【特集】スタッフ特集 第1弾 佐藤孝治助監督×道方康友投手コーチ

野球

 2回にわたって、早大野球部を陰で支えるスタッフを特集する。第1弾は、今年1月に早大にとって14年ぶりとなる助監督に就任した佐藤孝治助監督(昭60教卒=東京・早実)と昨年11月から投手陣の指導を任されている道方康友投手コーチ(昭53教卒=大阪・箕面自由学園)。昨秋屈辱の最下位に沈んだことを受けて就任した、強力な援軍だ。髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)も全幅の信頼を置いている二人の目に、東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)での戦いはどのように映ったのか。就任に至った経緯や、秋に向けての取り組みなどを含めて語っていただいた。

※この取材は7月29日に行われたものです。

母校への恩返し

就任理由として、二人の口からは共に「恩返し」という言葉が出た

――まずは佐藤助監督にお伺いします。きょうは長年勤めていらっしゃるJX-ENEOSとの試合(○9×―8)でしたが、いかがでしたか

佐藤 勝ち負けは別として、最初に5点を取られたんですけど、これからリーグ戦でもそういう試合があると思うんですけどね。5点を取られても取り返す力があるんだという自信が一つ。そのまま9回まで勝ったままでいったんですけど、9回表に逆転されて、油断をするとやっぱり足元すくわれるぞという警鐘を鳴らすというのが一つ。それでも9回の裏に控えの選手で逆転をすることができて。スタメンだけじゃなくてベンチに入っている選手も、逆にスターティングメンバーじゃない選手ほど大事な場面で出番が回ってくるので、気持ちを常に切らさずにやっていく。そういう意味ですごくためになりました。技術以外の部分でやっぱり社会人の選手というのはどんなところも手を抜かない、全力疾走にしてもボール回しにしても。そういういいところも勉強できたので、これからブラジルに行く前にとてもいい勉強になった試合でした。

――道方コーチは、きょうは西垣雅矢投手(スポ1=兵庫・報徳学園)が先発しましたが、見ていていかがでしたか

道方 早慶戦で3イニングしっかり抑えて大きな自信になったところが、この1カ月間見ていてよくうかがえるので、それがどういうかたちになるかなということで送り出して。私は去年までJFE東日本で監督してたので、社会人野球の選手は最初からボンボン振ってくるから、それでもしっかりした気持ちで向かっていきなさいよと送り出しました。まだ若いので初回捕まって、捕まった原因がはっきりしてたので2回からその修正方法を話したら、しっかりその辺が落ち着いてできるピッチャーなので、そういう意味では一段階成長してるなというように、きょうは見えました。

――お二人は昨季終了後からスタッフに加わることになりましたが、就任に至った経緯というのを教えていただけますか

佐藤 僕は社会人野球を32歳までプレーをしていて、今年誕生日が来たら56歳なんですけど、二十何年間、野球からは離れてまして。3年前ぐらいに転勤から東京に戻ってきて、神宮には何回か試合は見に行っていたんですけど、ちょっとこれじゃ勝てないな、なんて思いながら見てたんですけど。だからといって、ぜひじゃあ俺が立て直しにいくぞと言ったわけではなくて、いろんな先輩方から、大学に来て後輩の指導に当たってくれという指令を受けて来たのが事実ですね。

――去年の試合を見ていて勝てないと思ったのは、「気持ちの準備」が原因だと以前おっしゃっていましたが、具体的にどういった場面でそれが感じられましたか

佐藤 秋のリーグ戦の1回戦、開会式後の明治大学との試合をたまたまスタンドの上の方で見ていたんですね。初回に2点を取られたと思うんですけど、その時にピッチャーが投げて相手のバッターが打ったら野手が急にまさか俺のところに飛んで来るんじゃないかぐらいにびっくりして。それで点を取られたんですね。だから多分、練習だとかはちゃんとやってるんでしょうけど、気持ちの準備というのができてないなと。これは多分勝てないだろうなと思って、その日はもうそこで帰りました。それから一回も見に行かなかったら結局最下位だったんですね。ああやっぱりな、みたいなところがあって。その時はこちらに来るなんて話はありませんでした。なので、就任した経緯を一言で言うと、自分の意志で僕が行って立て直してやるという話ではないんですね。ただ、いちOBとして、ここの野球部でいろんなことを学ばせてもらいましたし、社会人野球に行くのにワセダの野球部には非常にお世話になっていて恩義があるので、少しでも現役に恩返しをしたいという気持ちで来ました。

