【連載】春季リーグ戦開幕特集『新章開幕』 第11回 吉野亨新人監督・鈴木大悟投手コーチ

野球

 早大を日本一のチームにしたい。そう熱く語るのは新人監督の吉野亨(スポ4=埼玉・早大本庄)と投手コーチの鈴木大悟(文構4=東京・早実)だ。二人は選手という立場を退き、この役職に就いた。選手に戻りたいという気持ちもまだ少しはあると話す。しかし、日本一になるには彼らの力が必要と言ってくれる仲間や信頼してくれているスタッフ陣のために裏方として全身全霊で尽力する。新人監督、投手コーチ、それぞれの役職に焦点を当ててお二人の熱い思いや今季の目標をお聞きした。

※この取材は3月31日に行われたものです。

意識を高く持ち取り組んでいる

真剣な表情で理想のチームを語る吉野新人監督

――東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)開幕間近となりました。チームの仕上がりに関しては手応えなどありますか

吉野 あります。この間の東北福祉大とのオープン戦の時4点差で負けていたんですけど、その場面から逆転できるイニングがあったので、十分力はついてきているのかなと思います。投手は打たれてはいるんですけど、打線に関しては問題ないと思います。

鈴木 そうですね。投手陣に関しては打たれる時もあるんですけど、しっかり抑えている時は投手から流れをつくって打撃にリズムをつなげられるっていう、いわゆるうちの勝ちパターンを実現できているので、それがリーグ戦でできれば全く問題はないと思います。

吉野 あとは日本通運との試合で勝てたのは結構大きかったと思いますね。あの試合も先制されていたんですけど一気に4点を取って逆転して、流れも来たっていう試合だったので、これが理想かなと。投手が3点以内に抑えて、うちがそれ以上の点を取るかたちが理想だと思います。

――ことしの早大というのはどのようなチームですか

鈴木 きょねんの主力が結構抜けたんですけど、最初はもちろんかみ合ってはいなくて。でも、いまは個人でやるべきことを理解して、意識を高く持ってやっているので、きょねんと全く見劣りはしないのかなと思いますね。

吉野 きょねんと比べて派手さはないと思うんですけど、チーム力でいえばきょねんよりも絶対上かなと思いますね。きょねんとかは結構個人で動いていた部分があったんですけど、ことしはチーム全員が選手との会話が多いので、選手一人一人を分かり合えていると思います。そこがことしの強みなのかなと思いますね。

――石井一成(スポ4=栃木・作新学院)主将がことしの4年生は仲が良いとおっしゃっていました

吉野 そうですね。ちょうどいい仲の良さですね。

――冬の期間はどのような練習を主として行いましたか

吉野 冬はとにかくバットを振り込みました。守備もそれなりに数をこなしてきたんですけど、振る量と比べたらきょねんの3倍くらいは振りましたね。きょねんはかなりレベルの高い選手がいたのでそんなに数を振ってはいなかったイメージがあったのですが、ことしに関しては昨季リーグ戦で活躍していた選手が残っていないのでバットを振れる力をつけるために数をこなしました。

――具体的に何回ほど振られたんですか

吉野 振った時で1000回プラス自主練という感じですね。全体練習で1000回に届かなかったとしても自主練などで補いながら1日に1000回は必ず振っていました。それは監督さん(髙橋広、昭52教卒=愛媛・西条)がおっしゃっていたので。それがちゃんといまにつながってくれていると思います。

――投手陣の方はいかがですか

鈴木 走る量は例年よりはかなり増えていたと思います。あと、投げ込みに関してはきょねんの投手コーチの方が口酸っぱく言われていたので僕の方から言われずとも投げている人は十分投げ込めていたし、全体的にブルペンに入る回数であったり、球数は昨年に比べて多かったように思います。そこも個人が投げないといけないという意識を持ってやってくれている証拠だと思います。

