左腕エースの象徴『18』を背負い2季目のシーズンを終えようとしているのは、早川隆久(スポ3=千葉・木更津総合)。今季は打線の援護にも恵まれず、1勝3敗と勝ち切れない登板が続いている。それでも「自分にまだ甘さがある」と妥協は決して見せない。酸いも甘いもかみ分けた早慶戦を前に何を思うのか。その心境に迫った。
※この取材は10月26日に行われたものです。
「自分にまだ甘さがある」
取材に応じる早川
――今季の投球をざっくりと振り返って
勝利に貢献できるような投球ができているかと言われれば、そこは難しくて。明治戦も立教戦もそうですけど、立ち上がりが課題になっています。うまく立ち上がりに入れないとチームの流れも持っていけないですし、改めて立ち上がりの重要性を感じますね。
――うまく立ち上がれない要因は
(打たれた)2試合とも丁寧に入り過ぎてしまっているのかなと。丁寧に攻める中にも大胆さは必要ですし、ピンチのときにはよりしっかり投げ込むのが必要だと感じました。
――今季は何点ぐらいですか
40点ぐらいですね。
――思うような投球ができていないと
そうですね、残りの60点は勝利に貢献するということがメインになってくると思うので、全然まだまだだと感じます。
――夏には遠征も重ねました。このあたりの疲労が気付かないところで出ているということはありませんか
ずっと投げているというのもあって、疲労が完全に抜け切れない状態でリーグ戦に入って。何だかんだずーと投げてきていて、「しんどいな」と感じることもありますけど、そういう「しんどい」と感じる中でも大学生のバッターを抑えられないと上には行けないなと思います。
――依然として球数も課題に挙がっていると思います
そうですね、球数を少なくしないと疲労は抜けにくいですし、そこが重要だとはすごく感じていて。特に立教3回戦に関しては、(救援として)登板した最初のイニングから球が浮いてしまって、それを外野まで運ばれるというケースが多かったので。やはり球数の少なさを求めるのは必要かなと思います。
――打たせて取る投球を意識したいと前に伺いました
打ち取れてはいるんですけど、いいところに飛んだりいいところに落ちたりというのもありますし。そこは力で押せていないという面もあって。もう一押しできれば、外野まで飛んでいないかもしれないですし、もう少しボテボテの野手が追い付くくらいの打球スピードになっているかもしれないので。もう一押しできていないなというのは感じますね。
――一方で三振を取る場面が増えたように思います。三振を取ることは意識しないと以前おっしゃっていましたが、このあたりはいかがでしょう
そうですね、本当に意識はしていないんですけれども、配球を変えるだけで三振の数はがらっと変わってくるので。バッターに対してのフィーリングというか、もっとそういうのを気付けるようになれば三振も多く取れるし、逆に球数も減らせるのかなと思います。
――今夏の侍ジャパン大学日本代表では森下暢仁投手(明大4年)にカーブを教わったと伺いました。握りを変えたのでしょうか、それとも投げ方を変えたのでしょうか
投げ方というか、意識ですね。真っすぐと同じような回転で投げられるように。真っすぐはバックスピンでカーブはトップスピンなんですけど、真っすぐに似たような回転にすることによってバッターは見極めしにくくなりますし、そういうところを変えようと思っていたので。カーブは今シーズンあまり打たれていないなという印象がすごくあります。
――カーブで三振を狙いに行ったりすることはありますか
三振というよりかは、もう打たせて取ることができるようにという感じで。あとはたまにバッターが狙っていないようなカウントで投げて、「うわ、狙っていない球(カーブ)来たよ」みたいなリアクションを見ると効果的に使えているのかなと思いますね。
――今季はベンチワークにも力を入れているとのことでした。これを意識するようになったきっかけは
それこそ(大学)日本代表の時に自分が投げ終わって、森下さん(暢仁主将、明大4年)が「別にピッチャーとして抑えたからって偉いわけじゃないし、チームで戦っているわけだからチームワークを徹底してやろうよ」と言ってくれてから自分のベンチワークに対する意識も変わってきましたし、やっぱり森下さんに学ぶことは多いなと感じますね。
――ベンチワークが自身のプレーに影響したことはありますか
それはあまりないんですけど、自分が投げてない時の方がチームは勝てているかなと感じていて(笑)。やっぱりそういう中でもベンチワークの重要性をすごく感じますし、ベンチの雰囲気によって試合に出ている選手が明るくプレーできますし、それによって勝利も近づくと思うので。でもまだ自分の思っているようなベンチワークはできていないので、難しいところだなと思います。
――思っているようなベンチワークとは
もっとみんながガッと一つになるようなベンチワークをしたいんですけれども、まだみんな「何やればいいんだろう」とか「どれが正解の掛け声なんだろう」とかそういう迷いが見えているので。そういう迷いよりもまずは声を出してみるということが重要かなと思います。
――大竹耕太郎投手(平30スポ卒=福岡ソフトバンクホークス)や小島和哉投手(平31スポ卒=千葉ロッテマリーンズ)はどちらかというとクールに戦っているイメージでしたが、お二人のベンチワークはいかがでした
小島さんは投げていないときはベンチワークを徹底していました。大竹さんは一緒にベンチにいる機会がなかったので少し分からない部分はありますけど、自分のできる限りの仕事はしていたので。やっぱりそういうチームのために動ける選手が後に上に上がっていく選手だとは感じますね。
――投げていないときは肌身離さず赤いメガホンを手にされていますが、あれは自前でしょうか