――お二人は、高校、大学、社会人と豊富な経験があると思いますが、大学野球の良さというのはなんだと思いますか

佐藤 高校野球は一言で言うと、監督なり先生に言われた通りにやるのが高校野球かなと。社会人野球というのはある意味お金をもらってやる、ほとんどセミプロの野球なので、自分の金を稼ぐためにやる。社会人野球は誰でも行けないですよね、来てくださいって言われた人しか。大学野球というのは野球がやりたい人は誰でも野球部員になれますから。そこで、高校野球にはない、自分で考えるという。高校生は言われた通りやるけど、大学生は自分で考えて自分でやるということができるところですし、ノンプロと違って失敗してもクビになることはないわけですよ(笑)。4年間はちゃんとできるというのと、社会に出る前にいろんな野球以外の勉強もできる、させてあげられるというところでは一番ちょうどいい、年齢的にも成長できる時で、そういう意味でいい環境じゃないかなと思います。

――では、道方コーチが就任に至った経緯を教えて下さい

道方 先ほど言ったように、昨年の7月までJFE東日本の監督をしていて、都市対抗の予選で敗れたので自分の方から退任して、今はJFEのアドバイザーということで一応籍は残ってるんですけど、もうだいぶ自由な時間ができたので、母校への恩返しと言いますか。それとOB会の稲門倶楽部の方から、これは佐藤君と一緒なんですけど、やはり長年早稲田大学の野球部というのは監督一人が学生を指導するという体制で。今の世の中いろんな管理上の責任というのもありますし、なかなかそこは物理的な管理体制に問題がありますよというのは、我々外からはOB会にも話はしてたんですけど、ならお前行けや、となって(笑)。まあ自由な時間もできたのと、髙橋監督は一期上の先輩なので。就任1年目は良かったんですけど、2年目、3年目と非常に苦労されてる姿が外から見て分かったので、少しでも力になれればということで受けました。

――今は首脳陣のお三方の役割分担というのはどのようにされていますか

道方 名前の通り、監督、助監督、コーチですね。彼(佐藤助監督)は常勤でいますけど、私は非常勤ですから、いつも非常勤監査役だなんて冗談言ってるんですけど(笑)。

佐藤 (笑)。

道方 それと私はバッテリーですね。あとは全般的に監督を補助する助監督、役割分担というのは概略を言うとそんなところですね。

――佐藤助監督は髙橋監督とはどのように役割分担をされていますか

佐藤 監督もピッチャーのことについては道方コーチに全幅の信頼を置いていて。もちろん最終的な判断、決断は監督がされますけど。全般的な選手の状態だとかいろんな情報だとかは僕の方で集めて監督と相談をして、こういうところを直していこうとか、この選手のこういうところはこうやっていこうとか。上に監督がいて、僕らがそれぞれのエリアをもうちょっと細かくいろんな情報を集めて、チームとしてベストのコンディションに持っていって、ベストのメンバーで試合に臨むという、そういう役割分担をしています。

――道方コーチも去年の試合は球場でご覧になっていましたか

道方 見てましたよ。

――どういったところが足りないと思いましたか

道方 1点差で負ける試合も多かったですしね、勝負所で自分から転んでしまうような、自滅するような試合も多かったですし。そういう意味では非常に外から見ていても歯がゆい、惜しい試合が多かったです。圧倒的に負けてるわけではない、力負けしているわけではないのに勝てないというところが、外から見ていてもどかしかったですね。

――実際に就任された当初の、お二人のチームに対する印象はいかがでしたか

佐藤 正直に言うと、僕の頭の中には社会人、日本石油の野球が残っているんですよね。比較の対象はそこになるんですよ。だからそこと比べるとさっき言ったように、学生と社会人の立場は違うので仕方がないんでしょうけど、練習のメニューは一緒なのでやることはやってるんですけど、そこに対する思い入れというのはやっぱり全然違うなと思いましたね。

――それは失敗してもクビになることがないといった意味でしょうか

佐藤 ノンプロの選手は自分がちゃんと試合で活躍して結果を出さないと野球ができなくなる。学生の場合はそれが全てではないのもありますけど、みんな試合に出て活躍したいという気持ちはあるんですけど、試合で頑張ればいいから練習はそんなに、というふうに感じたんですね。

