【連載】秋季早慶戦直前特集『雪辱』第6回 三倉進

野球

 全早慶戦では地元愛媛で大暴れ。東京六大学野球リーグ戦(リーグ戦)初本塁打も記録し右肩脱臼からの完全復活を印象付けた三倉進(スポ4=愛知・東邦)。打撃に関して独特の感性を持つ三倉が、自身の打撃論について、そして不振の中でもぶれない自身の信念について明かしてもらった。

※この取材は10月20日に行われたものです。

「一球で仕留めることができていない」

自身の打撃論を語る三倉

――今季の全体的な打撃を振り返っていかがですか

 思い切りよく振りにいけているのはいいと思っていますが、一球で仕留めることができていないので、相手バッテリーからするとラッキーな形になっているのが反省点ですね。

――明大2回戦でリーグ戦初本塁打を記録しました。振り返っていかがですか

 明治の投手は速球にキレがあるというか球速もあり重みのある速球を投げてくるので、それに振り負けないように準備していました。そこに抜けたフォークかチェンジアップが高めにきたのでうまく運ぶことができました。理想は真っすぐをとらえることでしたけどね。

――打った投手は明大の長江投手(理貴、1年)でした。初対戦でしたが、三倉選手がよくおっしゃる「イメージ」はどうでしたか

 真っすぐに自信があると思いましたし、制球もアバウトではなかったのでこの投手を調子づかせると厄介だと思っていました。受け身の姿勢だとグイグイ押されると思ったので、自分から仕掛けにいくような感覚で、とにかく真っすぐを前に運ぶイメージでした。

――イメージしていた速球とは球速差がある変化球だったと思います。よく対応できたと思うのですが

 苦労する球ではなかったというのもありますし、日頃からその練習もしていますが追い込まれていなかったので。1ボールからだったので次ストライクなら打ってやろうとは思っていました。コースも高めだったことが良かったと思います。

――打った瞬間はどうでしたか

 打った瞬間に確信しました。打った瞬間の弾き具合と角度で確信しました。

――この打席が三倉選手の理想とする打撃ですか

 理想は全方向にライナーでスタンドに入るか入らないか関わらず打球を打ちたいです。ただ今季に入り自分から仕掛けにいくイメージで思い切り振っていくスタイルにしてからは自分のタイミングではなくてもうまく運べるようなアプローチができるようになりました。外角の球もこすってスライスする打球が多かったですが、逆にフェアゾーンに入れる、スライスとは逆の回転をかける感覚に変わってきたのがいいですね。

――その感覚をつかんだきっかけはありますか

 逆方向に関しては今までは単純に距離を出そうと取り組んでいました。そうすると力みが出たりバットのヘッドが下がったりしていました。打撃の後ろの動作の反動を大きくして打とうとしていました。ある時プロ野球を観ていてプロの打球は高く上がると思いました。そこで飛距離を出すことから打球の高さを出してみようと取り組みました。打ち取られても高いレフトフライとか。もちろん基本はセンターにライナーですけど、外角に限って取り組んでしたらある時自分の中でのインパクトの仕方というか、力加減がしっくりきて切れない打球が打てるようなかんかくがわかりました。

――野球界でも「ゴロよりフライ」という動きがありますがその影響もありましたか。高くフライを打ってみるという試みはあまりなじみがないものだと思います

 メジャーリーグでその動きが強いですが、あれは真似できないのです(笑)。その影響は少ないですがさっきの感覚をつかんだ時に紙一重の勝負で、高めのボール気味の球をタイミングばっちりで打った時高いキャッチャーフライを打ちました。東伏見のバックネット上の防御ネットを軽く超えたことがあったのですが、この経験は今までなかったので。それだけスピンをかけられている証拠だったのでいい感覚でした。外野フライなら打てる人多いと思いますが、キャッチャーフライはなかなか難しいですし、打撃練習でもどうすればキャッチャーフライ打てるのか取り組みました。少し遊び感覚もありますが、そのバットコントロールも含めて取り組みました。バックネットにファール打つことはあっても高いキャッチャーフライは中々ないと思って。その感覚のスイングでセンターにライナーという感じですね。

――この取り組みはかなり面白いですね。初めて聞きました

 あまりないと思います(笑)。

――今季の他の打席でイメージ通りの打撃ができた打席があれば教えてください。

 立大戦のライトライナーと明大戦(2回戦)の本塁打の試合の打席のライト前ヒットですかね。打球のタイプは違うのですが、ライト前の安打は振りぬけたというか、自ら仕掛けにいった中でも体重を後ろに残して打てましたね。打った後に左足が動く感じで。映像で見ると変ですけど自分の中では振りぬけました。ライトライナーも同じような感じでした。

――春と秋の打撃のイメージは具体的にどう変わりましたか

 精神的な面だと春は1球見るというか、自分が決めた球じゃなかったら打たなかったです。左投手で外の真っすぐ待っていたら外のスライダーでも打たないというか。秋は、外の真っすぐを待っていても真ん中から曲がるスライダーだったら打ちにいくようにしています。甘い球だったら積極的に打ちにいくことにしていますね。技術面はさっき言ったボールの入れ方、インパクトの仕方ですよね。タイミングを外されてもインパクトで勝負できるようになりました。さっき言ったライト前とかも。

――そのインパクトで勝負するというのは具体的にどんな技術ですか。最後まで手首を返さないということですか。

 インパクトまで打球方向を判断できるという感じです。この球は巻き込んでファールにするとか、我慢してライトやセンターに打つとかそういったものですかね。その最後のインパクトの瞬間まで具体的にイメージできるようになりましたね。

