見せつけた『早稲田の意地』 最後まで諦めずつかんだ勝利/2019年秋季リーグ戦

野球

 加藤雅樹(当時主将、令2スポ卒=現東京ガス)をはじめとする当時の4年生にとって、賜杯を手にするラストチャンスとなった2019年の東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)。開幕から3試合連続で完封負けを喫し、早くも優勝に黄信号がともった早大であったが、全日本大学選手権王者の明大を下し、優勝戦線に踏みとどまる。しかしその後立大戦で勝ち点を落とし、優勝の可能性は完全に消滅。迎えた宿敵・慶大戦、91年ぶりの全勝優勝を目指す慶大に対し、最後まで諦めない『早稲田の意地』を見せつける。見事慶大の全勝優勝、完全優勝を阻止した。

 初戦の法大戦。早大は厳しい船出となった。早川隆久(現主将、スポ4=千葉・木更津総合)ら投手陣が好投を見せる一方、打線が沈黙。『あと一本』がなかなか出ず、開幕カードを落とした。その原因のひとつに、瀧澤虎太朗(現副将、スポ4=山梨学院)の不調が挙げられるだろう。春に自身初のベストナインに選出され、秋にはさらなる活躍が期待されていたが、開幕前日に思わぬけがをしてしまったのだ。これによって開幕戦スタメンから外れ、2回戦では代打起用されたものの三振に終わる。不動のリードオフマンを欠いた打線は深刻な不振に陥り、2戦連続の完封負けを喫した。

法大2回戦で空振り三振に倒れ、がっかりする瀧澤

 悲願の優勝に向け、早くも後がない中迎えた明大戦。春に早大が優勝戦線から後退するきっかけとなった因縁の相手だ。1回戦は初回、早川が満塁本塁打を浴び、いきなり4失点。2回以降は早川が立ち直り、救援陣も好投したが、またも打線が貧打にあえぎ敗戦した。2回戦は徳山壮磨(スポ3=大阪桐蔭)の好投と加藤の今季初安打となる適時打で先制し、待望の初勝利。その勢いに乗り迎えた3回戦、救援として出場した早川が観客を魅了した。4回にピンチの場面で救援登板すると、捕逸で1失点するものの最少失点で切り抜ける。その後も粘り強い投球で9回まで投げ抜き、今季初白星を挙げた。

 続いて迎えたのは東大戦。1回戦では、先発した早川がじわじわと追い上げを許し、その後救援陣が追い付かれる苦しい展開に。投手陣にほころびが見えた中、圧巻の投球で悪い流れを断ち切ったのは柴田迅(社4=東京・早大学院)だった。柴田はここまで防御率0.00と安定感のある投球でクローザーとして活躍。自身の強みであるストレートとカットボールに加え、夏の間に磨いたというカーブで相手に的を絞らせず、好投を続けていた。この試合では8回2死一、二塁と一打勝ち越しの場面で救援し、見事火消しに成功。待望のリーグ戦初勝利も手にした。2回戦は徳山の好投で勝利し、2つ目の勝ち点を獲得。しかし打線は相手の自滅に乗じた得点のみと物足りなさが残った。

 第4週を終えた時点で慶大、法大が勝ち点3を確保しており、優勝の可能性を残すために連勝がほぼ絶対条件の中迎えた立大戦。しかし1回戦は先発の早川が3点を先取され、試合の主導権を奪われる。2回以降は立ち直り、打線も一時1点差に迫ったが、あと一歩チャンスをものにできない。8回から救援を任された今西拓弥(スポ4=広島・広陵)も、勢いに乗る立大を止められず、そのまま黒星を喫した。この時点で今季リーグ戦制覇は絶望的に。続く2回戦は延長戦の末勝利したものの、3回戦は早川、今西ら投手陣が振るわず勝ち点を落とす結果となった。

慶大3回戦でサヨナラ打を放ち、ナインに囲まれる金子(中央)

 優勝の可能性はなくとも、慶大の完全優勝を阻むため、そして何より秋季リーグ戦を笑顔で終えるため挑んだ慶大戦。1回戦、先発の早川は粘投するものの、6回、8回に郡司裕也(現中日ドラゴンズ)に2打席連続弾を浴び引導を渡されてしまう。勢いに乗った慶大はそのまま優勝。目の前で切望してきた優勝を決められる、悔しい試合となった。2回戦は序盤から早大のペースで試合が進み、迎えた最終回。前日の1回戦で救援に失敗した柴田がマウンドに上がった。「今までで一番気合いが入っていた」と、柴田は気迫で宿敵をねじ伏せ、見事慶大の全勝優勝を阻止した。そして勝てば慶大の完全優勝までも阻める3回戦、先発は今西。2回戦で救援に失敗したが、「チームのためになることを頑張りたい」と小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)に伝えたところ先発を任された。「4年生のために」――。決死の思いで登板した今西だったが、初回から失点。また守備の乱れもあり救援陣が追加点を許す。流れは慶大に向くかと思われたが、岩本久重(スポ3=大阪桐蔭)の同点本塁打や早川の好救援で流れを相手に渡さない。特に早川対郡司との対戦では、自己最速タイ151キロの直球を投げ込み、空振り三振に仕留めた。今季はエースらしい投球がなかなかできていなかったが、この気迫あふれる投球は紛れもなく『早稲田のエース』そのものだった。そして迎えた9回。一打サヨナラの場面で打順は金子銀佑(教4=東京・早実)に回った。高校の先輩・加藤から背中を押され打席に向かう。追い込まれてからの4球目、外角の球に食らい付き右前へ。見事『早稲田の意地』を見せつけてサヨナラ勝ちを収めた。

 8季ぶりの優勝を目指したシーズンであったが、結果は3位。当時の4年生世代は一度も優勝を経験しないまま卒業することとなった。その悔しさを間近で味わってきた『早川世代』は、ついに今年最高学年となり、チームを率いていく立場となった。もう悔しい思いはしたくない。賜杯奪還、そして日本一への思いを胸に、『強い集団』を目指していく。

(記事 倉持七海、写真 柴田侑佳氏、望月優樹氏)


早大打者成績(早川世代のみ掲載)
名前
今西拓弥 7 0 0 0 0 0 0 0 1
金子銀佑 12 35 4 10 0 2 4 2 2 .286
柴田迅 8 0 0 0 0 0 0 0 0
瀧澤虎太朗 12 27 2 2 0 2 8 5 0 .074
早川隆久 9 14 0 3 0 0 3 0 0 .214
真中直樹 1 0 0 0 0 0 0 1 0
吉澤一翔 7 13 0 1 0 0 3 0 1 .077
早大投手成績(早川世代のみ掲載)
名前
今西拓弥 7 0 0 8 2/3 10 10 12 6 8 6.23
柴田迅 8 2 0 10 1/3 7 3 14 2 2 1.74
早川隆久 9 2 4 45 39 10 53 15 16 3.00
2019年東京六大学秋季リーグ戦星取表
順位 チーム 勝ち点 勝率
慶 大 .818
法 大 .800
早 大 .538
立 大 .500
明 大 .333
東 大 10 .000

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