この役職だから感じられるもの

選手に対し熱心に指導をする鈴木投手コーチ

――ここからは新人監督、投手コーチそれぞれの仕事について聞いていきます。まず、それぞれが普段行っている仕事内容を教えてください

吉野 新人監督は基本的に練習のメニューを決めて、それを仕切るっていうのが主ですね。あとは選手の意識付けですね。たまにだらっとしてくる選手がいるのでそういうところをビシッと締めるということを僕たちコーチが行っています。そういった視野の広さを持って仕事をしています。

――練習メニューは吉野さんが一人で決められているんですか

吉野 僕が決めてこれでいきますと監督さんに確認を取る感じですね。監督さんの方からこれをやれという指示があればそれをやるという感じです。基本的には僕です。

――投手コーチの普段の仕事は

鈴木 全体のメニューは新人監督が決めるんですけど投手は投手のメニューがあるので、それを投手コーチが決めるといった感じです。トレーニングとかランに関してはトレーナーが担当します。投手の主となる練習は僕が組み立てます。あとは練習中には基本的には投球を見て、ビデオを撮ったり、気になった選手がいたら声を掛けてあげたり、自分の気になった点を言ってあげて、フィードバックしてあげるようにしています。練習内容によっては実戦形式のものもあるので、その時は実戦形式の方を見に行って。という感じです。

――それぞれの役職に就かれた経緯を教えてください

吉野 あまり思い出したくない話ではあるんですけど。最初、新人監督を決めることになり、何人か候補が上がってなんですけど、誰もやりたがらなかったんですよ。それで投票をして、自分に一番多く票が入って、自分はやりたくないと言い続けていたのですが、最終的には自分が折れて新人監督に就くことを決めました。将来、指導者になりたいというのと、自分が新人監督をやらなければチームは優勝できないなと感じたのもありましたね。「お前が新人監督をやらないとチームは優勝できない」と言ってくれる選手がいて、そいつらのためにも頑張ろうと思ったというのもあります。でも、いまでも選手に戻りたくなることはあります。こいつより自分の方が打つだろとか思いますね(笑)。でも、みんな頑張ってくれているんで、やってみて後悔はないですね、いまのところ。

――いつ新人監督に就くことが決まったのですか

吉野 2年の時からそういうミーティングが行われていて、正式に決まったのは2年生の時の1月ですね。

――投手コーチはいかがですか

鈴木 僕の場合は3年の9月という比較的に遅い時期からでした。経緯としては、新人監督というのは全体から出すものなんですけど、投手コーチは投手で話し合って出すものです。最初、誰も立候補する人がおらず、投票というかたちで自分に多く票が入って決定という感じですね。もともとそんなにやりたくないというわけではなかったので、一人一人いろいろみんなと話して、これまでずっと一緒に頑張ってきた仲間だったというのもありますし、自分自身、自分の代になって優勝をしたいという思いと、優勝するために自分に何ができるのだろうと考えた末に学生コーチが思い浮かび、3年の9月に学生コーチに就くと決意しました。

――それぞれの役職に就いてみて感じたことなどはありましたか

吉野 やってみてすごく思ったのは、例えば気になった選手がいて、その選手に指導をしたとします。そして、何日もずっとアドバイスをし続けて、いざ試合になって、打ってくれたり、結果を残してくれた時はものすごくうれしいですね。たぶん、打った本人よりもうれしく感じたと思います。石井が昨年の明大戦でサヨナラ本塁打を打った時も、その前日の夜に僕が(石井選手に向けて)ひたすら打撃投手をやっていたんですよ。内角の真っすぐが絶対に来るからと僕が言って、ずっと石井にその球を投げ続けていました。そしたら、あの場面で内角の真っすぐが本当にきて、本塁打を打ってくれました。それはもううれし過ぎて、ロッカールームで石井と二人で泣いちゃいましたね。こういう体験ができているので、新人監督をやれてよかったなと思っています。