――道方コーチはいかがでしたか

道方 非常にまじめで大人しいと、チーム自体が。小島(和哉主将、スポ4=浦和学院)がエースピッチャーでチームリーダーという、去年から今年のチームはそういう体制が垣間見れてたんですけども、やはり彼一人では今シーズンもしんどいので。4年生を中心に一人一人がもう少し活性化っていうんですかね、元気出してやろうねっていうことなんですけど、そういったところがもう少しチームとしてうまくなってくれば、もっと強いチームになれるなとは思います。

――お二人がワセダで現役をされていた頃と比べてはいかがですか

道方 もう四十年も前の話ですけど、やはりその時代時代で、我々の時代も法政大学に江川卓がいて法政が四連覇したり圧倒的で、なかなか当たって砕けろで、いつも砕けて負けてたんですけど(笑)。そういう意味では悔しい思いを散々した年代なんですけど、選手個々は自立してた感じはありましたね。だから今も自立した選手がもう少し出てくれば。先ほど大学野球のいいところはどんなところですかとお聞きになりましたけど、やはりちょうど高校から社会に出る、まさしく青春時代の真っ只中で、本当に自立することの意味をいろいろ感じながら成長していく時期だと思うので、その自立の仕方は人それぞれなんで、ただそれが自立できない人も、まだ残念ながらいるのでね。それはやっぱり学生なので仕方ないので、自立できるサポートは我々がしなければならないです。

――佐藤助監督は現役時代捕手をされていました。ワセダの捕手は他大学と比べても層が厚いと思いますが、どのように見ていますか

佐藤 技術的に非常に優秀だと思います、みんな。4年生が二人、3年生が二人、1年生が一人、春のリーグ戦でベンチに入ったと思うんですけど、それぞれみんな特徴があってどの選手が試合に出てもいい、という。それもレベルの高いところで。あとはやっぱりキャッチャーというポジションというのは他のポジションと違って、ただ野球が上手であればいいだけではなかなか選手として一人前になれないので、いい経験や苦い経験をもっともっと積んで、もっと上のレベルになってもらえたらなと。今までたくさん練習もしてきたんだと思いますし、いいキャッチャーがいっぱいいるなと思います。僕らが現役の時よりも優秀だと思っています。

――髙橋監督も捕手出身ですが、お二人で捕手の育成に関して何か話していることなどはありますか

佐藤 うーん、特別これといってはないですね。でもやっぱり道方コーチはピッチングコーチですけど、ピッチャーが打たれたりもしくはフォアボール出したりするのはピッチャーだけが悪いわけではないんですよね。その辺はやっぱり髙橋さんと一致したところで。たとえピッチャーが調子が悪くてもキャッチャーは言葉だとか仕草だとかで助けてあげることができるはずなんですよね。もちろんサイン、インサイドワークって言うんですけどね。そういう部分ではもっともっとまだまだ。そこはやっぱり経験なんでしょうかね、間を取ってあげたりとか。技術的な部分では申し分ないんですけど、そういった部分でもっともっといいキャッチャーにならないかなと、そういう話は髙橋さんとはしていますね。その辺がキャッチャーの、技術的にみんな高いレベルで一緒だけど、じゃあ誰が一番試合でいいのかなというと、やっぱりそこの部分ですね。

――現在、正捕手は岸本朋也副将(スポ4=大阪・関大北陽)ですが、見ていてキャッチャーとしていかがでしょうか

佐藤 彼は春のリーグ戦の最初の試合はスタメンではなかった。それがあったので今の岸本があると思っています。最初からスタメンで出ていたら今の岸本はキャッチャーとして、もちろん打率もいいしそういう部分もあるんですけど、さっき道方コーチもおっしゃっていましたけど自分に何が足りないのかなということを自問自答して、あ、俺はこれが足りないというのに気付いて、それを彼は実践したんですよね、リーグ戦中。それで這い上がって、スタメンの座をつかんだんですね。だから、最初スタメンで出てたら今の岸本はいないと思っています。

