【連載】秋季早慶戦直前特集『雪辱』第1回 加藤雅樹

野球

 首位打者とベストナインを獲得するなど目覚ましい活躍を見せた昨季から一転、今季の加藤雅樹(社2=東京・早実)は苦しんだ。開幕から5試合連続で無安打。チームも早々に優勝争いから脱落した。第4週に初安打を放って以降は復調しつつあるが、不本意なシーズンであることには違いない。加藤の身に一体何が起こったのか。そして、早大の4番はいかにしてこの苦境を乗り切ろうとしているのか。その胸中に迫る。

※この取材は10月18日に行われたものです。

「背負っているものが春とは違った」

今季を振り返る加藤

――まずは今季を振り返っていかがですか

 何もうまくいかないというか、チームとしても個人としてもうまくいかないことが多かった感じですね。

――チームとしては順位が下位に沈み苦しい戦いが続いています

 すごく申し訳ないというか。ワセダはやっぱり世間のイメージからいうと「強い」という、OBの方々が頑張ってつくってきたイメージをこわしているというか。そういうつなげてきたものをうまくやれていないのは申し訳ないなと思います。

――個人としてはなかなか安打が出ませんでした

 ずっと結果を追い求めていて。春うまくいった分、秋ももっと活躍したいというか、もっと活躍するんだという思いで臨んだ分、そのギャップに苦しんだというか。「こんなはずじゃない、こんなはずじゃない」と自分を追い込んでしまったことが反省だなと思います。

――春よりも周囲の期待も大きくなる中で、重圧などもありましたか

 そうですね。そういう目で見られるので、結果を残さないといけないという。もちろん春も4番を打たせてもらっていたので結果を残さないといけない立場でしたけど、そこまで成績を残さなければいけないというプレッシャーはなかったです。秋は自分が活躍してチームを優勝して導かなければいけないという立場になったので、そういう意味では背負っているものが春とは違ったかなと思います。

――調子が良くなかった要因としては技術的な面と精神的な面どちらの方が大きかったのでしょうか

 どちらもあると思います。技術的にも春うまくいった理由とかも結果が出ない時期にすごく分かったので。技術的的にもそうだし、精神的にも自分を追い込んで悪い方に行ってしまったので。どちらもすごく反省が残る期間だったなと思います。

――明大戦で打てなかったことが超を崩した原因ではありますか

 そうですね。明治に勝ちたいという思いでずっとやっていたので。明治戦は打たないといけないんだという。春も明治戦で目立った活躍はできなかったので秋こそ打つんだと臨んだ分、初戦で安打が打てなくて、「おかしい、おかしい」と・・・。春は安打が出ない試合が珍しかったので、自分を追い込んでしまったというか、考え込んで結果が出ないという風になっていたと思います。

――チームに貢献したいとの思いが少し空回りして自分の打撃ができなかったのでしょうか

 そうですね。空回りもあったと思いますし、技術的にもズレというか。春から秋にかけてズレがすごくあったなと思います。

――野球人生で最も悩んだとおっしゃていましたが一番悩んだことは

 それはもう結果が出ないことに対してですね。そうじゃないということに気付けたのが最近ですね。

――「そうじゃない」とは

 結果ではなく、結果までのプロセスを大事にするという。結果が出る出ないではなく、そのプロセスで間違いがなかったかという。それを気にするようにするというか、大事にすることで少しずつ結果が出てくるようになったかなと思います。

――そのプロセスなどは練習などでしょうか

 練習もそうですし、準備もそうですし。自分が今までやってきた野球人生の中でバッティングにおいて一番大事なものは何だと考えた時に、出てくる代表的なもの、必ず崩してはいけないものが何個かあるので、それをしっかり確認するという。本当にすごく簡単なことですけど。「前に行かない」とか「タイミングをしっかり取る」とか「左足に体重を乗せる」とか。簡単なことをちゃんとやって、結果は運とかもあるので気にしないという。結果までのプロセスを大事にするということに気づきました。

――試合への気持ちの持って行き方としては、結果が出ていない時と今とでは違いますか

 そうですね。今までは結果に目がいっていていつも通りではないというか。今はいつも通りやって準備をしていけば結果はついてくるという思いがあるので、余裕が違うというか。今は準備さえすればそれでいんだと。それで結果が出なかったら、それはそれでいいんだと思えるので、その部分は成長かなと。

――調子が悪いときは球を追い掛けてしまったと話していましたが、具体的にどういった球に対してでしょうか

 そうですね、外の変化球すごく増えたので。少ないですけど、チャンスボールがなくて凡退する打席もあって。そういう打席があったので、その打席でその球を打たないといけないと。厳しい球でも最初から打っていかないとチャンスはないと勝手に思い込んでしまって、そこを追い掛けてしまいました。