――それは左足に体重が残るからこそできると思いますが、その感覚が春にはなかったのですね

 春はそもそも打つ姿勢が違いました。よくひきつけると言われますが、自分には合わなくて投手主体のような感じがしてしまって差し込まれるイメージを持ってしまっていました。秋は自分が球を「呼び込む」こと、自分が主体的になることに切り替えたのがいい方向になりました。秋は仕掛けにいく中でも打つときは後ろに残して打つ感じですね。

――打撃というものはどんどん変えていくことで洗練されていくものだと思いますが、これだけは変えてないというようなポイントはありますか

目線と頭の位置ですね。見上げてかまえてしまうと右脇が開いてしまいますし、見下ろす感覚で、インパクトの瞬間も見下ろして距離を置く感覚でいます。

――初本塁打時にインタビューさせていただいた際「本塁打は意識していません」とおっしゃっていました。高校時代は東邦の強力打線で本塁打が注目されていたので意外でした。

 取り組むのが遅かったということもあります。高橋監督が就任してからは逆方向の打撃を重視する方だったので、率を残せる打撃を優先してしまいました。その結果昔より縮こまった打撃になりました。これだと自分の良さはないなと、チーム内から期待されているのは勝負所での長打だと思います。常に外野の間を抜いていくライナーを意識するようになりました。それを意識するようになったのは最終学年になってからですね。

――打撃のイメージというものは打席ごとでも変わると思いますが、カウントでも変わることはありますか

2ストライクになったら変えますけど、それまでは割り切って変えないですね。その割り切りが重要かなと思います。

――数字の関しては気にしてないとおっしゃっていました。元々の性格ですか

 昔は気にしていました。でも思い返してみると高校時代とか本塁打数しか気にしなかったなと思いました。今日安打何本打ったとか話したことなかったので。いつも長打の話題でした。それが1つですし、自分は狙って率を残せるような選手ではないので、打率より出塁率が大事だと思いますし、また率を気にすると当てにいく打撃になるので数字より感覚を大切にして、凡打でも内容のいい凡打ならいいと思っています。

――いい当たりでも野手の正面であったり好守に阻まれたりしている印象があります。「相手バッテリーが上だった」と思うそうですが昔からですか

 いまはシフトがありそれを活かす配球を組み立てて攻めてくるので、しょうがないと思うようになりました。高校時代の監督もそういった割り切りを重視する方だったというのもあります。

 もちろん他の選手のいいところを盗むこともそうですし、自分の映像を見ながら、その日の天気や自分のコンディショや感覚をすべて書き出していました。この日は左ひざが少し傷んでいたから重心が上半身にあったなとかその日に感じたこと、反省点をすべて書き出すようにしています。

振ってくると思わせるための「甘い球を一振りで」

飛距離アップに取り組んできた

――「甘い球を一振り」というテーマが生まれた経緯はどういうものですか

 実際は甘くなくてもファーストストライクを振っていくことがテーマです。ただこれも分析しながら思ったことです。追い込まれるとどの投手も厳しいコースに投げると思いますが意外にそれまではアバウトなコースで攻めてくることが多いです。追い込まれるよりは確実に届く範囲に球があるので、バッテリーに振ってくると思わせるためにもテーマにしています。

――テーマの達成度が60%と書いてあります。残りの40%を埋めるためには何が必要だと思いますか

 まだまだ外の球を仕留めることができていません。相手がファールを打たせようとした球に対して自分はファールを打ってしまっています・オープン戦でやってきたことがまだまだできてないです。

――佐藤晋甫主将(教4=広島・瀬戸内)の1年間の立ち振る舞いはどうでしたか

 言葉を使うタイプではないので最初は言いたいことがあるけど言えなくて悩んでいる姿が多かったです。でも4年生が支えられる代だったので自分たちがまずしっかりやることで負担を軽減できたらと思っていました。今は完璧ですね。

――し烈な争いをしてきた4年生外野陣にはやはり特別な思いはありますか

 負けたくないと常に思っていました。みんな決められたポジションがなかったのでそのおかげでどこでもできるので頼りになる存在でしたし、刺激になる存在でした。

――早慶戦についても聞いていきます。慶大投手陣の印象はいかがですか

 縦の変化球がいい印象です。投手もいいですがやはり郡司(裕也、2年)の配球というか攻め方がうまいのでそれにやられないようにしたいですよね。全早慶戦で打っているのでそれをかき消してほしいですね(笑)。そのイメージを持たれて攻められるのも嫌です。

――慶大の打撃陣に関してはどうですか

 役割が明確ですよね。任されていることがはっきりしていてその役割を果たすことができる打順ですよね。守っていて嫌ですね。

――早慶戦に対してはどのような思いがありますか

 いよいよだなと。もしかしたら人生最後の早慶戦ですし、あの観衆の前でプレーすることが最後かもしれないので、特別な時間ですよね。

――では最後に、意気込みをお願いします

 とにかく全力で、出し惜しみなく全てを出し切ります。優勝決定戦とはならなかったですけど、昨年も負けてことしも負けてしまったら来年も弱いと思われてしまうと後輩にもダメだと思うので、ここで2連勝して来年も応援しようと思ってもらえるような試合をしたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 高橋弘樹)

色紙には『姿勢』と書いて頂きました

◆三倉進(みくら・しん)

1995年(平7)7月26日生まれ。178センチ、86キロ。愛知・東邦高出身。スポーツ科学部4年。外野手。左投左打。打撃に関して独特の感覚を持つ三倉選手ですが、早慶戦ではとにかく全力でプレーし、後輩に戦う『姿勢』を示してくれることでしょう。