【連載】春季早慶戦直前特集『movin’ on!』 第1回 加藤雅樹

野球

 打撃の良さを買われ、1年生ながらベンチ入りを果たした加藤雅樹(社1=東京・早実)。初めて経験する東京六大学春季リーグ戦は主に代打での起用が続いている。あらゆる面で高校野球との違いを感じながら、大学野球のスタートを切った。そして残すところは早慶戦のみ。自身も特別なものと位置付ける伝統の一戦を前に、その心中に迫る。

※この取材は5月19日に行われたものです。

一打席で結果を残すために

打席では1年生とは思えない堂々とした構えを見せる加藤

――ここまでの成績を振り返ってみていかがでしょうか

 代打で出ることが主で、自分の納得のいく成績かと言われれば全然そうではないです。チャンスで打てていませんが、まだ早慶戦があるので、そこで自分の納得いくかたちでチームに貢献できたらいいなと思います。

――代打として一打席で結果を残さなくてはいけない上で、具体的に難しさを感じるのはどういったところでしょうか

 スタメンで(試合に)出たら1試合に4打席くらい回ってきて、その4打席の中で打席を重ねればボールにも慣れてきますし、ピッチャーの癖や傾向が見えてくるので成績も残しやすいです。でも、一打席で結果を残すとなると(打席に立ってボールを見るのは)初めてですし、その中で打たなきゃいけないというのは傾向や癖がつかめない分、難しいと思います。

――試合に出ていない時は投手の投げる球をベンチから見ていると思います。実際に打席に立ってみると少なからずボールの見え方に違いが生じてきますが

  自分は(バットを)振って(タイミングを)合わせていきます。やはり代打は振っていかないと絶対(タイミングが)合ってこないと思うので。スタメンだったら(ボールを)見ていく余裕がありますけど、代打の時は初球から振っていくことで、徐々にタイミングのずれを埋めていくようにしています。

――出番に備え、ベンチにいる時もできるだけグラウンドに出て少しでも試合の空気を感じておくという話をされていましたが

 雰囲気を感じておくことが大事だと思っていて。ベンチの中は(スタンドからの)応援とかはそこまで聞こえないので、ベンチの空気に慣れてしまうとバッターボックスに立った時に応援に圧倒されてしまったり、その空気にのみこまれてしまったりするので、ベンチの雰囲気に慣れないようにというのは思っています。

――代打の一打は試合の流れが変えたり、勝敗を大きく左右したりすると思いますが、そのことについてはどう考えていますか

 打つということ自体に失敗が許されるというか、いいバッターでも7割失敗するものなので、あまり代打だからといってそんなに気負わずに、それでも絶対に打つという気持ちだけは持って。打てなかったらどうしようとか、そういうマイナスなことは考えずに、プラスに考えて振っていけばおのずと結果は出てくれるかなと思います。

「プレーで恩返しするしかない」

――東大2回戦でリーグ戦初出場を果たしました。以前、最初の一打席を大事にしたいというお話をされていましたが、大学野球のスタートを切れたあの打席を振りかえってみていかがですか

 初打席ということで多少緊張もありましたけど、ボール自体はすごく見えていて。際どいコースもしっかり見逃せたので、自分としてはヒットを打ちたかったですけど、フォアボールで出塁するという仕事はできたので、いい打席だったんじゃないかなと思います。

――その試合で初めて『東京六大学リーグ戦の舞台としての神宮球場』を経験されたわけですが、高校時代に同じ神宮球場でプレーした時とでは雰囲気が違いましたか

 ちょっと違いましたね。対校戦の色が強いかなと思いました。「明大には負けられない」、「法大には負けられない」、なおさらですけど「慶大には負けられない」という対校意識というか、そういうのが大学野球は高校野球と違うなと思いました。

――加藤選手自身もワセダを背負う、学校の代表という意識がありますか

 そうですね、ワセダを意識するというか、自分がワセダであるということを誇りに思うようにしています。

――立大1回戦では、澤田圭佑投手(4年)から初球の直球を中前にはじき返し、初安打を記録しました

 相手投手が澤田さんということで、甘い球は絶対に来ないと思っていましたし、来ても数少ないと思っていたので、初球からバットに当たるボールは全部振るくらいの気持ちでいきました。それと、下級生の時から活躍されている投手で、真っすぐで押してくるかなと少し思っていました。それをしっかり狙って打てたので、いい打席でした。

――翌日の立大2回戦でも1点ビハンドで迎えた8回の好機の場面で起用されましたが、田村伊知郎投手(4年)から変化球で三振を喫してしまいました

 あれも初球から振っていかなければいけなかったと思っています(初球のストライクを見逃し)。チャンスの場面だとか、打ったら追い付けるとかを考えて、少し気負いがあって力が入ってしまったかなと。すごく悔しい打席でしたね。

――ここまで東京六大学リーグの投手と対戦してどのような印象を持ちましたか

 やはり球の速さが高校生と全然違うというか、ただスピードガンでの球速表示が速く出るというよりは球の質とうか、キレ、伸びというのをすごく感じます。真っすぐの速さというか、体感速度が高校野球と違うなと思いました。

――特に印象に残った投手を挙げるならば

 スピードなら法大の熊谷投手(拓也、3年)、立大の田村投手ですかね。その二人は速いなと感じました。

――法大3回戦では立花玲央選手(人4=千葉英和)の負傷退場により、途中から一塁の守備にもつきました

 一塁はあまり経験がないので、落ち着いてできたわけじゃなく、すごく緊張してしまって。でも、大きい声を出して自分を盛り立てるようにやっていったら、だんだんと慣れてきたので、次もしそういう機会があったらもう少し落ち着いてできると思います。

