【連載】春季リーグ戦開幕前特集『奪還』 最終回 小宮山悟監督

野球

 連載の最終回には小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)が登場。就任1年目の東京六大学リーグ戦(リーグ戦)は春秋共に3位と歯がゆい結果に終わり、2年目の巻き返しに燃えている。指揮官は9季ぶりの賜杯奪還に向け、現在のチームをどう見ているのか。各ポジションの選手たちについて詳しくお話を伺った。

※この取材は3月27日に行われたものです。

「思っていた以上に○○がいい」

質問に答える小宮山監督

――開幕予定日が近づいてきていますが今の心境はいかがですか

 浦添(沖縄キャンプ)がキャンセルになってバタバタしながら過ごしていたのですが、時間のやりくりも含めてこなせたと思っているので順調と言えば順調かな。ただ、負傷者が多すぎて、これは防ぎようがないのでね。

――新チームの印象はいかがですか

 どうだろうね。まだオープン戦を12試合こなしているだけなので、チームとしてどうということになると微妙な感じですが、去年の反省を踏まえて新チームの4年生たちが自分たちの思っていることをとにかく実戦していこうということで、結束してやっているようには見えますね。去年は去年で一生懸命やっていたのだろうけれど、去年の連中よりも今年の連中の方がそういう意味では頼もしく映ります。

――1年生の印象はいかがですか

 もちろん、スポーツ科学部のアスリート選抜入試で入学した4名に関しては、早稲田の野球部を支える人材という認識なので、数名故障をしている者もいるので何とも言えないんだけど、基本的には試合に出て早稲田のために実力を発揮してくれるだろうと思います。楽しみです。

――就任2年目となりますが、1年目から変えたことはありますか

 基本的には同じスタンスでやっていますが、1年間言ってきたことができないとなると、そこはきつくどやしつけていますね。

――逆に代わらないことは何でしょうか

 基本的には選手の自主性にまず重きを置いてということですね。で、間違ったことをするようなことがあればそれは正すというスタイルでやっていますので、基本的にはそんなにガミガミ言う感じではないと思っています。

――『基本に忠実な野球』というのも変わりませんか

 それはもう早稲田大学野球部の根底にあるものですから、それは譲れないですね。

――新しく齋藤慎太郎コーチ(平3社卒=埼玉・秀明)と鈴木浩文コーチ(平5社卒=東京・関東一)が就任されましたが、期待することは何でしょうか

 学生時代からの付き合いなので、あうんの呼吸と言いますかね。こちらの言わんとしていることを理解しているだろうと思います。3年間やってくれている助監督(佐藤孝治助監督、昭60教卒=東京・早実)がいろいろなところに目を光らせてやってくれていますので、そこから漏れている者を拾い上げて、突っついてもらっているという感じかな。特にいわゆるB、2軍とされる連中の、特に若い連中、将来2年後3年後に上級生となってチームの骨格になる人材を今から徹底的に鍛えるというところでやってもらっています。

――早川隆久主将(スポ4=千葉・木更津総合)、瀧澤虎太朗副将(スポ4=山梨学院)、吉澤一翔副将(スポ4=大阪桐蔭)の3人に関しては監督が決められたということですが、どういった期待を込めて決められましたか

 今まで選手間で決めていたみたいなことを言っていたのですが、そんな歴史は過去になかったので。我々の頃は監督が決めるということだったので、どこでそういうシステムになったのか分かりませんが、昔に戻すということで決めました。決めた理由はいろいろあるのですが、チームにとってこれがベストだということで、監督判断で主将副将の任命をしました。

