識されて練習されたことがあったのでしょうか
冬は走り込んで、自分体はでかいですけど、強い方ではないので、冬にウエイトトレーニングとか取り組んだ結果、フレッシュの時は137キロとかだったと思うのですが、今日でいったら146キロとかまで上がったので、そっちの方が全然良いかなと思います。
――監督、コーチから今言われていることはありますか
変化球の腕の振りはまだ少し緩む時があるので、それを直していくことくらいですかね。「真っすぐは、お前は打たれない」と言われているので。チェンジアップで腕振って、真っすぐを投げていけば、お前は大丈夫だという風に声をかけてもらっています。
――無観客でのオープン戦となりましたが、普段との違いを感じる面はありますか
特にはないと思いますね。自分は注目されている選手じゃないので、普段は自分のこと見ている人はいないだろうっていう気持ちで投げています。それよりも、最近は部員がしっかり試合見ろということで、試合を見ているので、今の方が見られている感じが強いです。(無観客になったことでの)変化はそんなにないです。
――投手陣全体を振り返っていかがですか
早川さんの調子も上がってきて、今西さん、西垣(雅矢、スポ3=兵庫・報徳学園)、徳山(壮磨、スポ3=大阪桐蔭)とかもいい感じで来ていると思うので、それに加えて誰がベンチに入って、どういう展開で投げていくかというところですね。柴田さんが後ろで投げると思うので、そこに繋ぐとかは自分とか森田(直哉、スポ3=早稲田佐賀)、星流(田中星流、スポ2=宮城・仙台育英)などその辺がしっかりしないとたぶん勝てる試合も落としてしまうので、意識だけはしっかりしていかなきゃいけないなと思います。
――ここから山下選手ご自身についてお聞きします。チームの中でご自身の役割はどのようなものだと捉えていますか
特に自分は役割ないですけど、強いて言うとしたら、試合で投げる時に終盤を投げることが多いので、締めくくる役目の部類なのかなという感じですね。
――上級生となりましたが、何か変化はありましたか
今の4年生は自分たちの代としてもすごい密度濃く関わってきたので、4年と3年で仲がいい人たちもたくさんいるので、3年は今4年生を勝たせようという感じに(なっています)。そのために下の学年も協力しないといけない立場になって、変なことはしないように様子見ている感じですかね。
――同級生で投手の徳山選手や西垣選手は、山下選手にとってどのような存在ですか
スポーツ推薦で入ってきて、高校の実績とかもすごいので、自分よりもはるか先の存在だと思っているのですが、そこに追いつかなきゃいけないというところなので、こっそりとライバル視して頑張っています。
――では、早大の選手でライバルだと意識されるのはやはりそのお二方ですか
自分たちの代ではやっぱり徳山、西垣、それとリーグ戦経験のある森田、この三人には追いついて負けないくらいレベルの選手になりたいなと思っています。
――(プロアマ問わず、)目標にしている選手はいますか
自分の身近なところだと、練習している姿もずっと見ているし、すごさも実感できるので、早川さんですね。
――すごさとは、具体的にどのようなところでしょうか
練習姿勢から人と違うので、あんなに黙々と嫌なことでも嫌と言わずに練習できる人は自分が野球やってきて見たことなかったので、見習わなきゃいけない点だなと。投球については、まっすぐで150キロ超えて速いですし、コントロールも自分なんかよりも全然良くて、球種も多彩なので、勝っているところがないという感じなので、全部見習って吸収して自分も成長させていかなきゃいけないなと思います。
――野球部で仲の良い選手はいますか
仲が良い人は同期が多いのですが、一緒にご飯行ったりとか、ゲームしたりするのは、友田(龍之介、社学3=東京・早実)とか清水大翔(スポ3=大阪・早稲田摂陵)とかは面白いので(仲が良いです)。鈴木萌斗(スポ3=栃木・作新学院)とかもよく一緒にゲームしたりはします。ピッチャーでいったら、内田(悠佑、文3=東京・早大学院)、成田(璃央、教育3=東京・早実)とかは一緒に焼肉行ったりすることも多いので、仲がいいかなと勝手に思っています(笑)。
――後輩との関わりはありますか
自分後輩と遊びに行ったりということは少ないのですが、雪山(幹太、教2=東京・早実)とかはご飯つれていけとせびってくるので、ご飯行ったりすることは多いですね。
――法学部にいらっしゃると思いますが、学業との両立で大変な面はありますか
テスト期間がめちゃくちゃしんどいです。夜遅くまで勉強して、睡眠時間削って練習行って。今だったらAにいさせてもらっている分、練習の質を落とすわけにもいかないので。自分が日頃からやっていればいいだけの話ですけど、そういうの苦手なので(笑)、テスト期間はしんどいという感じですね。
『尊敬する先輩たちのために』
昨秋のフレッシュトーナメント・法大戦で力投する山下
――ついにリーグ戦が開幕となります。この夏登板となると、リーグ戦初登板となりますが、どのような心持ちですか
やっぱりリーグ戦経験がある人たちには「独特な雰囲気があって、(リーグ戦は)緊張する」と言われているので、できるだけ好きな音楽を聞いたりして試合前は緊張しないように過ごそうかなと考えています。
――異例の8月開幕となりますが、何か時期の面で意識されることはありますか
やっぱり暑いので、着替えや水分補給は多めにとったり、あとは出ない時にベンチワークで出ている選手に飲み物とかアイシング持って行ったりとしっかりしていかなきゃなというところですかね。
――また1大学に対して1戦という形も異例だと思いますが、意識されることはありますか
自分の場合全部の大学が初見になって、その点自分にとっては有利なので、思いっきりいけばいいかなと思います。
――初戦の明大に対して、印象いかがですか
明大は三振しない粘っこいチームだなという印象です。自分は三振をとるピッチャーではないので、自分が出たら、打たせればいいかなという感じですかね。
――警戒しているチーム・選手はいますか
やっぱり慶応ですよね。早稲田にいたら慶応を意識するし、自分たちの代だと森田(晃介)が慶應にいて、昨シーズンはいい成績残しているので厄介になってくるなと思います。
――どのような役割を担っていきたいと考えていますか
オープン戦でもそうなのですが、自分は抑えや抑えの前とかに投げることが多く1、2イニングしか投げないので、そこで全力でバッターを抑えにいけばいいかなという感じですかね。
――春季リーグ戦、個人の具体的な目標はありますか
失点しないことです。
――最後にリーグ戦の意気込みをお願いします
初めてのリーグ戦で、緊張すると思うのですが、尊敬する先輩たち、仲がいい先輩たちを優勝させるために自分にできることを全力でやって頑張りたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 吉田美結)
◆山下拓馬(やました・たくま)
2000(平12)年2月29日生まれ。184センチ、90キロ。埼玉・早大本庄出身。法学部3年。投手。右投右打。取材中は冷静に自らの分析をされていた一方、息抜きにゲームをすることが好きと明るく語る場面もありました。神宮でもゲームを制する投球を見せてくださるに違いないでしょう!