――では、投手について道方コーチに伺っていきます。現在の投手層は全体としていかがでしょうか

道方 エースの小島を筆頭に、早川(隆久、スポ2=千葉・木更津総合)、今西(拓弥、スポ2=広島・広陵)と左が3枚優秀なピッチャーがいる。他の六大学にはあまりいないと。一線級の左ピッチャーが3人いる、それに若い選手で徳山(壮磨、スポ1=大阪桐蔭)、西垣が春のシーズンでいいスタートが彼ら自身ではできた。あとは柴田(迅、社2=東京・早大学院)ですとか、その次を狙える選手なんかも育ってきていますので、バリエーションという意味では、右、左、サイドスローで増田(圭佑、文4=茨城・江戸川学園取手)だとか藤井(寛之、法3=福岡・東筑)なんかもいますのでね。バリエーション豊かに戦術ができるフォーメーションだと思います。

――小島投手が以前の対談で、道方コーチから「自分を知りなさい」と最初にアドバイスされたとおっしゃっていたのですが、それはどういった意図でしたか

道方 若い時って、みんな自分が一番知ってるようで知らないんですよ。我々の経験則でね。だから自分を知りなさいというか、野球のバージョンで言ったら自分がどういうピッチャーだと、何が強みで、何が弱みで、試合の時に何ができて、何がうまくできないか。そういう意味で自分を客観視できれば、得意なところを中心にやればいいわけですから、もっと窮屈にならないで野球ができますし、自分を知るように、というのはそういう意味で言ったと思います。

――成績で見れば小島投手は去年より良くなっていると思いますが、見ていて何か変化は感じますか

道方 あ、変化は感じます。キャプテンだっていうところもありますし、チームを背負って投げると、投げないときはベンチでいつも大声で声援を送っています。そういう意味で本当にチームを背負ったかたちで、俺がやるんだというのが全面的に出ていて、投げることだけではなくてチームを引っ張るということをいろいろやってくれていると思います。

――ルーキーの西垣投手と徳山投手には現在どういった指導をされていますか

道方 二人とも最後早慶戦で1年生リレーで完封できたんですけど、ある意味徳山の方が甲子園の優勝投手でもありますし、『大阪桐蔭』という大看板で早稲田大学に入ってきましたから、誰が見ても即戦力だと見られるわけですよね。西垣の方はちょっと高校時代の成績からすると徳山のチームまではいかなかった。そういう意味では大学入学の段階で少しステージが違ったんですけど、春のリーグ戦入っていく中で、最後の早慶戦で西垣が3イニング投げたことで同じステージに立てたような、西垣の成長度合いがあります。これからいいライバルで、二人が卒業するまでしっかり競い合って、二人ともいいピッチャーになってもらいたいです。

――佐藤助監督から見て、現在の投手陣はいかがですか

佐藤 今あったように、小島が大黒柱でいるんですね。あとは誰が芽を出すか、みたいな。最悪、小島だって人間なんでどこで風邪引くか分からないので、その時に、よしじゃあ俺がやってやるっていうピッチャーが今はまだいないので。ただ可能性はあるんですよね。そういう気概を持って、これから俺が早稲田大学野球部のピッチャーの柱になるんだという、出しゃばるぐらいのね。さっき大人しいというのがありましたけど、そういう選手が出てきてほしいなと。実力はそこそこあるので、あとはもう気持ちの問題。俺が背負って立ってやるんだというところが望みですね。

――道方コーチは、以前アンケートで投手に重要なものは平常心だと回答されていました。平常心を試合で出すためにやるべきことはどんなことだと思いますか

道方 要するに、自分が平常心でいられるための根拠を持っていることです。それは心技体はあるけども、私が学生にうるさく言うのは技術的な根拠、裏付け、そこをしっかりやらないと。これはバッターも一緒なんですけど。やはり技術的に正しい努力をして、正しい方向性で成長していけば、落ち着いてゲームができるわけです。特にピッチャーは自分がボールを持っているわけですから能動的に試合をコントロールできるので、自分の技術を裏付けに、根拠に平常心をキープできれば、もっと野球を楽しくできると思います。

――技術面で正しい方向に導くために、投手の指導で心掛けていることはどんなことですか

道方 一般的に言うと、下半身を使って投げるということです。結構細かいので言うとキリがないんですけど、野球やってない方はなかなか理解しにくいとは思うんですけど、一言で言うとやはり下半身の使い方、しっかり気持ちを込めて投げるということです。