――新型コロナウイルスの影響が大きくなってきていますが、選手に話していることはありますか

 死ぬほど手洗えって言っていますね。自分の体は自分で守れっていうのは大前提だと思っているので。さらに言うと、インフルエンザ対策で集団として動かなければならないこと、ウイルスをどうはじき返すのかというところで細かな指示を仰いでやっていましたので、そこにコロナがどうこうということで、輪を掛けてということなので特段新しいことをしているわけではないです。ただアルコール消毒をしてしっかり手洗いをし、うがいをし、その他顔を必要以上に触らないようにするとかね、ごくごく当たり前のことをどれだけ周知徹底できるかということでやっていますし、あとは野球部として早稲田の先生に寮にお越しいただいて、予防の管理体制ができているかご教授いただいて、しっかりレクチャーを受けてそれを学生にフィードバックしてということでやっています。対策は十分というつもりでいるので、後は本当に個人の自己管理です。どんなに頑張ってもおそらく感染する奴は感染してしまうと思っているので、そうは言っても、手を尽くしているかどうかといったところが、最後本人の中でミスを犯したということなのか、それともこれ以上はできないからやむを得ないと思いますって言えるかどうかということですよ。それでいうと、自分で自分の体を守れということは言っているので、あとはそれを学生がどう実践するかということだと思っています。

――現在の戦力はどう見ていらっしゃいますか

 (六大学は)東大には失礼だけど、能力的にはかなり落ちているので、東大以外の各チームはほぼ拮抗している戦力状況だと思うので、その中でいかに故障者を出さずにリーグ戦を戦えるかというところが非常に重要だというつもりでいたので、それでいうと想定以上に故障者が多すぎるので、少し慌ててはいますね。

――エースの早川選手について、今何か技術的なアドバイスはされていますか

 まあポイントポイントでこうだああだっていうのは伝えていますが、基本的にはそんなにいじる必要のないピッチャーなので、試合の中で少し何かあればそれは伝えて、伝えられたことをきちんと理解して直すことができるピッチャーなので、そのあたりはそうとう能力が高いと思っていますね。

――ここまでの早川投手の状態はいかがですか

 まあ可もなく不可もなく。あとはちょっと心配になるのは周りが騒ぎすぎってことかな。ちょっと試合で投げただけでああでもないこうでもないって大騒ぎしているのを見ると、ちょっとそれに踊らされている感じがあるので、そこはちょっと心配ですね。

――昨年から投げている投手では、柴田迅選手(社4=東京・早大学院)や徳山壮磨選手(スポ3=大阪桐蔭)が結果を残している一方、西垣雅矢選手(スポ3=兵庫・報徳学園)は苦しんでいる印象があります。どう見ていらっしゃいますか

 まあ具体的な数字だけ見たらそういう評価になるのでしょうが、全く心配していないです。西垣が苦戦しているような物の言い方をしていましたが、全然そんな風には映っていないので、何の心配もないですね。故障者がいるので投手陣はカツカツでやり繰りしないといけないというところで今悲鳴を上げているところです。オープン戦は連戦が続いたりしていろいろな人を試さないといけないのでバタバタする感じになるのですが、そこで余裕を持てないので今カツカツという。ところがリーグ戦になると、対戦カードが5カードで、相手が分かっていて、なおかつ登板させるピッチャーの数も絞られるので。よそに負けないだけのものは用意できると思っています。

――今西拓弥選手が昨日初登板されました

 昨日ああいうピッチングで普通に投げられているので、普通に投げられるということです。

――新しく1軍に上がってきている山下拓馬選手(法3=埼玉・早大本庄)、原功征選手(スポ2=滋賀・彦根東)、雪山幹太選手(教2=東京・早実)といった投手についてはいかがですか

 その3人でいうと山下が一番力があるので、彼はそうとうやると思います。さらに言うと、ひょっとしたらチームの窮地を救うキーマンになる。そういう存在になると予想しています。原に関しては、左バッターからアウトを取りにいくという仕事を与えるので、「左打者は抑えて当たり前」という空気の中で投げなければならないプレッシャーというのはそうとうきついので、それをはねのけて伸び伸びとピッチングができるかどうかですね。そこの部分は毎試合投げさせて経験を積ませて、自分の中でしっかりとしたものをつくり上げる準備をさせてあげているところです。今のところうまくいっているので、リーグ戦でも頑張ってくれるだろうと思います。雪山に関しては、ピッチングスタッフが充実しているので、彼が普通に試合に登板するというのはなかなか厳しいと思います。ただ誰かが思うようにならなかったときにその穴を埋めるべく、今の段階で経験を積ませて準備をするということで頑張らせているところです。まだ2年生なので、今の経験が将来的に必ず役に立ちますから、いいかたちで頑張りを見せてくれているので、これはこれで評価をしてあげたいなと思っています。