――そこを最近は見逃したり、待てるようになってきたりということでしょうか

 1ストライク捨ててもいいぐらいの感じで、厳しい球、ストライクかボールか分からないような球は振りに行かないようにしています。

――カウントが悪くなったり三振をしたりしても仕方ないくらいの考えでしょうか

 2ストライクになればそこは振りにいきますけど、2ストライクまではしっかり自分が打てるチャンスボールを待つことを徹底するようにしています。

――東大1回戦で安打が出て吹っ切れたというか。楽になったような感覚はありますか

 ヒットが打てない期間はいつまで続くんだろうと思っていたので。1本出て「よし」というか、これからまた新たなスタートだと。すごく個人的で、個人としてしか戦ってなくて情けないですけど、そういう思いはありました。

――安打が出た時のチームメートの反応などは

 すごく「良かったね」と言ってもらえたので。仲間の支えもあったので、すごくありがたかったです。

――打てない時期は仲間の支えが大きかったですか

 そうですね。変わらず接してくれますし、元気を出そうとしてくれるので。自分は考え込んでしまうタイプなのですが、話を聞いてくれたりしたのでありがたかったです。

――どういったことがありましたか

 上級生にはご飯に連れて行ってくれる人がいたり、福岡(高輝、スポ2=埼玉・川越東)とかといつも練習しているんですけど、「いつか打てるよ」と言ってくれたので。そういう支えはありましたね。同級生とかも、お菓子くれたりだとか(笑)。そういうのはありがたかったですね。

――励ましてくれたり、気を紛らわせてくれたりということでしょうか

 まぁそうですね。「気にするなよ」という感じですね。

――今お話にあった福岡選手は今季活躍していますが、やはり刺激にはなっていますか

 そうですね。彼はすごくいいバッターなので。打率を残せる選手だと思うので自分も見習わなければいけないなと、刺激にはなっています。

――福岡選手の技術的にすごい点などはどこだと思いますか

 やっぱりミートセンスがいいというか。来た球を捉えたりとか、タイミングを外されても粘ったりとか。そういうミートに関するセンスはすごいなと思います。

「バット一本で生きていく」

ブレークから一転、今季は苦しんだ

――最近は調子が上がってきているように見えますが、安打のでている東大戦、法大戦についてはいかがですか

 感覚としては結果を気にせず結果までのプロセスというのをテーマにやっているので悪くないんじゃないかなと。まだまだできるなとはすごく思いますが、東大戦、法大戦に関しては打率は残っているので、上向きかなと思います。

――打率が2割に乗ってきましたが、数字が上がることで気持ちが楽になるようなことはありますか

 多少はありますね。ずっと0割よりは上がってきてくれた方が。周りからの目も違いますし、そういう面では気持ちは楽になりますね。

――今季は厳しい攻めをずっと受けているわけですが、今はどういう狙いを持って打席に入っていますか

 投手の配球もありますし、投手はどういう球種が得意で、とかそういう準備ですね。さっきも言った準備をしっかりするようにして、初球を何に張るかとか、これが来なければどうするかとか、自分がこういうのを打ったら(相手は)どうするかとか。そういうシミュレーションというのは頭でしてから試合に臨むようにしています。

――相手の守備シフトについて多少は気になるそうですが、そこを意識して打席に入ることはありますか

 一応見ていますね。法政だと左中間に寄ったりしていたので。あと、外野が下がってるのもありますし。振り回しても、強く打たないといけないというのもありますけど、そっち方向に飛ばないようにというか、そっち方向に飛んだらアウトだなというのは見ますね。ただ、それによってバッティングを変えることはないですね。

――最近はセンターやレフト方向への安打が多いですが、そこに関して意識はあるのでしょうか

 引きつけて打つというのはテーマなので。このままでいいとは思っていないですけど、とりあえず安打はでているので。もう少し引っ張って強い打球も打てればいいなとも思いますけど、それはあまり考えないようにしたいですね。

――春は引きつけて「軸で打つ」というのがうまくいっていましたが、「軸で打つ」という観点から見て変化はありますか

 軸で打つとなると無駄な動きが減る分、反動がなくなって力がうまくいかないときがよくあって。それを改善しようと思って上半身をねじって打っていたのがダメだったなと最近気づいて。軸で打って力を伝えるにはどうしたらいいかと考えながらやっています。

――ねじらずに力を伝えるとはどういったことでしょうか

 軸で打つと言っても振りだしに言ったら体重移動というか、ずっと左半身に重心を置いて回っていても力は全く伝わらないので。引きつけて振りに行ったら少し体重移動というか。体全体の体重をちょっと移動するというのは必要かなと思います。

