【連載】春季早慶戦直前特集『movin’ on!』 最終回 髙橋広監督

野球

 昨年の躍進から一転。名将・髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)2年目のシーズンは厳しい戦いを強いられている。目指してきた守りの野球ができておらず、現在リーグ5位。最終週・早慶戦では、なんとか自分たちの野球を見せつけたい。迫る伝統の一戦に向けて、チームをどう見ているのか――。お話を伺った。

※この取材は5月21日に行われたものです。

「かみ合っていない」

――ここ最近、重点的に練習していることなどはございますか

 重点的というほどでもないですけど、立大戦、法大戦あたりで守備のミスがあったので守備練習をしたり、明大戦ではバントも決まっていなかったのでバント練習をしたり、という感じですね。

――シーズン終盤ということで選手たちにも疲労の色が見えるかと思いますが、監督からご覧になっていかがでしょうか

 疲れというより勝っていないのでね。リーグ優勝はもうないんですけれども、対校戦という意味合いもありますのでね。やはり早慶戦というのは一つのビッグイベントですから、必ず勝つと。昨年は慶大に一敗もしていないのでね。ことしも引き続きそういう状態でいたいというのはありますね。

――監督ご自身は体調などいかがでしょうか

 寒暖の差が激しいのでね。きょうみたいに暑い日もあれば、寒くなることもありますしね。ちょっとついていけない時もありますよね(笑)。年齢的なこともありますけど。

――残すは早慶戦のみとなりましたが、あらためて現在のチーム状況を振り返っていただけますか

 そんなに悪くはないんですけどもね。こっちの投手が抑えたときは相手の投手を打ち崩せなかったり、こっちの打線が点を取っても投手が打たれたり。まあ負ける時というのはそういうものなんでしょうけどね。まあかみ合っていないというかね。

――開幕前も「この春が一番大変」だとおっしゃっていましたが、ここまでの苦戦は予想されていましたか

 やはりメンバーが入れ替わったというのもあるのでね。でも投手は残っていたので、もう少し安定した戦いというか、勝ち星を稼げると思っていたんですけどね。打てないのは野手が入れ替わったからなので、ある程度は想定済みだったんですけどね。1、2点のロースコアで勝つという想定でした。

――事前アンケートでは打撃陣について多く書かれていましたが、打撃陣については

 まあ想定内といえば想定内かも分かりませんけどね(笑)。そんなに点は取れないので専守防衛というか、投手を中心に守り勝つチームであろう、そういうチームとして勝っていこうとしていたのでね。まず投手、野手の守備のミスで守り勝てなかったというのが大きいですよね。

――打線がなかなかつながらないということに関してはどうお考えですか

 東大の宮台(康平、3年)も非常にいいですからね。逆にワセダはよく東大戦に勝ったというくらいで。明大も法大も立大も、みんな東大戦を落としているわけですから。たまたまワセダの開幕ゲームが東大で、宮台にあれだけ三振も取られて抑えられたわけですけど、そこに勝った勢いでこのままリーグ戦もいけるかなと思っていましたね。でも他の大学のエース級も非常にいいですからね。対ワセダの時も絶対良かったと思います。竹内(諒、スポ4=三重・松阪)なんかも立大戦で抑えたのに一本の本塁打で負けるとかね。この前の明大戦でもそうですよね、1点に抑えているのに負けるとかね。ちょっとかみ合わせが悪いというか。よその投手も経験値が高いのでいい投球をしていますし。竹内は去年は主戦力ではなかったですけど、ワセダに関してはまず大竹(耕太郎、スポ3=熊本・済々黌)が東大戦の不調から復調してくるのかなと思っていても、立大戦、法大戦と悪かったですよね。

――野手陣では犠打失敗や失策など、普段はできていることができていない場面もありました

 チーム単位で見ればワセダは失策はそこまで多くはないんですけど、1点競り合う試合や先制点の場面で失策が絡んで失点するというね。その失策で4、5点入ったというわけではないんですけど、ポイントごとの失策が多かったですよね。早慶戦となると一つのミスが命取りですからね。バントも、明大戦でスクイズも含めると4つ失敗しているんですよね。最終スコアは5-11なのでそこのバントがどうこうというわけでもないんですけど、やはり序盤でそういうミスがあるとどうしても流れが相手に行くのでね。それがその点差になったのかも分かりませんけど。打てないのは想定内にしても、バントというのは100パーセント決めるものですから。それくらい相手投手に球威があるということでもあるんでしょうけど、球威があるからバントができないという言い訳は通らないのでね。早慶戦に関しても、加藤君(拓也、慶大4年)も非常に状態がいいのでね。1点の攻防という意味では、バントというのは非常に大きな比重を占めてくると思います。

――バントのミスについて、シーズン中に対応するために行ったことなどあったのでしょうか

 もちろん、グラウンドで練習する時なんかはそんなにミスはしないんですけどね。(試合では)プレッシャーもありますし、六大学だと相手投手の球速も140キロを超えてきますからね。試合だとできていない状況ですね。