準備がもたらす平常心

準備の大切さを強調した佐藤助監督

――ここからは春季リーグ戦を振り返っていただきます。まず、前半2カードでつまづくかたちになりましたが、敗因はなんだったと思いますか

佐藤 一言で言うと、公式戦にまだ慣れてないというのが一番だと思いますね。神宮球場でリーグ戦の試合をして、勝ち点を取るという。結構去年からメンバーが変わったと思うので。それは裏を返せば油断というか、準備不足というか、気構えですよ。これって簡単なようでなかなか難しいんですけどね。初めて行く場所だけど、ここ(東伏見)でやっているのと同じ力を出せっていうのは難しいんですけど、そこがちょっと、やっぱりスタートダッシュができなかった一番の理由ではないかなと思っています。これはピッチャーも野手もですね。ピッチャーは、もちろん点は抑えていましたけど、理想は取った点より少なく抑えることが守りの方ですし、相手より1点でも多く取るのが野手ですから、ピッチャーも野手も同じかなと思いますね。

道方 特に立教戦と明治戦、勝てなかったゲームというのはことごとく相手に先行されていたんですよ。いつもピッチャーに言うのは守りから攻撃につなげていくという試合のリズムというのがあるんですね。選手たちにもよく言うんですけど、やっぱり守りをしっかりして、そのリズムを今度攻撃につなげていくということが、特に序盤できなかったです。守りから崩れていったというゲームが残念ながらあって、それが今、佐藤助監督が言ったような準備不足の問題で、だいたい春のリーグ戦もそうですし秋もそうですけど、リーグ戦の1節目ってやっぱり非常に入りが難しいんです。ただこれ、相手も一緒なんでね。やはりいかにそこで平常心でできるような準備をしてきたかという、そこをしっかりやった方が勝つということなので。まあ後手を踏んだなという感じはします。

――春季リーグ戦では守りの面で課題が出ましたが、現在守備力を上げるために取り組んでいることはありますか

道方 ありますか?

佐藤 さっき言った、去年の秋の5位に終わった一番の敗因というのはやっぱり技術面もそうですけど、いろんな準備ですかね。専門的に言えば野球ってランナーが一人いたら、次に起こる現象って十や二十じゃなくていろんなことが起きるわけですよ。何が起きてもびっくりしない、想定外にしないという、そういう準備ですよね。こういうことが来たらこうしようという、その心構えを常に持って、どんなことが起きてもびっくりしないように次の対応を取るということを毎日練習で生徒たちには言っていますね。これはやっぱり習慣にしないと、無意識のうちにそういうことができるようにしないとなかなか本物にならないので、ほぼ毎日言い続けています。それが一番ですかね。

――その後、東大、法大と徐々に調子が上がっていくかたちになりましたが、その2カードはいかがでしたか

佐藤 まあ東大戦も結果的には勝ちましたけど、8回まで2試合とも同点でいったんですけど、最終的に9回やって。相手が東大でも、勝つ地力はあるんですね。だからそれが発揮できた結果ではないかなと思います。それで法政、慶応からたくさんの点数を取りましたから、だんだん東伏見でやっている力を神宮で発揮する割合が増えてきたということではないかなと思いますね。

道方 それなりに東大戦苦戦しながらも勝ち点をしっかり取ったという。1戦目だったかな。小島が投げてて、0-0でいって6回だったかな。ワンアウト一、三塁かなんかのピンチがあって。私マウンド行ったんですね。その時マウンドで小島と岸本と話したのは、「ちゃんと落ち着きなさい」と。「冷静に考えなさい」と。「東京大学とやって早稲田大学が9回まで1点も取れないことって、俺の記憶にはそうない」と。だからちゃんと冷静に考えれば、そのイニングだけで1点取られちゃいかんと思うんじゃなくて、1点取られていいじゃないかと、ワンアウト一、三塁で。早稲田大学が東京大学に9回やって完封なんかあり得ないよという話をマウンドでしました。「あ、言われればそうですね」と小島が言ったんですよ(笑)。それが平常心なんですよ。平常心になってないわけ。いかん、負けちゃいかん、点取られちゃいかんという、その場のすごく狭い感じの意識になってしまう。だからそこを冷静にやらないと。冷静にっていうのはそういう意味です。なかなか試合って選手一人でそういう心持ちになりにくいんでね。まあその辺をちょっと尻たたきに行って、ある意味小島なんかもそういうところから自分の持ち味というか、そうか打線を信じて投げればいいんだと、思い切ってバッターに踏ん切って放ればいいんだとか、そういうプラスの方向に行けた場面が多かったなという感じはしますね。