部のものなんですけど、メガホンを持ってベンチワークをするほどの選手があまりいないというのが現状で。やっぱりみんなが率先して「メガホン持ってやりたい」というようなベンチワークをしないといけないな、とは感じます。
エース左腕の系譜
明大3回戦で力投する早川
――座右の銘は「真の敵は己の中にあり」だそうですが、誰かにもらった言葉ですか
自分が(小学校1年生の)ソフトボールを始めた時に親が帽子のつばの裏に書いてくれて。お父さんは陸上をやっていて。陸上は個人スポーツで「ライバルとかつくらずに自分と向き合うことが本当の勝負だ」と言ってくれて、それが今身に染みて感じます。
――今の自分の中の真の敵は何だと思いますか
やっぱりまだ自分の中に甘さはあると思います。もっと詰めるべきところを詰めなきゃいけないというのにもかかわらず、そこで甘さが出てきているのは本当の敵なのかなと思います。誰かと比較するというよりかは、自分に打ち勝っていかないと上には行けないと思います。
――甘さというのは、投球でもう一押しできないという意味でしょうか
野球もそうですけど、私生活の面でもスマホとか触っていない時間でも野球について考えられますし、練習もできますし。そういう面でも甘さが出ているのかなと思いますね。
――どんなに好投しても、試合後の取材ではいつも反省を口にしる早川選手ですが、大学入学してから自分の投球に満足したことはありますか
和田さん(毅、平15人卒=現福岡ソフトバンクホークス)が「上を求めなければいけない。そこで自分に満足していたら成長は止まる」とお会いした時に言ってくださって。やっぱりそういうことだなとすごく感じているので、自分に満足するということは絶対ないかなと思います。
――その中で早川選手が目指す『究極の投球』はありますか
究極はやっぱり27球で終わらせることだと思うんですけれども、なかなかそういうわけにはいかないので。そういう意味では、和田さんとかは真っすぐ来ると分かっていても打てないような真っすぐを投げていらっしゃるので、和田さんのようなピッチャーになりたいというのはここ最近思いますね。
――これまでは技術的な面で大竹選手の投球をずっと目指されていました。突き詰めた結果の和田選手でしょうか
そうですね、大竹さんも和田さんのことを尊敬していて、自分は大竹さんも尊敬しているんですけど、「和田さんはこうしているよ」という話は大竹さんから聞きますし、そういう意味では和田さんが一番上にいらっしゃるというか、自分たちの理想という面では和田さんが一番なのかなと思います。和田さんにお会いして自分の甘さを感じましたし、練習に対する目的意識もちゃんと一つずつあって、やっぱりすごいなと思いますね。
――最速150キロの直球があり、変化球も多彩な早川選手。それならば「もっと抑えられるだろう」という期待感を込めた声もよく耳に入ってきます
周りの人からはそういう評価をいただいていますけど、やっぱり抑えられないのには何かしらの原因がありますし、気持ちの面というのもあると思いますし、まだまだ突き詰めるべき部分がいろいろとあるというのは自分の中でも思っているので、そこを突き詰めていかないと選手としては伸びないかなと思います。技術があってもメンタルが弱ければ抑えられませんし、1試合ずつ出た課題をつぶしてやっていかない限りは抑えられないと思います。
――東京六大学には他連盟と比べても好打者がそろっています。そういった環境の中で、今の早川選手が彼らを抑えていくために最も必要なことは何でしょう
自分でも思うんですけれども、バッターを見てすぐ状態を感じ取るというか、チームで狙っている絞り球をすぐ感じ取れるようにできる『野球勘』というものが優れていないと六大のバッターは抑えられないかなと感じています。打たれてから気付くのは遅いので、それを打たれる前に気付くことができるようにならなければなとすごく感じています。
『イニングの終わり方』
――勝負強さ光る慶大打線。どのように抑えていきましょう
4年生には塁に出したくないな、というのはすごく考えていて。ラストシーズンという中で4年生が塁に出るとすごく盛り上がってしまうので、ベンチもスタンドも盛り上がるので、そこを抑えるのがまずポイントです。そこから1、2年生などの若い学年の選手がタイムリーを打ったりすると、そこからさらに盛り上がるので。そういう意味では、『イニングの終わり方』というのを重要視していきたいと思います。
――若い選手といいますと、下山悠介選手(1年)の活躍が顕著です
下山には春の3戦目で決勝タイムリー打たれていますし、やっぱり振れているので打球も外野に飛んでいきますし。振れているバッターだからこそ、もっと緩急使って詰まらせに行ったりだとか、できる限りの対策をして抑えに行こうと思います。
――最後に意気込みをお願いします
4年生はこれが最後のシーズンですし、集大成です。ここで2勝できるかによって自分たちの順位も大きく変わってくるので、自分ができるピッチングをして、2戦目もベンチワークなどをしっかりして、慶応の優勝を阻止して4年生に有終の美を飾らせてあげることができるようにやっていきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 石﨑開)
エース左腕は『4年生のために』その腕を振り続けます
◆早川隆久(はやかわ・たかひさ)
1998(平10)年7月6日生まれ。180センチ、75キロ。千葉・木更津総合高出身。スポーツ科学部3年。投手。左投左打。郡司裕也主将(慶大4年)や柳町達副将(慶大4年)と仲のいい早川選手。「真剣勝負の中にも楽しさを感じながら投げられればいい」と語る一方で、「プロに行くのが確定している選手をしっかり抑えて今シーズンを終わりたい」と闘志を燃やします。最後の対戦で完璧に封じ込め、自身がドラフトイヤーを迎える来年への弾みとしたいですね!