――捕手に関しては岩本久重選手(スポ3=大阪桐蔭)が正捕手かつ4番ということで、チームの大黒柱になると思います。現段階ではどう見ていらっしゃいますか

 どうだろうなあ。一生懸命リードしてくれているので大変な仕事なんだろうけど、打つ方をもう少し頑張ってくれたら言うことなしです。やってできないことはないだろうということですよ。いいサンプルが去年慶応にいたわけですから。あの郡司(裕也、現中日ドラゴンズ)の姿を見て、「何とかなる」というふうには思ってくれているはずだから。なので、よっぽどのことがない限り、4番から外さないです。

――内野手に関しては、吉澤選手にアクシデントがあり、丸山壮史選手(スポ3=広島・広陵)を起用されています。活躍されている印象ですが、丸山選手についてはいかがですか

 もともと打つ方には相当な能力を持っているという評価をしていたので、できれば試合の中で4打席あげたいなというふうに思っていた選手です。その中で吉澤のアクシデントがあって。本人は本意じゃないと思いますよ、ファーストを守るというのは。チームにとって一番いいかたちというのがファースト丸山だということで、やれって言って嫌ですとは言えない雰囲気だったので、ファーストをやらせています。彼も守りでチームに迷惑をかける可能性があるということで、必死に今練習をしてくれているので。打つ方は何の心配もしていないです。

「六大学連盟の威信がかかっている」

シートノックを打つ小宮山監督

――金子銀佑選手(教4=東京・早実)についてはいかがでしょうか

 4年生になって、リーダーとしていろいろなことに目を配らせているのは普段の練習から見受けられるので、非常にいい流れになっているのかなと思っています。オープン戦の中での活躍ぶりも含めて及第点をあげてもいいと思っています。

――中川卓也選手(スポ2=大阪桐蔭)については今年も2番で起用されています。「自由にやらせてもらっています」ということを中川選手がおっしゃっていましたが、どのような2番像を求めていますか

 彼の持ちうる能力を最大限発揮してくれれば、こちらからは申し分ない選手だという認識なので、状況に応じたバッティングができるという器用さも含めて、ある程度任せるということで、あいつには過度の期待を掛けてやっていますから、それにどれだけ応えられるかですよね。1年生の時のあの悔しさを本当に悔しいと思っているなら今年爆発してくれると思っています。

――遊撃手に関しては、当初は真中直樹選手(教4=埼玉・早大本庄)がスタメンでしたが、最近熊田任洋選手(スポ1=愛知・東邦)の出場機会が増えてきています。それぞれどうお考えですか

 真中は器用な選手で、檜村(篤史、令2スポ卒=現Honda)の後にすっぽり収まってくれればと思っていましたが、思っていた以上に熊田がいい。なので、熊田に今押され気味というのが正直なところですね。腹の据わり具合ですよ。これがなんだかんだ言って、センバツ優勝している選手なので、トーナメントを勝ち上がって修羅場をくぐっている奴の経験則みたいなものは、これは大舞台に立ったことのない選手では勝ち目がない。なので、能力的には互角、もしくは真中の方が上なのかもしれないけど、そつなくこなしているということでいうと、熊田の方がこちらから見て安心して見ていられるという感じなので、最後の最後までここは悩むところかな。

――外野手では、瀧澤選手が最初不調でしたが、最近は読売ジャイアンツ2軍戦で2本塁打を放つなど活躍されました。どう見ていらっしゃいますか

 あれは風です(笑) 。まだ本調子ではないので、苦しんではいますが、能力は高いので、実は前の試合からアドバイスをして、「こうなっているからこうしろ」と本人に直接言って、それを本人の中でかたちとして消化できていいかたちになってきているので、この辺はやはりセンスは感じますよね。なのでリーグ戦中も大いに期待している選手なので、何かあれあれっていうことがあったときには救いの手を、とは思っていますが、基本的には自力ではね返さないといけない選手だと思っているので。この先も含めてね.彼は野球で飯を食うんだっていう思いでいるんだろうから、そういう思いを持っている選手であれば、なおさらああだこうだ言われる前に自分で問題点を解消しろという話です。

