【連載】秋季早慶戦直前特集『雪辱』第4回 宇都口滉

野球

 現時点で東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)全試合フル出場、失策ゼロ、そして打率は4割2分4厘のリーグ2位。宇都口滉(人4=兵庫・滝川)はラストシーズンにこれまでの取り組みの成果を一気に開花させ、華々しい活躍を見せている。「人生のほとんどが野球」と語る宇都口がこれまで歩んできた道のり、この四年間での苦悩と模索、そして絶好調で迎えた最後の早慶戦に懸ける思いに迫った。

※この取材は10月20日に行われたものです。

「(首位打者は)正直気になるんですけど、あまり意識はしないようにしています」

躍進の今季を振り返る宇都口

――早大でのラストシーズンですが、残すは早慶戦のみということでここまでを振り返って思うことは

 チームとして全然勝てなくて、寂しいっていうよりも悔しい気持ちが大きいです。

――打撃に関してお伺いします。秋季リーグ戦開幕前に「ミートの正確さ」を心掛けているとお話ししていましたが、現時点でそれは達成できていますか

 正直こんなに打てると思っていなくて、これまでやってきたことが試合で出ているのでやってきてよかったなと思っています。

――アンケートでは「チャンスでの打撃」についての出来は「半々」との回答でした。良かった時、悪かった時のそれぞれ具体的な打席を教えて下さい

 打点もそこそこ挙げられてるんでチャンスで打てるようになってきているんですけど、立大(2回)戦の2点差の9回でノーアウト満塁で回ってきて自分のゲッツーで1点入れて終わったんですけど、あそこで打ってたら勝てたかもしれないっていうのはありますね。法大戦でも満塁で打てなかったときとかあったんで、ずっとチャンスで打てたかというとそうでもないかなと。

――特に印象に残っている打席はありますか

 いい当たりだったのは明大2回戦の1打席目ですね。左中間にきれいに打てたんであれは良かったです。

――どういった点が良かったのですか

 自分変化球はあんまり打てないと思っていたんですが、あの時は変化球をしっかり捉えて打てたのが良かったです。

――好調だった春からさらに調子を上げてきていますが、その要因はどこにあると思いますか

 ずっと意識しているのはファーストストライクをしっかり振りにいくことです。見逃しにいくのをやめようと思ってやったらうまくはまったというか、そこでしっかりタイミングを取りにいけるようになりました。

――打率がリーグ2位ということでタイトルを意識する気持ちもあると思いますがいかがでしょうか

 正直気になるんですけど、あまり意識はしないようにしています。欲を出さないように。バッターボックスから見えるんですよ、電光掲示板の打率が。めっちゃ気になるんですけど、見ないようにしています(笑)。

――現在リーグトップは慶大の清水翔太選手ですが、やはり気になりますか

 すごいですよね。うちのピッチャーに抑えてほしいですね。毎回ページ見て他の選手の打率とかチェックしてます。で、打率高い相手は「こいつ抑えてな」ってピッチャーに声掛けてます(笑)。

――開幕前にはベストナインも狙いたいとのお話がありましたが、今もその気持ちは変わりないですか

 そうですね、ここまで来たら取りたいです。

――守備に関しては、『失策ゼロ』を開幕前に掲げてそれを達成しています

 毎試合しっかり準備して臨めてるのでちゃんと動けてるのかなと思います。最終戦もしっかり準備して臨みたいと思います。

――準備とは特にどういうことをしていますか

 よく話しているんですけどやっぱり一歩目の早さが大事だなって思っていて。そのための体のキレだったりをいい状態にして試合に臨めるように、アップを怠らないで取り組むようにしています。

――試合前の準備はどのくらい時間をかけていますか

 2試合目の日は1試合目が始まる頃には球場に着いています。1試合目の日は8時半くらいには来てます。全体では来るんですけどそれぞれ思い思いのことをやって、直前になったらみんなで合わせてやる感じです。