――普段マウンドに行くタイミングで心掛けていることはありますか

道方 後手を踏まないように。だって点取られた後にマウンド行ったって遅いじゃないですか。だから決定的な点を取られる前に、マウンド行くようにはします。

――最終週の早慶戦では勝ち点を取ることができました。1回戦で敗れてから、2回戦に急にチームが良くなったような印象を受けましたが、何が良かったと思いますか

佐藤 一つはやっぱり小島主将がチームの主将として、悔しい気持ちもあっただろうし、よし見返してやろうという気持ちが、他の選手、140人強の部員がいるわけですけど、そこに伝わったんでしょうね。前の日投げて、2試合目も投げたいと。自分でももちろん打って走ったわけですね。そういう部分で、調子が出てきたというわけではなくて、技術的に急にうまくなるということはないですから。一つになる、慶応大学も一つになって完全優勝、ワセダは優勝の芽はないけどやっぱりこのまま負けられない、その気持ちの差として上回ったというところではないでしょうかね。技術的に、どう考えてもどっちの方が上というわけではないと思ってますので。

――道方コーチから見ても、やはり小島主将の連投というのはチームにとって大きかったでしょうか

道方 あれが士気を高めたということでしょう、志願登板ですから。まあ普通だったら1戦目落として2戦目エースピッチャーが投げるというのは普通のリーグ戦ではないですから。だけど、もう自分から投げたい心情になったというのは、そういう意味でチームを背負っている証だったと。それがチーム全体に、結果が良かったので結果的にいい方向に転んでいったんでしょうね。

――慶大が連覇することになりましたが、慶大を見ていていかがでしたか

道方 非常に投手力も安定していますし、野手もびっくりする選手はいないんだけども非常に積極的に振ってきますし、いいチームだと。

佐藤 去年いた岩見君(雅紀、現東北楽天ゴールデンイーグルス)みたいな、ああいう派手さはないですけど、一つ一つ一生懸命一塁まで走るだとか、そういう部分でコツコツやってる。地味なとこだけど、したたかにやってるなと、そういうチームだと思いますね。

自立した投手

小島主将に次ぐ投手の育成が急務となる道方投手コーチ

――春季リーグ戦を終えてみて、来季早大がリーグ戦で優勝するために必要なことは何だと思いましたか

佐藤 ピッチャーも野手も誰が試合に出るにしても、一つは先ほども言ったように準備をすることですかね。それと、自立することです。自立するというのは、何をやるのかということと、それをどういう気持ちでやるかということですね。たとえば失敗したらふてくされてしまったり、そういうことって人間あるわけですよね。そうではなくて、そういう気持ちをコントロールして、自分がやるべきことをちゃんと最後までやる。あとは信頼ですかね。自分の周りのチームメートをしっかり信頼して声を掛けるとか。個人の力とチームの力、それが一つになれば優勝できる技術は十分持っています。あとはそういった自立する力とか、信頼する力とか、準備する力とか、それが整えば間違いなく優勝できると思います。

道方 投手コーチなのでピッチャーだけで言うと、小島に頼らない、もう一人自立したピッチャーが出てくると。本当に一人でいいんです。誰か分かりませんけど、その候補が早川であったり、今西であったり、徳山であったり、西垣であったり、柴田であったりなんですけど。そういうふうに名前が出てくるぐらいには、層は厚いので。ただ、その中から自立した人がもう一人出てきてほしい。そうすれば小島の負担ももっと楽になるし、いい方向にチームが行くと思います。