鈴木 予想以上に大変だと感じています。仕事というか、考えることが多くなってきて結構大変です。これから上のステージでも野球をする選手、大学で野球をやめて違う道に進んでいく選手。そういう選手一人一人に対して、どういう声掛けをしていけばいいんだろうだとか、いろいろあります。選手への声掛けに関して、自分には尊敬している人がいて、その人にいろいろ話を聞いたりして、自分はまだまだだなとか、もっと何かできるなと感じています。

――プレーする立場から離れてみて、野球の見方、考え方は変わりましたか

吉野 変わりましたね。例えば自分がもっとこうできたら打てたのかなとか、自分が選手だった時に知らなかった打撃の技術などを知れて、選手だった時にそれを知れていたら、もっと活躍できていたのかなと思いますね。

鈴木 まあ同じ感じですかね。同じ感じなんですけど、前まで選手だったので、たまにここでこういう事をしてもらいたいのかなとか、僕が選手だった時に選手は学生コーチにこういうことしてもらいたかったなというのを感じます。感じるというか、いまはそれを考えながら行動しています。選手とコーチという裏表の立場を体験してみて、いままで見えてなかった部分が大きいなと思います。選手を指導している中でもいろいろ気付くことがあって、いままでの経験がうまくつながってくくれているとも感じます。

――役職を全うしていく上でのこだわりというものはありますか

吉野 もちろん早大を大学一のチームにするという目標はあるんですけど、自分も日本一の新人監督になるという目標もあります。例えば、どこの大学の新人監督よりもノックがうまいだとか、そういうところも目指したいですね。チームだけじゃなくて、やっているからには日本一の新人監督を目指したいです。というか、目指しています。日本一のチームにふさわしい新人監督になりたいです。

鈴木 僕はあまり出しゃばらないというか、基本的にやるのは選手なので、自分は選手を尊重してあげたいというスタンスで仕事をしています。指導とか、選手にアドバイスをあげる時だとかは選手に押し付けるのではなく、あくまで意思決定の部分は選手の方にあると思うのでその選択肢を増やしてあげることを目的としてアドバイスするようにはしています。

――やりがいというのは何ですか

吉野 これはさっき言ったやつですね。選手と一緒にこうしよう、ああしようといろいろ試行錯誤を重ねて一つのかたちが決まって、その次の試合だとかリーグ戦で結果が出た時の喜びですね。それが一番の喜びですかね。

鈴木 教えるというか、教えたことをその選手が自身でかみ砕いて、試合でそれが達成できているのを見るとうれしさを感じますし、またそこから選手の方からどうですかとか聞いてこられた時、自分は必要とされているんだなとか、そういう風に感じることができているので、それがやりがいですかね。

――仕事をしていく中で理想像というのはありますか

吉野 これも、さっき言ったこととかぶっちゃいますね。日本一の新人監督になります。それが理想ですね。あとは選手から信頼されているかどうかは聞かないと分からないのですが、僕自身、学年の一番上に立った人間なのでチームから信頼されないとチームはまとまらないと思うので、選手から信頼される新人監督になりたいです。

鈴木 そうですね。自分は選手もそうなんですけど、この隣にいる吉野を立てられるというか、支えられる、そして日本一になって、その吉野を支えた人みたいに、何か結果をあげたいです。日本一になるためには選手へのサポートも必要ですし、それを引っ張っていく吉野を支えていくというのも理想の形だと思うので、吉野を支えていきたいですね。

――お二人の役職は選手や髙橋監督さんとのとのコミュニケーションが重要になってくる立場だと思います。どのようにされていますか

吉野 監督さんと話す時は選手の調子やこの選手は良いなとか、悪いなとかそういう話をします。そういう時に監督さんに、「あいつは陰でこういうことをしていて、ちゃんとやっていますよ」だとかを伝えたりしています。監督さんは基本、練習後の自主練習とかを見ないので、調子が良い悪いだけでは決められない部分を自分が監督さんに伝えています。