――必ずアップの中で行うようにしていることはありますか

 腹筋とか体幹を毎回やるようにしています。ことしの秋から始めました。体のブレとかがなくなった気がします。

――それは誰かからのアドバイスなのですか

 アドバイスってわけじゃないんですけど、去年木田さん(大貴、平29商卒=現明治安田生命)がやってて自分も真似しよっかなって思って始めました。

――春から内野のメンバーに入れ替わりもありましたが、連携面はうまくいっていますか

 特に困ることなくスムーズにできていると思います。

――一番内野歴の長い宇都口選手が中心になっているのですか

 いや、そうでもないですね。岡(大起、社4=東京・早実)が最近出てて声とかで引っ張ってくれてます。

――その岡選手ですが、東大戦でスタメン出場した際に「(宇都口と)一緒に二遊間守りたいって話していた」とおっしゃっていました

 組みたいなって話はずっとしていましたね。二遊間は難しいんですけど(岡選手が)サードでゲッツー取れたんでうれしかったです。

――岡選手も同じことをおっしゃっていました。お二人は普段から仲が良いのですか

 そうですね、よく話す方です。

――試合中あまり感情を表に出さない印象ですが、意識してのことでしょうか

 意識しているというより、もともとあんまやらない方ですね。

――アンケートの中でも「目標などはあまり自分からは言わない」とありました

 自分であまり言わないというか、聞かれたら言うくらいですね。

――今季全体を振り返って、ご自身のプレーへの満足度はどのくらいですか

 75にしておきます。『失策ゼロ』は目標にして今のところできていて、バッティングでもやりたいことができていると思うので。で、残りの25はやっぱりチャンスでの凡打があったのと、あとはまだベストナインとか取れていないのであと最終戦も残っているのでそこに期待して、という感じです。

――春季リーグ戦の前に「神宮で活躍する姿を鮮明にイメージしている」とお話していましたが、これまでの自分の活躍とイメージしていた姿とを比較していかがでしょうか

 結構近いというか、それ以上のことができているかなと思います。特に秋は。

――どういう姿を思い浮かべていたのですか

宇都口 ヒット打ちまくって首位打者取るくらいの勢いで打つって感じです。春はそんなだったんですが秋はここまでいい調子でこれているので、イメージ以上かなと思っています。

――続いてチームについてお伺いします。今のチーム状況をどう捉えていますか

 全然良くないですね。何て言うんですかね、勝ち方を忘れてしまっているというか。勝ってても負けてるような暗い雰囲気というか感じがありますね。声が出てないとかじゃないんですけど。

――どうしてそういう雰囲気なのか、思い当たる点はありますか

 それが分からないんですよね・・・。なぜか勝ってても追い付かれて負ける、ほんと1、2点差くらいの接戦をことごとく落としているというか。春からなんですけど。その何かが足りない何かを模索するんですけどわからないままここまできてしまったという感じです。そこはもう来年、後輩たちにこうならないようにやってほしいなと思います。

――そのことについて4年生同士やチームの中で話すことはありますか

 もうラスト1カードなんで、切り替えて目の前の試合に集中しよう、勝ちにいこう、気持ちでいこうみたいなことを話しています。

「どうやったら自分を必要としてもらえるかって必死に考えてきた」

ここまで打率は4割を超え、リーグ2位につけている

――ご自身の選手としての強みや特徴はどのような点だと思いますか

 堅実さというかそんな感じだと思います。守備だったら取れるアウトを絶対取る。ファインプレーじゃなくても、ピッチャーが打ち取った打球は確実にアウトにするとかそういうところです。バッティングだったらバントだったり打撃だったらミートですね。ミート力はある方だと思っています。

――中学、高校時代からずっとそういう堅実さが持ち味の選手だったのですか

 そうですね、割とずっとこんな感じです。

――滝川高時代はずっと中心選手として活躍していたのですか

 1年生の秋くらい、3年生が引退してからですね。

――高校での生活は厳しかったですか

 まじでつらかったです。監督さんも結構厳しくて、練習もきつかったですし。冬に須磨海岸を走るんですよ、もうめっちゃきついです。あれは一生やりたくないですね。

――兵庫県で高校野球をする中で、甲子園への憧れはなかったのですか

 高校入学したときはありました。でも無理かなって。まあ滝川を選んだのは進学の方が理由だったので。

――そういったように、野球も勉強も両立して頑張ってきたことへの自負はありますか

 中学の時も滝川受けるって決めて受験勉強しながらでしたし高校の時も、中高はきつかったですね。結構頑張りました。

――その経験が今に生きていると感じることはありますか

 勉強もそうなんですけど野球もこつこつやることが大事だなっていうのは学んだ気がします。こつこつやることが苦じゃないというか当たり前というか。それでこつこつやってきたことが今結果につながってるんじゃないかなって思います。