――1年生でただ一人ベンチ入りを果たしていますが、そのことについてはどうように受け止めていますか

 1年生で一人だけ(ベンチに)入れさせてもらったことには、すごく感謝しています。少し気を遣う場面も多少ありますけど、上級生のみなさんがすごく優しくしてくれるんで、自分はプレーで恩返しするしかないのかなと思います。

――やりやすい環境を作ってもらえていると

 そうですね。自分が試合中は気を遣わずに一生懸命できる環境ではあると思います。

――昨年の小島和哉選手(スポ2=埼玉・浦和学院)も同じように1年生でベンチ入りをしていましたが、小島選手はどんな先輩ですか

 実力は本当にすごいですし、紅白戦で対戦した時は手も足も出なかったので、選手として尊敬しています。去年の小島さんと自分が同じ立場にあるので、いろいろ優しく教えてもらっています。そういうのもありがたいですね。

――どのようなことを教えてもらったのですか

 「試合中は気を遣わなくていいから」と声を掛けてもらいました。1年生のやるべきことも教えてくれますし、小島さんが一緒にやってくれたりもします。

――ことしの1年生の雰囲気はいかがですか

 まだ出会って2ヵ月くらいしか経たないので、まだまだ雰囲気がどうとかはないですが、みんな仲がいいですし、楽しくやれています。

威信を懸けた伝統の一戦

――現在、ワセダは優勝の可能性が消滅した中で早慶戦を迎えようとしています。チームとしてどのように早慶戦に向かっていっていますか

 優勝はなくなりましたけど、上級生からは「早慶戦は負けられない」と言われていて。早慶戦は特別だと思いますし、自分も「慶大には負けたくない」という思いが強いので、絶対に勝つという気持ちで練習しています。

――慶大で意識する選手に柳町達選手(1年)を挙げていました

 高校時代から何度か練習試合をやっているので柳町の存在は知っていて、その頃から打撃はシュアで、足も速い。欠点が少ないですね。変化球にも真っすぐにも強いですし、穴の少ないバッターだなと思います。

――柳町選手に自分が負けてないと思えるところは

 飛距離ですかね。飛距離だったら勝てるかなと思います。

――やはり、同世代の選手には負けたくないという意識が強いですか

 そうですね。知っている選手、高校時代から意識している相手が多いので、やはり同世代には勝ちたいですね。

――これまでに早慶戦を観戦したことはありますか

 2、3度あります。去年の秋、優勝を決めた試合は(神宮に)行っていましたし、あとは有原さん(航平、平27スポ卒=現北海道日本ハムファイターズ)が3年生の時ですね。

――その時に観た早慶戦の景色はいかがでしたか

 お客さんがすごく多くて、応援もものすごく盛り上がっていて、早慶戦は他の試合とは全然違うんだなと思いました。

――早慶戦のように注目の集まる大舞台は好きですか

 そうですね、注目が集まることはすごくうれしいことですし、自分のモチベーションも上がります。緊張はしますけど、どちらかというと得意な方だと思います。

――緊張している時に何かすることはありますか

 緊張をほぐすというよりかは、自分は緊張しているのを周りに見せないようにします。それが隙になると思うので、「緊張する」とは絶対に口にしないです。緊張を押し殺して淡々とやることで気持ちも落ち着いてくると思うので、それを意識していますね。

――チームとしての慶大の印象はどう映りますか

 バッティングがいいなとはすごく思います。クリーンアップの破壊力というか、バッティングの良さを感じているので、楽しみですね。

――慶大の投手と言えば加藤拓也投手(4年)が中心ですが、速球に対してはどのように対応したいと考えていますか

 あの真っすぐに対して少しでも大振りになったら振り遅れるので、コンパクトに当てるだけくらいの意識で打席に立って打ち返せたらいいなと思います。

――高校時代の友人や大学に入ってから知り合った人など、本当に多くの人が早慶戦の観戦に訪れると思いますが、そのことについてはいかがですか

 見に来てくださる方々がいることはうれしいことですし、自分が頑張る理由にもなります。しっかり自分は結果を出して、そういう方々を喜ばせたいという思いはあります。

――早慶戦で見てほしいところは打撃ということですが、どのような打撃を披露したいですか

 状況に合わせたバッティングというか、自分はロングヒットがクローズアップされて、長打力というのが売りではありますが、そればかりでは代打一枚目として恥ずかしいというか。長打ばかり狙ってはダメだと思うので、しっかりコンパクトに打って、長打を狙えるところではしっかり長打も狙っていいと思いますし、そういう状況に応じたバッティングができればいいなと思います。

――代打一枚目ということで、髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)からの期待は感じますか

 直接何かを言われるわけではないですけど、勝負どころでは常に自分を使ってくれるので、期待してもらえているのかなと思います。今はチャンスで打ててないので、早慶戦ではそういうところで打ってしっかり期待に応えたいです。

――最後に、早慶戦への意気込みを聞かせてください

 柳町も含めて、やっぱり慶大には負けたくないです。自分は早実、早大とワセダの流れでずっと来ているので、ワセダへの愛着心があります。慶大には負けたくない。絶対に勝ちたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 郡司幸耀)

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◆加藤雅樹(かとう・まさき)

1997(平9)年5月19日生まれ。185センチ、85キロ。東京・早実高出身。社会科学部1年。捕手。右投左打。取材当日は、早朝のグラウンド整備後に1限から授業に出席。4限まで授業を受け、大急ぎで東伏見に戻り、練習前に取材に応じてくださいました。高校までと大きく異なる生活リズムに最初は戸惑いながらも、徐々に慣れてきましたそうです。朝早くから1年生の仕事をこなし、決して学業もおろそかにしない。その姿勢に脱帽です。