――では、春季リーグ戦後のお話を伺っていきます。現在、1軍夏季オープン戦は3戦全勝ですが、佐藤助監督は指揮をされてみていかがですか

佐藤 たまたま監督不在で僕が指揮しているんですけど、いい意味で選手がのびのびやってるなという感じはするんですね。人の目を気にしながらじゃなくて自分の力を思い切り発揮してやろうという。それがたまたまいい結果につながってるのかな。ただ反省点もしっかりあるんでね。そういうことはしっかり潰していきたいと。オープン戦なので、僕自身は勝ち負けはそんなに重きを置いてないんですね。ちゃんとその試合ごとにテーマは話をして、テーマを持ってやってるので、それをちゃんとできてるかという。ただ結果的に試合に勝ってるのは、いい意味でさっき言ったように、心情的に朗らかな気持ちでそれぞれ失敗を恐れず思い切ってプレーしてるのが、いい結果につながってるのかなというふうに見てますね。

――きょうの試合で言うと、テーマはどういったものでしたか

佐藤 きょうは『自立』と『信頼』と『謙虚』。謙虚というのは、きょうの相手は社会人チームで、いいところがたくさんあるので、謙虚な気持ちで相手のチームの選手のいいところを謙虚な気持ちで見て、技術以外でも見習うべきところは見習えという話をきょうはしました。

――お二人から見ていてここ最近の試合で伸びている選手であったり、特に期待している選手はいらっしゃいますか

佐藤 伸びてきているのは、早慶戦以降小太刀なんかは。今まで試合出てない中では瀧澤(虎太朗、スポ2=山梨学院)だとか金子(銀佑、教2=東京・早実)、それから真中(直樹、教2=埼玉・早大本庄)、その辺ですね。特に真中なんかはベンチも入ったことないんですけど、体は小さいんですけど、一生懸命頑張っています。

――投手で言うといかがでしょうか。出てきてほしい選手というのは

道方 まあみんな出てきてほしいので、僕はこの人が、というのは特別ないんですけど。先ほどから名前を挙げている中から一人。その意味では誰でもいいです。小島を助けるもう一人の核が出てくれば。そういう可能性があるのは何人かいますんでね。そういう意味では誰か出てくるでしょう。

――春季リーグ戦が終わってから、髙橋監督とこういった方針でいきたいというようなお話はされましたか

道方 当然リーグ戦終わった後ですからね。早慶戦終わった直後にも、いろいろ。早慶戦は勝ったけどリーグ戦全体ではこれじゃいかんね、とか、こうしていこうねみたいな話は、それは当然しますね。

――三人でお食事をされたりすることもありますか

道方 三人ではなかったですけど、OB会とかの席では。

佐藤 毎日練習前、練習後に話もしたりするので。食事に三人で行ったということはないですかね。

――では最後に、お二人それぞれ来季への意気込みをお願いします

佐藤 早慶戦で勝って、リーグ戦で優勝して、日本一を勝ち取って、今年を終わりたいです。

道方 監督も常々言ってるように、早慶戦で勝つ、リーグ戦で優勝、それと秋の神宮大会優勝、それが日本一ということですね。今年はしっかりその3つを獲りにいくということに尽きます。

――ありがとうございました!

(取材・編集 皆川真仁 写真 宅森咲子)

互いを信頼し合う関係性が伝わってきました!

◆佐藤孝治(さとう・こうじ)(※写真左)

1962(昭37)年8月15日生まれ。東京・早実高出身。1985(昭60)教育学部卒。助監督。現役時代の早慶戦での思い出を伺ったところ、2年生の秋を挙げてくださいました。ちょうど大学100周年の時で、9回表に逆転して優勝を果たしたのが思い出に残っているそうです。「応援してくれる人がたくさんいるというのは今考えたらものすごくありがたい話だなと思います」と当時を振り返ってくださいました!

◆道方康友(みちかた・やすとも)(※写真右)

1954(昭29)年4月20日生まれ。大阪・箕面自由学園高出身。1978年(昭53)教育学部卒。投手コーチ。「佐藤助監督みたいに華々しい優勝ができなかった」としながらも、佐藤助監督と同じく2年秋の早慶戦を思い出に挙げてくださった道方コーチ。優勝の可能性が潰えた後の3回戦で石山建一監督に初先発に抜てきされ、なんと延長18回を一人で投げ抜いたそうです。当時は早慶3回戦の延長規定がなかったため終わりが見えず、体力は限界。最後は現在JR西日本の監督をされている後藤寿彦氏にサヨナラ打を浴びてしまったそうですが、「自分の中では達成感も大きくて、失礼なんですけど正直負けてそんなに悔しくなかった(笑)。非常に自分の中ではいい思い出です」と笑顔を見せてくださいました!