――リーグ戦初出場の選手が多いということも影響しているのでしょうか

 東大戦なんかは開幕カードでしたし、宮台も良かったですからね。緊張感で打てなかったとか、そういうことでは僕はないと思うんですよね。でもやはり微妙なところで経験値の差というのは出てきますよね。例えば捕手の吉見(健太郎、教3=東京・早実)なんかも、投手が不調といいながらも実は捕手が替わったからかも分からないですしね。それが全てではないんですけどね。本当に投手が不調であるかもしれないし、それがどちらなのかというのは分からないんですけども、負けてくるとそういう部分も考えてきますよね。でもこれで彼も一シーズン経験したわけですから、次のシーズンに生きてくると思いますね。最初からできる人間なんてなかなかいないですからね。

――不調な選手が多い中でも、どうしても中澤彰太副将(スポ4=静岡)の不調は目立ってしまいますが

 1年の時からやってきて、経験値が一番高いですからね。本来は野手では中澤、石井(一成主将、スポ4=栃木・作新学院)あたりが引っ張ってくれないと困ると。4番の石井もなんとかやってくれていますけれど、3割も打っていない、打率10傑にも入っていないという状況で。中澤に至っては規定打席到達者のうち打率最下位ですからね。これでは困りますよね、チームをけん引してくれないと。

――中澤副将の不調の要因というのは監督からご覧になってどのあたりだとお考えでしょうか

 彼は1、2年の頃はよく打っていたと周りの人はみんな言うんですけども、私が去年からリーグ戦を戦い始めてから、彼が打ったイメージがないのでね。別に彼が打てなくても、私自身彼が打つというイメージは持っていないので「打てない」というのは思わないんですけども。それにしても今シーズンはちょっと打てなさすぎますよね。

――石井主将についてもお聞きしたいのですが

 そうですね、やはり物足りないですよね。そんなに長距離打者ではないので本塁打や長打は望んでないんですけども、少なくとも適時打、打率3割は打ってほしいですよね。

――まだ合格点ではないと

 そうですね。合格というと、3割打っている真鍋(健太、スポ4=東京・早実)くらいですかね。

――その打線の不調の中でもメンバーを固定して戦い続けた理由というのはございますか

 それだけ選手層が薄いということでしょうね。例えば明大なんかは、第2戦で大竹に負けたら第3戦では左投手用に打線を組み替えることができますよね。右打者を並べてくることができる。ワセダはそんなことできないですからね。

「大竹の不調が大きい」

――一方、投手陣も昨年の活躍から一転して苦しい場面が続きましたが、これは予想外でしたか

 そうですね、特に大竹に関してはね。大竹で第1戦を落として、こういう成績ですからね。大竹、それから吉野(和也、社4=新潟・日本文理)ね。小島(和哉、スポ2=埼玉・浦和学院)はまあそこまで悪くはないですよね。やはり立大戦、法大戦の1回戦を落としたということは、大竹の不調が大きいですかね。熊本の震災もあったといえばあったんですけど、それと彼の野球の調子というのは別ですからね。メンタル面の影響はあるかも分からないけど、それで不調になられても困りますよね。

――大竹選手は制球重視の投球スタイルということで、やはり制球が定まらないと打たれてしまうということでしょうか

 やはり球威がないですからね。宮台みたいに145キロ出るわけでもないですし、タイミングとコントロールですかね。東大戦もスピードが出ていないし、ボールも多いなと思いながらも抑えているのでね。宮台と投げ合って勝っているわけですから。でも勝ちは大竹にはついていないのでね。

――大竹選手は空き週の亜大とのオープン戦でも登板し、その後の明大戦では好投されましたがどのようなアドバイスをされたのですか

 まあ空き週にゲームをしたことがないのでね。そんな時になぜ試合をやっているんだという声もありましたけど、私は大竹の調子を見るという意味でも、紅白戦よりも対外試合で本人のバランスを取るということで組んだんですよね。それがちょっとヒントになって、私もアドバイスしたんですけども、良かったと思いますね。亜大戦のあれがあったから明大戦でも抑えられたと思いますよ。具体的には軸足の体重移動などです。

――そのアドバイスで大竹選手も復調したと

 そうですね。投手はデリケートですし、大竹にしても小島にしても、元々高校の時から完成度の高い投手たちですから、私もあまり何も言わないんですよね。彼らも自分で分かっているので、ほとんどそういうことは言ったことがないんですけどね。

――そして第2先発の竹内選手ですが、ここまでなかなか勝ち星に恵まれていない状況です

 そうですね。だから彼には「何かが足りないよ」と言うんですよ。たまたまエース対決になるのでそういう状況にはなるんだけども、でもやはり立大戦にしたって本塁打を打たれなければ0-0のままで、専守防衛でいけたわけですからね。延長12回終えて再試合でもいいよと言ったんですけどね。大竹は0点に抑えて、竹内は本塁打を打たれているわけですから。そこに何か足りない部分があるんでしょうね。彼の投球によるリズムと打線が合っていないと。例えば残塁があって抑えるのと、三者凡退で抑えるのとでは違いますからね。三者凡退ならリズムもできますけど、一打出たら、という場面では違いますよね。もちろん点をやらない投手がいい投手なんですけども、同じ0-0でもワセダの方が守る時間が長かったら打線にもリズムが出ない、そこで相手に本塁打を打たれるというのがあるのでね。抑えているけど勝てないというのは、分析していくとそういうところに原因があるんだと思います。