――先ほどおっしゃっていた「堅実さ」についてですが、そのような選手を目指すようになったきっかけやいきさつというのはどのようなものでしょうか

 目指したというよりは、周りすごい人たちがいっぱいいる中でどう生き残るためっていうか。周りにすごい人がいっぱいいてパワーもあって長打力もあってすごい魅力なんですけど、自分にはそれは求められていないなと。自分は何をアピールポイントにして試合に出るか考えて、そういう堅実さ、確実さみたいなものをアピールしていかないといけないなと思ってやってきました。それは中学校の時からずっと考えてきたことですね。

――そう思うようになったきっかけやどなたかからの指導があったのですか

 具体的にはないですね。自分で考えて。

――大学入学時から、今のレベルで活躍することを目指していたのですか

 そうですね。自分のイメージでは3年から試合に出たいと思ってて、だから1、2年生の間はこつこつ基礎練習とか体づくりをやって下積みというか。3、4年で(試合に)出るのをイメージして準備してきました。

――早くから守備においては手応えを感じたとのことでしたが、打撃においてはいかがでしたか

 もう全然でしたね。みんな大きいし力もあるので、スイングの早さとか打球の早さとか全然違って。これはバッティングでは勝てないなと。まだまだ練習しないとあかんなっていうのが最初の感覚でした。

――早大に入って自分に足りないと感じたのがそういった点だったのですね

 力強さというか、そういうところですね。守備も手応えは感じたんですけど送球の早さとか一歩目の早さだったりは、全然力強さがないっていうかパワーがなくて。全ての面においてパワーもスピード感も劣っていると感じました。

――それを克服したり他のところで補ったりするために、具体的に取り組んだことはありますか

 まず筋力が足りないってのを一番感じたのでウエイトトレーニングに力を入れました。あとはご飯いっぱい食べるとか、フィジカル面ですね。

――大学に入ってから体格は変わりましたか

 めっちゃってほどではないですけど、少しは変わりましたね。

――春の沖縄キャンプの際に「去年はすごいチャンスをもらったのに応えられなかった」とおっしゃっていました

 もう思い出したくないくらいつらかったというか、悔しかった思いしかないですね。

――何か髙橋広監督(昭52教=愛媛・西条)からお話があったりはしましたか

 守備の面で結構ミスをしてしまって。直接じゃないんですけど後になってから誰か先輩から聞いたのが、「監督さんはおまえを使いたくて、期待してオープン戦スタメンで出したんだぞ」って。でもそこで全然結果出せないどころかすごいミスしてしまって。「(監督が)いくら出したくても、周りからの信頼がないと出せないからがっかりしてる」って聞いて。そこでやっぱり期待していただいてたんだなっていうのと、それに応えられなかった自分が悔しかったです。

――その経験を経て感じたこと、意識するようになったことはありますか

 守備の一球に対する気持ちの強さとか、試合に入る集中力とかまだまだ足りないなって。試合への気持ちの入れ方を強く意識するようになりました。

――春にも3年生の1年間が一番苦しかったとお話しされていました。スタメンに定着できないもどかしさのある中、どのような気持ちで過ごしていましたか

 リーグ戦も出ない分あっという間に終わってしまって。そこで腐っても仕方ないんで、自分の特徴のこつこつやることが大事だと思って、くさらずにやれたことが大きかったと思います。

――そんな中、特に何に支えられていたのですか

 とにかく自分の気持ちを強く持っていこうって思っていました。あと、4年生になる直前くらいに道端さん(俊輔、平28スポ卒=現明治安田生命)から連絡をもらって。道端さんも4年生から試合出始めたんですけど、電話で「4年生からでも間に合うから、折れずに腐らずに頑張れよって」。泣きそうになってあんまりちゃんと返せなかったんですけど「ありがとうございます、頑張ります」って。あれはすごい支えになりましたね。

――早大の4年間の中で特に大きな転換点となった出来事などはありましたか

 1年生の春の新人戦(春季新人戦)かもしれないですね。自分ベンチに入ってたんですけどセカンドが真鍋さん(健太、平29スポ卒=現JX-ENEOS)で。試合中に真鍋さんがライトと交錯してケガしてしまって自分が急きょ代わりに出ることになったんですよ。で、その試合でヒット打って、その後の夏の軽井沢の合宿に連れて行ってもらって、そこから結構評価してもらって、2年生ではベンチに入れてもらって色々いい経験をさせてもらったなと思っています。今思えば、あそこで偶然チャンスをもらえて、そこでヒット打てたのがきっかけだったのかなと思います。本当にたまたまそこで打てて、次の試合でも打って。それで野手では自分と八木(健太郎、スポ4=東京・早実)と吉見(健太郎副将、教4=東京・早実)だけ1年生で夏合宿に参加させてもらえたんですよ。そこでレベルの高い合宿に参加させてもらえて、2年生でもあの春秋連覇の年にベンチに入れてもらえて、あれがなかったらこんなトントン拍子というか順調にここまでこれなかったと思うので、大きい経験だったなと感じます。