――選手の起用法に関して、吉野さんが助言したりはするのでしょうか

吉野 そうですね。自分が決めたりしますね。沖縄キャンプとかはずっと自分がスタメンとか決めていましたね。ずっと決めていて監督がいつ決めるようになるんだろうって思っていました(笑)。キャンプ終盤になって、ようやく監督さんが決めるようになったんですけど、僕にこれでいいかって聞いてくる感じだったんで(笑)。でも、信頼してくれている証拠だと思うのでうれしかったですね。でも、さすがにリーグ戦は監督さんが決定すると思います。

――鈴木投手コーチはどのように監督さんとコミュニケーションを取られていますか

鈴木 僕はたぶん吉野よりも監督さんと話す機会が多いと思いますね。選手のこともそうなんですけど、野球と関係のない話もします。言えないですけど。野球以外のことでもいろいろ知っている監督さんなので、その点でもすごく勉強になります。あまり話さない人のように思われがちですが、全然そんなことはなくて気さくに話し掛けてくれたりします。

――先発投手の決定に鈴木さんが助言などされているのでしょうか

鈴木 オープン戦に関しては僕が決めて、監督さんに「これでいきます」と伝えてやっています。リーグ戦に関しては僕がいろいろ助言して最終決定は監督さんというかたちですね。

――今季のキーマンは

吉野 4年生全員ですね。石井、中澤彰太副将(スポ4=静岡)はもちろんキーマンなんですけど、その二人を支える4年生みんなが重要になってくると思うので4年生全員です。

鈴木 もちろん4年生全員なんですけど、今季は投手が頑張らないといけないリーグ戦になってくると思うので僕は投手全員ですね。全員が全員、自分の役割を果たして勝ちにいかないと勝てないので。

――今季のライバルとなるチームは

吉野 全大学です。ことしに関してはどこが優勝するか分からないので。見た感じどこも同じような実力だと思います。でも、挙げるとしたら明大ですかね。ライバルですけど、一歩出ているのは明大です。明大には負けたくないです。

鈴木 明大は本当に対ワセダになると雰囲気がガラッと変わるので、そこはまあ気を付けないといけないところですね。でも、リーグ戦ってなると初戦の東大戦はしっかり戦わないといけないので、先々よりも目の前の相手を見るといった感じですね。

――東大の宮台投手(康平、3年)に関しては何か対策とかはもうすでになされているのでしょうか

鈴木  いや、まだしてないですね。それはこれからですね。来週くらいからそういう練習になってくると思います。

――これから早大をどのようなチームにしていきたいですか

吉野 日本一のチームですね。

鈴木  やっぱり粘るチームがいいですね。点を取られても、自分たちは変わらずやれば勝てるというチームです。(点を)取られて沈むのではなく、取られても我慢強く粘れるチーム。そうすれば、どんな場面でも、どんな試合でも、ものにすることができると思うので、チーム全員でつくっていきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 本田京太郎)

早大の躍進に二人のサポートは欠かせない

◆吉野亨(よしの・こう)(※写真左)

1995年(平7)1月14日生まれ。身長184センチ、体重80キロ。埼玉・早大本庄高出身。スポーツ科学部4年。新人監督。右投右打。「日本一の新人監督になりたい」と何度も熱く語ってくれた吉野新人監督。ノックのうまさでも学生日本一を取りたいのだとか。試合前の吉野選手のノックは必見ですね。心奪われるノックを期待しています!

◆鈴木大悟(すずき・だいご)(※写真右)

1994年(平6)4月23日生まれ。身長174センチ、体重75キロ。東京・早実高出身。文化構想学部4年。投手コーチ。右投右打。髙橋監督と野球以外のことでもお話しをするという鈴木投手コーチ。どんな話をしているのかは聞けませんでしたが、一人間として髙橋監督を尊敬されているそうです。高橋監督から様々なことを吸収して、人間性を磨き上げます!