――今季は序盤、不調に苦しんだシーズンになっていますがそこから得た今後の糧になるような経験はありますか

 結果までのプロセスが大事だとすごく気付かせてもらいましたし、バッティングって難しいんだなとすごい思いました。今までなんだかんだ打てるだろくらいの感じで打ててきたので。それに気づけたというのは良かったですけど、チームにすごく迷惑をかけて・・・。迷惑を掛けた中で、首位打者というしがらみの中で、周りからの期待は春から続いて、使ってもらっていて、そういう中で難しさというか申し訳なさというか、そういうのがすごいあったので。自分的には得たものがありますけど後悔しています。

――春に躍進をして、秋は苦しんでというここまでの一年について振り返って

 まだ終わってないですけど、本当に勉強になる一年間というか。たくさん悔しい思いをしたなというのが大きいですね。

――首位打者や4番打者というしがらみの中でやはり苦しい思いがありましたか

 情けない話ですけど、この秋は自分とばかり戦っていたので。周りが全然見えなかったですし、チームを優勝に導く4番とは程遠い存在になってしまっていたので、本当に反省です。

――チームへの貢献としては満足いくものではなかったと

 全然というか。むしろ自分が足を引っ張ったので4年生には申し訳ないなと思っていますし、早慶戦は残っているので早慶戦ではなんとかと思っています。

――来年以降もチームを引っ張ていかなければならない立場になったと思いますが、そこへの覚悟や自覚は増していますか

 そうですね。死ぬほどやんないとダメだなと思っています。

――この一年を通して、今後自分がどういう選手になっていきたいかどんな風に成長していきたいと思っていますか

 自分はバットマンというか、バッターなので、バット一本で生きていくしかないというか。野球選手として生きていくならバット一本だなと思っているので、バティングでは誰にも負けちゃいけないというか。バッティングでは誰にも負けないんだという思いを持って練習していって、そういうバッティングだけで一流選手として評価されるような選手にならなければいけないなと思っています。

――少し話はそれますが、ドラフト会議が近づいてきています。昨年は石井選手(一成、平29スポ卒=栃木・作新学院)が指名され、ことしは早大から2人がプロ志望届を提出し、高校の後輩である清宮幸太郎選手(早実高3年)がプロ志望届を提出するなど身近な選手がプロ野球選手になる、もしくは目指している中で「将来は自分も」というおもいはありますか

 そうですね。もちろん目指すところはプロ野球ですし、プロ野球に入って一流選手として活躍するというのが夢ですし、そのためにはまだまだダメだなという。こんなんじゃ絶対にダメなので。死に物狂いでやり切るしかないかなと思っています。

「やり返したい」

――早慶戦の話に移ります。早慶戦は優勝の可能性などがなくても負けられない試合だと思いますが、どういった思いで臨みたいですか

 早慶戦は自分が入ってから負けてばかりなので。全早慶戦もそうですし、慶大に苦汁をなめさせれてきたというか、やり返したいなという思いでいます。

――春は高校時代から中の良い津留﨑大成投手(2年)と対戦したいと話しておられましたが、今季は津留﨑選手も活躍しており対戦が予想されます

 高校時代から何度も対戦していますし、楽しみですし、神宮の舞台で高いレベルで彼と対戦できるのは楽しみです。

――秋の早慶戦はご自身にとって初となりますが、春とは違った思いはありますか

 そうですね、早慶戦が終了した時点で4年生は引退となるので、そういう意味では絶対に勝たせて卒業させてあげなければならないというか。そういう思いはあるので、春とは違った重要なゲームになるのではないかと思います。

――4年生への思いは特別なものがありますか

 そうですね。今の4年生は本当にお世話になったので、なんとか恩返しがしたいですね。

――4年生のためにもどういったプレーがしたいですか

 結果を恐れずに思い切ってやることがベストだと思いますし、本当に死力を尽くすという、全身全霊でやるんだという思いを体現してやりたいなと思います。

――ことしの佐藤晋甫主将(教4=広島・瀬戸内)を中心としたチームはどういったチームだと思いますか

 優しい方なので、そういう意味ではすごく和やかなチームだと思います。

――プレーする中でも4年生の存在というのは大きかったですか

 そうですね。本当に優しい方が多かったので、そういうのはあります。

――最後に早慶戦に向けての意気込みをお願いします

 しっかり全力で、死力を尽くして。活躍したいですし、絶対勝つんだという気持ちを忘れずに積極的に頑張りたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 新津利征)

色紙に記したのは『全身全霊』

◆加藤雅樹(かとう・まさき)

1997(平9)年5月19日生まれ。185センチ、85キロ。東京・早実高出身。社会科学部2年。外野手。右投左打。今の4年生には「本当にお世話になった」と話す加藤選手。早実高時代、加藤選手が1年時に3年生だった先輩も多く、大学入学後1年生で唯一沖縄キャンプに帯同しリーグ戦でベンチ入りした際にも優しく接してくれた先輩が多かったそう。そんな4年生との最後の試合となる早慶戦。4年生のためにも、『全身全霊』で宿敵との戦いに臨みます。