――他の外野のポジションに関しては、右翼手に眞子晃拓選手(教4=早稲田佐賀)、中堅手には蛭間拓哉選手(スポ2=埼玉・浦和学院)の故障の後は鈴木萌斗選手(スポ3=栃木・作新学院)を起用されています。そういった選手たちについてはいかがですか

 眞子に関しては、目の前に来たチャンス、たった一度のチャンスをものにしてつかみ取った選手で、期待以上のものを今見せてくれているので、大事にしたいなと思っていますね。ジャイアンツ(2軍)戦でフェンスに激突して故障してしまったので、今井(脩斗、スポ3=埼玉・早大本庄)をライトに入れています。そもそもは今井をライトで使おうと思っていたのですが、眞子の方がチームにフィットしていたのでレギュラーとして扱っていました。あとは故障の具合がどの程度戻ってくるかですけど、基本的には眞子の方が今のところは上にいますね。蛭間は故障が癒えないと中々思うようにならないので、その間萌斗で対応していましたけれど、ちょっと外野手陣をシャッフルしないといけない感じはありますね。たまたまオープン戦で福本(翔、社3=東京・早実)も結果が出たし、西田(燎太、社3=東京・早実)もいいところで打っていますので、このあたりをセンターで使いつつ、蛭間が戻って来るのを待ちながら、萌斗の奮起を待つという感じかな。

――その他に伸びてきている選手や楽しみな選手はいらっしゃいますか

 基本的には選手が入れ代わり立ち代わりというのはあまり良くない状態だというふうに思っています、固定されたメンバーが故障なくそつなくこなしてシーズンを終えるというのが理想なので。リーグ戦が始まるまであと何日あるか分かりませんので、一応11日に開幕するという想定でやるならば、現状試合で使っているメンバーたち、中心になるメンバーたちがどれだけ頑張るかということですね。ラインナップは固定でいこうと思っているので。

――最後に春季リーグ戦についてです。開幕戦は明大の予定ですが、印象はいかがですか

 もちろんしぶとさという点では六大学で一番のチームだというふうに思っていますが、だからといってそのしぶとさにやられているわけにはいかないので、早稲田としてもどれだけ食らいつけるか、という話だと思っています。似たような感じでキャリアのあった選手たちが抜けて、それほどキャリアのない選手が出ているような感じだと思っているので、春に関して言うと出たところみたいなところがあるのかなという感じもしますけどね。その中でどれだけ相手にプレッシャーを与えることができて、こちらが隙を見せずにいろいろなことをこなしていけるかというところだと思っているので、勝ってリズムに乗りたいというのはお互いに思っているところなので、けっこうな緊張感のある開幕カードになるのかなと思っています。

――リーグ戦で鍵になるカードはどこでしょうか

 全カードですよ。とにかく無駄な敗戦をしない、連勝で勝ち点を奪うというところが優勝するためには重要なことなので、取りこぼしのないようにということかな。

――早慶戦は特に負けられない戦いになると思いますが、慶大の印象はいかがですか

 監督が変わっているので、堀井さんがどんな感じの野球をしてくるのかというのも含めて、他の4校との戦いをきちんと分析した上で早慶戦に臨もうと思っています。その中でお互いが勝ち点を挙げたら優勝というかたちにしたいと思っていますので、堀井さんは堀井さんでそういうことを口にしていますし、こちらも早慶戦で勝って優勝というのが最高のフィナーレだと思っているので、そのかたちをつくり上げるべくそれまでの対戦で4校にしっかりとした戦いをするということですね。

――最後に春季リーグ戦に向けての意気込みをお願いします

 とにかく世の中がこういう状況なので当初の予定通りにいくとは思えないので、いろいろとイレギュラーなかたちになると思いますが、学生スポーツとして(東京)六大学連盟の威信がかかっていると思うので、全国から注目してもらえるような戦いをしたいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 池田有輝、山田流之介)

『基本に忠実な野球』で9季ぶりの賜杯をつかみ取ります!

◆小宮山悟(こみやま・さとる)

1965(昭40)年9月15日生まれ。千葉・芝浦工大柏高出身。90(平2)年教育学部卒業。早大野球部第20代監督