――急きょ出場という中でヒットを打てたのはなぜだと思いますか

 まさか出るとも思ってなくて。本当に分かんないです、何にも考えてなかったですね(笑)。急に出て、オープン戦とかも出てなかったので高校引退してから実戦もほとんどなくてすごい久しぶりの試合で。でも、久しぶりの試合で、試合に出れる喜びとか楽しさっていうのは感じていたかもしれないです。

――やっぱり試合に出るのは楽しいですか

 試合は楽しいですね。出ないと楽しくない、見てるだけなのはもういいです。2、3年とさんざん見てきたので。

――早大での四年間も終わりに近づいてきていますが、憧れだった早大に入って、早大に来て良かったと感じることはありますか

 レベル高い中でやっていく中で、どうやったら自分を必要としてもらえるかって必死に考えてきたことは、この先も生きてくる大事なことだと思うのでその経験ができて良かったなと思います。

――引退だけでなく卒業も近づいてきています。卒業論文の準備は始めていますか

 ちょいちょい始めてます。『スポーツにおけるドーピングの効果』っていう題で書いていますね。良いことも悪いこともあるんで、本とか読んでちょっとずつ書き始めています。

――卒業後も野球を続けられるとのことですが、進路先のチームとの交流はもうありますか

 内定式があって、そこで同期と話したりはしました。

――野球を続けると決めた理由に「まだ野球がしたい」とありましたが、宇都口選手にとって野球とはどのようなものでしょうか

 人生のほとんどが野球で。本当に物心ついたときからボール握ってグローブつけてみたいな感じだったので、自分の生活から野球がなくなるのが考えられなくて。想像できないんですけど、どうしてもそれができない人もいる中で自分はできるかもしれないって。自分はできるところまでやりたいって思っています。

――これから先、どういう選手を目指していきたいですか

 今と変わらず、堅実さを大切に、必要とされる選手になりたいです。

「絶対に情けない試合はできない」

――最後の早慶戦になりますが、この一戦に懸ける思いはどのようなものですか

 チーム状況はあんまり良くないですが、四年間支えてくれた人たちに恩返しできるようないいゲームができたらいいなと思います。

――今季の慶大の印象は

 めっちゃ打つなと。あとは粘り強いなと思っていて、負けていても終盤に逆転する試合もあったので、勝っていても最後まで油断できない相手だなと感じます。

――全早慶戦ではかなり分が悪い印象でした

 いいイメージないですね。

――その慶大相手に、早大としてはどういう戦いができればいいと感じていますか

 ずっと言ってきたんですけどやっぱり先制してちゃんと逃げ切りたいですけどそんな甘い相手ではないと思うんで、そこで粘り切れる試合ができたらなと思います。

――キーパーソンは誰だと思いますか

 加藤(雅樹、社2=東京・早実)じゃないですかね。

――やはり5番を打っていて、4番の加藤選手の調子は気になりますか

 あいつが打ったら自分もよし続こうってなりますし、チーム全体も上がってくると思うので頑張ってほしいですね。

――早慶戦が四年間苦楽を共にしてきた仲間との最後の試合にもなります

 やっぱりメンバーに入っていない人が練習の補助とかすごくしっかりやってくれて。4年生にもなってしたくないことだったと思うんですけどちゃんとやってくれて、その仲間にも恩返しできるように感謝の気持ちを込めて、絶対に情けない試合はできないんで、勝負強い野球ができれば恩返しになるかなと思います。

――早慶戦ではどのようなプレーをしたいですか

 チームを救う守備だったり、先制点につながる打撃、チャンスでの一本ですね。

――最後に、早慶戦への意気込みをお願いします!

 絶対勝ちます。それだけです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 久野映)

全てを『出し切る』早慶戦に

◆宇都口滉(うとぐち・こう)

1995年(平7)9月12日生まれ。身長168センチ、体重67キロ。兵庫・滝川高出身。人間科学部4年。内野手。右投右打。野球以外で早大での思い出は、という質問に、考え込んだ末「特にないです」と答えた宇都口選手。早大に進学するため勉強にも必死だった中高時代、そして全てを野球に注いだ早大での四年間の努力を『出し切る』気持ちで最後の早慶戦に挑みます!