――その投手陣を引っ張る吉見選手ですが、監督からご覧になっていかがでしょうか

 投手自身の調子とかもあるんですけどね。全体的に見ると、去年の道端(俊輔、平28スポ卒=現明治安田生命)と比べると違って。ポイントになる最後のボールとか、決めに行くところは完全にバッテリーで一致しているのかどうか。投手の方も自分が調子悪いので捕手に任せる、けどここは自分ならこの球を投げると思いながら、ということもあるのではないですかね。やはり道端と比べますからね、どうしても人間ってね。全て吉見が悪いというわけでもないんですけど、やはり捕手が替わってというところもあるかも分からないですね。

――吉見選手自身が責任を感じている部分もあるのでしょうか

 ありますね。本来はもう少し打てる打者ですけど打率が極端に悪いというのは、そういう部分もあると思いますね。

――何か助言などはされるのですか

 そうですね。時々彼が質問に来ることもありますから。でもここ最近、ポイントで良く打っていますからね。本来ああいう打者なんですよ。6番あたりを打てる勝負強い打者なんですけどね。まだ彼は3年生ですから、まだ今後ずっとレギュラーでいるかは分からないですけど、いい経験にはなったと思います。

――スタメンには4年生が多いですが、昨年の4年生と比べていかがでしょうか

 おととしからメンバーが抜けたといっても、去年のメンバーはドラフトにかかる野手が2人いて、他にもドラフトにかかりそうなメンバーが1、2人いたわけですからね。だからことしの選手はそことイコールかと言われればそうではないと思いますね。比べたらかわいそうですしね。打てないのは見越していましたし、経験もないわけですから。

――ベンチの雰囲気などは変わるのでしょうか

 変わりますね。やっぱり真面目なんでしょうね。去年のメンバーは実力もありましたしもちろん真面目でしたけど、闘争心は強かったですね。慣れもあるんでしょうけどね。ことしはそういう部分が真面目すぎますよね。

「勝ち点1のままでは終われない」

――早慶戦についてお聞きします。ことしは早慶両校とも優勝が懸かっていませんが、モチベーションという意味では

 もちろんリーグの優勝は大事ですけども、基本的には対校戦ですからね。それはただケイオーに勝つという。向こうも去年は(ワセダに)1勝もできていないわけですから、意地もあるでしょうしね。加藤君も本当に調子がいいですし、点はなかなか取れないと思いますよ。

――春季最後の試合ということで、ここから夏、秋に向けても重要な試合になってくると思います

 そうですね。今の状態で東大が連勝したら、ワセダが6位ということもあり得ますからね。だから絶対勝ち点2にはしないといけませんよね。早明戦でワセダが勝ち点を取っていればケイオーの優勝もありましたしね。

――警戒する選手として加藤拓選手、岩見雅紀選手(慶大3年)を挙げられていましたが

 あとは1年生の柳町(達、慶大1年)。彼もいい打者ですよね。

――加藤拓選手の対策などはされていますか

 彼は制球も良くなっていますよね。すごい成長を感じます。だからなかなか攻略は難しいですよね。各大学打てていないわけですから、うちも点はなかなか取れないと思います。だから彼を打つことより、まずは点を取られない野球ですね。明大も第1戦、柳(裕也主将、明大4年)と加藤で引き分けているので、ああいう野球をしないといけませんよね。

――ワセダで成長した選手、期待する選手などはいらっしゃいますか

 やはり1番セカンドの真鍋は非常に成長したと思いますね。去年私が来た時なんかは(打球が)内野を越えないような打者だったんですけどね。今は左翼手を越える三塁打を打ったりしますからね。成長したと思います。4年生ですしね。元々守備力はあるんですけど経験がない分、立大戦での悪送球みたいにミスが出ますよね。唯一彼の失策なんですけどね。そういうところに経験値の薄さというか、焦りを感じましたね。

――石井主将、中澤副将についてはいかがですか

 やはりもっとしっかりやってもらわないと困りますよね、特に中澤はね。石井は守備もそれなりにこなしていますし、中澤もバックホームで走者を刺したりしていますし、守備については申し分ないですね。打撃をもう少しね。中澤は打てない分、バントはしっかり決めてほしいですね。

――最後に、早慶戦に向けて意気込みをお願いします

 ぜひ連勝して勝ち点を取りたいですね。とりあえず勝ち点2にはしたいですよね(笑)。1のままでは終われないですね、寂しい話ですけれども。

――ありがとうございました!

(取材・編集 杉田陵也・中丸卓己)

最後に『守り勝つ』早大らしい野球をしたい

◆髙橋広(たかはし・ひろし)

1955年(昭30)2月4日生まれ。愛媛・西条高出身。1977年(昭52)教育学部卒業。早大野球部第19代監督。